hololive Lost Story   作:ダニエルズプラン

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第7話 夢の境界線

 

 タッタッタッタッタッ……!

 

 激しく石畳を叩く足音が、さくら神社の静謐な裏道を乱暴に切り裂いていた。

 

 吹き抜ける風が、枯れない桜の薄紅色の花びらを巻き上げ、視界を幾重にも遮る。けれど、走る彼女たちの身体の内側からは、さくら神社特有の暖かい風よりも燃え上がるような熱を帯びていた。

 

 「はぁ、はぁ……っ、すいちゃん! こっち、こっちから聞こえる……っ!」

 

 ピンクの羽飾りがついた星形の髪飾りを激しく揺らしながら、さくらみこが先頭を走る。その瞳からは、すでに堪えきれなくなった涙が溢れ出し、風に流されて後ろへと消えていた。

 

 その後ろを、星街すいせいが青い髪をなびかせ必死に追随する。彼女のいつもは冷静な青い瞳も、今ばかりは激しい焦燥と、喉を焼き尽くさんばかりの期待に爛々と輝いていた。

 

 チ、チ、チ、チ、チ、チ……。

 

 走れば走るほど、その『音』は確実に大きくなっていた。

 

 世界中のどんな魔導時計とも違う、あの無骨で、剥き出しの鋼と銀が噛み合う、冷徹で、けれど狂おしいほどに情熱的な秒針の爆音。前世の地球世界で、自分たちのすべてを影から支え、最後には誰の記憶からも消え去ってしまった、あの口の悪いマネージャー――桜井ユウトが、いつもその胸ポケットに忍ばせていた懐中時計の残響。

 

 「ユウトさん……っ、ユウトさん……!!」

 

 すいせいは、喉の奥でその名前を何度も、何度も反芻した。

 

 この世界で目覚めてからの数年間、どれだけ彼の名前を調べても、どこの戸籍を調べても、一片の手がかりすら見つからなかった。存在を改変され、最初から「いなかったこと」にされた一人の英雄。その彼がいま、自分たちの管理する神社のすぐ裏手で、その存在を証明するように、力強く時間を刻んでいる。

 

 裏道の細い回廊を抜け、古い霊脈の源流が湧き出す切り立った崖の手前の広場へと二人は飛び出した。

 

 そこには境内の中で最も巨大な、龍の身体のような太い幹を持つ一本桜の巨木が、周囲に薄紅色の嵐を巻き起こしながら静かにそびえ立っていた。

 

 そして、その巨木の根元。

 

 ハラハラと絶え間なく舞い散る桜の花びらの絨毯の上に。

 

 「あ……」

 

 みこが、息を詰まらせてその場にへたり込みそうになった。

 

 すいせいもまた、走る勢いのまま急ブレーキをかけ、両手で自らの口を強く押さえた。

 

 そこに、彼はいた。

 

 前世の容姿から何一つ変わっていない、あの少し憂いを帯びた、物静かな少年の姿のまま。黒い紐がついた、落ち着いた銀色の懐中時計をその右手に静かに握りしめたまま、桜の幹に背中を預け、穏やかな眠りについていた。

 

 彼の黒い髪に、制服の肩に、薄紅色の花びらが幾枚も優しく積もっている。その佇まいは、まるで長い、長い戦いの旅路を終えて、ようやく安息の地に辿り着いた、一人の戦士のようだった。

 

 「ユウト、さん……っ! ユウトさぁぁぁん……っ!!」

 

 みこは、感情の決壊を抑えきれず大粒の涙をボロボロと流しながら、その眠る少年の身体へと狂ったように駆け出し、そのまま抱き着こうとした。

 

 数年間の孤独。数年間の贖罪。今度こそ、その手を握って面と向かって「ごめんなさい」と、そして「ありがとう」と言いたかった。その想いだけが、みこの身体を突き動かしていた。

 

 「――待って、みこち」

 

