祈本リカの乙骨シンジ育成計画   作:NARです。

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こんにちは、NARです。
続かないと言って本当に続かなくなると思いましたか?安心してください。のんびりしてただけです。(申し訳ございません)

書く時間と気力が確保できましたので、その勢いのまま書き出しました。

こんな二次小説ですが、読みに来てくださる方には感謝しかないです。感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
それでは、本編へどうぞ。


ようこそ!葛城家へ!

第三新東京市に攻めてきた使徒、サキエルはエヴァンゲリオン初号機_というより完全顕現したリカによって撃破された。

 

そして、喧嘩もしたことが無かったシンジは初の実戦で心身ともに疲弊して気を失い、後日にジオフロント内の病院で目を覚ました。すると、何故か視認も接触も可能になったリカと3年ぶりの再会を果たした。

悲劇的な別れを経験した二人は直ぐに医者を呼ぶことはせず、失った時間を取り戻すように昔話を楽しんだのだった。

 

なお、巡回していた看護師さんに起きているのが見つかって、「起きたなら呼んでください!」と叱られたのだった。

 

 

 

点滴やセンサーの類を外されて自由に歩き回れるようになったシンジは、リカと共に病院の廊下の窓からジオフロントの景色を眺めていた。

先程までのお喋りを楽しんでいた時とは打って変わり、窓に手を触れるシンジの表情は芳しくない。おそらく、自分がいる場所がどこなのかというのを認識し、そこから連想してあの使徒と戦った夜を思い出したのかもしれない。何の訓練も無しにまともに動かないロボットに乗せられ、そのまま怪物の前に出されて一方的に痛めつけられたのだ。その時の激痛と恐怖を思い出せば、子供だろうが大人だろうが関係なく、精神に過剰な負荷がかかるのは想像に容易いはずだ。

リカはそんなシンジの恐怖を察し、ダラリと垂れていた片方の手を取って握った。その手に人の温もりは無く、呪い特有のひんやりとした冷たさがシンジの手に伝わるが、子供らしい柔らかな手の感触がシンジの心を僅かにだが解してくれた。

 

「ありがとう、リカちゃん。」

『どういたしまして。』

 

リカの小さな手を握り返して安心したシンジに、リカは笑いかけた。

その時、静かな院内にカラカラと車輪が転がる軽快な音が響いた。その音は徐々にシンジ達の方に近づいてくる。

音のした方に興味が向いたシンジはチラッと廊下の向こうへ視線を動かした。すると思った通り、奥から近づいて来ていたのは患者を乗せたストレッチャーの音だった。医者や看護師たちが押すストレッチャーは、シンジとリカの横を通り過ぎていく。

シンジはなんとなく、ストレッチャーに寝かされていた患者の姿を目で追った。だがそこに寝かされていたのは、なんとエヴァ初号機へ乗るように迫られた時に出会った、青髪の少女_綾波レイだった。彼女はあの日と同じく体の至る所に包帯が巻かれており、変わらず痛々しい姿のままだった。

 

「…………。」

『シンジ?あの子が気になるの?』

「え!?いや、その……うん、気になる、かな。」

『だよね。私も気になる。なんで入院着じゃなくてピチピチスーツ姿なんだろ?エッチ過ぎない?』

「気になるってそこじゃないよ!?いや、リカちゃんの指摘は尤もではあるけど!」

『ふふ、冗談だよ。可哀そうだよね、あんな傷だらけで。あの時は起き上がるのも辛そうだったのに無理矢理あのエヴァンゲリオンとかいうロボットに乗せられそうになって。』

「そうだね。結局、僕は本当にただ乗っただけだったけど、あのまま帰らずに乗って良かったとは思う、かな。」

『シンジってばカッコイイ!一応聞くけどあの子に目移りしたとかじゃないよね?』

「そんなんじゃないよ。だからその真っ黒な目でこっち見ないで!?リカちゃんのその目はホントに怖いから!」

 

そんな感じで終始二人だけで騒ぎながら、退院の準備をしに部屋へ戻り、着替えを終えるとロビーで手続きを済ませ、近くにあるソファに座った。どうやらシンジの迎えがもうすぐここへ来るらしく、二人は適当に喋りながらその迎えに来るという人物を待った。

 

『あ、そういえばだけど、私の声や姿ってシンジ以外には見えてないし聞こえていないはずだから、そこらへんよろしくね。』

「大分アバウトだなぁ。じゃあ、僕はリカちゃんがいない感じで振舞った方が良いってこと?」

 

そう言って確認するシンジは悲しそうに眉を寄せていた。シンジの中では、あの交通事故のこともあってリカがいなくなるというのはトラウマになってしまっていた。それ故に、例え演技だとしてもリカがいない風に振舞わなければならないというのはかなりのストレスに感じるらしかった。

そんなシンジの顔を見たリカは、耳をぺたんと垂れて瞳を潤ませる子犬の姿を幻視し、「おおよしよし!」とシンジの頭を抱え込んで撫で繰り回した。

 

