シリウス王太子軍陣営にて
「シリウス王太子殿下!騎馬隊600、整列しました!」
「ご苦労、騎士団長。聞けい!!私は王太子のシリウス・エレメント・アルヘルムである!」
ザッと600の騎兵が王太子を注目する。
王族派閥の貴族軍がほとんどだが、基幹は近衛兵の騎兵隊である。自分達の故郷を護る、戦意は非常に高かった。
「これより、陰謀にて王族を人質にした賊軍共を相手に、王都奪還を行う!敵の数は多い、だが殆どは歩兵である!対して我が軍は全て騎兵だ!我々はこれより戦場を縦横無尽に走り回り、地を這う歩兵を叩きのめす!実に簡単な仕事だ!!」
騎馬隊のあちこちから失笑が漏れる。中にサクラを仕込んではいたが、本当に笑う奴もいた。
「更に、我々が負けない証拠を見せよう!」
王太子がそう言うと、王太子の後方に、王国の旗と並んで神国の旗が上がった。
そして王太子の横に、総主教が並ぶ。
「神国は他国との戦に参加しない立場だが、此度は聖女様が迫害されていると、後方支援に参加して頂いた!」
おお〜っ!!今度は全ての騎馬隊から声が上がる。
「我々には聖霊様の加護がある!また、既に聖女様は王子ハドルドの手により救助され、こちらに向っている!最早、我らが負ける理由がない!この戦、勝つぞぉ!!」
全騎馬隊から鬨の声が上がる。戦意の高揚は充分に為された。
「騎士団長、手筈通りに副団長に後方で伏せている歩兵隊500を任せる。内部から合図があれば、即座に王都を再占拠して門を閉じよ」
「はっ!しかし、賊軍は全員出撃しますでしょうか?」
「可能性は高いと見ている。私を倒せば、貴族派閥の象徴であるハドルドが次の王だからな。まして、時間が経てば災害派遣された近衛兵が帰ってくるし、公爵家などの軍もやって来るのだ。最低限の見張りを残して全軍出撃し、決戦を仕掛けてくるだろう。まあ、そのハドルドと最低限の見張りが我が味方なのは皮肉と言うか可哀想と言うか…」
「了解しました。では、第一槍騎兵隊は王太子殿下、第二槍騎兵隊を我が息子アーサーに任せ、残り第三弓騎兵隊を私が指揮してバックアップを行う、で宜しいですな?」
「うむ、弓隊は熟練の技術が必要だからな。決して足を止めるなよ?それと敵の弓兵の動向だけは常に確認だ。但し、聖女様を発見したら最優先で救出に迎え。よし、出撃!!」
メリッサ総主教視点
「総主教猊下、よろしかったのですか?他国の戦に参戦などと…」
「戦に参戦したわけではありませんよ。あくまで、聖女様の救出と保護です。我々が認定した聖女様を、処刑するなど許される事ではありません」
「はっ、誠に…。それよりも疑問なのですが、何故に聖女様の保護テントを二つ用意したのですか?」
「ふふふ…。私に考えがあるのです。時が来れば話をしましょう。我々は、聖女様が危険な目に遭わない様に気を付けるのみです」
「分かりました猊下」
キャサリン視点
「い、いよいよ戦争が始まるのね…。怪我人、少ないと良いのだけど…」
王宮から、道案内の協力もあり脱出できた私達は、アルベルトの兄ちゃん達と合流する事ができたの。
私達は3人、アルベルト達の馬にそれぞれ乗せて貰い、王都を囲う城壁の西側に来たわ。王太子殿下曰く、ここには隠された出入り口があるとか…。
「城壁の抜け道ねぇ。そんなもん、俺達に知られて良いんかね」
アルベルトの兄ちゃん達はそう言うけど、レイナは王太子殿下にこう言われていたそうなの。
『アルベルト達の軍勢にここまで攻めて込まれたら、もう負け戦でしかないよ。被害が拡大する前に、降伏するべきだ』
「だってさ、アルベルト」
「あの王太子さんも、思い切りが良いのか、諦めが早すぎるのか」
とりあえず人気のない民家の裏側、そこに城壁の一部と見せ掛けて板にレンガを薄く貼って偽装した扉があったの。ドアを開けると、何とか馬車が通りそうな狭いトンネルを進む事になったわ。
やがて岩陰に隠れた、同じく偽装したドアをくぐって外へ出る事に成功した。まぶしっ!
戦場を見ると、ぞろぞろと門から兵士が出撃していたわ…。本当、怪我だけで終わります様に!
「戦闘開始したら、横を一気に通って味方陣地まで駆け抜けるぞ!」
アルベルトの兄ちゃんの言葉で、私達は時が来る迄トンネルの中で座り込んだ。
王都から出てくる歩兵隊の一隊にて
王都はざわめいていた。それはそうだ、突然王宮から軍勢が出撃し、大通りを通って門まで行進したからだ。
今までは王宮から直前であっても知らせがあり、一時的に人払いをしていたのに、何の知らせもなく現れたのだ。
その不穏な空気の中、門をくぐった先で指揮者の指示の元、右翼、左翼と別れて配置されていった。
「お前達は中央だ!急げ、グズグズするなよ!」
大きな声が響き渡る中、異様な黒装束の騎士が馬上に佇んでいた。
誰もこの黒騎士を見た事がない。声をかけようともしない。元々、各地の貴族領からかき集めた軍勢だ。しかも一度も合同訓練をしていない。誰が誰なのか、元いた仲間以外は分からないのだ。
よく見れば、その黒騎士は派手な割には皮鎧を黒く塗っていて、その皮の部分も頭や胸等の極限られた箇所にしかない、軽装甲なのが分かっただろう。
しかし、異様な雰囲気に誰も近付かなかったので、気付く者は居なかった。
「妾が…妾が指揮しないと…危ないのじゃ…」
だから、黒騎士がブツブツ言っている事にも、誰も気付かなかった。