 けれど、その小さな身体がユウトに激突する寸前、後ろから伸びてきたすいせいの細い腕がみこの肩を強く、けれど極めて静かに掴んで引き止めた。

 

 「にゃ、にゃんで止めるのすいちゃん……っ! ユウトさんが、ユウトさんが‥!やっとみこたちの前に戻ってきたんだよ……っ!? なんで……っ!」

 

 みこは涙でぐちゃぐちゃになった顔を振り向き、抗議するように声を荒らげた。

 

 しかし、みこを引き止めたすいせいの顔を見た瞬間、みこはそれ以上の言葉を失った。

 

 すいせいの青い瞳からも静かに、一筋の涙が頬を伝って落ちていた。けれど彼女の表情は、驚くほどに穏やかで、そしてどこか壊れ物を扱うかのような、繊細な慈愛に満ちていたのだ。

 

 「しー……。声を上げたら、ユウトが起きちゃうでしょ?」

 

 すいせいは、人差し指を自分の唇にそっと当て、微かに微笑んだ。

 

 「やっと……やっと、あんなに静かに眠れてるんだよ? 前世のユウトは私たちがステージに立つ裏側で、いつだって傷だらけで、明日自分の存在が消えるかもしれないっていう地獄の中で、一瞬だって心から休める日なんてなかったはずじゃん。……それを、私たちのエゴで、今すぐ大声で叩き起こしちゃうのは……ちょっと、かわいそうだよ」

 

 「すい、ちゃん……」

 

 「それにね、みこち。……私、まだ信じられないんだよね。ここに一歩踏み込んで、もしあの人が幻みたいに消えちゃったらどうしようって、すごく怖い。……だから、まずは、確かめさせて」

 

 すいせいはみこの肩からそっと手を離すと、音を立てないように忍び足でユウトの元へと歩み寄った。桜の花びらを踏みしめるかすかな音さえも、今の彼女にとっては世界のすべてのように重い。

 

 そして眠るユウトの右隣へとゆっくりと腰を下ろした。

 

 制服の袖が触れ合うほどの、至近距離。隣から伝わってくる、確かな桜井ユウトの生身の体温。そして、彼の右手の中でチ、チ、チ、と力強く響く時計の鼓動が、彼女の耳に心地よく届く。

 

 すいせいは、愛おしげに目を細めるとユウトを起こさないように細心の注意を払いながら、静かに自らの青い頭を彼の右肩へと預けた。

 

 「……あ」

 

 確かな重み。確かな温もり。

 

 幻じゃない。あの人は本当に、今自分のすぐ隣にいる。

 

 すいせいは、ユウトの肩の上でそっと目を閉じ、まるで世界で一番安心できる場所に辿り着いたかのように、ふぅ、と穏やかな寝息を立て始めた。

 

 「な、な……すいちゃん、ずるいんだが……っ!」

 

 その光景を見ていたみこは、思わず声を上げそうになり、慌てて両手で自分の口を押さえた。

 

 すいちゃん、いつの間にそんなちゃっかりしたポジションを取っているにぇ!? と、胸の中で激しい嫉妬と困惑が渦巻く。自分だって、あの人の隣にいたい。あの温もりに触れて、自分が一人じゃないことを確かめたい。

 

 みこは涙を袖でゴシゴシと拭い去ると、すいせいに負けてたまるかと言わんばかりに、今度は自分が音を立てずにユウトの左側へとアプローチを開始した。

 

 桜の巨木の根元、ユウトの左隣。

 

 みこは、スカートが汚れるのも気にせずに石畳の上にそっと腰を下ろした。左隣に座るとユウトの物静かな、けれどどこか頼もしかった前世の横顔がすぐ目の前にあった。

 

 間近で聞く彼の寝息は驚くほど静かで、けれど規則正しかった。

 

 (本当に……本当にユウトさんなんだにぇ……)

 

 みこは、胸の奥から込み上げてくる愛おしさに、再び目頭が熱くなるのを堪えきれなかった。

 