『それはそうだけど、どっちかっていうと小声でお喋りしようねってこと!じゃないと、周りの人から見てシンジは何もない空間に向かって「なんでやねん!」ってツッコむ頭のおかしい人になっちゃうから!』

「僕、そんなベタベタな関西弁ツッコミしたことあったっけ?……でも、そっか。完全に喋っちゃダメってわけじゃないんだ。」

『そうそう、そういうこと。私もシンジとお喋りしたいから、(こうやってコソコソお喋りする感じで話そうね。)

(うん、分かった。……なんか、僕達だけでナイショ話してるみたいで、イイね。)

『おっふ、私のシンジマジ天使。』

 

頬を淡く染めながら気恥ずかしそうに声を潜めるシンジを直視したリカは、ドクンと強く脈打った無いはずの心臓を両手で押さえながらドス黒い呪力の血を吐いた。さらに、間近で感じるシンジの吐息のせいもあって、供給過多になったリカは真の意味で天に召されそうになった。

だが、全身が浄化されるような感覚を味わったところでリカは正気に戻り、吐血して口元に垂れている呪力をズゾゾゾッと啜って回収し、浄化しかけていた身体を呪力で補完した。そうして何とか落ち着きを取り戻したリカは『危ない危ない、うっかり昇天しちゃうとこだった』と冷や汗を拭った。

何はともあれ絵面はひどかったので、すぐ隣で心配しているシンジのフォローをしてほしい所である。というか、よくドン引きせずに純粋な心配ができるねシンジ君。

 

そんな感じで、コソコソしているはずなのに”見える”側の人間がこの場にいれば確実に悪目立ちしていたであろう二人の下へ、一人の大人が近づいていく。その気配を敏感に感じ取ったリカは、右隣に座るシンジから視線をずらして奥の方へと視線を移した。それに釣られて、シンジもリカと同様に近づいてきた大人へと目を向けた。しかし、ここに1人の大人がシンジを迎えに来ると伝えられていたことと、実際に現れたその者が誰なのかを認識したことによって、リカは『げっ』と心底嫌そうな声を口から零した。

 

『アンタは、シンジを誘惑しようとした破廉恥女!!』

(リ、リカちゃん!?いきなり失礼過ぎるよ!?)

『だってあんなエッチな写真送ってきたんだし、事実じゃん!』

(だとしても言い過ぎだよ……。)

 

「お待たせ、シンジ君。」

 

リカの言動に頭を抱えるシンジへと、現れた大人_もとい葛城ミサトが声をかけた。まさか特級過呪怨霊に『未成年を狙った犯罪者予備軍』と決めつけられているとは露知らず、ミサトはフレンドリーな態度でシンジと会話し始めた。

 

「どうしたの?何かコソコソしてるみたいだったけど?」

「えぇっ!?い、いや~その……なんでもない、ですよ?」

「本当に〜?」

 

そう言って探るようなミサトの視線から、シンジは愛想笑いを浮かべて逃れようとする。そんな彼の周囲には誰もいないのを確認し、ミサトは不思議そうに首を傾げた。

 

「ま、そんなことより、これからの話をしましょっか、シンジ君?」

『お”ぉ”ん?”これからの話”?』

「(リカちゃん一旦落ち着こう!?)___えっと、これからの話って言うのは?」

「そりゃぁもちろん、シンジ君の住む場所に決まってるでしょ?」

 

ミサトはバチコーンとウィンクを決めながらそう告げた。途端に、ミサトに飛び掛かろうとしたリカをシンジが羽交い絞めにして抑え込みながら、「なるほど分かりました!」と早口でミサトに返事を返した。

突然、両腕を動かして()()を抑え込むような動きをし出したシンジにミサトは疑問符を乱舞させながらも、一先ず横に置いておくことにしたらしい。まるで何も気づいていないような態度で「それじゃ行こっか」とシンジを先導した。

 

ミサトが先を歩きだしたことで落ち着く時間を得たシンジはふぅと息を吐き出した。しかし、彼の受難はまだ終わってはいなかった。

 

 

 

 

 

ミサトとシンジの間に距離が空いたことでリカは理性を取り戻し、ひと時の休息を得られたシンジ。病院の出口へ向かうため、エレベーターを待ちながら位置を示すランプを静かに目で追っていた。

だが、待っていたエレベーターの扉がチンと軽快な音と共に開くと、エレベーターの中には予想外にしてタイミングの悪い相手が乗っていた。

 

室内であるにかかわらず掛けているオレンジがかった濃いサングラス。

顎を囲うように整えられた黒い髭。

他を威圧するような厳つい顔立ち。

ネルフの総司令官として着用している黒い制服。

 

他でもない、シンジの父親である碇ゲンドウであった。

完全に想定外の遭遇を果たしてしまったシンジは、しばし父親と見つめ合う。そしてようやく目の前の人物が誰なのかを認識したところで、シンジは初号機の格納されていたケージでの会話を思い出し、顔を顰めて目線を逸らした。

 

嫌な沈黙が場に落ちる。しかし、そこへ相変わらず空気の読めない声が割り込んだ。

 

『あ~!!アンタはシンジのクソ親父!!その面一発殴らせろ~!!』

(リカちゃん!?)

