それからの騒ぎは大変なものだった。
教会から立ち上がった光の柱は、教会の屋根を突き抜け天高く上がっていたらしい。
その光景は町中はもちろん、国全体に、もしかしたら隣国まで届いたのではないかと噂されていた。
もちろん町の人達のほとんどが目撃しており、誰もが知る事となった。
男爵家にも直ぐに知らせが届き、大急ぎで駆けつけた男爵様も事実を聞いて驚き、ついで大喜びしていた。
そしてあちらこちらと連れ回され、神官様や男爵様の見守る中、実際に怪我人の治療を行なって本物だと確信され、お祭り騒ぎとなったのだ。
お嬢様が解放されたのは、夜も更けた頃だった。
「レイナ〜。お茶淹れて〜後、肩揉んで〜疲れた〜」
「はい、お嬢様。少しお待ち下さい。今日はもう、何も無いと思いますよ」
手早くお茶の準備をしながら、家のメイドに湯浴みの準備をお願いする。おっと、お茶菓子も用意しないと。今日は朝からイベントが盛り沢山だったから、甘い物が良いだろう。
「恐らく、伝書鳩等で王都に知らせが行っている筈です。ここから王都まで馬車で5日は掛かるので、向こうの使者が早馬で来ても3日、高級貴族や司祭様が来るとなれば、どんなに早くても10日はかかるでしょうね」
まあ、何日かはゆっくりできるわけで。光の聖霊様の指令で、1日1人治療しないと駄目だけど。
「うう…しかし真逆、悪役令嬢が転生者だなんて…。しかも攻略対象も攻略済なんて…」
「聖女の加護があっても、攻略できないんですか?」
「攻略は聖女の加護ってより、殿下の自信を取り戻す事が重要だったのよ!悪役令嬢も転生者なら、取り戻す方法も知ってる…というか、自信を無くす原因が悪役令嬢なんだから、そもそも自信無くしてないんじゃ…。王太子殿下は、私の最推しだったのよ〜。それが、もう駄目だなんて…」
バリボリと、ヤケになってクッキーを貪り、紅茶で飲み下すお嬢様。忙し過ぎて夕飯もろくに食べる事が出来なかったから、空腹なのもあるのだろう。クッキー、追加するかな?
その後、クッキーどころかケーキまで平らげたお嬢様は、漸く一息ついた。
「王太子殿下、名前はシリウス様って言うんだけど、側妃の息子、優秀な弟と物心付いた時から、常に比較されていたんだよね。弟といっても、1月と離れてない同じ歳なんだけど」
マッサージの前に湯浴みの準備をしながら、一つ一つ思い出す様に話を進めるお嬢様。素っ裸になるのをお手伝いするのだが、最早感慨深い事もなく。慣れって怖い。
「それに追撃するのが婚約者の悪役令嬢。実は側妃とグルで王太子殿下を貶め、意思を挫いて弟の王子、ハドルドを王位に付けて自分も王妃になるつもりだったのよ」
「変ですね、そのまま王妃になれば良いのに」
泡風呂になってる湯船に浸かるお嬢様の身体の汚れを、マッサージしながら石鹸を使って落としていく。次に髪を洗わなきゃ。
「それが、現在の王妃は今の王様が見出した子爵家の娘なの。だから高位貴族の側妃と貴族至上主義の悪役令嬢には、下級貴族の息子であるシリウス王太子はあり得なかったのよ」
なるほど、この国の上級貴族には、そこまでの思想が蔓延しているのか。
国全体の貴族の内、王国派閥と貴族派閥に別れているのは知っていたけど。
お嬢様の髪を洗った後、椿油を絡ませながら丹念に梳いていく。
程よく髪も乾いたところでナイトウェアに着替えて貰う。
「確か、習った範囲では王族派閥の所有する軍隊と、貴族派閥の軍との比率は6対4でしたよね」
「そうだっけ…?それがどうかしたの?」
ベッドに寝て貰い、更にマッサージを施す。まだ十代前半の身体だ、肩こりなんてないのだが、気持ちの問題かな。
「その比率の内、ウォルフ公爵家の軍は1割となっています。もし公爵家が貴族派閥に寝返ったら、軍の総数は互角となります」
「…え…。ど、どういう事?」
「元々は王家に味方して貰う為の政略結婚だった筈が、悪役令嬢の暗躍で亀裂が入りました。そこに聖女が突然参加し、王太子殿下を口説いて悪役令嬢を追い出すと…」
「お、追い出すと?」
「公爵家の軍が貴族派閥に付く事で王族軍の優位性は崩れ、王族派閥と互角になります。まして婚約者を追い出して聖女とはいえ男爵令嬢を招き入れるんです。公爵令嬢が悪辣だとしても、どれだけの貴族が味方してくれるか」
「え…そう言えば、王太子殿下エンドのスチルは、騎士団に囲まれて聖女が渡した聖剣を掲げるシーンだったけど…。格好良かったけど…」
「それって、乙女ゲーム的にハッピーエンドでも、現実的には戦争…内戦エンドなんじゃ…」
「で、でも、続編は出たよ!?何故か主人公は一緒なのにRPGゲームになってたから、やらなかったけどぉ」
「内戦になれば隣国が参戦したり、教会総本山がある神国も参入してくるかも知れません。そのゲームって、結果的に亡国になった王国で冒険者として彷徨っているゲームだったりして」
「……あ……」
お嬢様は頭を抱えた。