hololive Lost Story 作:ダニエルズプラン
ホロライブ事務所、大会議室。
その部屋は、本来であれば大規模な作戦会議や配信イベントの全体打ち合わせに使われる場所だった。
広い室内には、半円状に配置された長机。
壁一面を覆う巨大なスクリーン。
遠隔地から参加するメンバーのための立体通信結晶。
音声を漏らさないための高位遮音結界。
そして、万が一感情が高ぶったメンバーが魔力を暴走させても外部に被害を出さないための抑制術式。
普段ならば、ここには賑やかな笑い声が満ちている。
誰かが配信企画の無茶振りをし、誰かがそれに乗り、誰かが止めに入り、結局止めきれずにさらに話が膨らんでいく。
それがホロライブの日常だった。
だが、今日の空気は違った。
重い。
あまりにも重い。
会議室には、ホロライブ、ホロライブEnglish、ホロライブIndonesiaの面々が可能な限り集められていた。直接事務所に来ている者もいれば、遠隔通信で立体映像として参加している者もいる。
普段なら国境や時差を越えて騒がしく言葉が飛び交うはずの空間が、今だけは異様な緊張に包まれていた。
理由は一つ。
谷郷元昭――YAGOOから、極めて重要な説明があると通達されたからだった。
それも、全体連絡ではなく、記憶を保持しているホロライブ関係者のみを対象にした説明会。
その時点で、誰もが察していた。
桜井ユウトに関する話だ、と。
会議室の最前列。
ときのそらは、両手を膝の上で重ねたまま、静かに前を見つめていた。
彼女の表情は穏やかだった。
いつものように、見る者を安心させる柔らかな微笑みさえ浮かべている。
けれど、その指先はわずかに震えていた。
隣に座るAZKiは、その震えに気づいていた。
けれど、何も言わなかった。
今、そらの中でどれほどの感情が渦巻いているのか。
それを軽々しく言葉にすることなど、誰にもできなかったからだ。
ときのそらにとって、桜井ユウトという存在は特別だった。
ホロライブの黎明期。
何もなかった頃。
まだ未来が見えず、夢だけが頼りだった頃。
彼は、そらの隣にいた。
表舞台に立つ彼女の背中を、誰よりも近い場所で支え続けた。
配信の準備。
機材の調整。
小さなトラブルへの対応。
不安な夜にかけてくれた、少しぶっきらぼうで、けれど温かい言葉。
そして、そら自身が忘れてしまった数えきれない献身。
そのすべてを、この世界で目覚めた時に思い出した。
思い出してしまった。
だからこそ、そらはずっと待っていた。
もう一度、彼に会える日を。
もう一度、ありがとうと言える日を。
もう一度、その名前を呼べる日を。
扉が開いた。
室内のざわめきが、すっと消える。
谷郷元昭が入ってきた。
その後ろには、Aちゃんと春先のどか。
さらに少し遅れて、白上フブキ、大神ミオ、猫又おかゆ、戌神ころね。
そして、さくらみこと星街すいせいが続く。
その並びを見て、そらの瞳がわずかに細くなった。
AZKiも、静かにその顔ぶれを確認する。
YAGOO。
スタッフ二人。
ゲーマーズ。
miComet。
説明会に同席するには、少し妙な配置だった。
もちろん、全員がユウトと深い関わりを持っている。
だが、それだけではない何かがある。
そらは、その違和感を胸の奥にそっとしまった。
今は、まず説明を聞くべき時だ。
YAGOOが壇上に立つ。
大会議室の中央に、静かな緊張が満ちた。
「皆さん、急に集まってもらってすみません」
谷郷の声は、いつも通り穏やかだった。
だが、その奥には明確な重さがあった。
「今日は、桜井ユウトくんについて話があります」
その名前が出た瞬間。
会議室の空気が、音を立てて変わった。
息を呑む音。
小さく震える声。
椅子を握る指先。
遠隔通信の向こうで口元を押さえる者。
