カースオブレッシング 作:なとり
そんな感じの存在になったベル・クラネルとヘイズ・ベルベット。周りはドン引いている。
ベル・クラネルは、世界の中心と言われているオラリオの
気になって調べてみたことがあるのだが、確かなことはわからなかった。多分そうなんじゃないかと言っている人に会ったことがあるが、実際のところどうなのかは定かではない。
自分の出自はよくわからない。
そういえば祖父にも聞いたことがなかったと思ったのは、オラリオに来て何年か経った後の事だった。
ベルは七歳の頃まで山奥の田舎で暮らしていた。
あの頃は祖父の畑仕事を手伝うだけで疲労困憊、体力に自信がある方ではなかったが、今じゃ不眠不休でダンジョンしている。人間わからないものである。
現在のベルはオラリオの冒険者だ。
かなり血なまぐさい日々を送っている。
どうして今の道を選んだのかというと、理由は色々あって。純粋に強くなりたかったのと、誰かを守れるようになりたかったのと、幼い頃の夢だった英雄になりたいと思ったのと、動機はひとつではなかった。
冷静になって考えてみると色々と浮かんでくる。
しかし、最初の動機はとてもシンプルなものだった。
それに尽きると思う。北の最果てから竜の群れが飛んできて、故郷が
『頼れる場所はどこにもない。それなら、良かったら私のところで働いてみる?』
一瞬、ほんの一瞬だったが、その時ベルは悲壮感が消え去ったのを感じた。その美しい女神は語彙力が崩壊するくらい美しくて、これが運命かとも思ったが
その後、オラリオに連れて行ってもらい何年も時が過ぎた今、フレイヤのことは
『──ゴミクズが、消え去れ!』
『──ウジムシが、消し飛べ!』
『──ゴブリン以下の雑魚は
『──ギャアアアアアアアアアアッ!?』
十歳の頃、ベルは冒険者になった。
フレイヤにはやめておけと言われたが、弱い男のままでいるのは嫌だったのだ。それに、【フレイヤ・ファミリア】は人類屈指の強者達が日夜
皆が皆、女神に栄光をもたらすため、そして寵愛を得るために血を流している。ベルは寵愛とかはあんまり興味なかったが、拾ってもらった恩返しもしたかったし冒険者になった。
『──クズウサギが、邪魔だ!』
『──ウジウサギが、目障りだ!』
『──アルミラージ以下の畜生に人権などない!
『──ギャアアアアアアアアアアッ!?』
結果、地獄であった。
広大な原野もとい
罵声を浴びせられながら、殲滅され。
罵詈雑言とともに、撲殺され。
無言で舌打ちをかまされ、撫で斬りにされる。
様々なレパートリーでボッコボコにされて、しかし寝ていられる時間はほんの僅か。
『回復回復ー!』
『治療治療ー!』
『ヒールはいかがっすかぁーー!』
『フレイヤ様ハァハァ、フレイヤ様ハァハァ、てめーら勇士は勝手にポーションでも飲んでろやぁ! ハッヒャーァ!』
『なにやら様子がおかしい子がいるので、速やかに撲殺して寝かせてあげてくださーい!』
手厚すぎる治療師達による強制ヒール。強制蘇生を受けて速攻で死ぬ。
蘇生即瀕死。蘇生即瀕死。蘇生即瀕死。以下略。
そんな毎日を送るも成果はイマイチ感じられず、というか全く強くなれている実感がなかった。
『ヤバい、僕には才能がなさすぎる』
自分はこのまま腐っていくのか、はたまた明日にでも本当に即死してしまうのか。才能がないなら量でカバーするしかないのだが、人間は飲まず食わずの睡眠なしでは生きられない。既に限界まで追い込んでいる状況の中で、ベルは焦って焦って、焦った。
何がそんなに自分を駆り立てているのか。そこはイマイチハッキリしなかったが、とにかく強くなりたいと願った。英雄のように強い人達を間近で見るたびにその思いは強くなり、しかし結果はついてこない。こうなったら本気で寝ないでやってみるか。そんな血迷った考えに取り憑かれ始めた頃、
『スキルが発現したわ』
『やったぁ!』
『スキルが発現してしまったわ』
『なんで二回言ったんですか? それになんで残念そうにするんですか?』
『スキルが発現……』
