祈本リカの乙骨シンジ育成計画   作:NARです。

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「メインじゃないし、書き溜めてから出した方が良かったかな」と思いながらの第3話です。
感想や評価、お待ちしてます。
という訳で、本編へどうぞ。


3年ぶりの再会

壁も床も一面が真っ白な部屋。

 

個室にしてはあまりに広すぎる室内に、ベッドが一つ置かれている。

 

閉じられたカーテンの隙間から日の光が差し込むが、床を照らすだけでベッドに横たわるシンジの目を覚まさせることはなかった。

 

まるで時間が止まったような静かな病室。シンジの落ち着いた寝息だけが聞こえる。

しかし、シンジ以外に誰もいないはずの室内で、ギシリと来客用の椅子が軋みを上げた。

そこには一人の少女が座っていた。年の頃は11歳と言ったところで、青いワンピースを着た長髪の少女。彼女は暇そうにプラプラと足を揺らしては、眠っているシンジの寝顔を眺めていた。

 

『シンジ、よく眠ってるなぁ。まあ無理も無いか。あんな大変な目に遭ったんだから、心身ともに疲れていても不思議じゃないよね。』

 

少女は気遣うような視線をシンジに向け、次の瞬間にはギロリと目を吊り上げ、プンスカと怒りの声を上げた。

 

『それもこれも、あの無責任な大人たちのせいだよ!ろくに説明も話しもしないで、一方的にシンジにだけ責任を押し付けて!しかもナニアレ!?傷だらけの女の子をシンジの前に連れてきて、シンジの良心に付け入ろうとするようなあの演出!!アイツらに人の心とか無いんか!?外道!鬼畜!悪魔!』

 

ここが病室だということもお構いなしにそう喚き散らす少女だったが、しかし彼女の声に気づく者はいない。すぐ傍で眠っているシンジもまた、ギャーギャーと騒ぐ少女の声には気づかない。

 

そう、少女は生きている人間には見ることも触れることもできない異質な存在。既にその命を落としてしまった、哀れな亡霊。

 

その少女の名は、祈本リカ。

 

不運にも二度の交通事故によって死を経験した、この世界のイレギュラー_即ち転生者である。

名前から分かる通り、彼女はかの人気漫画【呪術廻戦】に登場する特級過呪怨霊”祈本里香”へと転生した、この世界の外から流れ着いた人間である。というのも、彼女の転生したこの世界は【呪術廻戦】とはまた異なる作品の世界であり、本人もそれを認識している。ちなみに、彼女は今世で齢11歳という若さで死亡しており、前世と今世の死因はどちらも交通事故に遭って頭をぐしゃっと潰されての即死であった。

 

そんな彼女は一人残してしまった幼馴染であるシンジのことが心配になり、成仏せずにこれまでずっと健気にもシンジの傍で見守って__『あのさ、さっきからベラベラとずっと何喋ってんの?いい加減うるさいんだけど!』

 

 

 

__……え、えぇ!?いや、なにこっちに干渉してきてるんですか!?やめてくださいよ、色んな意味でマズいから!

『んなの知ったこっちゃないよ!こっちは昨日からずっとむしゃくしゃしてるんだからそっちの事情なんか知るわけないね!あとなんか聞き捨てならなかったから言わせてもらうけど、私は別に哀れでも健気でもないからぁああ!!勝手に私のこと分かった気で喋らないでもらえるかなぁああ!?』

__えぇ……、そんなこと言われても、あなたと彼は死に別れた幼馴染って関係なんだから間違ってもないでしょう?彼を見てよ。目の下に深いクマ作っちゃってるじゃないですか。あなたが死んだせいで精神に致命的ダメージが入っちゃってるんですよ。

『ぐぼあっ!?……き、貴様!的確に痛いところついてきやがって!私だって、私だってねぇ!死なないように気を付けてたんだよぉ!交通安全教室には真面目に参加したし、防犯ブザーとか反射板とかも常備してたし、心霊スポットには絶対に近づかなかったし、ありとあらゆる危険から身を遠ざけていたのにさぁ!なんか助走付けてタックルされたみたいな強い衝撃に背中押されてそのまま青信号の車道に飛び出しちゃってキキーッドン!!だよ!?さすがに理不尽過ぎないか!?』

__そんなこと言われましても……(何この子、怖い)……。

『あ”ん?さてはお前か?お前がこの世界の神とか修正力とかなのか?お前が私を無理矢理転生させた上に即頭パッカーンとさせたクソ神なのかぁあ!?』

__違いますけど!?あなたの死に関しては本当に無関係だから!

『だったら証拠出してみろよぉお!お前が無実だって証拠をよぉお!!』

__もう嫌だよ怖いこの子!何でもいいから早く起きてよぉお!

 

 

 

「……ん…………?」

『ッ!?シンジ!!』

 

