祈本リカの乙骨シンジ育成計画   作:NARです。

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サブ投稿なので、温かい目(ドラ〇もん参照)で見守ってくださると幸いです。


碇シンジと○○○○

日の沈んだ、第3新東京市。

人気の無くなった街の中心で、一体の白黒の巨人と人型巨大ロボットが戦っていた。

いや、それは戦いと呼べるようなものではなかった。全身に力が入っていない紫色の巨大ロボットがドクロのような顔をした巨人の足下で転倒し、無抵抗のまま顔面を鷲掴みにされる。

 

巨人の手がロボットの左手を掴み、筋肉を隆起させた剛力でロボットの腕を痛めつける。

ロボットに搭乗している少年の苦痛に耐える声がコックピット内に響く。

 

「ぐうぅぅッ、ぅうう!?」

『シンジ君!逃げて!!』

 

コックピット備え付けの通信機から女性の声が響くが、少年にはそれに応える余裕は無かった。痛みや恐怖に慣れていないごく普通の少年に、この危機的状況から脱する術など考え付くわけがなかった。

そうこうしている間に、ボキリと嫌な音がロボットの腕から鳴った。あらぬ方向にだらんと垂れ下がるロボットの手首が、モニターを介して地下の発令所内にいる大人たちの目に晒される。経験したことのない痛みをフィードバックとして受け取った少年は、声を発することもできなかった。

しかし、巨人の追撃は止まらない。言ってしまえば、今はまだロボットの腕を破壊して抵抗する術を奪ったに過ぎないのだ。本命はまさにこれからだった。

ロボットの顔を鷲掴みにしている巨人の掌が光り、ガツンッと金属同士を打ち付けるような硬質な音が街の中に響いた。コックピット内の少年は腕だけでなく右目にも激痛を感じ始め、もはや操縦するだとか逃げるだとかは思考の中に存在していなかった。

少年はただ痛みに耐えるしかない。無力な子供は暴力に晒されて蹲ることしかできない。巨人はこれ幸いと光の杭をロボットの右目に何度も打ち込み続け、次の一撃でロボットの頭を完全に貫通する___

 

 

 

____はずだった。

 

 

 

突然、ガシッ!!と巨人の腕が何者かに掴まれた。その手は病的を通り越して死人のように白く、しかし巨人の手よりも分厚い筋肉を有していた。白い手は巨人の腕を強引に捻り上げ、拘束されていたロボットは解放されて尻もちをついた。

 

そして、少年は見た。自身を救ったその存在の姿を。

 

 

『シンジを~……イジメるなぁぁぁぁあ”あ”!!!!!』

 

 

巨人を圧倒するほどの巨大な怨霊と化した、幼馴染の姿を。

 

 

 

 

――――――――――

今からおよそ数時間前

――――――――――

 

 

 

 

 

場所は13km程離れたどこかの町。

じりじりと照り付ける太陽の下には、人気の無くなった町が広がっていた。非常事態宣言やら避難勧告やらのサイレンが鳴り響き、鉄道などの公共交通機関が全て運航停止となっているその街で、一人の少年が公衆電話の受話器を取っていた。その少年は目元に深いクマができており、疲れているのか彼の背中には覇気というものがまるで無かった。

少年_碇シンジは、もう何年も疎遠となっていた父親から突然の呼び出しを受け、遠路はるばるこの街にやって来た。しかし街に着いたはいいものの、待ち合わせ場所に行っても人の影は無く、待ち人が現れるまで適当に時間を潰そうにも土地勘が無い彼は下手にその場を離れることもできなかった。

そんなわけで、手紙に添えられていた電話番号にかけて連絡を取ろうと考えたのだが、残念なことにその手も使えなくなってしまった。公衆電話の受話器からは非常事態宣言が発令されたことを伝える電子音声だけが返ってくる。

シンジはポツリと独り言を呟いた。

 

「ダメかぁ……。」

 

受話器を戻し、無人となった街を見回す。彼の独り言はけたたましく鳴き続けるセミの声に掻き消された。

 

「待ち合わせは無理かぁ。」

 

