聖剣使いを拾いましたけど、蛮族な狂犬でしたが私は元気です   作:プーリとベルト

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聖剣使い味方を頼る

 迷宮に響き渡った熾烈な金属音は、まだ誰の耳の奥にも消え残っていた。

 

 黄金の聖火を全身に纏ったカーリーと、鈍い銀灰色に輝く鋼の巨龍。ただ両者が対峙しているというだけで、周囲の空気はひび割れんばかりに張り詰め、誰もが軽々しく口を開くことすらできない。

 

 やがて、その重苦しい静寂を破ったのはカーリーだった。

 

「私の名はカーリー・ブラッドソード! 聖剣を預かる一人の騎士である! 貴殿の名を聞かせて貰いたい!」

 

 迷いなく堂々と名乗りを上げたカーリーに対し、機械龍の額へと腰掛けていた小柄な男は、面倒そうに頭を掻きながら小さく肩を竦めた。

 

「あ? ……あー、そういや聞いたことあるッスね。グレイラントの王国騎士が聖剣の担い手になったとか。それがアンタだったわけッスか」

 

「うむ。その通りだ。それよりも、ウチの問いへ答えて貰いたい!」

 

「しょうがないッスね」

 

 口元へ獰猛な笑みを浮かべ、男は誇らしげに胸を張る。

 

「俺の名はリガル! 『虚大なるリガル』! 魔王軍幹部、『血蝕の魁星』が一人! そして──アスラ様の弟子ッス!」

 

「ほう……アスラ殿の弟子か」

 

 一瞬だけ、かつて相対した圧倒的な気配を持つ武人の姿が脳裏を過る。それでもなお、カーリーの好戦的な笑みが崩れることはなかった。

 

「おっ、知ってるんスね」

 

 リガルはどこか嬉しそうに頷き、そのまま勢いよく己の胸を叩いた。

 

「流石はアスラ様ッスよ。俺みたいな豆チビサイズの男でも才能を見抜いて弟子にしてくれたんス。魔王軍四天王最強、その名に恥じない懐の深さってやつッスね!」

 

「確かに、いきなり戦闘を始めようとした所を除けば強い武人であった!」

 

 我が意を得たりと楽しそうに笑うカーリーを見て、リガルは先ほどまでの笑みをさらに深く狂おしいものへと変えていく。

 

「へぇ……アスラ様と戦って生きてるだけじゃなく、そんな顔で語れる奴だったとは驚いたッス。少しだけ興味が湧いたッスよ」

 

 その呟きと同時に、機械龍の全身を脈打つように巡る赤い魔術回路が一斉に輝きを増した。鋼の節々から重低音の駆動音が鳴り響き、巨体が僅かに身を沈めるだけで、岩盤は悲鳴を上げるように軋みをあげる。

 

「アスラ様が認めた相手なら、俺がどれくらい通用するか試してみたくなったッス」

 

 リガルは不敵に笑いながら、機械龍の頭部に設けられたコックピットへと滑り込み、操縦桿を強く握り締めた。

 

「行くッスよ、相棒」

 

 命令を受けた機械龍が低く咆哮し、鋼の尾を大きく振り上げながらカーリーへと狙いを定める。それを見たカーリーもまた、静かに聖剣カルフォースを構え、黄金の聖火を穏やかに全身へ巡らせた。

 

「実に良い。アスラの弟子というのであれば、貴殿の力もまた相応に期待出来よう。来るが良い、リガル! その力、このウチへ存分に見せて貰おう!」

 

「ちょっと! 待ってください!」

 

 色めき立つ戦場に、ユーグリの切羽詰まった声が割り込んだ。

 

「ん? どうしたユーグリ殿」

 

「いや、相手は魔王軍幹部ですよ!?」

 

「うむ、それはそうだが」

 

「しかもあいつ、幹部の中でも指折りだって噂です!」

 

「ほう、ますます興味が湧いた」

 

 一向に噛み合わない会話に、それまで静観していたシェン・イーが吐き捨てるように舌を鳴らした。

 

「チッ、駄目だユーグリ。この騎士様は強者と戦えるのが本望なんだよ。俺らだけで逃げるぞ」

 

「まぁ、私もシェンさんやユーグリさんに半ば同意なんですけどね……」

 

 ぽつりと漏らしたのはエリリーだった。カーリーはむっと眉を寄せて振り返る。

 