その時、眠っているはずのシンジの口から吐息と共に微かに声が漏れた。それを聞き逃さなかったリカがバッと振り返り、シンジの眠るベッドの横に張り付いた。

リカは今にも目覚めそうなシンジの顔を覗き込む。彼の表情はジワジワと苦し気に歪められている。どうやら悪夢を見ているのか、ひどく魘されているようだ。そんな彼の身を案じたリカは、自分の声が届かないと分かっていてもシンジの名をもう一度呼ぼうとした、その時だった。

 

「はぁっ…………!?」

 

シンジは先程までぐっすり眠っていたのが嘘のように勢いよく目を開いた。じっとりと汗が浮かんでいるその顔は恐怖で歪んでいたが、今まで見ていたものがただの悪夢だったのだと悟った瞬間、すぐに冷静さを取り戻した。ベッドに仰向けになったまま見上げた天井は、彼にとっては見慣れない天井だった。

 

「……知らない天井だ。」

『あ、その台詞知ってる。えっ、もしかしてシンジが元ネタの台詞なの!?』

「………………え?」

『…………え?』

 

変なところでビックリしているリカと、仰向けのまま目を動かしてリカを見るシンジ。

両者の口からひどく間抜けな声が漏れた。

 

「…………リカ、ちゃん?」

『…………シンジ?えっウソ、ひょっとして見えてる?』

「…………うん。」

『…………マジっすか。』

 

愕然とした様子であんぐりと口を開けるリカ。そんな彼女の顔を見て、シンジは「ハハ……」と乾いた笑みを浮かべた。

 

「僕、まだ夢を見てるのかな……リカちゃんが生きてる。そんなはずないよね、リカちゃんは、僕の目の前で交通事故に遭って、死んじゃったんだから。」

『ゔっ……それはその、私にもどうしようもなかったっていうか……。』

「謝らないでよ、リカちゃん。それより、せっかく夢の中で会えたんだ。僕、リカちゃんと話したいことがたくさんあるんだ。」

『うん、それはぜひ聞かせてほしいな。でもねシンジさん、驚くかもしれませんがなんとこれ、夢じゃないんですよ。』

「え……本当に?」

『うん、本当に。』

 

リカはそう言うとシンジの手を取った。交通事故で命を落とした後も、独りになったシンジのことが心配だったリカは呪霊へと変じ、傍で見守ろうと彼女は常に彼の近くにいた。その時にも、彼女の方から触れようと思えばいつでもそれは可能だった。しかし、死んで呪霊となった自分が生きているシンジに深く干渉するのは良くないと考え、彼女は今までシンジとの接触を避けていた。

だが、どういう訳か今のシンジにはリカの姿が見えている。呪力と言うより呪術の概念そのものが存在しないこの世界で、非術師であるシンジに姿が見えて、声を聴いてもらえた。その瞬間、リカは自身を縛っていた「シンジとの接触の禁止」を解き、あの日から大きくなったシンジの手と時間の止まった己の手を重ね合わせた。

そしてしばし互いに見つめ合った後、リカは思いっきりシンジの手の甲を抓った。

 

「イダダダダダダダダ!?」

『ほらね、夢じゃないでしょ?』

「わ、分かったから!リカちゃん離して!?痛すぎるよ!」

 

シンジの必死の懇願を聞き入れたリカは名残惜し気に彼の手を解放した。尤も、手が赤くなるほどに強く抓られたシンジは雰囲気だとか情緒だとか、そんなものを気にしている余裕など全く無かったが。

 

「いった~~……リカちゃん!本気で抓ったでしょ!」

『そうだけど?目はちゃんと覚めた?』

「おかげさまで!ホントにもう、リカちゃんは加減てものを知らないんだから!」

 

そう涙目に抗議するシンジだったが、頬を伝う涙は痛みによるものではなくなっていた。悲鳴を噛み殺していた口元は次第に嗚咽を漏らし始め、赤く腫れた手をもう一度リカの小さな手に伸ばした。

 

「本当に、リカちゃんなんだね。」

『そうだってさっきから言ってるでしょ?』

「うん、そうだね。……もう一度、会いたかったよ。」

『私も、もう一回シンジとお話ししたかったよ。』

「リカちゃんッ。」

『シンジ。』

 

二人は互いに強く抱きしめ合った。

二人を永遠に引き裂いた、あの日の交通事故から3年。もう叶わないと思っていたはずの再会を、二人はしっかりと噛みしめたのだった。

 

「リカちゃん、僕、リカちゃんに話したいことがたくさんあるんだ。」

『うん、聞かせて。私もシンジに話したいことがあるから。』

 

二人は大粒の涙を流しながらも、互いに笑みを浮かべて昔話に花を咲かせた。

シンジのベッドのナースコールが押されるのは、もう少し先になりそうだ。

 

 

 

 

 