 前世のあの時。自分が機材トラブルで配信を諦めそうになって、ぐずぐずに泣いていたとき。この人は何事もないような顔をして、ぶっきらぼうに「ほら、チェンジ」って言ってカメラの前にみこを押し戻してくれた。あの口の悪さの裏側に、どれほどの優しさが詰まっていたのか、今の自分たちなら痛いほどに分かる。

 

 みこは、右隣のすいせいを見やった。すいせいはユウトの右肩に頭を乗せたまま、本当に幸せそうな顔をして目を閉じている。

 

 「……みこも、隣にいるにぇ」

 

 みこは小さく呟くと、意を決して自分の桜色の頭をユウトの左肩へと、そっと預けた。

 

 ストンと、心地よい衝撃が伝わる。

 

 左肩から伝わってくるユウトの体温は、ヤマトの厳しい冬の冷気なんて一瞬で消し去ってしまうほどに、温かかった。

 

 右肩には星街すいせい、左肩にはさくらみこ。

 

 ホロアースの全人類が羨むような、トップスター二人が、一人の少年の両肩に頭を乗せて寄り添っている。そんな奇跡のような状況の中で、枯れない桜の花びらだけが、三人を見守るようにハラハラと静かに降り積もっていった。

 

 みこはユウトの左肩に頬を寄せながら、そっと目を閉じた。

 

 「……もう、どこにも行っちゃダメなんだからにぇ、ユウトさん……」

 