「エリリー殿……そこまで言うか?」

 

「言うだろ、そこのエリリーって奴とお前は仲間なんだろ?」

 

 シェンの鋭い指摘に、エリリーは困ったように微笑みながら、しかしどこか諦めたような溜息を吐き出した。

 

「そうですよ。これまでアスラとかグスタフとか、深層からあぶれた魔物とかと戦って来ましたけど……カーリーはいつも一人で突っ込んでばっかりです」

 

 その言葉に、カーリーは一瞬だけ自身の戦い方を省みるように目を瞬かせた。そして、真っ直ぐにエリリーを見つめ直す。

 

「そうだな、ならエリリー殿」

 

「はい?」

「ウチは今から全力で戦う。だが同時に、エリリー殿を全力で守る。だから──ウチを助けてくれ」

 

「えっと、それは……」

 

「ウチはエリリー殿を頼るということだ! この戦い、負けられんだろう」

 

 カーリーの裏表のない眼差しを受け、エリリーは言葉を失った。これまで幾度となく死地を共にしてきたが、「助けてくれ」と正面から頼られたことなど一度としてなかったのだ。いつだって彼女は先頭へ飛び出し、自分が全てを受け止めるのを当然のように選んできた。

 

 その彼女が今、自分に背中を預けようとしている。その事実だけで胸の奥が熱くなり、エリリーは静かに頷いた。

 

「……分かりました。そこまで言われたら断れません」

 

「感謝する。ウチは剣しか能が無い故な」

 

「そこは否定しますよ。剣しか無い人は、仲間を頼ろうなんて考えませんから」

 

 エリリーは肩に提げていた杖を強く握り締め、カーリーの隣へと歩み出る。

 

「私は後ろを支えます。カーリーが取り落とした分の防御も、援護も任せてください」

 

「うむ、それで十分だ」

 

 二人のやり取りを見届けていたシェンは、口元を緩めて短剣を構え直した。

 

「何だ、ちゃんと仲間らしいことも出来るじゃねぇか。これなら俺達も、危ないときこそ周りと協力するって選択肢が取れそうだぜ」

 

 ユーグリもまた、苦笑しながら剣を順手に握り直す。

 

「そうですね、逃げるのは止めます。どうせカーリーさんが勝手に突っ込むなら、後ろから支えた方が生存率は高そうですから」

 

「おっ、ようやく腹が決まったッスか」

 

 操縦席のリガルが愉快そうに笑うと、赤く輝く魔術回路がさらに激しく脈動し、鋼の巨体がじりじりと前傾姿勢を取った。

 

「俺としても、四人まとめて来てくれた方がスクラップにする手間が省けて助かるッス」

 

 金属が軋む重低音とともに、三本の鋼爪が易々と岩盤を抉り取る。圧倒的な質量と魔力が迷宮全体を震わせ、それだけで呼吸すら重く感じられるほどの威圧感が場を支配した。

 

 それでもカーリーは一歩も退かず、黄金の聖火を静かに揺らしながらカルフォースを正眼に構える。

 

「いい目ッスねぇ。そういう奴を潰すの大好きなんスよ」

 

 リガルが操縦桿を深く押し込んだ。虚龍が咆哮にも似た駆動音を轟かせながら大地を蹴り砕き、その巨体からは想像もつかない超高速で突進を開始する。

 

 巨大な鋼の躯が迷宮の空気そのものを押し潰しながら迫る中、背後ではエリリーの魔術陣が淡い光を放ちながら展開されていく。

 

(以前の自分なら、このまま一人で飛び出していただろう)

 

 迫る死線を前に、カーリーは静かに思考を研ぎ澄ませていた。目の前の強敵だけを見据え、その剣だけで切り開こうとしていたはずだ。だが、今は違う。背後にはエリリーが、そして共闘を選んでくれたシェンとユーグリがいる。

 

「皆、頼む!」

 

 カーリーは一度だけ小さく頷くと、全力の聖火を放出させながらリガルへと地を蹴った。

 

「ハッハッ! 仲間ごと全部、叩き潰してやるッスよ!」

 

 激突──鋼と聖剣が正面からぶつかり合い、黄金の聖火と赤黒い魔術回路が激しい火花を散らす。その衝撃波だけで、周囲の岩壁には無数の亀裂が走った。

 