 

さっきまで大人しくしていたはずのリカが突如として袖を捲りあげ、拳を振り上げてゲンドウに襲い掛かった!咄嗟にシンジは飛び出してきたリカを再び羽交い絞めにし、暴走するリカを抑え込みにかかった。

 

(リカちゃん!さすがに暴力はダメだって!)

『何言ってんのシンジ!コイツは自分の息子であるシンジを無理矢理戦場に立たせたんだよ!一発殴っとかなきゃ気が済まないよ!!』

(リカちゃんの言ってることは分かるけど!みんなに見えてないリカちゃんがここで父さんを殴っちゃったら絶対変なことになっちゃうよ!)

『むしろ見えてないからこそヤリ放題なわけって話よ。』

(モラルをドブにでも捨ててきちゃったのリカちゃん!?)

 

白目を向いて絶叫¹をあげるシンジに対し、リカは「何を言っているんだねチミは?呪いにモラルなんぞあるわけないだろう?」と言いたげな顔を向けた。眉根を寄せて肩を竦めたその表情はシンプルにウザイ。

そんな口論を小声で対応し続けるという器用なことをしているシンジだったが、悲しいことにいくら小声で喋っていたとしても人前でやってしまってはほとんど意味をなさない。

そんなリカとシンジの攻防を目の当たりにしたゲンドウは、「なんか息子が突然独り芝居を始めたんだけど」と心の中で混乱する羽目になっていた。

なお、ゲンドウが混乱のし過ぎで「何をしている」とも聞けずに棒立ちするしかなかったおかげで、エレベーターの扉は邪魔されることなく自動的に閉まった。こうして、特級過呪怨霊に狙われていたゲンドウは、命の危機と奇行を取り始めた息子から無事に逃れることに成功したのだった。

 

『あぁ!?髭面が逃げちゃう!!』

(髭面!?)

「ぶふっ!?」

 

ちなみに割と近くにいたミサトは、小声で喋っているシンジの口から自身の上司であるゲンドウを指したと思われる言葉「髭面」を聞いてしまって噴き出してしまっていた。もしゲンドウがまだここにいたら、ミサトの今月の給与査定に特大ペナルティが入っていたかもしれなかった。

 

そうしてシンジたちのいる階から遠ざかっていくゲンドウ。閉じられてしまったエレベーターを睨むリカはひどく残念そうに溜息を吐いた。

 

『あ~あ、逃げられちゃった……。』

(リカちゃん、僕のために怒ってくれるのは嬉しいんだけど、お願いだからもう少しだけ落ち着いてよ。”他の人に変に見られないようにしよう”って言ったのはリカちゃんなんだから。)

『は~い。じゃ、今はこれくらいで勘弁してあげよ。』

 

リカはそう言うと両手の指先を緩く伸ばし、上に昇っていったエレベーターに向けてゆらゆらと怪し気な動きをした。

 

(リカちゃん、何をしたの?)

『あいつが次に髭を剃る時に右半分だけゴッソリ剃れてしまう呪いをかけた。』

 

そう言って得意げに胸を張るリカ。呪いという言葉に不穏な響きを感じたシンジだったが、「まあそのくらいの内容なら」とリカを許したのだった。

こっそり心の中で父親に対し、「どんな有様になるのか楽しみ」という感情が湧き出たのは彼のみぞ知るところである。

 

 

 

そうしてなんやかんやあった一行だったが、各種の手続きを済ませるためにネルフ本部へやって来た。

すると、どうやらシンジの住む場所はもう既に決まっているらしく、第三新東京市地下F区という場所に部屋が割り当てられているらしい。

これに対し、シンジは特に反対意見は無かった。もし関係の拗れてしまっている父親や、全く知らない初対面の誰かと共同で住まなければならないようなら硬く身構えるなり部屋を変えてもらうなりしていたかもしれないが、普通にシンジ一人のために部屋が用意されているそうなのでシンジとしては満足であった。むしろ、呪霊となってしまったリカと誰の目も気にせず一緒に暮らすことができるなら願っても無い話だと彼は考えているらしい。

「大好きな幼馴染との同棲生活」_そんな甘美な響きが脳裏を過ったシンジは僅かに赤くなった顔を隠すように逸らし、その隣でワクワクと期待を膨らませるリカの姿があった。

一方、そんな二人の事情などなんにも知らないミサトは、「子供が窮屈な地下の部屋で一人暮らし」という状況に思うところがあったらしい。眉根を寄せ、シンジに心配の念を込めて問いかけた。

 

「それでいいの、シンジ君?」

「え?あ、はい。えっとその……、僕は一人の方が好きなので。」

 

ミサトの気遣うような視線に気づいたシンジは、まさか「死んで呪霊となった幼馴染と一緒に暮らすんで大丈夫です。」なんて言う訳にもいかなかったため、適当な理由を付けて答えた。

その、「何て言って誤魔化そうか?」と考えた一瞬の隙を、もしくは彼の咄嗟に思いついた言い訳をどう捉えてしまったのか、ミサトは何かを決意した様子でシンジを見つめ、そしてシンジとリカの想像していなかった行動に彼女は出た。

