hololive Lost Story 作:ダニエルズプラン
ホロライブ事務所という建物は、外から見れば、少しばかり地味なオフィスビルにしか見えない。
オルタナティブシティの中心部に建つ超高層魔導ビル群と比べれば、むしろ控えめだ。外壁は派手な装飾もなく、巨大な看板もない。世界有数の冒険者グループにして、魔導配信文化の頂点に立つホロライブプロダクションの本拠地だと知らなければ、通りすがりの人間はせいぜい「何かの中堅企業が入っているビルかな」と思う程度だろう。
けれど、実際に中へ足を踏み入れれば、その印象は一瞬で崩れる。
階によっては、空間魔法による大規模な拡張が行われている。
外から見た階層の広さと、中に広がる空間の規模が、まるで一致していないのだ。
ある階には、最新鋭の魔導配信スタジオがいくつも並んでいる。防音結界、照明制御術式、立体映像投影装置、リアルタイム魔力同期システム。専門家が見れば卒倒しそうな設備が、当然のように整えられている。
また別の区画には、大人数の企画やライブ形式の収録に使われる広大なライブルームがある。そこは、外観上のビルの広さから考えれば、明らかに収まりきらない規模を誇っていた。床面には衝撃吸収魔法陣が組み込まれ、壁面には音響反射を調整する術式が流れている。
もはや、建物というより、巨大な異空間施設と言うべき場所。
桜井ユウトは、その中の一室にいた。
だが、そこはいつもの顔合わせ用の会議室ではない。
配信スタジオの並ぶ階の一角にある、ライバーたちが主に使用する休憩室だった。
部屋は広い。
いや、広すぎる。
休憩室という名前から想像する規模を、明らかに超えていた。
壁際には大きなテレビが設置され、その下には最新型から旧式まで、様々なゲーム機が整然と並んでいる。横には大量のソフトケース。さらに別の棚にはボードゲームやカードゲーム、なぜか謎のパーティーグッズまで詰め込まれている。
部屋の隅には自販機が二台。
片方は普通の飲料用。もう片方は、魔力回復ドリンクや獣人向け高栄養飲料、悪魔族用の激辛エナジードリンクまで扱っている混沌仕様だった。
奥には冷蔵庫。
その隣には、小さなキッチン。
流し台、簡易コンロ、電子レンジ、オーブン、ホットサンドメーカー、たこ焼き器、なぜか業務用の炊飯器。
休憩室のはずなのに、軽食どころか、やろうと思えば普通に宴会ができそうな設備である。
そして、その部屋の中央。
大きなソファとローテーブルの前で、ユウトはコントローラーを握っていた。
テレビ画面には、デフォルメされたキャラクターたちがレース場を爆走している。
見たところ、パーティー系のレースゲームだ。
ユウトの操作するキャラクターは、先頭集団の少し後ろを走っている。
隣から、のんびりした声が飛んできた。
「ユウトくん、そこで右のショートカット入れるよ〜」
「え、右?」
「うん。ほら、そこそこ〜」
「……っ、あ、本当だ」
ユウトが慌ててスティックを倒すと、画面の中のキャラクターが細い脇道へ入った。大きくカーブを抜け、一気に順位が上がる。
「おお」
「ね? 僕の言ったとおりでしょ〜」
隣に座っている猫又おかゆが、ゆるく笑った。
柔らかい紫色の髪。
眠たげな目。
全身から漂う、どうにも抗いがたいマイペースな空気。
彼女はホロライブゲーマーズ、猫又おかゆ。
そして今日、ユウトをこの休憩室へ連れてきた張本人だった。
「おかゆ、ユウトさんにショートカット教えるのずるいよぉ!」
テレビの前、床に座り込んでいる戌神ころねが、振り返って声を上げた。
ころねは両手でコントローラーを握りしめ、にこにこと笑っている。
明るい。
柔らかい。
だが、画面の中で彼女のキャラクターは、異様なほど攻撃的に他プレイヤーへアイテムをぶつけていた。
穏やかな笑顔のまま、やることはえげつない。