誰もが、その名前を待っていた。
誰もが、その名前を恐れていた。
宝鐘マリンは、唇をぎゅっと結んだ。
白銀ノエルは、すでに目元を潤ませていた。
兎田ぺこらは、冗談を言おうとして失敗し、何も言えずに耳を伏せた。
潤羽るしあは、両手を胸元で組み、祈るように俯いていた。
桐生ココは腕を組んでいたが、その指が強く食い込むほど力が入っていた。
EnglishやIndonesiaのメンバーたちも同じだった。
言葉は違えど、想いは同じ。
彼は、自分たちを守った人だった。
自分たちが忘れてしまった人だった。
自分たちの未来を守るために、世界から消えた人だった。
谷郷は一度、全員を見渡した。
そして、ゆっくりと告げた。
「桜井ユウトくんが、見つかりました」
その言葉は、静かだった。
だが、会議室全体を揺らすには十分だった。
「……っ」
そらの指が震えた。
AZKiが、隣で息を呑む。
ノエルはその場でぽろぽろと涙を零した。
マリンが椅子の背もたれを握りしめる。
「本当に……?」
誰かが呟いた。
それが誰の声だったのか、分からない。
そのくらい、多くの者が同じ言葉を胸の中で叫んでいた。
谷郷は頷いた。
「彼は現在、この世界で無事に生活しています。オルタナティブシティ近隣の都市で高校に通う、高校三年生です」
無事。
高校生として生活している。
その言葉を聞いた瞬間、会議室のあちこちで、押し殺していた息が一斉に吐き出された。
安堵。
圧倒的な安堵だった。
「よかった……」
そらが、小さく呟いた。
それはほとんど祈りのような声だった。
「生きてたんだ……」
AZKiも、そっと胸元を押さえる。
るしあは、顔を上げた。
その瞳には涙が浮かんでいる。
けれど、その奥には、燃えるような光があった。
「ユウトさん……」
彼の名前を呼ぶ声は、甘く、震えていて、そしてどこか危うかった。
マリンは、涙を拭いながら笑おうとした。
「はは……なんだよぉ、心配させやがって……」
ココは深く息を吐き、天井を見上げた。
「ったく……ほんと、どこまで世話焼かせるんだよ」
言葉は荒い。
だが、その声は震えていた。
谷郷は、しばらく彼女たちの反応を待った。
そして、次の言葉を口にした。
「ただし、皆さんに必ず理解してほしいことがあります」
会議室が、再び静まる。
「現在の桜井くんは、前世の記憶をほとんど失っています」
沈黙。
今度の沈黙は、重さが違った。
「……え?」
誰かが、呟いた。
そらは、一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
前世の記憶を失っている。
ユウトが。
自分たちを忘れている。
谷郷は続ける。
「彼は、自分がカバー株式会社で働いていたことも、ホロライブのマネージャーだったことも、仮面ライダーゼロノスとして戦っていたことも、明確には覚えていません」
ざわめきが広がる。
「彼の記憶は、高校三年生より前が霧に包まれたように曖昧になっています。夢の中で前世の断片を見ることはあるようですが、朝になるとほとんど消えてしまう」
そらの顔から、血の気が引いた。
自分たちは覚えている。
忘れたはずの彼を、今度は覚えている。
ようやく、今度こそ彼を一人にしなくて済むと思っていた。
なのに。
今度は彼が、自分たちを覚えていない。
「……そんな」
そらの声は、ほとんど息だった。
AZKiがそっと、そらの手に自分の手を重ねる。
会議室の各所で、感情が揺れ始めた。
「どうして……」
「ユウトさんが、私たちを……?」
「そんなの、あんまりだよ……」
悲しみ。
困惑。
怒り。
罪悪感。
恐怖。
感情の波が、一気に押し寄せる。
潤羽るしあは、机の下で両手を握りしめていた。
爪が手のひらに食い込むほどの力。
