カースオブレッシング   作:なとり

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フォールクヴァング①

 ベル・クラネルの朝は早い。

 

 

「……う、うぁ…………あぁぁぁぁぁぁ〜…………」

 

 闇の中に死にそうな声が溶ける。整然とした寝室はまだ真っ暗で、ぶ厚いカーテンの向こう側も太陽はまだ遠くだった。

 

「……あー、そういえば帰ってきてたんだった」

 

 灯りをつけることもなく、きちんと整理された部屋を見渡す。やたら大きな寝台(ベッド)はソファー兼用、調度品の類はほぼなく、来客スペースとして小さな机と椅子が二脚(にきゃく)収納棚(クローゼット)に入っているのはほぼほぼ冒険用装備で、壁際には剣をはじめ武器が合計十一(じゅういち)本。

 刀身の長い、いわゆる刀状のものが多く、短剣は予備も含めて二本だけ。昔は取り回しが楽な短剣を多用していたが、まとめて倒すにはある程度の射程があった方が楽なので、現在はこのような本数構成。

 

「今日は……久しぶりに戦いの野(フォールクヴァング)かぁ」

 

 ベルは立ち上がって伸びをした。頭がまだぼうっとする。三時間以上まとめて睡眠を取ると、起きた後がとても気怠(けだる)い。昨晩は日付が変わる前に眠りについたので、なんと五時間も眠ってしまった。 

 ベルは眠そうな顔で頭をかいた。予定よりも少しばかり眠りすぎてしまった。

 ヘイズは既に活動を開始しているだろうから、自分も早く準備をしなければ。主にLv.4までの団員が参加する『洗礼』。本気(ガチ)で殺し合うことで力を高める儀式──とはいえ本当に死者を出すわけにはいかないので、ちゃんと治療部隊がいる。

 

「準備を手伝った後は……新入団員の相手をするんだよね。怖がられないようにしないとなぁ」

 

 それが、満たす煤者達(アンド・フリームニル)

 治療師(ヒーラー)薬師(ハーバリスト)達で構成されている回復に特化した部隊だ。【フレイヤ・ファミリア】の眷族達は大きく二つの(くく)りに分けることができて、回復ほか()()()()()()が『満たす煤者達(アンド・フリームニル)』。敵をガンガンぶっ殺したりボンボン爆撃したりする方々は、『強靭な勇士(エインヘリアル)』と呼ばれている。

 

 

「あー……まだぼーっとする……でも、ぁー、ダメだダメだ。お手伝しないと大変なことに……お仕置きが……お仕置きが……よし頭起きた!」

 

 フラフラしながら着替えを済ませ、黒い戦闘衣(バトル・クロス)を身にまとった。何やらブツブツと呟いては顔を青くしてはいたが、ブンブンと頭を振り回したら治った!

 

 ──さあ一日の始まりだ。真っ暗だけど。

 

 本来ならこんなに早く起きる必要はないし、準備を手伝う義務もない。しかし何もしないとヘイズが呪いの言葉を吐いてくるし、仮に何も言われなくともできることはしてあげたい。

 疲れているのはお互い様。そして部隊が違うからと言って何も手伝わなくてもいいというのは、ベル的にはなんか違うと思っていた。

 

(それにしても……ランクアップが遠いなぁ。もっとダンジョンの奥まで行かなきゃダメかな……もうちょい生きるか死ぬかしないとダメなのかも)

 

 ヘイズ・ベルベットは()()満たす煤者達(アンド・フリームニル)()()である。治療の才能がありすぎたためにそちらに回ることになり、ある時期まではバッチリ連日過労死していた。

 現在は職場を放棄──ではなく上手いこと調整しながら、大体ダンジョンで過労死している。ベルの魔法やスキル関係で事情が変わったため、フレイヤに直談判して自由を許してもらったのだ。結局は過労死する場所が変わっただけ──むしろ自分もズタボロになっている分、以前よりも追い込んでいると言えた。

 

 

「おはようございます。手伝いますよー」

「あ、ベルじゃないですか。助かりますありがとうございます。それじゃ、そこの薬草を全部と回復薬と、なんでもいいんで適当に運んでくれると嬉しいです」

 

 館の保管室に向かうと、扉の前に立っているのは小柄な少女だった。寒いのか白衣の下にぶ厚い防寒着(セーター)を着用している。キュートなお顔は薄紫に変色しているが、大丈夫だろうか。

 