「ころさん、さっきからユウトくんにばっかり赤甲羅投げてるじゃん」
大神ミオが苦笑しながら言った。
彼女はソファの端に腰掛け、やや困ったような、けれど嬉しさを隠しきれない表情で画面を見ている。
「それはねぇ、愛だよぉ」
ころねは即答した。
「愛で甲羅を投げないでください」
ユウトが思わず突っ込む。
「えへへ、ユウトくんがツッコんでくれたぁ」
「喜ぶところですか、そこ」
「うん。すごく嬉しいよぉ」
ころねは、にっこり笑った。
その笑顔は本当に穏やかだった。
しかし、ユウトの画面にはまた赤い追尾弾が迫っていた。
「また来てるんですけど」
「うん、ころねが投げた」
「愛が重い」
「重い方がちゃんと届くでしょ?」
「物理的に届いてます」
ユウトのキャラクターが吹っ飛んだ。
ころねは楽しそうに笑う。
その後ろで、ぐるぐる巻きに縛られた白上フブキが、床の上に正座させられていた。
首からは、見覚えのある看板。
『私は抜け駆け未遂しました』
しかも今回は追記がある。
『ゲーマーズ回でも先に動こうとしました』
達筆だった。
おそらく、またAちゃんの筆跡だ。
「白上は思うんですよ」
フブキは、縄で縛られたまま真面目な顔で言った。
「ゲーマーズでもあり、1期生でもある白上には、ゲーマーズ顔合わせに参加する正当な権利があると」
「あるよ?」
おかゆが言う。
「でも、ユウトくんの迎えに行く役を勝手に取ろうとしたから縛られたんだよね〜」
「そうですね」
ミオが頷いた。
「フブキ、昨日の夜から『明日の案内役、白上が自然にやればいいのでは?』ってずっと言ってたから」
「自然な流れでしたよぉ」
「自然じゃないよ」
ころねが、にこにこと笑いながら言う。
「フブちゃんは一回、尾行もしてるからねぇ」
「ころさんに言われると説得力が妙に痛いですね」
「えへへ」
フブキは肩を落とす。
縄はかなりしっかり巻かれている。
それでも、表情には余裕があるあたり、さすが白上フブキというべきかもしれない。
ローテーブルの向こう側では、YAGOOがすべてを諦めた顔で座っていた。
その隣にAちゃんと春先のどか。
Aちゃんは平常運転のすまし顔。
のどかは、困ったような笑みを浮かべつつ、ユウトの前に飲み物を置いてくれている。
YAGOOは、テレビ画面でユウトのキャラクターがころねの攻撃によってまた吹っ飛ぶのを見て、小さく呟いた。
「……今日は、顔合わせだったはずなのですが」
「代表」
Aちゃんが静かに言う。
「もう諦めましょう」
「Aくんに言われると、本当に終わった気がしますね」
「ゲーマーズの皆さんですから」
「理由として強いような、何も説明していないような」
YAGOOはそう言って、深くため息を吐いた。
ユウトはゲーム画面を見ながら、まだ状況のすべてを理解できずにいた。
そもそも、なぜ自分は顔合わせ用の会議室ではなく、休憩室でゲームをしているのか。
その原因は、数十分前にさかのぼる。
~~~~~~~~
その日。
5期生との顔合わせを終えた翌日。
ユウトは、予定通りゲーマーズと顔合わせを行うため、ホロライブ事務所へやって来ていた。
朝から妙に胸ポケットの時計がよく鳴っていた。
チ、チ、チ、チ――と、いつもより少しだけ弾むような音。
ゲーマーズ。
白上フブキ、大神ミオ、猫又おかゆ、戌神ころね。
フブキとは、1期生の顔合わせで既に会っている。
おかゆところねとは、以前オルタナティブシティで青と買い物をしていた時、遠くから見られていたような気がする。
ミオとは、まだ直接話したことはない。
ただ、彼女たちもまた、僕の前世を知っている。
そう考えると、どうしても緊張はあった。
ユウトは事務所の入口を通り、ロビーに入った。
いつものように案内役のスタッフがいるはずだった。
最近は、案内役が高確率で本人関係者にすり替わっているため、少しだけ警戒もしていた。
Aちゃん。