 虚龍は巨体に見合わぬ速度で鋼爪を振るい、尾を薙ぎ払い、鋼鉄の顎を噛み合わせながら容赦なく攻め立てる。対するカーリーもまた、一歩も退かない。カルフォースが描く黄金の軌跡は荒れ狂う鋼撃を正面から受け止め、そのたびに聖火が城壁のように広がって仲間達を包み込んでいた。

 

 さらにその内側では、エリリーが展開する幾重もの結界術式が波紋のような光を広げ、飛散する岩片を完全にシャットアウトしている。

 

「けどよ、俺ら何やればいいんだ? あの装甲、俺達の武器じゃダメージが入る気がしねぇぞ」

 

 激戦から目を離さぬまま、シェンが歯噛みする。

 

「確かに……お二人は遠距離から援護出来るような技能はありませんか?」

 

「攻撃は難しいな。でも、結界とか守りの補助なら多少は得意だよ。必要なら支援出来る」

 

 ユーグリの言葉に、エリリーは素早く視線をシェンへと転じた。

 

「それだけでも十分助かります。ではシェンさんは?」

 

「俺か? 罠の解除とか仕掛けを読むのは得意だな。あと機械とかの構造を見抜くのも多少はいける」

 

「それなら、あの装甲の弱点を探れませんか?」

 

 シェンは思わず不敵に笑った。

 

「そう来たか。難易度はとんでもねぇが……やるだけやってみるさ!」

 

 シェンは激しく打ち合う鋼と黄金の軌跡へ、食い入るように視線を凝らした。虚龍の装甲は一枚岩ではない。節ごとに幾重もの装甲板が噛み合って動いている。鋭く目を細めて観察を続けると、巨体が腕を振るうたび、肩口の継ぎ目が僅かに開き、内部の魔術回路が一瞬だけ覗くことに気付いた。

 

「あそこか……いや、まだ観察が浅ぇな」

 

 さらに視線を全身へ巡らせる。ほんの刹那だけ生まれる隙を見逃すまいと、シェンは呼吸すら殺してその瞬間を待った。

 

 その背後では、エリリーが素早く杖を掲げ、足元へ幾重もの錬成陣を描き出していた。

 

「迷宮そのものを借ります……!」

 

 淡い光が石床を這うように広がり、壁や天井の鉱脈と共鳴する。直後、岩壁から幾本もの石柱が隆起し、虚龍の進路を塞ぐように迫った。鋼の巨体はそれらを容易く砕いて前進するものの、その僅かな減速がカーリーのさらなる追撃の機会を与える。さらに、砕け散った岩片は再びエリリーの錬成によって床から突き上がり、巨体の脚部へ幾重にも絡み付いてその動きを鈍らせていく。

 

「グルルルオオォォ!」

 

 虚龍は低く唸ると巨大な顎を開き、喉奥で赤黒い魔力を渦巻かせ始めた。一瞬で周囲を灼熱の熱気が包み込み、岩壁が赤熱して軋み始める。

 

 それに対してユーグリが前に出た。剣を床へ突き立て、自身の魔力を一気に解き放つ。

 

「水よ、奔れ!」

 

 澄み切った水流が幾筋もの奔流となって押し寄せエリリーの結界を覆うようにして、放たれた灼熱の息吹と真正面から衝突した。凄まじい水蒸気が迷宮を白く覆い隠すものの、水流はなおも流れ続けて炎を押し留める。その僅かな隙間に黄金の聖火が割って入り、残された熱ごと静かに包み込んで消し去っていった。

 

 白煙の向こうで、カーリーは力強く笑った。

 

「見事だな、皆!」

 

「カーリー! 左肩と腰だ! 動くたび装甲が開く!」

 

 視界が晴れると同時に響いたシェンの鋭い叫び。その報告を聞いたカーリーの瞳が、愉快そうに、そして猛々しく輝いた。

 

「成る程、それならば十分だ!」

 

 聖火がさらに勢いを増し、カルフォースは一直線に虚龍の開いた隙へと振り上げられる。一方、操縦席のリガルもまた、不敵に口角を吊り上げた。

 

「へぇ……そんな短時間でそこまで見抜くッスか。面白いッスねぇ!」

 

 リガルは笑いながら操縦桿を深く押し込み、赤い魔術回路を一層激しく脈動させた。鋼の巨龍は咆哮とともに再び大地を踏み砕き、互いの渾身を懸けた二度目の激突が、迷宮全体をかつてないほど激しく震わせるのだった。

 

 

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