 

 

それ即ち、「シンジ君はアタシんとこで引き取ることにしたから!」である。

 

 

それを電話越しに聞かされた赤城博士は「いつかやるんじゃないと思っていたわ。」と昼間のニュースに流れてそうなコメントを残したそうな。

哀れ、ミサトはリカに特別偏見を持たれていたわけではなく、昔馴染みの友人からも信用されていなかったようだ。

 

 

 

 

 

ミサトの愛車アルピーヌ・ルノーに乗ってネルフを出た一行。

その車内は、シンジにとって地獄ともいえる空気となっていた。

 

運転席に座るのは、鼻歌を歌いながらハンドルを握る葛城ミサト。そして助手席に座るのは、いつの間にか葛城家への入居が決まってしまっていた碇シンジ。最後に、シンジの膝の上で彼に拘束されている”特級過呪怨霊”祈本リカ。リカはネルフを出た時から、ずっとシンジの膝の上でガルルルッと牙を剝き出しにしてミサトを威嚇し続けていた。

 

「シンジの居住先を葛城家へ変更」が決定したことを聞かされた瞬間は、ソレはもう大変だった。

今までは「幼女の姿でちょっとお仕置きしてやろう」という程度で加減していたリカが、割とガチ目にキレてしまったからだ。その結果どうなったかというと____

 

___祈本リカ 26秒の完全顕現

 

本性を露わにしてガチギレしてしまった。

 

これにはさすがのシンジも腰を抜かしてしまった。昔の記憶のままの可愛らしかった幼馴染が、突然あの使徒と戦った夜に現れた巨大な怪物へと変貌したのだから無理もない話である。

しかし、ブチギレたリカがミサトに襲い掛かろうとしたのを見て、「これは冗談では済まない」と察したシンジがリカに飛びついて怒りを収めるように必死の形相で訴えた。

 

果たして、それは限りなく正解と言える行動であった。

 

クッキーを指先で割るように、アスファルトを容易く砕くことができる自身の怪力を自覚しているリカは、大事な存在であるシンジが傍にいる状態で自分が暴れればどうなってしまうかを容易に想像することができた。故に、シンジを傷つけるわけにはいかないと、沸騰してしまっていた理性を落ち着かせてなんとか怒りを収めるに至ったのである。

ちなみに、暴力で制裁が加えられないなら呪ってしまおうかと、割とシャレにならない内容の呪いをミサトに掛けようとしたが、シンジがリカを羽交い絞め(抱きしめ)しながら説得したことでとりあえず矛を完全に収めてくれた。

 

なお、祈本リカは『シンジが全身を使って止めに来てくれることに、決して味を占めたわけではない。』などと供述している。被告人の発言は、信用性が限りなく低いと思われる。

 

そんなわけで、一先ず怒りを収めて大人しくなってくれたリカであったが、もしシンジが彼女の拘束を一瞬でも緩めようものなら、目にも止まらぬ速さで抜け出してミサトに襲い掛かることだろう。即ち、シンジはいつ爆発するかも分からないN2兵器を抱えながら、いつ終わるかも分からない見張りを続けなければならないという訳だ。

それくらいには、リカのミサトを見る目つきはヤバかった。

 

(ずっとこのままにしてたら、いつかリカちゃんは本当にミサトさんを殺してしまうかもしれない。どうにかして、リカちゃんの怒りを紛らわせないと…………。)

 

四六時中リカの暴走を見張り続けるなんてことは不可能だと早々に気づいた彼は、リカの燃え続けている怒りをどうにかして鎮めようという考えに至った。そこで彼は時々話しかけてくるミサトに曖昧な返事を返しつつ、具体的な手段について思考を巡らせ始めた。シンジはそのまま『新たな同居人(碇シンジ)の歓迎会』のための食べ物や飲み物を買おうと途中でコンビニに寄った時も考え続け、その様子を見ていたミサトは何かを考えついた素振りを見せた。

 

やがて買い物を終えた一行は再び車に乗って夕暮れに染まった帰り道を行く。

しかし、「ちょっち見せたいものがあるの」と言ったミサトによって、三人を乗せた車はしばしの寄り道をすることになった。

そうしてやって来たのは、赤い夕日に照らされた第三新東京市を一望できる峠道だった。三人は路肩に止めた車から降りると、そこから見える景色へと目を向けた。

地下にあるジオフロントに光を送る縦長の巨大な鏡_採光ビルが芦ノ湖のほとりに立ち並び、手前には地面ではなく無機質な金属に覆われた正方形の広大な空き地が整然と並んでいた。さらに周囲はほとんど山に囲まれており、点々と建ち並ぶ民家や背の低い建物しか見えず、特徴的な施設こそ見られるものの十分に田舎と言えるような街だ。

かつての日本の中枢都市の名を持つにしては閑散とした風景が、そこに広がっていた。

 

「これが見せたいもの?」と内心で首を傾げていたシンジ。だが、街中にサイレンが鳴り響いた後、正方形の空き地が開いていくつもの高層ビルが一斉に生えてきた。

その予想だにしていなかった光景にシンジと、ついでにリカが目を見開いて固まっている内に、数分前まで寂れた田舎のように見えた街は大都市と言うに相応しい姿へと早変わりした。