のどか。
みこやすいせい。
2期生の捕獲。
ぼたんのラーメン屋台と外壁入室。
これまでの流れを考えれば、普通に案内される方が珍しい。
それでもユウトは、一応ロビーを見渡した。
受付スタッフはいる。
だが、顔合わせ用の案内役らしき人影は見えなかった。
「……少し早かったかな」
そう思った瞬間。
背後から、気配もなく声がした。
「ユウトく〜ん」
「……っ!?」
ユウトは思わず振り返った。
そこには、猫又おかゆが立っていた。
距離が近い。
とても近い。
いつの間に背後を取られたのか、まったく分からなかった。
おかゆは、いつものゆるい笑顔で片手を上げる。
「やっほ〜」
「猫又さん……?」
「おかゆでいいよ〜」
「……猫又さん」
「まだ固いねぇ」
おかゆはくすくす笑う。
その声は柔らかく、眠たげで、まるで何も急いでいないようだった。
だが、彼女の手はすでにユウトの背中へ回っていた。
「今日の顔合わせ、違う場所でやるよ〜」
「え、そうなんですか?」
「うん。ゲーマーズだからね」
「理由になっていますか、それ」
「なってるなってる」
おかゆは、ユウトの背中をゆるく押し始めた。
力はそれほど強くない。
しかし、不思議と逆らえない。
歩幅に合わせて、するするとロビーの奥へ進んでいく。
「あの、受付とか、案内役のスタッフさんは」
「大丈夫大丈夫。もう話は通ってるから」
「通ってるんですか」
「たぶん」
「たぶん?」
「YAGOOさんが諦めてる顔してたから、通ってると思うよ〜」
「それは通っていると言えるんですか」
「ホロライブでは言えるよ」
「便利な言葉ですね、ホロライブ」
おかゆは笑った。
「ユウトくん、だいぶ慣れてきたねぇ」
「慣れたくはなかったです」
「でも、慣れてくれた方が僕たちは嬉しいかな」
その言葉だけ、少し温度が違った。
ユウトは横目でおかゆを見た。
おかゆは相変わらずゆるく笑っている。
けれど、その瞳の奥には、どこか底の見えない感情があった。
懐かしさ。
嬉しさ。
それから、少しだけずるい独占欲。
おかゆは、それ以上何も言わず、ユウトをエレベーターへ案内した。
扉が閉まる。
階数表示が上がっていく。
ユウトが尋ねる。
「今日は、会議室じゃないんですか?」
「うん。休憩室」
「休憩室」
「ゲームもあるし、お菓子もあるし、冷蔵庫もあるし、ころさんもいるよ」
「最後だけ急に別方向の情報ですね」
「重要情報だから」
「戌神さんが?」
「うん。ユウトくん、ころさんには気をつけてね〜」
おかゆは、柔らかく笑った。
「にこにこしながら、けっこう踏み込んでくるから」
「……それ、忠告ですか」
「半分はね」
「もう半分は?」
「僕も踏み込みたいなぁっていう宣言」
ユウトは返事に困った。
おかゆは楽しそうに笑い、エレベーターの扉が開くと、再びユウトの背中を押した。
そして連れてこられたのが、この休憩室だった。
扉を開けた先には、すべてを諦めた顔のYAGOO。
平常運転のAちゃん。
苦笑するのどか。
今か今かと待っていた大神ミオ。
テレビの前でコントローラーを握っていた戌神ころね。
そして、ぐるぐる巻きに縛られた白上フブキ。
ユウトはその光景を見て、しばらく言葉を失った。
最初に口を開いたのは、ころねだった。
「ユウトくんだぁ」
それは、ただ名前を呼んだだけだった。
けれど、その声に含まれた熱が、ユウトの胸の奥を強く叩いた。
ころねは立ち上がり、ゆっくりと近づいてきた。
走らない。
飛びつかない。
ただ、にこにこと笑いながら、ユウトのすぐ前まで来る。
そして、両手を伸ばした。
「抱きしめてもいい?」
「え」
あまりに直球だった。
ユウトが答えに詰まっていると、ミオが慌てて止めに入る。
「ころね! まずは挨拶! ユウトくん困ってるから!」
「そっかぁ」
ころねは素直に手を下ろした。
だが、笑顔はそのままだ。
