城壁の隠し通路から飛び出した私達は、3騎の騎馬で戦場の端を駆け抜けた。
王太子殿下は、敵の左翼に攻撃を仕掛けているから、こちらも迂回しながら左翼へ向かう。こちらの場所が右翼側だから、敵の後方を結構遠回りしなくてはならない。
敵の左翼勢力は完全に混乱しているのが見える。右翼、中央は隊列を整えるのに必死で、こちらに気付いてない。
貴族同士の戦争は、お互い宣戦布告してからヨーイドンでやるのが普通らしい。
王太子殿下からすれば、突然王宮を占領しておいて、ヨーイドンもヘッタクレもないのだろう。
とにかく、混乱している左翼勢力を目指し、一気に回り込んで聖女様を王太子殿下の元へ届ける!
「レイナ!俺達に気付いた軍勢がいる!中央の後方部隊だ!奴ら、丸ごと襲って来るぞ、マジか!!」
言われた方を見ると、確かに後方部隊が、雪崩打ってきてる!ええっ!たった3騎に500人くらい襲って来てるんだけど!
アルベルトの軍馬は速いんだけど、今日はとても遅く感じる。まだ着かないの!?
「くそっ、回り込まれる!接触はしないが、弓矢の圏内に入るぞ!伏せろ!!」
私は身を屈め、襲い掛かる部隊を注視する。こちらに向って走りながら、次々と矢を射ってきた!
「お嬢様、上部にバリア!アリシア、お嬢様の陰に行きなさい!」
私とアルベルトは、お嬢様を運ぶ騎馬の護衛の為に少し離れて走っている。お嬢様のバリアの範囲外だ。腰のワンピースブレードを抜き放ち、動体視力の強化!
一本、二本、三本!当たりそうな矢を斬り伏せる。
敵は豪雨の如く矢を降らす、何十本目かの矢を斬った時、その直後に三本の矢が迫っているのを確認できた。
駄目、一度に三本全部は斬れない、まに、あわ…。
「レイナ!」
アルベルトが私の上に覆い被さる。私は被さられる姿勢で、ブレードを振って二本の矢を弾く。残りの一本がアルベルトの首を掠める様に通過。弦が切れる様な音がして、アルベルトの首から鮮血が噴き出した。
「ア、アルベルトォ!!」
私は必死になってアルベルトの首筋を押さえる。加護全開、止まれ、止まれ、止まれぇ………!!
みるみる私の軍服が真っ赤に染まるも、蛇口を大急ぎで回した様に、急速に血の勢いは減り、やがて止まった。
「あ、兄貴ィ!!」
舎弟2人が驚いてこっちを見た。アルベルトは凄い形相で、ただ槍を王太子の軍勢へ向けた。
2人は1回だけ頷くと、脇目も振らず一直線に駆け出していった。
アルベルトの顔は真っ白だ。私の加護の力では増血までできない。敵の軍勢はお嬢様の方に向いていった。侍女としては失格だけど、お嬢様から離れる為に少しだけ速度を落とす様に軍馬に頼むと、応えてくれた。距離が離れ、アルベルトの手当に集中できる。
アルベルトの背中には、さらに二本の矢が刺さっていた。幸い、アルベルトの鋼の様な筋肉に阻まれ、大して深くない。
返しまで刺さってないので、とっとと抜いて治療する。
「アルベルト、私の加護じゃ、失血は回復しない。大急ぎで聖女様の所へ行きたいけど、敵中突破になりそう」
「………いいじゃねーか…。派手に暴れてやれるぜ」
「…どうして、最後に私を庇ったの?」
アルベルトは、こと戦闘において私を女扱いしなかった。戦士として、対等に扱い危険な任務にも「任せた」の一言で信用してくれた。
それが…とても嬉しかったのだ。
「あ……すまん。ただ、お前が傷付くと思ったら、身体が勝手に…な」
そう言うとアルベルトは、はにかむ様な、何とも言えない笑顔をしたのだ。
私は…何と言うか、心の中で何かがストンと落ちた。きっとこいつには敵わないと、心の奥底で納得してしまった。そう、納得してしまったのだ。
そして…アルベルトはこのままでは死ぬだろう。でも真っ直ぐお嬢様の元へ走れば、間に合うかも知れない。その為には、私が囮になるべきだ。…いや、敵陣に突っ込み、目に付く敵を片っ端からぶった斬る!!
アルベルトが死ぬと言うのなら、私も一緒に死んであげても良いじゃないか!
「アルベルト、私が今から敵中突破して大暴れしてくる。その間にお嬢様の元へ急いで、治療受けたら助けに来て!」
「おい…それじゃ、お前が死ぬんじゃないか?」
「ううん、アルベルトが助けに来る迄は頑張って生きるよ。貴方が死ねば、私も死ぬだけ。簡単でしょ?あ、助けに来る時は着替えを持ってきてね!」
「くっ…くくっ。いいぜ、待ってろよレイナ。直ぐに助けに行ってやるからな」
私は軍馬から飛び降りる。その瞬間、軍馬は弾丸の如く駆け出した。
さて、御加護を全開にして、一丁やりますか!
私を中心に炎の柱が渦巻き、天へと上がる。
軍服は瞬時に燃え尽きて、代わりに炎を身に纏いドレスとなった。
灼熱と言えるまでに熱せられたワンピースブレードは、加護の力で鋼の強度を保ってる。
アルベルトが向かった先で光の柱が上がり、敵陣の向こうから咆哮が響く。
さあ、人生最大の華を咲かせるか!!