シンジはポケットから1枚の写真を取り出しながらため息を着いた。写真には前屈みのポーズを取ったセクシーな女性の姿が映っており、「私が迎えに行くから待っててネ♡」というメッセージとキスマークが添えられていた。おそらくこの女性が待ち人なのだろうが、いつまで経っても現れない上に炎天下の中に放り出されているシンジはため息をつくしかなかった。

そんな彼の首筋にヒンヤリと冷たい風が指を這わせた。陽炎が浮かぶほどの暑さだというのに、氷を直接押し当てられたかのような冷たさにシンジの身体がブルリと震えた。

 

「な、なんだか寒気が……。」

 

シンジは日差しの暑さによるものとは違うじっとりとした汗を流しながら、風の当たった部分を手で押さえた。

 

「と、とりあえずシェルターに行こう!」

 

シンジは一人であるにもかかわらず誰かに言い訳するように声を上げ、シェルターに避難しようと歩き出した。

その時、一瞬だけ街中の道路の中心に誰かが立っているように見えた。しかし、次に瞬きをした時にはそこに人影は残っていなかった。

 

(……見間違い、かな?)

 

遂に夏の暑さにやられて幻覚が見えてしまったのかと内心首を傾げた時だった。

平和な日本では聞こえるはずの無い、大地を揺るがすほどの爆音が鳴り響いた。

 

 

ドオオォォォオン!!!

 

「!?」

 

人の営みに代わりセミの鳴き声が埋め尽くしていた無人の街に、爆弾が落ちたかのような轟音が響く。

工事現場でも聞かないようなその音に、シンジはビクリと肩を跳ね上げた。そして音のした山の方へ眼を向けると、信じられない光景が目に映った。

彼が目を向けた先に現れたのは、オスプレイのような形状をしたVTOLという名の戦闘機の一群。それらは統率された動きの下、山の陰にいるナニカに向けて機銃を撃ち続けていた。

 

そしてのっそりと現れたのは、デフォルメされたドクロのような顔を持つ、白黒の巨人。

 

「な、なに、あれ……?」

 

シンジはひどく現実味の無い光景に対して、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。その間にも戦闘機と謎の巨人の戦いは苛烈を増していき、彼の頭上を2,3のミサイルが轟音を響かせながら飛んでいく。しかし、呑気な表情を晒す巨人には現代兵器がまるで効いていないようだ。全身に爆風を浴びながらも、その歩みが止まることはない。やがて巨人は進行の邪魔だと判断したのか、目の前を飛んでいた戦闘機を掌から射出した光る杭で撃墜した。制御を失った機体がよろよろと墜落していき、それは不運にもシンジの目の前に落ちてきた。

身体を押し倒すほどの風と何も聞こえなくなるほどの轟音。それらがイマイチ実感の掴めていなかったシンジの心に恐怖を与えた。だが、今すぐに逃げなければならないというのは分かっているはずなのに、彼の身体は言うことを聞いてくれない。シンジの呼吸は荒くなり、ジワリと嫌な汗が浮かんでくる。

 

「に、逃げないとッ……。」

 

そう口に出して自分に言い聞かせるが、身体は思うように動かない。まるで金縛りにあったかのように手足は固まり、呼吸も次第に速くなっていく。

そうこうしている間に空を飛んできたらしい白黒の巨人が降り立ち、戦闘機を踏み潰した。直後に爆炎が噴き上がり、近くにいたシンジに向かって炎が襲い掛かった。

シンジは訳も分からず自分の身を守ろうとすることしかできない。咄嗟に両手を前に出して顔を庇うが意味は無いだろう。確実に迫ってくる死の予感に恐怖した彼は、半ば反射的にその言葉を口にした。

 

「助けて、”リカちゃん”ッ!!」

 

彼はそう言って助けを求めた。だが彼自身、名を呼んだ人物が助けに来てくれるはずがないとは分かり切っていた。今こうして”リカちゃん”という人物に縋ったのは、幼い頃からの癖、或いは絶対に助けてくれるという信頼から来るものであった。

しかしどれだけ叫んだところで、既にこの世にいない人物が助けに来てくれるはずがなかった。

 

シンジの身体を突風が襲う。

 

…………。

……………………。

……………………………………。

 

(…………あれ?僕、生きてる?)