______________

______________

______________

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、リカちゃんはその、”呪霊”っていうのになってから、ずっと僕の傍にいたってこと?」

『そういうこと。』

 

シンジが目覚めてから2時間が過ぎただろうか。二人は時が過ぎるのも忘れてベッドの上でお喋りを続けていた。

そして、シンジは今のリカの状態について本人の口から直接聞かされていた。

”呪霊”__それは人の負の感情が寄り集まった澱みから発生する”呪い”とも呼ばれる存在。世間一般では悪霊だとか妖怪だとかで言い伝えられている化け物であり、人とは決して相いれない人類の敵である。

だが、一部例外として特定の人物に憑りつくなどして危害を加えるどころか身の周りの危険から守ってくれたりする存在がいる。俗にいう守護霊的な存在である。リカはまさにその例外に当たり、碇シンジに憑りついた特級過呪怨霊だった。しかしまあ、その呪いの発生源や拠り所が他の一般的な呪霊と少しばかり毛色が違うだけで、結局は人間を呪うことに生きがいを見出す呪いでしかない。リカの場合はそれがシンジにとって悪影響にはならず、またリカに人間としての自我が残っていたためにセーフだっただけである。つまり、「リカはシンジの事が大大大好きだから、シンジをイジメる奴はボコボコにしてロッカーに詰めるね☆」ということである。シンジ以外の人間には「危険!接触厳禁!」という注意喚起が必要である。

リカはその事実や呪霊の性質についてまで、詳しくシンジに説明した。大好きな幼馴染である彼に化け物だと怖がられてしまうのではという不安は普段からバイオレンスな彼女にもさすがにあった。それでも彼女はそんな自分勝手な理由で秘密にするのは不誠実だと考え、シンジなら大丈夫だという信用を以て打ち明けた。

まるで何でもないことのように振舞いながら話した彼女は、不安に揺れる瞳でチラッとシンジの様子を覗き見た。すると彼女の目には、優しい目でリカを受け入れるシンジの姿があった。

 

「そっか。ずっと傍にいてくれてたんだ。嬉しいな。僕は独りじゃなかったんだ。」

『……シンジは、私のこと怖くない?』

「怖くなんか無いよ。その……リカちゃんが怒ったときとか、よく分からないことを騒いでた時はちょっと怖かったけど……。それもひっくるめて、リカちゃんは僕の知っているリカちゃんだから。これからもずっと傍にいて欲しいな。」

『シンジ……!それって告白じゃない?え、じゃあ同意と言うことで全力で呪っちゃっていい?』

「ぜ、全力で呪われたらどうなるの?」

『全身が呪いに侵されてグズグズに溶けて、ポロッと出てきた魂を私が取り込みます。もしくは半人間半呪霊のよく分からない存在になって意思疎通ができなくなったシンジを私が取り込んで同化します。』

「どちらにしろ同化するんじゃん!?それって死ぬってことだよね!?」

『いいえ、シンジは私の中で永遠に生き続ける(意味深)のです。死ぬというのとはまた違います。』

「何がどう違うのか分からないけど……ごめん、気持ちだけ頂くね。」

『シンジに振られた!?きっと新天地に来てすぐに私よりも可愛い子見つけたんだ!シンジの浮気者!その女マジぶっ殺!!』

「違うからね!?勝手に妄想膨らませないで!?」

 

シンジは突然癇癪を起こしたリカを宥めつつ、その騒々しさに懐かしいものを感じてホロリと涙を流した。3年前に目の前で死んだリカが再び現れたこととか、呪霊という不思議な存在に生まれ変わったこととか、初の戦闘明けであるシンジには全てを受け止めきるには過剰な情報量だった。

だが、イマイチ実感の湧かないままだった彼だが、相変わらず元気いっぱいな幼馴染の姿を見て、シンジは胸に空いていた穴が僅かにでも温かいもので埋めることができたように感じたのだった。

 

 




「そう言えば、僕はよくリカちゃんの家にお泊りに行ったことがあったね。」
『あったね~。あの時のシンジ、明らかに女の子の部屋に慣れてなくて、反応がめちゃくちゃ可愛かったな~。』
「だ、だってしょうがないじゃん!女の子の部屋なんて行く機会なんか無いし、まして好きな子の部屋なんだから……………。」
『あれあれ?シンジは大きくなっても可愛いな~。…………あれ、そう言えば、シンジはこの街にいる間はどこで寝泊まりするの?』
「え?あぁ、そう言えば確かに。どこかのマンションとかで部屋を借りることになる、かな?」

次回【ようこそ!葛城家へ!!】

『___ッ!!シンジに忍び寄る酒臭い破廉恥女の気配を察知!シンジの貞操は私が守る!!!』
「リカちゃん!?急に何言ってるの!?」



読んでいただきありがとうございます。
書き溜めするかしないか考え中ですが、多分続きません。
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