 

地下の格納庫から地上へ出されたビルに灯りがつく。それに続くように他のビルや民家にも灯りが広がっていき、人の営みが日の沈んだ街を照らしだした。

そんな街の様子に釘付けになっていたシンジへと、隣で一緒に街を眺めていたミサトが言った。

 

「すごいでしょ?これが使徒迎撃用要塞都市_第三新東京市。私たちの街よ。

 

__そして、あなたが守った街。」

 

その言葉に、シンジはミサトの方へ顔を向けた。

きっと、ミサトは彼女なりにシンジのことを労わろうとしてこの景色を見せたのだろう。不安なこと、恐ろしいこと、分からないことがいっぱいで、それでもエヴァンゲリオンに乗ってくれた少年への感謝と励ましの言葉だった。

 

対して、言葉をかけられているシンジはと言うと___

 

(いや、実際に戦って守ってくれたのはリカちゃんなんだけどなぁ……。)

 

シンジは何とも言えない表情でミサトから視線を逸らし、隣でダブルピースを掲げるリカに苦笑を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

そんなやり取りがあった後、車に戻った一行はミサトの住むマンション_コンフォート17へと到着した。

他人の家ということもあって緊張していたシンジは、家主であるミサトに促されて「た、ただいま」と気恥ずかしそうに言い、マンションの一室_葛城家の扉を潜った。

 

なお、和やかな時間だったのはその時までだった。

 

「ちょっち散らかってるけど、気にしないでね。」

「……これが、」

『”ちょっち”……?』

 

シンジとリカは葛城家の惨状を目にして、思わず絶句してしまった。

__玄関を開けると、何週間も放置されたと思われるゴミ袋が廊下を占領し、実質一人しか通ることのできない狭さ。

__廊下を抜けた先のダイニングにも、同じようなゴミ袋が散乱し、ビールの空き缶や酒瓶が床を埋め尽くしており、通るためには爪先立ちにならなければいけません。

__さらに台所は、汚れの残った食器や食後のカップ麺の容器などが山を作り、片づけられる時を今か今かと待ち続けているような状態です。

 

__そこで立ち上がったのは、炊事・洗濯・掃除など、ありとあらゆる家事をオールラウンダーに熟す二人の子供。

__限られた時間と相談し、全員が落ち着いて夕食を取れるような空間へと生まれ変わらせます。

__分別されていないゴミを適切に仕分け、翌朝にゴミステーションへ持って行けるように。

__脱ぎっぱなしの衣類は洗濯機へと押し込み、台所の食器やインスタントの容器は洗って乾かし、今日の夕食後もスムーズに片づけられるように空間を確保していきます。

 

そして20分後、完成した住まいは___

 

__歩き抜けるには爪先立ちをしなければならなかった床からゴミが取り除かれ、隠れていた綺麗なカーペットが現れました。

__部屋に散らかっていたゴミはそれぞれ分別されて玄関前に置かれ、明日の朝にゴミステーションへ出し忘れる心配もありません。

__使用済みの食器に場所を奪われていた台所も整理整頓され、もう一度かつての役割を取り戻すことができました。

 

以下、功労者二人のコメント。

「最初は、その、部屋がすごい状態でびっくりしたけど、リカちゃんが掃除に夢中になってくれたおかげで落ち着いてくれたみたいなので、良かったです。」

「女の、それもシンジに手を出そうとしている²ヤツの部屋を掃除しなくちゃいけないなんてめちゃくちゃ嫌だったけど、収穫(弱点)はちゃんとあった(見つけられた)から良かったよ。」(にやっと笑いながらビールの空き缶を握り潰す)

 

ちなみに、肝心の家主は邪魔になるゴミだけ退けて買って来た食事をレンジで温めていたそうな……。

 

さて、まだ完璧ではないが落ち着いて食事のできる状態に片付いたため、3人はテーブルに座って夕食兼『新たな同居人(碇シンジ)の歓迎会』が始まった。

 

「いっただっきまーす!」

 

そう言って開幕早々に缶ビールを開けて一気に喉へ流し込むミサト。その対面に座るシンジは、テーブルに並ぶ弁当やバックご飯、おでんなどの総菜といったメニューに戸惑いながらも、ミサトの飲みっぷりに圧倒された。

 

「ぷっはーっ、くうぅ!!やっぱ人生、この時のために生きてるようなもんよね~!」

『酒くっさ。』

「あはは……。」

 

相変わらず辛口なリカに苦笑しつつ、隣に座る彼女へシンジは話しかけた。

 

(今更だけど、リカちゃんは何も食べないの?)