「それはもちろん構わないですけど、大丈夫ですか? もしかして具合とか悪かったり……」

「大丈夫です。私はヘイズ様がいないと何も出来ない豚なので、もっと早起きして頑張らないといけないよです」

「ロナさん。何を言っているんですかロナさん」

 

 彼女はヒューマンのロナ。

 虚ろな瞳で指を指した先には、ドッチャリ、と。

 治療に使えそうな品が山積みになっていた。他のメンバー達がせっせと運搬しているが、なぜに全て手で運んでいるのだろうか。専用の台車があるはずなのに、これでは手間も時間もかかってしまう。

 

「私は豚なので、団長が何をしても許さなければならないのです。あぁ、あのクソ猪、クソ幹部共、暴れて台車を全部ぶっ壊したなら、てめぇらの(ヴァリス)で買ってこい」

「ロナさん。もういいです。休みましょう。なにがあったかは大体わかったので、とりあえず休みましょう。貴方はもう限界です。あと豚でもないです今日もとっても可愛いです」

 

 ロナは「うぎゅぎゅぎゅ……」とけったいな呻き声を発しながら、被っている白衣帽(ナースキャップ)を頭の上で握り潰している。やはりダメだ。彼女はもう限界のようなので、ベルは休息を取るように勧めたのだが

 

「そうだ。本日はポーションは()()でいきましょう」

「えっ」

「それなら運ばなくていい。そうですよポーションはなしで。代わりに新種の薬草を使いましょう。摂取すると痛みと苦痛が和らぎ、やがて快楽と興奮に変わることでいつまでも戦い続けられる魔法の薬うふふ」

「えっ」

 

 ベルは目をかっ開いた。

 それは絶対に癒しの草ではない。世間一般で言われるところの危ない薬だ。

 

「名付けて変態ゾンビパウダー。適当に調合した薬を花壇に植えたら生えてきたんです。それでいきましょうそうしましょう」

「僕が、全部、運びます!」

 

 そんなもの飲まされるわけにはいかない。

 ベルは覚悟を決めるとイカれた笑顔のロナを見つめ、ガッと肩に手を置いた。ちゃんと休むよう改めて伝えるつもりで、熱い視線を送ったのだが

 

「──ぁふ」

「えっ」

 

 次の瞬間、少女の眼球が裏返った。

 ぐでんと脱力して崩れ落ちそうになったところ、慌ててベルは抱き寄せた。

 ロマンチックなどありはしない。ロナはブクブクと泡を吹いて、異性に見られてはいけない酷い失神顔を晒していた。あへあへ言っている。これは酷い。

 

「ロナさん! ロナさーん!‍?」

「あへあへあへ」

 

 そして、ギョッとした顔で寄ってくるうら若き乙女達。満たす煤者達(アンド・フリームニル)の娘達は、状況を把握するなり悲しそうな顔でうつむいた。

 

「なんてことだ、ついに犠牲者が……っ、大変なことになってしまった」

「ヘディン様が無能な豚は豚以下のゴミ、本物の豚の方がまだ役に立つとか言って虐めるから……」

「限界だったんだな……安らかに眠れ、ロナ」

「ベル、ロナの故郷は北の方にあるらしい。墓をどこにするかはお前に任せる」

「みなさん、何言ってるんですか? 何言ってるんですか!‍?」 

「「つまり、明日は我が身」」

「ッ!‍?」 

「「私達は豚、ヘイズ様がいなければ何も出来ない豚!」」

「ッッ!‍?」

 

 ベルはロナを抱き抱えたまま戦慄した。

 娘達はみんな目がキマっていた。白衣を着用しているものが多いこともあって、ベルの頭にはこんな言葉が浮かびあがった。

 白衣の堕天使(だてんし)(軍団)。

 これはきっと成れの果てだ。超激務(ブラック)な職場で身も心も摩耗しきってしまった者の末路。

 

「お願いだからずっとダンジョンはやめて」

「えっ」

「ダレモオレイイワナイカンシャシナイ」

「えっ……」

「癒されっぱなし食べっぱなし散らかしっぱなし処理はぜんぶワタシタチ」

「……」

「幹部が率先して迷惑をかけるクズ死ねボンバー!」

「…………」

「ほとんど誰も褒めてくれない認めてくれないベルもヘイズさまもいないと地獄絵図」

「「地獄絵図(ヘルファイア)!」」

「………………」

 