 その掠れた囁きは舞い散る桜の葉の音に混ざり、静かに聖域の空気へと溶けていった。

 

 ~~~~~~~~

 

 いつものように僕は深い、深い『夢』を見ていた。

 

 けれど、今日見る夢はこれまでの何百回、何千回と見てきたあの悪夢とは、根本から何かが違っていた。

 

 いつもなら僕の夢の中には、ボロボロに朽ち果てた赤い装甲や、鉄の焼ける悍ましい臭い、そして僕をあざ笑う灰色の死神の影が、これでもかと付きまとっていた。

 

 戦いと別れ。自分の存在が砂になって消えていく、あの極限の孤独の記憶だけが、僕の脳細胞を侵食していたはずだった。

 

 なのに、今僕の目の前に広がっているのは、驚くほどに穏やかで、どこか呆れるほどに騒がしい、暖かな日常の風景だった。

 

 『にゃっはろー! みこ特製たい焼きを持ってきたよ! ほらほら、みこに感謝して食べるにぇ!』

 

 目の前にいたのは、桜色の長い髪を揺らし、ピンクの羽飾りがついた星形の髪飾りをつけた、どこか抜けている自称・エリート巫女の少女だった。彼女は、安物のパイプ椅子の上で偉そうに胸を張りながら、僕のデスクの上に紙袋を放り出してくる。

 

 『おい、みこ。お前、また勝手に事務所の経費でたい焼き買っただろ。……あと、何回言えば分かるんだ。みこの特製じゃなくて、駅前の専門店のたい焼きだろこれは』

 

 自分の口から、驚くほどにぶっきらぼうで、けれどどこか呆れたような優しい声が漏れていた。

 

 そこは、大都市オルタナティブシティの洗練されたオフィスではなかった。地球という世界のどこにでもあるような、なんの変哲もない、ガランとした小さなビルの一室。デスクトップパソコンの低い駆動音と、僕が淹れた、少し苦すぎるブラックコーヒーの匂いが満ちた、ホロライブプロダクションの『始まりの場所』。

 

 『いいじゃん、みこちが買ってきてくれたんだからさー。それよりユウトさん、その首にかけてる銀色の時計、ちょっと私に貸してよ。中の歯車がどうなってるのか、ちょっと分解してみたいんだよねー』

 

 隣のデスクから、コロコロと鈴を転がすような笑い声を上げて身を乗り出してきたのは、青い髪をサイドポニーに結んだ、どこかネジの緩んだ雰囲気を持つ歌姫の少女だった。彼女は、僕の胸ポケットから覗く懐中時計を指差しながら、物騒なハサミを片手に目を細めている。

 

 『断る。すいせい、お前に貸したら、一秒でただの鉄クズに変えられるのが目に見えてるからな。……ほら、遊んでないで次のライブのスケジュールを確認しろ。フブキたちが待ってるぞ』

 

 『もー、ユウトさんは本当に冷たいにぇ! 椎茸が嫌いだとかいつも文句ばっかり言うし、たまにはみこたちのわがままも聞いて!』

 

 『そうだよねー。すいちゃんはねー、ユウトさんが淹れてくれるこの苦いコーヒー、実は結構好きなんだよねー。だから、もっと優しくしてくれてもいいかな?』

 

 二人の少女は、僕のデスクを囲んで、あはは、と楽しそうに笑い合っていた。

 

 口うるさくて、生意気で、けれど僕を信頼してくれていた、大切な、大切な僕の『家族』。

 

 (ああ……そうか。僕は、この光景を守るために……)

 

 胸の奥が、痛いくらいに熱くなる。

 

 名前は、知らないはずだった。この世界では、会ったこともないはずだった。

 

 なのに、夢の中の僕は、彼女たちの名前を当たり前のように呼び、彼女たちのくだらない雑談に、世界で一番幸せな気持ちで突っ込みを入れていた。

 

 命よりも大切だった、数え切れないほどの絆。僕の「空っぽの器」を満たすための、決定的な記憶の断片が、そこには確かに存在していた。

 

 ずっと、このままでいたかった。

 

 この暖かなコーヒーの匂いの中で、二人の騒がしい笑い声を、いつまでも、いつまでも聴いていたかった。

 

 けれど。

 

 パリン、と。

 

 脳内で、ガラスが割れるような、冷徹な音が響いた。

 

 現実の時間が、僕の意識を暗闇の底から強引に引き剥がしていく。

 

 夢の世界が、インクが水に溶けるように急激に色彩を失ってセピア色に褪せていく。

 

 「待って……消えないで、くれ……っ!」

 

 僕は夢の中で必死に手を伸ばした。消えゆく桜色の髪と、青い髪の少女たちの姿を、どうにかして捕まえようと、指先を狂ったように動かした。

 

 けれど、僕の伸ばした手は虚しく空間をすり抜けるだけだった。

 

 いつものように、目覚めと共に霧散していく僕の本当の物語――

 

 ~~~~~~~~

 

 「……っ!」

 

 僕は大きく息を吸い込みながら、勢いよく目を開けた。

 

 視界に飛び込んできたのは、古いビルの天井ではなく、さくら神社の裏手にそびえ立つ、あの一本桜の巨大な枝葉だった。隙間から差し込む、ホロアースの少し魔導を帯びた幻想的な陽光が、僕の瞳をチクリと刺激する。

 

 「……また、忘れた……」

 

 僕は、額を右手で押さえながら、消え去ってしまった夢の残滓を惜しむように、小さく絶望の呟きを漏らした。

 

 やっぱり、ダメだった。あれほど鮮烈に、あれほど暖かく僕の五感を満たしていたはずの日常の記憶は、現実の光を浴びた瞬間に、煙のように綺麗に霧散してしまっていた。誰がいたのかも、何を話していたのかも、何一つとして僕の脳裏には残っていない。

 

 胸の奥に穿たれた決定的な『空白』が、再び冷たい風を立てて、僕の精神をじりじりと焼き始める。

 

 身体は戦い方を覚えているのに、心は空っぽのまま。

 

 その取り返しのつかない落胆に、僕は再び、深い失意の底へと沈み込もうとした。

 

 ――けれど。

 

 (……あれ?)