「覚えてない……?」
彼女の声は小さかった。
だが、隣にいたメンバーは、その声にぞくりとした。
「るしあたちのこと、覚えてないの……?」
その言葉には、悲しみだけではない何かが混ざっていた。
焦燥。
喪失への恐怖。
そして、取り戻さなければならないという凄まじい執念。
マリンは、そんなるしあを横目で見て、少しだけ息を呑んだ。
ノエルは涙を拭いながら、震える声で尋ねた。
「団長が見つけた動画のユウトさんも……記憶がない状態だったんですか?」
「そうです」
谷郷が頷く。
「彼は、身体に戦闘経験を残しています。大剣の扱いや戦闘勘は、前世のゼロノスとしての経験が肉体に残っている。しかし、本人はそれが何なのか理解していない」
フブキが、静かに目を伏せた。
ミオも唇を結ぶ。
おかゆところねは、すでに直接ユウトの状態を見ていた。
それでも、改めて説明されると胸が痛む。
ころねは小さく呟いた。
「ユウトさん、ほんとに……ころねのこと、初めましてって……」
その言葉に、何人かが反応した。
だが、谷郷はすぐに片手を上げた。
「落ち着いてください」
声は穏やかだった。
しかし、代表としての重みがあった。
「皆さんの気持ちは分かっています。彼に会いたい。謝りたい。感謝を伝えたい。そう思うのは当然です」
谷郷は、全員を見渡す。
「ですが、今の彼は前世の私たちを知りません。いきなり全員が押しかければ、彼は間違いなく混乱します。最悪の場合、彼の日常を壊してしまう」
その言葉で、会議室は静まった。
ユウトの日常。
その言葉は、重かった。
自分たちはかつて、彼の日常を奪った。
彼を孤独にし、忘れ、最後には消滅させた。
だからこそ、今度は彼の日常を守らなければならない。
その理屈は、誰もが理解できた。
理解はできた。
納得できるかは、別だった。
「そこで、今後、彼とどのように顔合わせをしていくかを決めたいと思います」
谷郷が言った。
「彼の負担を考え、一度に大人数で会うことは避けます。少人数ずつ、彼の意思を確認しながら、段階的に――」
「はい!」
言い終える前に、手が上がった。
宝鐘マリンだった。
「船長、最初に行きます!」
「マリン、落ち着いてください」
「落ち着いてます! めちゃくちゃ落ち着いてます! 大人ですから! だから最初に行かせてください!」
「その勢いが落ち着いていないんだにぇ……」
みこが小声で呟く。
次の瞬間、別の手が上がる。
「団長も行きたいです!」
白銀ノエルだった。
「団長、最初にユウトさんを見つけたのは私です! 動画で! だから、直接会う権利があると思います!」
「動画で見つけた権利って何にぇ……」
「でも気持ちは分かる」
すいせいが小声で言う。
「ぺこらも行くぺこ!」
兎田ぺこらが机に身を乗り出す。
「いや、ぺこらは別に泣いたりしないけど? 普通に、普通に会って、普通に話すだけぺこだけど? だから最初でいいぺこ!」
「絶対普通じゃ済まないやつだよねぇ」
おかゆが眠たげに言う。
「私も……」
潤羽るしあが、静かに手を上げた。
その声は小さい。
けれど、会議室の空気が少しだけ凍った。
「私が、最初に会いたいです」
るしあは微笑んでいた。
とても綺麗な微笑みだった。
だが、その瞳の奥にある感情は、あまりにも重い。
「ユウトさん、私のこと忘れてるんですよね? だったら、早く思い出してもらわないと」
「るしあ……」
マリンが少しだけ警戒した声を出す。
「大丈夫。怒ってないよ」
るしあは笑った。
「ただ、もう一度、ちゃんと私のことを覚えてもらうだけだから」
その言葉に、会議室の温度が一段下がった気がした。
ココが腕を組んだまま、低く言う。
「なら、まずは私が会うのが筋じゃねぇか? あいつには、言いたいことが山ほどある」