『三回目!?』
まず、神と契約すると恩恵が得られる。
それはファルナと呼ばれる力で、人類の力をとても効率的に引き出してくれる。本来なら芽吹かないはずの可能性の種を拾い上げ、様々な形で開花させてくれたりもする。もちろん本人の努力──経験は必須で、それがわかりやすく数値化される。
力、敏捷、耐久、器用、魔力。この五つが基本アビリティと呼ばれるもので、文字通り基本的な身体能力を示している。これとは別にレベル──Lv.というものがあって、そちらの方が数値が上がった時に強くなれる。そして、魔法とスキル。後はレベルアップ──ランクアップ時に獲得できる『発展アビリティ』。
それらをひっくるめて【ステイタス】。
魔法にせよスキルにせよ新たな力なのは間違いなく、しかも自分だけのオリジナルな力ということで、ベルは大いに期待した。
『どんなスキルなんですか!? どんな!?』
『……』
ベル・クラネルの最初のスキル。
内容は以下の通りであった。
【
・
・継戦能力超強化。
・必要休息の大幅削減。
・推奨、週休半日。
つまり、ほとんど休まなくても動き続けることができる。一週間で半日くらい休めば命に関わることはないらしく、ベルはキラキラと目を輝かせた。
女神は途方に暮れた顔をしていたが、ベルには無理をしないという選択肢などない。ベルは翌日から意気揚々と動き続けた。ガンガン戦ってガンガン殺されてガンガンモンスターを殺しまくってガンガン先輩達に殺された。【ファミリア】内で『アイツいつ寝てんだ』と囁かれるようになったのもその頃で、しかしベルは全く気にしなかった。ガンガン戦ってガンガン殺されてガンガンモンスターを殺しまくってガンガン先輩達に殺された。そんな毎日を送っていたところ、どうにかこうにかLv.2にランクアップ!
『ひゃっほー! じゃあ僕、戦ってきます!』
『ええ、くれぐれも死なないでね。このまま死なれたらなんだか虚しいから……』
ベルは雪のような白髪なのだが、髪の毛が白い時間の方が短い日々が続いた。なぜなら常に血みどろなことが多かったからだ。
ペースは遅いものの、やればやるだけ強くなる。それまで量でカバーできずにヤキモチしていた少年にとって、ほぼ休まなくていいスキルは正に求めていたものだった。
『ベル、またなにかでたわ』
『や、やったぁ!』
『……』
そして十四歳になった頃、二度目のスキルが発現した。内容は以下の通りであった。
【
・肉体の損傷度に応じた『逆境』効果。
・連戦時、発展アビリティ『進境』の一時発現。
・
つまり、ズタボロになればなるほど強くなる。長く戦えば戦うほど強くなる。連続して敵を殺せば殺すほど強くなるための効率が上がる。
故郷にいた時は優しさと純粋くらいしか取り柄のなかった少年が、何をどこでどう間違ったのか。もはや進撃のバーサーカーと化してしまったベルは、この頃からダンジョンに連泊するようになった。
連続撃破の定義は殺害であった。そうなると洗礼よりもダンジョンの方が効率が良い。なぜなら洗礼の場合は倒せても殺すわけにはいかないが、ダンジョンなら殺し放題だからだ。やりすぎてフレイヤからストップがかかることもあったが、そこまで口うるさく言われることはなかった。
「ベルー、いま何時ですかー?」
「ソイヤァ!」
「カキーン! 話聞いてますかー、ベルー」
『ブギャッ』
そして時は流れて、ベル・クラネルは十六歳になった。現在はダンジョン内でひと時の気分転換中。殺人鳥を使った遊戯に興じている。
遊び相手は【フレイヤ・ファミリア】きっての治療師の娘、ヘイズ・ベルベット。赤のナースワンピースに白の
「なんですかー? ソイヤァ!」
「だからー、いま何時なんですかねー? よいしょー!」
『オギョッ』
ヘイズが両手で握り締めているのは紅の柄のヒールロッド。先端で輝くのは金色である。なお、現在は先の方まで
その理由は遊びの内容にあった。
ベルが高速移動する鳥型モンスター『イグアス』を捕まえて
「うおぉ!? なんか飛んできたっす!?」
