ヒロイン矯正!   作:アールエー

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その9 二人のお嬢様

 

スイートルームに案内されると、既に人払いをしていたフレデリカ様が、侍女1人だけ残して待っていた。

その侍女もお茶の準備を終わらせると、そそくさと室外へ退散してしまう。

 

「…随分と、無防備なんですね…フレデリカ様?」

 

お嬢様がその無防備な様子に、逆に警戒して尋ねる。

 

「あら、お友達とお茶会をするのに、無粋な警護は不要ですわ。それより、もう少しラフにして頂いてもいいわ。何なら、前世の口調でも構わないから」

 

そう言うとフレデリカ様はお嬢様と、序でに後で控えていた私にも席を進めた。

なるほど。胸襟を開く、なんて言葉もあるが先ずは自分の情報を開示する事によって、相手の警戒心を解いていく作戦かな。

 

「ここでは私への敬称も不要よ、キャサリン様、いえキャサリンさん。28歳のOLに様付けされると、背中がむず痒くなるのよね」

 

「28歳って、おばさんじゃん…。私は、その、高校を中退して事故に遭ったから…。ちょっとレイナ!私も話したんだから、自分の事を話してよ!」

 

おやおや、早速フレデリカさんの手に乗ってないか?しかし、ここで対等な友人を作る事は、キャサリンお嬢様にとってプラスになる筈だ。

 

「前世の話し方か…。どう話していたかな。どのみち、定年過ぎたおっさんの事なんて、横に置いて良いぜ。若いお嬢さん達の会話に着いていく自信はないしな」

 

「は、は、はああぁ!?レイナ、年齢もそうだけど、男だったのぉ!?もう、あなたには驚き過ぎて、どう付き合っていけば良いか、分からないわ!」

 

この数日の間で何度も見たお嬢様の驚き顔が、何とも可笑しく感じる。

 

「そ、そうなのね…。落ち着いていると思っていたけど、かなり歳上だったのね…」

 

「何、今は一介の小娘だ。…気になさらなくて構いませんわ、お嬢様方」

 

キャサリンお嬢様は口をパクパクしているが、慣れるしかないよ。

お風呂とか手伝っていたのは諦めろ、今はこっちも女だ。

 

気を取り直した二人は、ゲームの話を中心に話題を進めていった。お互い、年齢は離れていても同じゲームオタク、話は弾んでいった。

私はゲームそのものを未プレイ(と言うか存在を知らない)なので、早々に離脱したが。時々、相槌を打って会話のサポートをしたくらいだ。

二人はかなり近親感を持っている様に感じた。良きかな、良きかな。

 

「あ〜久々にゲーム談義したわ!公爵令嬢なんてしていると、趣味の話も滅多にできやしない」

 

「うんうん。でも、話していると結構ゲームの内容、忘れているのよね…」

 

「それはそうね。こちらの時間で、10年も経っているのだし。メモはしているけど、思わぬ落としがあったのね…」

 

何杯目かのお茶を飲み干すと、お互い一息ついて次のお茶を待つ。

 

「二人が仲良くなったところで、これからの話を致しますか?」

 

私からの提案で、二人は襟元を正して聞く体制になった。ちなみに、私の話し方は元に戻ってる。ギャップが大き過ぎて混乱するそうな。

 

「一先ずフレデリカ様の一番気になっていると思う話題からいきましょうか。キャサリンお嬢様、王太子殿下に手を出すつもりはありますか?」

 

フレデリカ様はギョッとして、私、続いてキャサリンお嬢様を見詰める。

 

「いいえ、王太子殿下は推しだけど、戦争をしてまで狙う事はないわ」

 

「せ、戦争!?」

 

私はフレデリカ様に事情を話す。

兵種、練度、配置に寄って一概に言えないが、凡その兵力数は王家が国全体の6割を保有している。ところが王家の軍隊の中で、全体の1割の兵力は公爵家の兵なのだ。

簡単に言えば、王家:公爵家:他貴族で5:1:4の割合だ。

もしフレデリカ様が婚約破棄され、追い出されたら1割の兵力が貴族側に流れる事になる。その場合は王家と貴族勢力で五分五分となる。

不意を突けば簡単にひっくり返るだろう。

 

「それも、今まで尽くしてきた婚約者を捨てるのです。例え婚約者に非があっても、外から見れば非情な決断に見えるでしょう。その時、王家派閥がどれだけ残ってくれるのか…」

 

「で、でも父は王家に反乱なんて考えてない筈です」

 

「それはフレデリカ様が、王太子殿下の心をしっかり掴まえているからですね。放っておいても娘が王妃になり、自らが国政に影響を及ぼす立ち位置になるのに、態々反乱なんて致しません。むしろ、貴族派閥の切り崩しをしてないですか?」

 

王都の情報紙で、貴族新聞と呼ばれるペーパーがある。貴族間で行われたパーティや会談、お茶会の情報が載っているだけだが、これが馬鹿にできない。意外な反対派閥の、主要貴族ではなく下位の貴族がこそっと参加していたり、派閥間のバランスが透けて見えるのだ。

 

これに伯爵家からの話や男爵家独自の情報が入ると、不思議と何となく読めてくる。

最も私は家の情報を直接見聞きする事はできないので、小耳に挟んだり侍女間の情報共有された噂話が中心だ。

 

「と言う理由で、私が持つ情報精度が低いのに加えて、公爵閣下の為人を知りません。どのくらいの野心をお持ちか、それに拠っては修正が必要ですね」

 

其処まで説明を終えると、二人のお嬢様方は揃ってテーブルにうつぶした。

 

「ちょっと…私達、恋愛乙女ゲームをしてたのに、戦略シミュレーションゲームになってない?」

 

「乙女ゲームを知っているせいで、それから頭が離れない私達と、知らないが為にまっさらで考える事ができるレイナさんとの視点の違いね…。確かにエンディングのスチル、戦争エンドっぽかったわ…」

 

「日本でも良くありましたね。公爵家は言わば少数与党なのです。公爵家の動向で王家与党の議席数が過半数割れを起こすわけです」

 

「政治に興味ある女子高生は少数よ…」

 

「同じくOLも…」

 

「日本に生まれ直したら、しっかり選挙に行って下さい」

 

「で、でもレイナ。私が王太子殿下を狙わないなら、もう安全なのよね?」

 

「国内だけを見れば、可能性は低いと思います。今のところ」

 

「今のところって…何かまだ問題があるの?レイナさん」

 

「兵力が足りなければ借りれば良いんですよ。我が国の隣には、しょっちゅう小競り合いが発生している野心的な国があります。そこから貴族派閥の軍の半分程度借りたら王国軍と互角、しかも半分程度なら操作もし易い、報酬は国境付近の鉱山や領土の一部…」

 

ここまで話して、二人が青い顔をしているのに気付いた。

 

「あー大丈夫ですよ。その程度の事、王国派閥の方々も気付いている筈です。それに隣国の兵を引き入れるとなれば、貴族派閥の間でも反発は起きます。簡単に物事は運びませんよ」

 

なんか、二人して手を握り締めてそうよね、大丈夫よねって頷き合ってる。うん、短時間で凄く仲良しになれた。良かったなぁ!

 

 

 





「ところで、万が一王太子殿下がキャサリンお嬢様に粉かけてきたら、どうします?」

「えっ!?友人からNTRなんて趣味じゃないし、そもそも簡単に乗り換えてくる浮気者なんて御断りだわ」

「妾や側妃って事も…」

「もっと嫌!!」
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