 そして、ヨロヨロと寄ってきては呪詛を唱えるような声で、不満をぶちまけていく乙女達。

 みんな、目が澱んでいた。腐っていた。

 ベルはそっと目を伏せた。とりあえずほんと感謝の気持ちを持って、必ず行動でも示していこうと思った。豚じゃないこともちゃんと伝えていこうと固く誓った。この人たち可哀想すぎる。

 

 

 ◆

 

 

 ロナ  

 

 小柄なヒューマンの少女。

 Lv.2の有能な治療師(ヒーラー)で、満たす煤者達(アンド・フリームニル)のナンバーツー。

 最近はヘイズが自由にダンジョンするようになったので負担激増。しにかけている。

 ちっちゃいことにコンプレックスを持っており、可愛いと言われると呪いをかけてはんげきする。ベルとほぼ同年代。

 

  

 ◆

 

 

 ──ダンジョンしてもいいけど、ずっと不在なのはやめて頂戴(ちょうだい)。このままでは全滅してしまうわよ、あの子達。

 

 

 何よりも優先して然るべき主からそう言われたので、ヘイズは渋々(しぶしぶ)ながら従った。もちろんとびっきりの笑顔で。たとえ見抜かれていようと表情にまで不満を出すわけにはいかない。これがダンジョン完全禁止とか言われていたら話は別だったが、週に数回なら許容範囲だ。

 

「ウオオオオオオオオ!」

「ガアアアアアアアア!」

「うぎゃああああああああああ!‍?」

(ぬる)いぞラスク! 貴様のような雑魚はそこで草でも食っていろ! 顔が潰れては草も食えんだろうがな! ハハハハハ!」

 

 そういうわけで戦いの野(フォールクヴァング)である。洗礼である。ちなみに戦いの野(フォールクヴァング)とは【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)名でもある。

 刃の衝突音に爆発音、燃焼音、凄絶(せいぜつ)な声が響き続ける原野の後方。総勢百七十二名の大所帯が共同生活を送る巨大な屋敷。それら全て含めて【フレイヤ・ファミリア】の敷地内。

 それはともかく青年の顔が()()した。放っておくわけにはいかないので、ヘイズは速やかに自分が──ではなく部下を治療に走らせる。

 

「イルデ。跡が残ると可哀想なので、しっかりお薬をぬりぬりしてあげてください。あれがだんちょーなら皮を剥いで治療とするところですが、ラスクには普段からお世話になっているのでー」

「さらっと怖いとこ言わないでください!?」

 

 怯えながら走り去っていくエルフの娘を見送りつつ、ヘイズは眠そう顔で「【ゼオ・グルヴェイグ(かいふくかいふく〜)」。黄金(きん)の光で傷ついた勇士達をまとめて癒す。ただし傷が深すぎると跡が残る場合があるため、場合によっては今のような処置も加える。まあ、相手は選ぶが。ヘイズは聖人君子ではないので、誰彼構わず慈愛に満ち溢れた精神で対応したりはしない。

 

 

「──そのふざけた顔、燃やしてやるぞ、ヴァン!」

「お前の顔を燃やしたのはゼクトだ! まあいい! かかってこいラスク! 顔を燃やされるような無能はここで眠らせてくれる!」

()()()()()()()()()! 誰でもいいから焼いてやる! 体の内側から蒸し焼きにしてやるッッ!」

 

 と、凛々しい声で物騒な暴言(セリフ)を叫ぶ美青年。

 ラスク・ラディール、Lv.4。

 将来に大きな期待を寄せられている魔導士の青年は、顔の炎上から復活するなり()()()()()()()半小人族(ハーフパルゥム)を睨みつけ、八つ当たりのように魔法を唱える。というか実際に八つ当たりであった。

 

「──【オムナス・リースト】! 死ねェ!」

 

 乱戦の中に展開される、巨大な紅蓮の魔法円(マジック・サークル)。幹部候補の魔導士の必殺、()()()火炎放射が火を吹いた。

 たちのぼる複数の火柱。吹きすさぶ熱風。避けきれなかった者は半殺しになった。炎に包まれながら空中に吹き飛ばされ、その上で更に焼かれる地獄連鎖。

 

「ひぎゃァァアアアアアア──────!‍?」

「グがアアアアアアアアッッ!?」

「────────────────────っ!‍?」

「はいはい回復しましょーね。【ゼオ・グルヴェイグ】」

 

 

 回避に失敗した者達はとことん悲惨であった。

 焼かれたまま回復されたりしたら、決まっている。

 ()()()()()のだ。ただれた皮膚が潤いを取り戻した瞬間に焼け焦げて、崩れる。剥き出しになった骨が塞がった直後に、別のところに穴が空く。

 