「おい見ろ! またあいつらだ! 頭おかしーんじゃねえのか! これだから【フレイヤ・ファミリア】は! おいババア! なんとか言ってやれ!」
「断る。関わりたくないのでな」
もちろん通りがかりの冒険者たちはドン引きである。小走りで後ろを通過していくのは大派閥の方々だったが、コミニュケーションを取ろうとしてくる者はいなかった。有名なハイエルフは関わり合いになりたくないとのこと。
「ソイヤァ!」
「よいしょー!」
『オゴブェッッ』
ヘイズは気持ちよさそうにヒールロッドを振り回していた。ただし目は死んでいる。寝不足だが寝なくても大丈夫、休まなくても大丈夫な状態は精神的には大丈夫ではなかった。
ここ三日ほどダンジョンに篭もりっぱなしだ。しかもほとんど休んでいない。睡眠時間は
「ベルー、楽しいですねこれー! あはははは!」
「ですよねー! あはははは! ソイヤァッ!」
「ヨイショー!」
『ブグェッッ』
響き渡る楽しげな男女の笑い声。耳を塞ぎたくなるような撲殺音。超高速で飛んでいく潰れたイグアス。
途中でちょんぎれた頭部が歩行中の冒険者に直撃した。白装束のエルフの尻に。ものすごく迷惑そうな表情で彼女は去った。
「じゃあ交代しましょー!」
「いいですよ! ボールは沢山あるんで!」
ベルの足元にはイグアスが大量に転がっていた。全て首がへし折れている。地獄絵図であった。極まった寝不足ハイとガンギマったバーサクモードが作り出した悪夢の楽園であった。
さて、ヘイズはなぜ不眠不休でキャッキャウフフできているのか。その理由は半年ほど前にベルが発現した魔法にあった。
【カースオブレッシング】
・
・対象者と全スキル効果を共有。
・共闘時のみ効果永続。
・
・
・
どうして、こんなものが出てしまったのか。
フレイヤは頭が割れそうなほど悩んだらしいが、ヘイズはケーキを作ってしまうほど喜んだ。
対人関係が壊滅的な人間が多数を占めている【フレイヤ・ファミリア】において、ベルは数少ないまとも枠。
これでもかなりまとも枠。ちゃんとお礼とか言えるだけで百点満点なので、ヘイズは前々からソコソコ友好的に接していた。そこで件の魔法が発現したときたら、それはもうノリノリで距離を詰めるしかなかった。
ヘイズ・ベルベットは女神のために
肉塊になるほど切り刻まれようが戦い続けたい。
心優しく癒し系な見た目に反してそういう女なので、つまりはベルはなりたい自分に限りなく近い。
「いきますよー! よいしょー!」
「ソイヤァッ!」
『ドゥボギュッ』
全スキル効果の共有。
最初は思い切り
そういうわけなので、最近のヘイズは
(ふふふ、私の欲しかった日常がここに……ふふふふふふ)
これなら魂が燃え尽きるまで戦えるし、治療性能も並行して伸ばしていくことができる。そういうわけだからアディオス
「フーッ、いい運動になりました。それではベル。モンスターを
「そうですね。倒すなら
ちなみに、二人の現在のLv.は3。ここはダンジョンの下層と呼ばれるエリアで、Lv.3の冒険者から見て余裕とは言えない難易度なのだが……この二人はバーサーカーである。
即死がない以上はヘイズの治療で何とかなることもあって、色んなレパートリーで戦うことができる。今からやるのは擬似モンスターパーティ。怪物の宴と呼ばれるモンスターの群れを人為的に引き起こし、後始末までちゃんとやる。控えめに言っても頭おかしい。
だから某ハイエルフは『関わりたくない』と口にしたのだ。ダンジョンで近寄ると巻き込まれるから。
「モンスターさーん! みんなで一緒にいた方が楽しいですよー! 集まってくださーい!」
「可愛いお姉さんが呼んでるよー! 怖がらなくていいからでておいでー!」
と、薄闇の中で叫ぶ二人はどこからどう見ても頭おかしい。
本人達にその自覚はない。
どこからどう見ても負のオーラばかりを放っている二人だが、こんな奴らでも英雄とか呼ばれる日は訪れるのだろうか。
これは、英雄譚と呼ぶにはネッチョリドロドロしすぎている物語。一応、眷族達が輝き、神々が