 

耳には風と爆発の音が至近距離から聞こえてくる。だが、自分は確かに生きている。

シンジはまさかと思った。3年前に失ったと思っていた希望が再び光り、彼は濃いクマの染みついた顔を上げた。

だが見上げた先にあったのは幼馴染の姿ではなく、蒼い塗装のされた一台のスポーツカーだった。

 

「ごめ~ん!お待たせ!」

 

そう言いながら助手席の扉を開けて現れたのは、シンジにあの水着写真を送った待ち人の女性だった。

 

 

 

__________

__________

__________

 

 

 

 

巨人と戦闘機の一群の戦いが激化していく中、シンジを載せたスポーツカーのアルピーヌ・ルノーは山に敷かれた道路を走っていた。

シンジは待ち人であると同時にあの危機的状況で颯爽と現れたインパクトのある女性のことが気になっていた。しかしそれ以上に気になるのは、やはり街中に現れたあの巨人のことだ。ふと車の窓の外を見てみれば、件の巨人がのっしのっしと山の中を歩いている様子が見える。

シンジはあの謎に包まれた巨人が何なのか、その正体について考えを巡らせていた。そして、「もしかしたらこの人なら何か知ってるんじゃないか?」と考え付いたシンジは隣でハンドルを握る女性_基葛城ミサトの方に顔を向けた___のだが。

 

「あの、葛城さ__どうしたんですか?」

「ん?いやちょっち寒くってね。冷房効き過ぎちゃったかしら?シンジ君は寒くない?」

「え?はい。僕は大丈夫ですけど……。」

 

話を聞こうと思っていた相手はなぜか顔が真っ青になるほどにまで寒がっていた。確かに車内の冷房は効いてはいるが、そんな唇が青くなるほど冷え切ってはいなかった。ちなみにミサトは「私だけ?おっかしいわね~。」と首を傾げつつシンジに気を遣って笑みを浮かべてはいるが、内心は気合で取り繕っている顔以外の全てが恐怖で震えるほどの命の危機を敏感に感じ取っていた。

 

(ナニコレ……ただ寒いんじゃない。私は怖がっている?まさか、私は今さらになって使徒を恐れているっていうの?)

 

ミサトは自身の感じている恐怖の正体が、使徒_現在進行形で日本侵攻を行っている巨人_に対するものなのではと考えた瞬間、ギリッと奥歯を強く噛みしめた。それは助手席に座るシンジには悟られぬように巧妙に隠されていたが、ハンドルをきつく握る手には怒りと憎悪が滲み出ていた。

彼女にとって使徒は父親の仇である。故に、ようやく敵討ちのチャンスが巡って来たというのに、その敵に対して自分が怖れ慄いているという真実に屈辱を感じずにはいられないようだ。

 

とは言え、彼女が想像している恐怖の正体は、”事実”とは全く異なっているわけだが…………。

 

そんなことなど神のみぞ知るという訳で、勝手に使徒に対して情けなくもビビっていると勘違いしている彼女は、宿敵の進行状況を直接確認するべく車を停車させ、双眼鏡を取り出した。

 

「ちょっちごめんね。外の様子見させて。」

 

ミサトは一言断りを入れると助手席に座るシンジの身体の上から身を乗り出した。

今会ったばかりのスタイルの良い女性が、シンジの上から覆い被さるようなその体勢__思春期真っ只中の中学生には僅かに刺激が強かったらしい。思わず意識してしまったシンジは見てはいけないと己に言い聞かせてそっと目を逸らした。

 

その瞬間、シンジはゾッと首筋を撫でるような悪寒を感じた。それはついさっき公衆電話の前でミサトの写真を見た時と同じものであった。シンジはその恐怖で息が詰まるような感覚に陥ったが、どこか懐かしいような感覚も同時に覚え、モヤモヤした奇妙な感覚に疑問符を頭上に乱舞させた。

 