『うん、食べないよ。別にお腹とか減らないし。あっ、でもシンジが「あ~ん」してくれるなら食べたくなるかも?』

(リ、リカちゃん///……そういうのは、できればその、二人っきりの時とかで……。)

『マジか(迫真)。じゃあこれ、後で部屋で一緒に食べよっか!』

 

そう言ってリカはテーブルの上にあった菓子パンを一つこっそりと取って、ゴソゴソと服の下に隠した。そんな彼女の楽しそうな様子を見て、シンジは嬉しいやら恥ずかしいやらで挙動がおかしなことになりかけていた。

すると、対面に座るミサトはシンジがまだ食事に手を付けていないのに気づき、首を傾げた。

 

「食べないの?結構美味いわよ?」

「……え?あ、その、こういう食事(久しぶり過ぎて)慣れてなくて……。」

「ダメよ!好き嫌いしちゃあ!!」

「わっ!?ミ、ミサトさん?えっと、別に好き嫌いとかは無いですよ。」

 

ヒソヒソと小声で話していたとはいえ、うっかり人前でリカと会話してしまっていたシンジはミサトの声に驚いたが、次にミサトの口から出た言葉に目を見開いた。

 

「楽しいでしょ?他の人と食事するの。」

「他の人と……そう、ですね。楽しいとは思います。あと、懐かしいなって。」

「懐かしい?」

 

シンジの意味深な言葉に首を傾げたミサトだったが、シンジの首から下げられている指輪を目にして、シンジの言っている意味を悟った。

 

「……そう。地元でも、一緒にご飯を食べる人がいたのね?」

「はい。いつも騒がしくて、よく分からないことばっかり言う変な子でしたけど……いつのまにか僕もその子と一緒に騒いじゃうような感じで。気が付いたらずっと一緒にいたんです。」

 

そう思い出を語るシンジの隣で『私が、変な子?』と自分自身を指して困惑するリカにシンジは密かに苦笑し頷く。

すると、彼の話を聞いていたミサトは遠くを見るような瞳で相槌を打った。

 

「いいわねぇ。青春、っていうにはまだちょっち早いのかもしれないけど、シンジ君にもそういう相手がいたのね。」

「あはは、そうやって人から言われると、ちょっと恥ずかしいです。」

「これくらいで恥ずかしがってちゃダメよ~?大人はみ~んな何かしらの恥を抱えて生きてんだから!」

「なら、ミサトさんも何かあるんですか?」

「私は~…………やっぱ何でもない。」

「えっ、ウソでしょ!?ミサトさんだけズルくないですか!?」

「シンジ君、覚えときなさい。大人ってのはズルくて卑怯な生き物なのよ!」

 

シンジの非難の声に対し、ミサトは缶ビール片手にそう言って逃げた。

最初こそ、使徒との戦いや父親のこと、リカの暴走と色んな事があったが、気が付けば二人は食事を囲みながら語り合い、冗談を飛ばし、そして笑っていた。

 

そんな平和な一時をすぐ近くで静かに見守っていたリカは、若干の寂しさを感じながらも、笑って食事をするシンジの横顔を嬉しそうに見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

____夜。

 

葛城家のもう一人の住人_温泉ペンギンのペンペンに驚き、その拍子にミサトに全裸を見られてしまうというハプニングがあったものの、無事に入浴を終えたシンジはミサトに割り当てられた部屋へと入って行った。

 

(それじゃ、リカちゃん。先に部屋にいるからね?)

『りょーかい。すぐ行くから待っててね!』

 

リカはそう言うと、部屋に入っていくシンジを手を振って見送った。そう、彼女は今回、片時も離れなかったシンジの傍から敢えて離れるという行動に出ていた。

その理由をシンジに聞かれた時には『私もお風呂に入りたいから!』と言って誤魔化した。「食事は必要ないのにお風呂はいるの?」と訝しんだシンジだったが、『幽霊になっても女の子はお風呂に入りたいものなの!』とリカに押し切られたために、「そういうものなのだろう」とシンジは納得してそれ以上を聞くことはなかった。

 

さて、リカがシンジと別行動を取った訳は、『お風呂に入りたいから』というものではない。

リカはとてとてと目的地に向かって歩き、テーブルの椅子を引いて、その上にちょこんと座った。

対面に座るのは言わずもがな、葛城ミサトである。

 

「………………。」

『………………。』

 

互いに沈黙が続く。椅子が”独りでに”動いたというのに驚いた様子を見せないミサトだが、決してアルコールで脳が出来上がっているという訳ではない。

ちびちびと缶ビールを飲んでいたミサトは静かにソレをテーブルに置く。そして、目の前の虚空に向かって口を開いた。

 

「そこにいるんでしょ、祈本リカちゃん?」

『あはっ、やっぱり気づいてたんだ。』

 

ミサトの問いかけに対し、リカは隠す気も無い様子で応じる。

そして、呪霊であるリカの声はシンジにしか聞こえないはずなのに、ミサトの聴覚は確かに”不気味に震える”少女の声を拾った。

 

この世界に呪術の概念は存在しない。すると当然、呪力を持つ人間も存在せず、誰も呪霊の声や姿を認識することはできない。

しかし、呪霊を認識できる理由が「五感が呪力による影響を受けているから」と仮定すれば、例え呪力を持たない人間相手でも呪霊を認識させる方法はあるかもしれない。

そして、リカはそれを今、実践することで証明した。

 