「見え見えの奇襲など喰らうか! 馬鹿め!」 

 

 そして、半小人族(ハーフパルゥム)のヴァンは()()で躱していた。もろに焼かれているのは魔導士の女──ラスクの顔を焼いた狼人(ウェアウルフ)男性団員と、彼の周りにいた()()()ヒューマンたちである。 

 

「ははは! 流石ヴァン! ちょこちょこと軽快で羨ましいな!」

「ッッ、妙な褒め方をするな! お前っ、なんだか今日は様子がおかしいなぁ!?」

「ロナから貰った薬草を食べたら、力が漲ってきたんだぁ! 魔力充実! 元気バクハツゥ!」

「ロナ! ラスクに何を食わせたのだ! 目が常人のそれではないぞ!?」

「ロナは気絶して戻ってきませーん。何かあるなら私ことヘイズ・ベルベッドにどうぞー」

 

 と、間延びした声で答えるヘイズ。

 けっこう地獄耳。年増耳でもあるのは内緒だ。

 兎にも角にもこの場合、()()()()()()()である。もしくは直撃を食らってしまうような()()()。洗礼では誰がどのタイミングで誰を狙うも自由。ただし恨みは当然残るので、派手に無差別攻撃したりすれば袋叩きは免れない。

 

 

「ッッ、ぶっ殺す!」

「叩き潰してやる!」

「ラスクぅ! いきなりイカれるのは勝手だけど、私を狙うんじゃないわよぉ!」

「やられたらやり返す……()()()()()()()()()()()()! ヒャッハァ!」

 

 ラスクは凶悪な笑みを浮かべ、レロリとナイフの刃に舌を這わせた。なお彼の名誉のために補足しておくと、ラスク・ラディールは派閥内ではかなり()()()()()()()だ。こんなにハイにイカれているのは珍しい。まあ、フレイヤ関係になると狂信者ぶりを発揮するのは言うまでもないが、それ以外はかなりマトモな性格をしている。

 

「はい、回復(ゼオ・グルヴェイグ)ー」

「「「ウオオオオオオオオッッ!」」」

「はいほい、回復回復(ゼオ・グルヴェイグ)ー」

「「「グオオオオオオオオッッ!」」」

「もうほんと死んでくれませんかねー、回復(ゼオグルヴェイグ)ー」

「「「ウアアアアアアアアアッッ!!」」」

 

 戦いは朝から晩まで続く。日没を合図に終了。そこまでは()()()()なければならない。支える側の負担は半端なものではなく、これが終わったら──あるいは同時進行で夕飯の準備。それも疲れ果てた戦士達を回復させるための()()()()()()豪勢な料理を()()()作らなければならない。

 他にはぶっ壊れた装備の処理であったり、発注していた装備が届いていたら中身を確認、倉庫まで運搬して保管したり。後は翌日に向けた薬の在庫確認。本日の反省点などの共有であったり、必要があれば幹部達も交えて話をしたり。満たす煤者達(アンド・フリームニル)はとにかくやることが多いので、生半可な体力ではつとまらない。

 

 

「「「まだまだまだまだぁ!」」」

「あー、回復回復超回復(ゼオ・グルヴェイグ)ぅ! グルヴェイグぅ! 貫いて引き裂いてクビり殺してあっはっはっ! はぁ……はぁぁぁぁ……誰か剣とか貸してくれませんか? いえ必要ないですね。私、この杖でみなさんを撲殺してきますー」

「ヘイズ様!‍?」

「息の根を止めようとしてはいけません! たしかに我々も彼らもとても楽にはなりますが……アレ? それってみなハッピーってことじゃ」

「イルデ! 落ち着け目がぐるぐるしてるぞ!」

 

 そして、治療師(ヒーラー)というのは貴重な存在である。そもそもの絶対数が少ないのだ。そして一般的には適性がある者だとしても、この洗礼を乗り切るのは容易ではない。馬鹿野郎共は癒したそばから死にかけるので、精神力(マインド)──魔力の源泉──はゴリゴリ削られていく。

 その点、ヘイズ・ベルベッドの魔力量は尋常ではなく、Lv.3のそれではない。その気になればたった一人でこの戦線を支えるのも可能。だから負担が集中するし、そんな人物が日常的に抜けているのだから、他の者達が死にかけているのは道理であった。

 

 