ちなみに、シンジと同じように顔を青褪めさせていた人物がここにもう一人。

 

「まさか……N2地雷を使うわけ!?」

 

こっちはこっちで全く別の意味で顔を青褪めさせていた。いや、心臓を鷲掴みにするような恐怖は変わらず彼女の中にあったが、それすら頭から吹き飛ぶような光景を彼女は目にしたのだ。

それ即ち、功を焦った戦略自衛隊_戦闘VTOL機編隊を派遣した上層部_が持ち出した、人類最後の切り札が使用される光景である。

 

「シンジ君伏せて!!」

「うわっ!?」

 

ミサトは速やかにシンジの上に覆い被さって彼の身を守ろうとした。その結果、状況をまるで把握していなかったシンジはそのままミサトに抱かれる形となった。

無論、二人は_特にミサト自身は邪な考えなど一切ないし、命の危機が迫っている状況でそんな悠長なことを考えている暇など無い。

 

だとしても、それを許容できない存在が、ここには”もう一人”いた。

 

___○○○○ 36秒の完全顕現

 

次の瞬間、胃の中がひっくり返るような悍ましい気配が湧き水の如く膨れ上がった。そして、”ソレ”はシンジ達の乗るルノーへと覆い被さった。

 

その直後、世界が白い光に包まれた。

 

空に向かって煌々と燃える大きなきのこ雲が上がっていく。そして、シンジ達のいる山を強烈な爆風がゴウッと叩きつけた。

本来ならば、地面に固定されていないルノーは爆風に吹き飛ばされて転がるしかない。だが、シンジ達の乗るルノーは爆風に負けないほどに轟々と吹き荒れる負のオーラがバリアとなり、ミサトのローンの残った大事な車が吹き飛ばされてボロボロになることはなかった。

 

しばらくして、爆風が止んで顔を上げても問題なさそうだと判断したミサトがシンジの上から起き上がった。

 

「もう大丈夫そうね。シンジ君、何ともない?」

「は、はい。僕は大丈夫です、葛城さん。」

「ミサトでいいわよ。よろしくね、シンジ君。」

 

奇跡的に無事だった二人は軽く自己紹介を終え、跳ねた小石などで多少の傷がついただけでほぼ無傷だったルノーは土砂で汚れた道路を再び走り出した。

といっても、さすがにあの強烈な爆風を受けて何ともなかったというのには違和感があるらしく、ミサトはハンドルを握りながら思考を巡らせていた。

 

(私達、確実にN2地雷の爆風圏内にいたはずなのに、どうして何ともなかったのかしら?運が良かったと言えばそれまでだけど……ん?)

 

その時ふとミサトの目から、助手席に座るシンジが手の中で何かを触っているのが見えた。

まだ合流したばかりとはいえ、あまりものを喋る様子がないシンジに対してこちらからコミュニケーションをとっていくべきかと考えたミサトは、ちょうどいいきっかけだと思い、シンジの手の中にある物について尋ねた。

 

「何触ってるの、シンジ君?」

「え?……あぁ、コレですか。お守り……みたいなものです。」

「お守り?」

「はい。地元にいた幼馴染から貰ったものなんです。」

「へ~、幼馴染から……ってそれ、よく見たら結婚指輪じゃないの!?もしかしなくても女の子?」

「まあ、はい。」

「か~!今時の子はませてるわね~!その歳で結婚指輪って!結構熱々なの?こっち来るときに『私も連れてって~!』って言われなかった?」

「……どうですかね。”まだ生きてたら”、むしろ僕の方からついて来てって言ってたかもしれません。」

「ッ…………ごめんね。嫌なこと思い出させちゃって。」

「大丈夫です。もう3年も前のことなんで。」

 

「まだ3年なんじゃないの!」とミサトは内心で叫びながらも、知らなかったとはいえ初っ端から話題を間違えたことに気まずそうに歯噛みした。

しかし、ミサトはその直後にシンジの口から奇妙な話を聞くことになった。

 