リカは今まで抑えていた呪力を解放し、目の前に座るミサトにまとわりつかせた。人間に対して猛毒である呪霊の呪いを「少し不快に感じる程度」にまで和らげ、聴覚に対して呪力で働きかけたのだ。

 

リカは両手で頬杖を突きながら、顔を強張らせているミサトにニヤニヤと歪な笑みを向けた。

 

『一体いつから気づいてたの?』

「確信を持ったのは、シンジ君を病院から車に乗せて走っていた時。私の隣で助手席に座っていたシンジ君は、ずっと私には見えない()()()を抱えているような格好をしていたわ。病院でも度々()()()を捕まえているような姿勢になっていたし、確実にシンジ君は他の人には見えないものが見えているんだと思ったわ。」

『それだけで呪れ……オホン、幽霊の存在を信じたの?』

「シンジ君にあなたの話を聞かせてもらっていたこと、そしてあの夜、攻めてきた使徒を倒した怪物をシンジ君が”リカちゃん”と呼んでいたこと。他にももしかしてと思うところはいくつかあったわ。だから、あなたの存在に気づけたの。」

『へ~。よく見てるんだね。さすが軍人さんってところかな?』

 

クスクスと笑うリカの声がミサトの鼓膜を揺さぶる。まるで右や左、或いは後ろからも声が聞こえているかのように音が反響し、背筋が凍るような感覚を覚える。それでも、彼女は対話を続けようと口を開く。

 

「あなたには、謝らなければいけないと思っているわ。あなたの大事な人を、私たちの都合に巻き込んでしまったから。本当にごめんなさい。」

『…………。』

「……だけど、シンジ君にはこれからもエヴァンゲリオンのパイロットとして、私達と一緒に使徒と戦ってもらわなくちゃいけないの。でないと、サードインパクトが起こって、私達人類は滅んでしまうわ。」

『…………。』

「許して欲しいとは言わない。恨んでくれてもいい。だからリカちゃん、人類の未来を守るために、シンジ君を私達に預けてくれないかしら。そしてできることなら、あなたの力も貸してもらえないかしら。」

『……………………。』

 

ミサトの誠心誠意を込めた懇願を聞いたリカ。しかし、彼女は黙ったままミサトに返事を返さない。声しか聴くことのできないミサトは、リカが今どんな表情をしているのか分からず、耳鳴りのするような静寂の中で人知れず固唾を呑み込んだ。

 

1分か10分か、もっと長い時が流れたような気もする中、天井の照明を見上げていたリカがようやっと口を開いた。

 

『……()()()は終わり?』

「え?」

 

天井を見上げていたリカが、ゆっくりとミサトに向かって視線を降ろす。

彼女の瞳に映るミサトの表情は、「言い訳」という言葉に困惑しているのか訝し気に眉を寄せていた。

それを見たリカの目が、鋭利な刃物のようにスッと細められた。

 

『「許して欲しいとは言わない」?「恨んでくれてもいい」?あんた何言ってんの?そういう話以前の問題でしょ。この際、サードインパクトを防ぐためにシンジの力が必要って言うのは百歩譲って良しとするよ。だけどさ、あんたたちはシンジに「エヴァンゲリオンに乗って命がけで戦ってください」ってお願いする立場ってことだよね?それなのに何アレ、言うに事を欠いて「乗りなさい」?あんた、シンジを都合のいい道具か何かだと思ってんの?』

 

リカが席を立ちあがる。すると同時にブワリと不穏な黒い風が吹き出し、部屋の室温が5度ほど下がったような錯覚をミサトは覚えた。息が徐々に乱れていき、視線は爪が食い込むほどに固く握りしめた両手へと落ちる。

リカはぐるりとテーブルを回りながら、ミサトの傍に向かって歩いていく。

 

『何か勘違いしているみたいだから言っておくけど、私はあくまでシンジの味方であって、それ以外はどうなろうと知ったこっちゃないの。私なら、たとえサードインパクトが起こってもシンジだけを守って生き永らえさせることができる。他の全人類が死んだとしてもね。』

 

『でもね、シンジは「それでいい」なんて言わない。シンジは臆病で泣いてばかりな男の子だったけど、とっても優しい子なの。だから、もし自分だけが生き残って他を全部見捨てたってなったら、きっとシンジは自分を責めて壊れちゃうかもしれない。』

 

『もっとストレートに言おっか?シンジ以外の全てはただの”ついで”で、助かったのは私の”気まぐれ”でしかないってこと。だから私があなたたちに力を貸す筋合いは無いし、貸すつもりもない。私の力はシンジを守るためだけにあるの。』

 

ミサトの背後まで来ると、リカは脂汗の滲むミサトの肩にそっと手を触れた。

 

その瞬間、ずっと視線を下げて”目を合わせない”ようにしていたミサトは、弾かれたように顔を上げた。

 

恐怖に歪む彼女の顔のすぐ隣に、青白い怪物の顔が闇の中から浮かび上がる。

 

『だからァァ、お前たちは子供を守る大人として、シンジのことをちゃんと考えて、しっかり守っていかなきゃダメなんだよォォ?あの時みたいにィ、全部シンジに丸投げしてェ、全部シンジの責任にするみたいなことをもう一度したらァ、………………