「……殺しましょう! そうすればもう、トイレを我慢してマジックポーションがぶ飲みしなくてすみます! ヘイズさま、殺しましょう!」

「おやロナ、戻ってきたのですね。ふふふー、いいですよー、では一緒に撲殺の踊りを」

(イルデ)もお供します、ヘイズ様」

「やばい! 誰かヘイズ様たちを止めろ!」

「ベルは! ベルはどこに行ったの!‍? このままだと治療師がトドメを刺しにいっちゃう! 助けてベルー!」

 

 

 しかし、女神が認めている以上はヘイズを恨むことはできない。というか彼女達はわかっているのだ。

 いないと回らない。自分達には無理。そう言って泣きつくのは簡単だが、白旗を上げた先に待っているのは敗北であると。どうせ自分なんて、自分には才能はないし、本気でそんなことを言っている奴は【フレイヤ・ファミリア】には()()。厳しい実力の世界なのは勇士(エインヘリアル)満たす煤者達(アンド・フリームニル)も変わらないのだ。

 

 

 

「──それじゃ、よろしくね二人とも」

 

 他方。

 館の大広間。優しげな微笑を落とすのは、みんな大好きフレイヤ様であった。本日も変わらず破廉恥(はれんち)なドレスに身を包み、しかし全身から溢れ出しているのは『美の波動』。どんな波動なのか言葉で説明するのは難しいが、とりあえず品性を感じさせるオーラだ。

 ベルは『美の波動』と呼んでいる。

 

 

()()()()。ダメそうなら二人の判断で()()()()()()()()から」

 

 

 ベルは神妙に頷いた。

 フレイヤの微笑は崩れないが、言っていることはかなり厳しい内容だ。

 新入団員が来るから相手をしてやって欲しい。

 そう言われたのが昨日の晩。だが、夜が明けたら入団試験に変わっていて、しかもこちらの判断で不合格にしても構わないという。理由はひとつではないのだろくが、どうしても手に入れたい相手ならこんなことはしまい。()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「わかりました。ですが、Lv.4の前衛と3の魔導士ですよね。それも()で」

 

 透き通るような声で尋ねるのは、隣に立っている魔導士の娘である。白に近い白金(プラチナ)の長髪は腰の辺りまで。身につけている純白の魔導着(ローブ)()()()()()()超高級武装である。 

 

「それなのに切っても構わないということは、向いていないということでしょうか」

 

 幹部候補、レミリア・バレンティアLv.4。

 聡明そうな顔立ちの娘──女性で、派閥内ではかなり常識的な部類に入る。発狂すると全てを燃やし尽くす放火魔と化すが、怒らせるようなことをしなければ問題はない。

 ベルは本日、彼女と一緒に入団希望者の相手をして、採用か不採用か決めなければならない。嫌な役目である。昨日の段階では洗礼で戦うだけのはずだったのに、どうしてこんなことに。

 

「そうよ。正直言って、どうしても欲しいかと言われるとそこまででもない。うちへの適性は()()()()。まあ、そこそこはやってくれると思うけど、最初からそこそこの可能性しか見えないなら、別に他の【ファミリア】でもいいと思うの」

 

 それこそ、【ロキ・ファミリア】あたりでもいいのではないか。フレイヤはそう続けた。なんとも厳しいものだが、仕方ない。フレイヤは魂の色を見抜く。なんとなく大成しそうかそうでないか、見ただけでわかるそうだ。

 そして、フレイヤに求められるためには()()()()良さそうでは足りない。いくらLv.4であれ3であれ、数値を見て『欲しい』とはならない。

 まず第一に()()()可能性。さらには彼女の価値観での面白みであったり、好き嫌いであったり、様々な要素が合わさりあって『欲しい』となる。その点、ベルは単に『面白そう』というだけで雑用係として雇ってもらい、『仕方なく』勇士にしてもらった。

 元々は乗り気じゃなかったのだ。魂の存在感が薄すぎるから、これじゃすぐ死にそうだとか言って。フレイヤの慧眼でも外れることはあるのか、ベルは未だ五体満足で生きているけども。

 

 

「そういうわけだから、よろしくね。ヘルンに案内させるから、相手をしてあげて。場所は洗礼の隅の方でいいでしょう」

「わかりました。身に余る光栄、しっかりと努めさせていただきます」

「えーっと、頑張って戦います」

 

 透明な瞳に決意を込めるレミリアの横で、ベルは格好良いことを言おうとした。何も思いつかなかった結果、頭の悪い決意表明しかできなかったが。

 