「じゃあ、あとでねぇ」
「あとで確定なんですか」
「うん」
ころねは頷いた。
「我慢してるから、あとではいいでしょ?」
ユウトは、何も言えなかった。
その横で、おかゆがのんびり言う。
「じゃあ、まずゲームしよっか」
「なぜ?」
「ゲーマーズだから」
それが、この状況の始まりだった。
~~~~~~~~
レースゲームは最終ラップに入っていた。
ユウトは、なんとか三位を走っている。
一位はころね。
二位はおかゆ。
ミオは少し後ろで安定した走りをしており、フブキは縛られているため参加できず、口だけで実況していた。
「さあ最終コーナー! トップはころさん! 二位おかゆ! 三位ユウトくん! このまま決まるか、それとも逆転なるか!」
「白上さん、楽しそうですね」
のどかが苦笑する。
「縛られていても実況はできますからね!」
「反省は?」
「しています!」
Aちゃんが即座に言う。
「では静かに反省してください」
「はい……」
フブキはしゅんとした。
画面の中で、ユウトはアイテムを取った。
出たのは加速アイテム。
「あ、ユウトくん、それ使えば二位いけるよ〜」
おかゆが言う。
「おかゆ、教えちゃうの?」
ミオが笑う。
「だってユウトくんに勝ってほしい気持ちもあるし〜」
「じゃあ自分は抜かれてもいいの?」
「それは嫌かなぁ」
おかゆはそう言いながら、画面上で絶妙にユウトの進路を塞いだ。
「言ってることとやってることが違う」
「勝負だからね〜」
「穏やかに妨害してくる」
「僕、ゲーマーズだよ?」
おかゆはゆるく笑う。
ユウトは加速アイテムを使い、何とかおかゆの横へ並ぼうとする。
しかし、その瞬間。
ころねが後方へアイテムを投げた。
それが見事にユウトへ直撃した。
「あっ」
ユウトのキャラクターが回転する。
順位が落ちる。
「ころさん!」
ミオが叫ぶ。
「えへへ、当たっちゃったぁ」
「狙いましたよね」
ユウトが呟く。
「うん」
「認めるんですね」
「ユウトくんに当てるなら、ちゃんと狙わないと失礼だもん」
「その理屈は初めて聞きました」
レースはそのまま終了。
一位、戌神ころね。
二位、猫又おかゆ。
三位、大神ミオ。
四位、桜井ユウト。
ユウトはコントローラーを置き、軽く息を吐いた。
「負けました」
「やったぁ」
ころねはにこにこと笑いながら、こちらへ振り返る。
「じゃあ、勝ったご褒美ね」
「ご褒美?」
「抱きしめる」
「勝ったらそういうルールでしたか?」
「今決めたよぉ」
「後出しにもほどがある」
ころねは立ち上がる。
ミオが慌てる。
「ころね、待って待って! 自己紹介まだちゃんと終わってないから!」
「じゃあ自己紹介しながら抱きしめる?」
「高度すぎる!」
ころねは一歩、ユウトへ近づく。
その笑顔は柔らかい。
けれど、足取りに迷いがない。
ユウトの本能が、ほんの少しだけ警鐘を鳴らした。
この人は、穏やかだ。
穏やかだけど、止まらない。
そんな感じがする。
ころねはユウトの前で立ち止まった。
そして、両手を広げる。
「ユウトくん」
「はい」
「ころねはね、戌神ころね。ホロライブゲーマーズだよ」
「はい。存じています」
「前の世界でも、ユウトくんのこと知ってるよ」
「……はい」
「いっぱい知ってる。ユウトくんが、ころねたちのために頑張ってくれたことも。ころねが知らないところで、たくさん傷ついてたことも。最後に、いなくなっちゃったことも」
部屋の空気が静かになった。
ころねの声は、変わらず柔らかかった。
だが、その柔らかさの奥に、鋭いものがあった。
「だからね、ころねは今、すごく嬉しいんだよ」
ころねは笑った。
「ここにいるユウトくんを、ちゃんと見られるから」
そして一歩、踏み込む。
ユウトの目の前。
「でもね、ちょっと怒ってもいるよ」
「怒って……」
「うん。勝手にいなくなったから」