 

 

……その時は、リカがお前たちをみ~んな殺すから。

 

 

『分かったァ?』

 

 

「あ、っ……わ、かった、わ。」

 

喉をひくつかせながらも頷いて返事を返したミサトを見て、リカは満足したようにニィッと悍ましい笑みを浮かべた。

彼女の脅しともいえる宣言に対し、ミサトは頷いて同意を示した。これが呪術における契約「縛り」であったなら、ミサトはリカの提示した条件を何が何でも守らなければならない。さもなくば、「縛り」を破ったことに対するペナルティがミサトの身に降りかかることになる。

 

しかし、リカは敢えて縛りを結ばず、口約束だけにとどめた。

 

縛りのペナルティが降りかかる対象はどこまでで、どんな罰が与えられるのか。その明確なラインは原作で描写されていない。

ならばと、リカは詳細の分からない「縛り」に頼らず、一番確実な方法を選んだのだ。

 

(「縛り」のペナルティが降りかかるのがコイツ(葛城ミサト)だけじゃ意味がない。あの髭面親父(ゲンドウ)も、金髪女(赤城博士)も、他のネルフの人間とその関係者も、全員巻き込まないとダメ。___

 

 

__だったら、自分の手で直接殺した方が一番確実だよね!

 

 

リカはそう考えながら、ニコニコとした笑みを顔に浮かべていた。

その表情は、まさしく呪いというに相応しい不気味な笑みだった。

 

一通り満足したらしいリカは、パッと幼女形態に戻ってミサトから離れた。まるで自分をもう二人分背負っているかのような重圧を感じていた彼女は、リカのプレッシャーから解放されたことで思い出したかのように荒く呼吸を繰り返した。

 

『さて、お話はこれでおしまい!じゃ、私はシンジの部屋に行くから。せいぜい頑張ってね~。』

 

そう言ってスキップを踏みながらシンジの待っている部屋に向かおうとするリカ。

しかし、前を見ていなかったリカはドンッと何かにぶつかった。

 

『うわっ!?も~何にぶつかっ……た……?』

 

イラついた様子で自身の進路を塞いでいる”者”を見上げたリカ。そして、目の前に立っている人物が誰なのかを認識して、リカの顔がサァッと青くなった。

リカの前に立ち塞がっていた人物。それはなんと、部屋にいるはずのシンジだった。

 

「……リカちゃん。」

『シ、シンジ!?い、いつからここに?』

「……ミサトさんがリカちゃんに何か話していた辺りから。声が聞こえてきたから様子を見に来たんだよ。」

 

そう、リカは一つ失念していた。

交通事故で死亡してからおよそ三年もの間、リカは誰にも見えず、声も聴いてもらえない孤独の時間を過ごした。故に、『何喋っても誰にも気づかれねーべ!』と開き直った彼女は声量も考えずにべらべらと独り言を呟く癖がついてしまっていた。ソレはシンジと『コソコソお喋りする感じで』と病院で約束してから現在に至るまでのめちゃくちゃな言動でも分かる通りで、彼女は「今は自分の声が他人にも聞こえている」という事実をすっかり忘れて喋ってしまっていたのだ。

 

その結果、シンジに「幼馴染が人を脅迫している現場」を目撃されてしまったのである。

 

シンジは困ったような表情を浮かべるが、それでもリカを見つめる瞳に有無を言わせぬ絶対の意志を宿し、リカに話しかける。

 

「リカちゃん、僕のために色々と考えてくれてるのは嬉しいよ。だけど、何事にも限度って言うのがあるし、さすがにアレ(殺す)は言い過ぎだと思うよ。」

『うっ……ごめんなさい。』

「謝るのは僕じゃないよ。」

『ッ……ッッ!?……ぐっ!くぅっ!…………言い過ぎて、ごめん、なさいっ!』

 

リカはシンジに諭されて、ギリギリと歯を食いしばりながらミサトに頭を下げた。その隣でシンジも一緒に「すみません、ミサトさん」と頭を下げた。

 

そんな二人の姿を見たミサトは、先程までのシリアスな空気とのギャップの差に風邪を引いてしまったのだった。

 

 

 

 

¹
小声の範疇

²
彼女の勝手な妄想であり、事実とは異なります




「ミサトさん、大丈夫ですか?」
「全然大丈夫よ~。(厚手のパジャマ、頭に氷嚢、体温計は38℃)」
「全然大丈夫じゃなさそうですよ!?」
『へっ、ざまぁw』
「リカちゃん、次からは簡単に人を脅したりしないでね……。」
『はーい、以後気を付けまーす!』

次回【なんなのアイツゥ!?(切実な悲鳴)】

『ふぁ……ハックション!ぅあ?今、誰かが私たちの噂をしたような?』
「気のせいじゃないかな?」
(……指令になんて報告しよう?)グッタリ


読んでいただきありがとうございます。
思ったよりも長くなってしまったのは反省します。後先考えずに次回予告だけするのって危険ですね。
次回はいつになるかは分かりませんが、たぶん続きませんので、気長にお待ちください。
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