「……ベル、もっとなにかないの……?」

「……すみません」

 

 すかさずレミリアから指摘が入った。彼女は礼節さえ守っていれば無害だから、どこぞの鬼畜エルフのように罵倒したりはしない。まあ、顔はちょっぴり引きつってはいたが。

 

「仕方ないわレミリア、ベルだもの」

「はい……そうでした。ベルですもんね」

「……? どういうことですか?」

 

 主神が苦笑いで落とした言葉に、レミリアはがっくりと肩を落として納得する。よくわからなかったが、ベルは複雑な気持ちになった。今のは間違いなく馬鹿にされている感じのやつだ。

 

「じゃあ私は部屋に戻るから、後はよろしく」

「はい。かしこまりました」

「あれ、見に来ないんですか?」

「ベル、言ったでしょう。任せたって」

 

 フレイヤは本気(マジ)で興味がなさそうだ。

 試験を見にすら来ないらしい。ひらひらと手を振りながら、女神は本当に部屋に戻って行ってしまった。

 入団希望者がどんな人達かは知らないけども、これだと流石に気の毒なんじゃ……。ベルはそう思ったものの、こんなのは()()()()ことだ。入団試験を受けさせて貰えるだけまだマシで、『要らないわ』の一言でハイ終了のパターンは()()()多い。

 

 

「ベル、どうする? 前衛やる? 後衛にする?」

 

 とにかくやれと言われたものは仕方がない。ベルはレミリアと共に原野へと向かう。「ウオオオオオオオオ」とか「ああああああああ」とか「しねしねびーむー!」とか聞こえてきてうるさいが、とりあえず役割分担は決めておかなければ。

 試験内容は二対二の単純な()()()()

 レミリアの方がLv.は上だが、魔導士の彼女に前衛をやらせるわけにはいかないだろう。

 

「僕が前でいいですよ。普通のLv.4なら対処できると思うんで」

「おー、頼もしいわね〜。でもそうね〜、なんだったら二人で突進してみる? 後衛なしで」

 

 相手の力量を見てからにはなるが、翻弄できそうなら少し()()()あげるのもアリじゃないか。

 レミリアは続けてそんなことを述べると、清純そうな顔に悪い笑みを浮かべた。

 

「格下の魔導士ならぼっこぼこにできると思うし、どう?」

「うーん……()()()()()()

「でしょでしょ! それじゃいけそうなら二人で接近戦ってことで。あ、でも平行詠唱で()()()つもりではあるから、巻き込まれないでよね?」

 

 お姉さんはなんだか楽しそうである。

 ベルも想像したらワクワクしてきたので、早く戦いたくなってきた。

 

「作戦名は……剣でザクザク杖で撲殺☆ 魔法でミラクル☆バコバコ爆破ドッカーン作戦……とか、どうかな……」

 

 そして原野に足を踏み入れた直後、それまではハキハキ話していたレミリアの声が小さくなった。何やらモジモジしている。

 

「……ごめん、忘れて」

 

 彼女はネーミングセンスがイマイチだった。 

 ベルとしてはそこまで気になったことはないのだが、本人は言ってから恥ずかしくなるらしい。

 

「大丈夫です! いいですよね! カッコイイです!」

 

 ならば、ベルがすべきことは()()()()だ。

 淑女に恥をかかせてはいけない。ここは後輩としてもレミリアを盛り立ててあげるべきだと、グッと拳を力強く握り締め、男らしく声を張った。

 

「剣でザクザク杖で撲殺☆ 魔法でミラクル☆バコバコ爆破っ」

「復唱しなくていいからっ!」

 

 結果、真っ赤な顔で叱られた。

 とはいえ誰かさんのように罵倒なんてしてこない。

 雷撃を浴びせてくることも、槍で串刺しにしてくることも、轢き殺してくることもない。つまり、レミリア・バレンティアとは、とても平和的なお姉さんだと言えた。

 

「すみません……つい! なんかあの、語呂が良くって! 口ずさみたくなる感じの!」

「どこが!? 本当にそう思ってるんだとしたら、センスなさすぎるわよ!」

 

 こうしていると危ない香りは全くしない、清純なお姉さんにしか見えないが、彼女を怒らせてはいけない。かつて火あぶりの刑に処されたことのあるベルは、レミリアの恐ろしさを知っていた。

 今は()()()()()()について熟知しているので、怖いとかはほとんどない。

 全く怖くないわけではない。

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