「ココちゃんも強い……」
誰かが呟く。
English側からも声が上がる。
Indonesia側からも、遠隔通信越しに何人かが手を挙げる。
「私たちだって会いたい」
「ずっと探してた」
「一言だけでもいいから、ありがとうって言いたい」
収拾がつかなくなり始めた。
谷郷が何度か落ち着かせようとするが、感情の波は簡単には止まらない。
誰も譲らなかった。
誰もが「最初に会いたい」と言った。
最初。
その言葉には、ただ順番以上の意味があった。
記憶を失ったユウトの中に、最初に自分の存在を刻みたい。
もう一度始まる関係の、一番最初の場所にいたい。
その思いが、全員の胸の奥にあった。
だからこそ、譲れない。
悲しみも、感謝も、罪悪感も、愛情も、独占欲も。
すべてが絡み合い、会議は紛糾した。
「だから船長が!」
「団長です!」
「ぺこらぺこ!」
「私が行きます」
「お前ら一回落ち着け!」
「落ち着けるわけないじゃないですか!」
会議室が騒然とする。
その中で、ときのそらは黙っていた。
彼女は、誰よりも最初に名乗り出てもおかしくなかった。
むしろ、周囲の多くはそらが最初に会うべきだと思っていた。
前世での関わり。
ホロライブの始まり。
ユウトが最も長く支え続けた存在。
それを考えれば、ときのそらが最初というのは自然な流れだった。
だが、そらは手を挙げなかった。
ただ、騒がしい会議室を静かに見つめていた。
そして、あることに気づいた。
「……AZKiちゃん」
「うん」
隣のAZKiも、同じものを見ていた。
会議室の一角。
そこに、妙に静かな六人がいた。
さくらみこ。
星街すいせい。
白上フブキ。
大神ミオ。
猫又おかゆ。
戌神ころね。
彼女たちは、積極的に「最初に会いたい」とは名乗り出ていなかった。
それだけなら、まだ分かる。
ユウトへの配慮。
すでに落ち着いて考えている。
そう解釈することもできる。
だが、違った。
そらは見逃さなかった。
みこは、騒ぎに混ざりたそうにしながらも、どこか落ち着いている。
すいせいは腕を組み、涼しい顔をしている。
フブキはにこにこと笑っているが、その目には妙な余裕がある。
ミオは皆を宥める側に回っている。
おかゆは眠そうに頬杖をつきながら、まるで自分は一歩先にいると言いたげな空気を漂わせている。
ころねだけは少しそわそわしているが、それでも「最初」を争う輪には入っていない。
消極的ではない。
むしろ逆だ。
まだそこで争ってるんだ?
そんな、ほんのわずかな優越感が滲み出ていた。
そらの笑みが、わずかに深くなった。
「AZKiちゃん」
「うん」
「気づいた?」
「気づいた」
AZKiの声は静かだった。
だが、その目は笑っていない。
「六人、変だよね」
「うん。すごく変」
そらはゆっくりと立ち上がった。
その動きは静かだった。
だが、不思議なほど会議室の空気を変えた。
騒がしかったメンバーたちが、少しずつ口を閉じる。
ときのそらが立った。
それだけで、場の重心が変わった。
「みこちゃん」
そらの声は、いつも通り優しかった。
みこの肩が、びくりと跳ねた。
「にぇ?」
「すいちゃん」
「……はい」
すいせいの表情が固まる。
「フブキちゃん、ミオちゃん、おかゆちゃん、ころねちゃん」
名前を呼ばれた四人も、それぞれ反応した。
フブキは笑顔のまま固まり、ミオは少しだけ目を逸らし、おかゆは頬杖を外し、ころねは耳をぴんと立てた。
そらは、にこりと微笑んだ。
「ちょっと、いいかな?」
その声に、会議室の全員が沈黙した。
優しい。
とても優しい声だった。
だが、その優しさの奥に、逃げ道を塞ぐ何かがあった。
AZKiも立ち上がる。
「私も、少し聞きたいことがあるかな」
みこの顔から、血の気が引いた。