ころねの手が、ユウトの袖を軽く掴んだ。
力は弱い。
けれど、逃がす気がない指だった。
「だから、今度はちゃんと捕まえておかないとって思ってる」
にこにこと。
本当に穏やかに。
戌神ころねはそう言った。
ユウトは、言葉を探した。
だが、その前にミオが間に入った。
「ころね、そこまで」
「えー」
「ユウトくん、困ってる」
「困ってるユウトくんもかわいいよ?」
「そういう問題じゃない」
ミオの声は優しかったが、しっかりしていた。
ころねは少しだけ頬を膨らませる。
「ミオしゃ、厳しい」
「今日のころねは放っておくと本当に止まらなそうだからね」
「えへへ」
「褒めてない」
ころねは笑いながら、ユウトの袖から手を離した。
しかし、視線は離れなかった。
おかゆが、ソファの背もたれに体を預けながら言う。
「ころさん、まだ序盤だからね〜。飛ばしすぎるとユウトくん逃げちゃうよ」
「逃げたら追いかけるよぉ」
「ほら、そういうところ」
おかゆはくすくす笑う。
ユウトは、胸ポケットの時計に手を当てた。
チ、チ、チ、チ――。
時計の音が、少しだけ速い。
その音を落ち着かせるように、ユウトは深く息を吸う。
「……あの」
彼が口を開くと、ゲーマーズの三人――いや、縛られているフブキも含めて四人が一斉にこちらを見た。
「今日は、皆さんの話を聞くために来ました」
ユウトは静かに言った。
「僕は、皆さんのことをまだよく知りません。前の世界のことも、覚えていません。でも……皆さんが僕を覚えているなら、その話を聞きたいと思っています」
その言葉に、ミオの表情が柔らかくなった。
おかゆは目を細める。
ころねは、ゆっくりと笑った。
フブキは、縛られたまま小さく頷いた。
YAGOOが、深く息を吐いた。
諦めではなく、安堵に近い息だった。
「では」
Aちゃんが進行表を開く。
「多少予定とは違う形になりましたが、ここから正式にゲーマーズとの顔合わせを始めましょう」
「多少?」
ユウトが思わず呟く。
のどかが苦笑する。
「かなり、かもしれません」
「かなりですね」
ミオが頷いた。
おかゆがコントローラーをテーブルへ置く。
「じゃあ、ゲームは一回休憩だね」
「次はユウトくんと協力プレイしたいなぁ」
ころねが言う。
「ころね、まず自己紹介とお話」
「はぁい」
ころねは素直に返事をした。
フブキが縄で縛られたまま、少しだけ身を乗り出す。
「白上も、改めてゲーマーズとして自己紹介したいのですが」
Aちゃんが無言で見た。
「……縛られたままでいいので」
「許可します」
「ありがとうございます」
フブキは妙にきりっとした顔で頷いた。
ユウトは、その光景を見て、小さく息を吐いた。
会議室ではなく、休憩室。
机の上にはお茶とお菓子。
テレビにはゲームのリザルト画面。
床には縛られたフブキ。
隣にはマイペースなおかゆ。
前には穏やかに踏み込んでくるころね。
そして、それを見守るミオ。
これが、ゲーマーズとの顔合わせ。
普通ではない。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、この騒がしさの中に、自分の知らない懐かしさがある気がした。
YAGOOが静かに頷く。
「それでは、まずは自己紹介からにしましょう」
ゲーマーズの四人が、それぞれの表情でユウトを見る。
白上フブキは、縛られながらもいつもの笑みで。
大神ミオは、優しくも少し心配そうに。
猫又おかゆは、眠たげで底の見えない目で。
戌神ころねは、にこにこと穏やかに、しかし絶対に逃がさないと言いたげに。
チ、チ、チ、チ――。
銀色の懐中時計が鳴る。
止まっていたはずの物語は、また一つ新しい扉を開く。
それは、会議室の重い扉ではなく。
ゲームとお菓子と、少し危険な愛情に満ちた休憩室の扉だった。
ゲーマーズとの顔合わせが、ようやく始まった。