「さっきの爆発、もしかしたらリカちゃんが守ってくれたのかも……。」

「リカちゃん?」

「あ、えっと、さっき言った僕の幼馴染です。リカちゃんが交通事故で死んでから、こういうことが僕の周りでよく起こるようになったんです。」

 

シンジはそこまで言うと、急に恥ずかしくなったのか目を窓の外に逸らして言葉を濁した。

 

「すみません、なんか、いきなり変なこと言ってしまって。」

「イイのよ。それにシンジ君の言っていること、案外間違ってないかもよ?」

「どうしてですか?」

「だってその結婚指輪をもらったの、3年前ってことは小学生くらいでしょ?そんな小さい頃から愛し合ってたなら、リカちゃんはシンジ君のことちゃんと見守ってくれていると思うわよ。」

「愛しっ!?いや、そうかな……そうかも、しれません。リカちゃん、僕のお母さんなんじゃないかなってくらい色々助けてくれてたので。」

 

シンジはミサトの言葉に照れながらも大好きだった幼馴染との幸せだった日々を思い出し、彼は3年ぶりに穏やかな気持ちでそう言った。

 

そうして、シンジはミサトの車に揺られて目的地に着くまでの間、彼の心は妙にポカポカした気分でい続けたのだった。

 

 

 

__________

__________

__________

 

 

 

 

特務機関NERV。

そこは国連直属の非公開組織であり、現在進行形で本土を侵攻している巨大生物_使徒を迎撃するための人類最後の砦である。

その拠点は地下深くにあるジオフロントと呼ばれる空間にあり、シンジとミサトの二人は車と一緒にカーリフトを使って地下へと潜っていた。

目的地が近づいてきたからか、第三新東京市へやって来た目的を思い出したシンジは実の父親である碇ゲンドウと会うことに緊張を感じていた。

脳内を巡る幼き頃の記憶。遠ざかっていく父親の背中を思い出し、胸にぽっかりと穴が開いたような気持になる。だがそれを塗り替えるように、地元で出会った好きだった少女の笑顔が蘇った。

 

(リカちゃん……僕は、父さんとちゃんと話ができるかな。)

 

『シンジならできるよ。』

 

シンジはそう言って励ましてくれる幼馴染の声を耳にした。だがもちろん、それは思い出が生み出した幻聴であるとシンジは理解していた。それでも、なぜだか彼の心に勇気というものが湧いてくるのだから、彼にとってリカという少女がどれだけ大きな存在だったかが分かるというものである。

そんな不安と決意が行ったり来たりしている彼を、広大な地下空間_ジオフロントが出迎えた。まるで漫画や小説に出てくるような地下世界を目にして、滅多なことでは笑顔を見せないシンジの顔は興奮の色を浮かべた。やはり彼もまた、健全な男子中学生ということなのだろう。

 

さて、シンジに十分なインパクトを与えたジオフロントにやって来た二人だが、真の目的地はジオフロント内にあるピラミッド型の建物のさらに奥である。つまり、まだまだ歩く必要がある。

しかし、地下世界と言えるほどに広大なジオフロントを徒歩で移動するのは不便極まりない。そんなわけで施設内には移動に便利なリフトやエスカレーターのように動く床が整備されており、たとえ極秘と印の押された来客用NERVパンフレットの中身に釘付けになっていても自動で目的地に連れて行ってくれるのである。

 

尤も、利用者がどのルートに進むかを間違えなければの話であるが…………。

 

「あの……ミサトさん。ここ、さっきも通りましたよね?」

 

車を降りる前にミサトから渡されていたパンフレットを読み込んでいたシンジは、意を決した様子で前を歩くミサトに問い掛けていた。その質問に対し、特務機関NERVの作戦指揮官である葛城ミサトはこう答えた。

 

「ごめんね、まだここに慣れてなくって……。」

 

全ては彼女の顔に張り付けられた誤魔化しの笑みが物語っていた。

要するに、迷子である。

 

そんな迷子二人の下へ、救世主が現れた。

 

「一体何やってたの、葛城一尉。」

 