「え、えっと、そら先輩? AZKiちゃん? なんのことかにぇ……?」
「まだ何も言ってないよ、みこちゃん」
「にぇ……」
すいせいが小声で呟く。
「これはまずい」
「すいちゃん、声に出てるにぇ」
「出た」
フブキが、笑顔のまま静かに後ずさろうとした。
その肩を、ミオがそっと掴む。
「フブキ、逃げない」
「ミオも呼ばれてますよ?」
「うん。だから逃げない」
「ミオ、こういう時に潔いですね」
「諦めが早いだけ」
おかゆがぽつりと言う。
「二回目、始まっちゃうねぇ」
「二回目って何?」
ころねが首を傾げる。
おかゆは遠い目をした。
「尋問」
その言葉に、みことすいせいが同時に肩を震わせた。
そらは、相変わらず柔らかく微笑んでいる。
AZKiも、穏やかな表情を崩していない。
しかし、その二人の前で、六人は明らかに動揺していた。
会議室の他のメンバーたちも、ようやく空気を察し始める。
「……え?」
「まさか」
「あの六人、もうユウトさんに……?」
「嘘でしょ?」
ざわめきが再び広がる。
マリンが椅子から身を乗り出した。
「ちょっと待って。どういうこと? まさか、あんたたち……」
ノエルの目が大きく見開かれる。
「もう、会ってたんですか……?」
ぺこらが耳を立てる。
「は? 抜け駆けぺこ?」
るしあは、静かに六人を見た。
その瞳が、暗く揺れる。
「……へぇ」
小さな声だった。
だが、六人の背筋に冷たいものが走った。
谷郷は、そっと額に手を当てた。
「……やはり、こうなるか」
Aちゃんが隣で苦笑する。
「代表、止めます?」
「今止めても、火に油だろうね」
のどかが少し困ったように言う。
「それに、そらさんとAZKiさんが動いた以上……」
「ああ」
谷郷は深く息を吐いた。
「止まらないだろう」
そらは、六人を見つめたまま、穏やかに言った。
「みこちゃんたち」
「はい……」
「はいにぇ……」
「私たち、怒ってるわけじゃないよ」
その言葉を聞いた瞬間、六人は誰一人として安心しなかった。
なぜなら、こういう時の「怒ってない」は、大抵の場合、怒っているより怖いからだ。
AZKiが微笑む。
「ただ、ちゃんと教えてほしいな」
そらが続ける。
「いつ、どこで、どうやってユウトさんに会ったのか」
AZKiがさらに続ける。
「連絡先を交換した人はいるのか」
そらがにこりと笑う。
「それから」
会議室の空気が、ぴんと張り詰めた。
「どうして、私たちに黙っていたのか」
完全に、尋問だった。
しかも二回目。
第一回、ゲーマーズ主催によるmiCometおよびYAGOO尋問会。
第二回、ときのそら・AZKi主催による六名合同尋問会。
ホロライブ事務所の大会議室は、一瞬にして説明会から査問会場へと姿を変えた。
みこは、机に突っ伏した。
「終わったにぇ……」
すいせいは、目を閉じて小さく呟いた。
「ユウトさん、すいちゃんたちに力を……」
「祈る相手が違うよ、すいちゃん」
おかゆが呟く。
フブキは、観念したように両手を上げた。
「えー、白上から説明してもよろしいでしょうか」
「フブキちゃん」
そらが優しく名前を呼ぶ。
「はい」
「順番に、全員から聞くね」
「……はい」
会議室のあちこちから、ざわめきと視線が刺さる。
羨望。
嫉妬。
怒り。
驚愕。
そして、聞き逃すまいとする圧倒的な集中。
六人は悟った。
今日の説明会は、まだ終わらない。
むしろ、ここからが本番だった。
その頃。
遠く離れた帰り道で、桜井ユウトは何も知らずに端末へ届いた写真の返信を眺め、少しだけ微笑んでいた。
自分の知らないところで、ホロライブ事務所が再び大騒ぎになっていることなど、知る由もなかった。
チ、チ、チ、チ――。
彼の胸元の懐中時計だけが、まるでその騒がしい未来を予感しているかのように、静かに時を刻んでいた。