ヒロイン矯正!   作:アールエー

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その56 戦争前夜

 

その頃のシャーロット側妃…

 

王宮を支配して数日、側妃のシャーロットはイライラが抑えられずにいた。

 

筆頭侯爵の言う通り、災害派遣で近衛兵が少ない時期に、王宮に貴族派閥の兵を入れて制圧。陛下と王妃の身柄は確保した。息子は部屋に閉じ込めているが、説得すれば必ず妾の言う事を聞く筈だ。優しい良い子なんだから。

 

聖女を名乗る、息子を誘惑する男爵家の小娘も捕らえて地下牢に閉じ込めている(客室に入れられた事を側妃は知らない、知ろうともしない)。後日裸にひん剥いて恥を晒してから首を切れば、息子も目を覚ましてくれるだろう。

 

明日か明後日か、王太子が戻ってくる。奴らの軍隊は多くて100名、こちらの何十分の一だと言う。筆頭侯爵の話では、相手にもならないと。

王太子を、王家の剣などと言う噂に踊らされて国政を蔑ろにした反逆罪で始末して、陛下に王太子交代を宣言して頂き、その後に戴冠式まではして貰おう。そこから先は離宮にでも押し込めて隠居だ。寂しいなら王妃を生かしておいても良い。身分が低い癖に生意気な王妃は、全て終われば用済みだ。まあ、その前に下卑た男達の相手をさせても楽しいかも。

 

全ては上手くいっているのだ。いっている筈なのに落ち着かない。

 

側妃は気付いてないが、彼女が組織を指揮するのは生まれて初めてなのだ。

今までは、ただ命令して結果だけを受け取ってきた。自分から動く事なく、他人に希望を言えば勝手にやってくれた。責任者にすらなった事がないのだ。

 

だが、今回は違う。下の人間の判断権限を超えている。国王陛下の進退など、下々の輩に決め切れる筈がない。筆頭侯爵すら無理なのだ。

あらゆる事の判断が側妃に持ち込まれ、決断をしなくてはならない。この様な事は側妃に取って、全くの慮外の出来事だった。

そのストレスが、側妃の心を蝕んでいた。

 

「何故じゃ!あと少しで何もかも上手く行くと言うのに!」

 

今日もカリカリとイラつき、顔にシワが寄り白髪と円形脱毛症が増えている事に、本人は気付いてなかった。

 

 

 

シリウス王太子視点

 

「漸く王都が見えてきたな。賊軍は見えるか?」

 

「いえ、王太子殿下。まだ出撃してないようです。どうやら、まだこちらが事態を把握している事に気付いてない様ですね」

 

命懸けで王都を脱出して私に危機を教えてくれたミリーの活躍に寄って、王宮が占領され陛下を始めとして多数の人が捕縛された事が分かった。

もし知らずに帰っていれば、王宮内で囲まれて終わりだっただろう。そう考えると、ミリー、アリシア、そして主人の聖女キャサリンの功績は大きい。

 

そのミリーはフレデリカや文官達と共に、後方の王族派閥の貴族が支配する街に待機して貰っている。これで後顧の憂いもなく戦えるというものだ。

 

また、この数日の間で帰り道の近くの王族派閥の貴族に連絡し、援軍を送って貰った。短期間なので数は揃わなかったが、それでも騎士団300名、来た時の10倍の規模にまで成長した。もちろん、騎士の下に従者や部下を含めると1100名ほどの規模だ。彼等は我らより後方にて待機をして貰っている。なるべく、王宮に気付かれない様にだ。

 

「最も、偵察すら出してない様だな…。軍を隠すのは杞憂だったか?」

 

そう思っていた所に、こちらの偵察兵から情報が舞い込んだ。どうやら、王宮からの使いという事らしい。

私は警護を固め、その使いに会ってみる事にした。

 

 

 

「ハミルトンというのか。それで、貴官はハドルド王子からの使者だというのか?」

 

「はい、偵察に行くと偽りまして、ここへ来ました。これが王子殿下からの書簡でして…」

 

その書簡を受け取り確認すると、確かにハドルドの特徴がある文字だ。どうやら王宮の自室に軟禁されているが、ハミルトンを始めとする総数100人ほどを懐柔して味方にしたと。

クックック、ハドルドもやるじゃないか!

しかし、貴族派閥軍…いや敵兵力の総数は3500名か。想像以上にいたな。

 

「全てを信じるわけではないが、信憑性は高いな。ハミルトン、私からも礼を言おう。もしハドルド王子の約束以上の報酬が必要になっても、私が何とかしよう」

 

「へい、有難い事で…。それで、私はどう動けば宜しいですかね?」

 

「そうだな…私としては、ギリギリまで我が軍が接近するのに気付かれず、かつ直前で気付いて貰って慌てて出撃して来るのがベストだ」

 

「奇襲はかけないので?」

 

「敵城なら奇襲が一番だが、自分の王宮だぞ?街の民の家一軒たりとも壊したくない」

 

「そりゃそうだ…。分かりやした。なるべく情報を操作します」

 

そう話が済みそうな所で、横からレイナ嬢が声をかけてきた。

 

「殿下、今の書簡と話では、聖女キャサリン様が一番危ういと。彼等が王宮に入る時に、共に入って聖女様を救いたいのですが」

 

「気持ちは分かるがレイナ嬢、貴女程の戦力を手放すのはな。相手は我が方の3倍以上なのだ。それに、聖女様には光の護りがあるという。心配無いのではないか?」

 

「光の護りは自動展開するものではありません。不意を突かれると聖女様とて危ないのです。それに、殿下の持つ王家の剣を本物の聖剣に変えるには、聖女様の加護の力が必要です。聖剣があれば早期停戦も可能ではないでしょうか」

 

うむむ…。レイナ嬢の言う事にも一利あるか…?

こちらの安全よりも、聖女様の安全を取った方が…。

 

「あ〜殿下、私が先に戻って王宮の仲間に話つけときますんで、少し遅れてくれば案内はできますぜ」

 

「そうか。よし、レイナ嬢。我々は明け方前に王都近くに布陣して敵を誘う。それまでに侵入し、(いくさ)の混乱に乗じて脱出してくれ」

 

「分かりました。必ずや聖女様を連れて参ります」

 

「…貴女の安全も、ですよ?分かってますね?」

 

「はい、了解です」

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