二人の乗っていたエレベーターに乗り込んできたのは、迷える子羊を導くためにやって来た聖母……ではなく、水着の上に白衣を着た変態だった。

いや、彼女を変態と言うのはさすがに失礼であった。その理知的な瞳には変態の「へ」の字も無く、ハイスペックな頭脳を持つ彼女は天才と称される科学者であった。水着の上に白衣という格好も、時間が無くて急いでいたからとかそんな理由だろう。まあ、何も知らないシンジからすれば「ヤバい格好の人が来た」としか思えないだろうが。

 

さて、そろそろ彼女が何者なのか知りたいところだろう。シンジもパンフレットで顔を隠しているが、その目は彼女の様子を静かに窺っていた。尤も、いくら理知的とはいえとんでもな格好をしている彼女に声を掛けられる勇気は無いようだが。

なんて静観を決め込んでいたら、彼女の方からシンジに注目を向けてきた。

 

「例の男の子ね?」

「そ、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン。」

「技術局二課E計画担当責任者、赤木リツコ。よろしくね。」

「あ、はい。よろしくお願いします……。」

 

虚を突かれた様子のシンジは声を詰まらせながらも、なんとか返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

「ところでミサト。なんだかここ、妙に肌寒くないかしら?」

「あ、やっぱりリツコもそう思う?どっか穴空いてたりしないわよね?」

(二人とも、そんな格好してるからじゃないの?)

 

 

 

__________

__________

__________

 

 

 

 

 

___総員、第一種戦闘配置。

 

___対地迎撃戦用意

 

どこかへと案内されるシンジ達の頭上で、物騒な放送が鳴り響く。何かただ事ではない様子であるのは感じるが、ただの中学生でしかないシンジにはなにも実感は沸いてこなかった。

そうこうしている間に、シンジは真っ暗闇の中に連れてこられた。

 

「碇シンジ君、あなたに見せたいものがあるの。」

 

赤木博士がそう告げた直後、暗かった室内に明かりが灯った。

そうして、シンジの目の前で明かりに照らされた巨大な何かが浮かび上がった。

 

「か、顔……!?」

 

そう、正しくそれは巨大な顔であった。

そこにあったのは人の形をした巨大な何か。その大きさと異様さにシンジが圧倒されている間に、赤木博士は説明を続ける。

 

「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号機。我々人類の最後の切り札よ。」

「これも、父の仕事ですか?」

 

『そうだ。』

「ッ!?」

 

なんとか絞り出したシンジの声に、赤木博士やミサトではなく男の声が応えた。

その声が誰の物なのかをシンジはすぐさま察し、エヴァンゲリオン初号機と呼ばれたモノの上に見える窓へと視線が吸い寄せられた。

 

そこにいたのは、シンジの実の父親である碇ゲンドウであった。

 

「久しぶりだな。」とゲンドウは言った。そのまま長く離れていた時間を埋めるように親子としての会話を続ける__と思いきや、そんなことは全くなかった。

 

次に彼が言ったのは、ただ一言。

 

『出撃。』

 

つまり、「戦え」という命令であった。

 

これにはさすがのミサトも動揺を隠せないようで、今この場に来たばかりの何も知らない少年には無茶だと訴える。

しかし、シンジにとって必要なのはそんなことではない。実の父親との会話の方が最も優先すべきことだった。

シンジは叫ぶように言った。「なぜ自分なのか」「自分を捨てたくせに何を今さら」「こんなものに乗れるわけがない」「できるはずがない」と。自分の想いを伝え、聞いてほしいと訴えた。

しかし、父親であるはずのゲンドウが口にしたのは、理解でも反論でもなく、「乗らないのであれば帰れ」という突き放すような言葉だった。もとより会話をする気が無いのだということが、シンジを始めこの場にいる全員にとって明らかであった。

 

シンジは俯くしかなかった。父親のことを知りたい、会って話したいと思っていたのに、その父親には話す気が無い。そうなれば、シンジにはもうどうすることもできなかった。

そうしている間に、遠くから地鳴りが響いた。地上で使徒が本格的に攻撃を開始したらしい。昼間のN2地雷で受けたはずのダメージは完全に回復しており、何物もその侵攻を阻むものは無かった。