 

 思考を巡らせようとした瞬間、僕は自分の肉体に、奇妙な『違和感』を覚えた。

 

 身体が、妙に重いのだ。

 

 物理的に四肢が動かないわけではない。けれど僕の右肩と、左肩のあたりにそれぞれ、はっきりと拒絶できないほどの『確固たる質量』とじんわりとした『温もり』が、リアルタイムで伝わってきていた。

 

 チ、チ、チ、チ、チ、チ……。

 

 胸ポケットの中の懐中時計が、僕の混乱に同期するように、少しだけ駆動音を高くしている。

 

 さらに僕の耳元からは、すぅ、すぅと規則正しく、そしてこの上なく穏やかな、二つの「人間の寝息」が、はっきりと聞こえてきていた。

 

 「な……何、これ……」

 

 僕は、全身の筋肉を硬直させたまま、恐る恐る、まずは自分の右側へと視線を動かした。

 

 そこにいたのは、美しい青い髪をサイドポニーに結び、僕の右腕に自分の細い腕をそっと絡めたまま、僕の右肩に頭を預けて気持ち良さそうに眠っている、一人の少女だった。

 

 整った、まるで彫刻のように美しい顔立ち。けれどその唇の端には、どこか悪戯っぽくてネジの緩んだような、不思議な柔らかさが浮かんでいる。

 

 「え……っ!?」

 

 心臓が、痛いくらいに激しく跳ね上がった。

 

 知らないはずがない。駅前の巨大なビジョンでトップスターとして紹介されていた、あのホロライブ0期生――星街すいせいが、どうして僕のすぐ隣で僕の肩を枕にして眠っているんだ。

 

 パニックになりそうな頭を必死に抑えながら、僕は今度、反対側である自分の左側へとゆっくりと首を巡らせた。

 

 そこにいたのは、特徴的な、ピンクの羽飾りがついた星形の髪飾りを揺らし、僕の左肩にすっぽりと収まるようにして、無防備に寝息を立てている、桜色の髪の少女だった。

 

 どこか幼さを残した、けれどエリート巫女としての気高さを秘めた、あの『さくらみこ』の姿が、そこにはあった。彼女の頬は微かに赤みを帯びており、僕の制服の袖を小さな手でぎゅっと握りしめている。

 

 「……なんなんだにぇ……むにゃ……」

 

 左肩の少女――みこが、寝返りを打つようかすかに身動ぎし、僕の耳元で甘えた声を漏らした。

 

 「……っ!」

 

 声が出なかった。脳細胞のすべての回路が、完全にショートして焼き切れる音がした。

 

 世界中に熱狂的なファンを持つ、あの雲の上の存在であるはずのホロライブのトップ冒険者たちが、どうして、地方都市のただの一般の高校生に過ぎない僕の両肩に、まるで昔からの家族であるかのように寄り添って眠っているのだろう。

 

 おかしかった。狂っている。

 

 学校の連中が見たら、一秒で気絶するような、天と地がひっくり返ったような異常事態。

 

 けれど。

 

 それほどの猛烈なパニックと困惑の最中にありながら、僕の胸の奥の『空白』は、なぜだろう。

 

 これまでにないほどに、深く、深く、凪いでいた。

 

 溢れ出しそうなほどの、言いようのない安心感。

 

 この二人の体温が、彼女たちの髪から漂う、どこか懐かしい桜と星の香りが、僕の魂のパズルに、完璧に適合しているかのような、絶対的な確信。

 

 記憶は戻らない。過去は霧の中だ。彼女たちが誰なのか、僕には理屈では何一つ分からない。

 

 けれど、僕の肉体は、僕の魂は、この状況を狂おしいほどの愛おしさをもって全面的に受け入れてしまっていた。

 

 ハラハラと、巨木から舞い落ちる薄紅色の花びらが、動けない僕たち三人の上に、静かに、静かに積もっていく。

 

 僕は胸ポケットの時計の確固たる拍動を、二人の穏やかな寝息と共に全身で感じながら、猛烈な困惑を隠しきれない掠れた声を静かな神域へとぽつりと零すことしかできなかった。

 

 「……いや、本当に……どういう状況?」

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