いよいよ時間が無くなってきた。

 

「シンジ君、時間が無いわ。」

「乗りなさい。」

 

赤木博士に加え、さっきまで無茶だと言っていたミサトまでシンジに乗るように告げる。

 

「何のためにここに来たの?」

 

「ダメよ、逃げちゃ。お父さんから、なによりも自分から!」

 

追い打ちをかけるようなミサトの言葉にシンジは唇を噛みしめるしかない。

もはや、シンジに味方は一人としていなかった。

 

いや、一人だけ彼の味方をする者がいた。

 

『シンジ、嫌なら逃げていいんだよ。』

「ッ!?」

 

突如聞こえたその声に、シンジは息を呑んで顔を上げた。

そこには、青いワンピースを着た少女がいた。その少女は、かつて言ってくれた言葉を再びシンジに伝えた。

 

『嫌なら逃げていいんだよ。それは自分を守るために必要なことだから。何も悪いことじゃないの。』

「リカ、ちゃん……。」

『大丈夫だよ、シンジ。私がシンジを守るから。私はいつだってシンジの味方だから。自分の心を大事にして、ね?』

 

「僕は、乗りません。……乗りたく、ないです。」

 

かつての幼馴染の幻影に背中を押された彼は、その言葉を言い切った。

その揺るがない意志を秘めた言葉を聞いた大人たちは、シンジから興味を無くしたように離れていく。ゲンドウはレイという名の誰かを呼ぶように指示を出し、別パイロット用に初号機の再起動も始まり出す。一人取り残されたシンジはあっという間に独りになる感覚に襲われてギュッと爪が掌に食い込むが、それでも完全に孤独を感じることはなかった。

 

(これで、良かったんだよね、リカちゃん?)

 

心の中でそう問いかければ、少女は笑って頷いてくれた。

 

その時だった。ケージの扉が開き、一台のストレッチャーと医師らしき人物たちが入って来た。その一団とすれ違う瞬間、シンジはストレッチャーに寝かされている人物の顔を見た。

寝かされていたのは一人の少女であり、そして酷いありさまだった。全身のあちこちに包帯が巻かれ、一目で重傷だということが分かる。そして、この場にそんな重症の患者が現れたのと、先程のゲンドウの言葉が重なり、シンジはハッと気づいた。

 

(まさか、あの子に乗せる気なのか、父さんは……。)

 

その気づいてしまった事実に呆然としている間にも、少女_基綾波レイは医師たちの手によって起こされ、出撃準備が進められる。だがレイは終始苦し気に呼吸を乱れさせており、とてもエヴァンゲリオンというロボットに乗って戦えるような状態には見えなかった。

その時、再び施設に衝撃が走り、足元が強く揺れ出す。レイはバランスを崩してストレッチャーから滑り落ち、床に倒れ伏した。それに気づいたシンジはすぐに転倒した状態から立ち上がり、未だ倒れたままのレイの下へと駆け寄った。そして助け起こしてみれば、レイはどこかが痛むのか、悲鳴を噛み殺すように呻き声を上げた。

シンジの手にべったりと血が付着する。自身の手に付いた血が腕の中で苦しむ少女の物であると気づいたシンジの脳内に、自身の声が響いた。

 

____この子を見捨てて、逃げ出してもいいのか?

 

そう問いかける自分の声に対し、シンジは首を横に振ることしかできなかった。腕の中の少女を、見捨てられるはずが無かった。

それはまさに、シンジの善性を利用した、ゲンドウの策略であった。

 

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだッ!」

 

「僕が、乗ります!」

 

シンジは恐怖を無理矢理捻じ曲げ、戦うことを決めた。

 

(リカちゃん、僕に力を貸して!)

 

シンジの心の中にいる少女は、ただ静かに頷いた。

 

 

 

 

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「発進!!」

 

葛城ミサト一尉の発進命令により、シンジを乗せたエヴァンゲリオン初号機がレールに運ばれて地上へと向かう。しばらくの間、凄まじいGに耐えると、初号機は夜の地上へと射出された。敵である使徒はちょうど目の前を歩いているところだ。

 

「シンジ君、今は歩くことだけを考えて。」

 

赤木博士はエントリープラグ内にいるシンジにそう伝える。エヴァンゲリオンは思考で操作する兵器だ。搭乗前に簡単に説明されていたシンジだが、やはり実際に動かしてみなければやり方など分かるはずもない。

シンジは自身の脳内でイメージを作り、普段無意識にやっている「足を前に出して歩く」という行為を初めて乗る初号機で実践する。すると初号機はゆっくりと前に足を出し、その一歩を踏み出した。その光景を発令所で見ていた大人たちは起動すらできないと思っていた初号機が動いたことに歓声を上げていた。

だが、そんな呑気なことをしている暇はどこにもなかった。やはり乗ったばかりのシンジは操縦に手間取ってしまい、初号機は手で受け身も取れずにうつ伏せに倒れてしまった。そして、そんな隙を見逃す使徒ではない。使徒は足元に転がった初号機の頭を掴んで持ち上げ、その左手首を掴んで思いっきり引っ張り始めた。

 

「ぐぅうぅぅ、ぅううぅうっ!?」

「シンジ君!?落ち着いて!それはあなたの腕ではないのよ!」

 

そんなこと言われたって何の訓練もしたことがない子供に腕を折られそうな激痛を我慢しろは無茶な話だ。

結果、初号機は無抵抗のまま腕をへし折られ、続いて右目に光の杭を突き刺そうと使徒が追撃を行う。

腕と右目を襲うあまりの激痛にシンジは蹲ることしかできない。発令所にいる大人たちにも、どうすることもできない。

 

そのまま初号機は使徒の攻撃で倒され、人類の敗北で終わるのか。

それとも初号機に宿る”魂”が目覚めて使徒を倒すという、ゲンドウとその側近である冬月副指令の描くシナリオとなるのか。

 

否、迎えた結末はそのいずれでもなかった。

 

シンジは自身の首から紐で下げた指輪をギュッと握りしめた。それは彼の幼馴染が生きていた証であり、独り残されてしまった彼が生きるための唯一の希望だった。彼はこの極限状態において、彼はその希望に縋るしかなかった。

 

「痛いよ……怖いよ……辛いよ……苦しいよ……

 

___お願いだから、助けてッ……

 

僕を助けてよッ!リカちゃん!!!」

 

 

 

 

 

『いぃよぉぉぉ。』

 

 

 

 

その時だった。突然、ガシッ!!と使徒の腕が何者かに掴まれた。その手は病的を通り越して死人のように白く、しかし使徒の手よりも分厚い筋肉を有していた。白い手は使徒の腕を強引に捻り上げ、拘束されていた初号機は解放されて尻もちをついた。

 

そして、シンジは見た。自身を使徒の暴力から救ったその存在の姿を。

 

 

『シンジを~……イジメるな”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”!!!!!』

 

 

そこにいたのは、まさしく化け物であった。

大きさは初号機とほぼ同じサイズという巨大さで、足が無い上に病的な白い肌を持つその身体はまさに幽霊を思わせる外見をしている。しかし、一般的にイメージされる幽霊よりも一層悍ましい見た目をしており、蛇のような髪(?)に覆われた顔には頬まで裂けた大きな口だけが牙を剥き出しにしていた。

 

化け物、怪物。そんな言葉でしか言い表せないようなその存在を見たシンジ。

だが、彼はどういう訳かその巨大な背中にありえない姿を重ねた。

 

「リカ、ちゃん?」

 

_____『シンジは私が守ってあげる!』

 

それは、転んだ自分に手を差し伸べてくれた、初恋の少女の姿だった。




遂に始まった人類と使徒の互いの存続を賭けた戦い。様々な思惑が錯綜するその第一戦は、初号機の敗北で終わるかに思われた。
しかし、絶体絶命のピンチに陥った初号機を救った存在がいた。ソレは人類の味方なのか、或いは敵なのか。
次回、リカ vs サキエル


サブ投稿なので続きません。
「旧劇と新劇のどっち路線にしようかな~」とか考えていますが、続きません。たぶん。
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