ラインフォルトの見習い使用人   作:まぎょっぺ

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更新詰まりまくっておいて未だオリエンテーリング終わらないとか……
モチベは回復したので今度は間を空けないようにしたい、継続的に書き続けられる人ってすごいと思い知らされました。


ユーシスの矜持

「ARCUS駆動、行きます!」

 

 エマの眼前に生じた拳大の炎が宙を舞いドローメを直撃し、着弾した火球は燃え広がると粘体生物を一瞬の内に致死範囲まで焼き焦がす。

 焼き払われたドローメの周囲に居た甲虫――コインビートルがその火勢を恐れるように散らばっていく、その内の一匹をラウラの剣が捉え両断した。

 残る三匹のコインビートルが反撃しようと一斉にラウラへ飛び掛かるが、彼女の魔獣の動きを読み切ったような最小限の体捌きとあるはずの重量を感じさせない滑らかな剣捌きで躱され、あるいは剣の腹に打ち飛ばされていく。

 襲撃を払いのけたラウラは剣を高く頭上に掲げると目の前直線に並ぶ形にされた甲虫達を睨み据えた。

 

「フゥ――」

 

 溜めをつくるような呼気、瞬後ラウラはキッと目を見開くと構えた両手剣を踏み込みながら全力で地に叩き付けるように振り下ろす。

 その一撃は目の前にいたコインビートルを圧し斬ったのみならず、刃先から衝撃波が迸り延長線上にいた二匹をも呑み込みその甲体を粉砕しながら吹き飛ばした。

 体内に巡る≪気≫を利用した剣技、広くは戦技(クラフト)とも呼ばれるその技によって地を這う魔獣を一掃したラウラの背後を二匹の飛び猫が抜けていく。

 狙われているのは後方にいたアリサとエマ、しかしラウラはそれを慌てることなく見送った。

 アーツを放ったエマより少し前に位置取っていたアリサと入れ替わるようにして最後方にいたルドルフが前に出てくる。

 立ち塞がる彼に対し飛び猫達が牙を剥き出し敵意を露わにするも、怯むことなくルドルフは拳を振るい、飛び猫の牙が届くより早く斜めに打ち下ろす手刀が一匹の首をへし折り、続くもう一匹の顔面をすれ違いざまに振り抜かれた正拳が小さな頭蓋ごと打ち砕く。

 

「アリサ」

 

「分かってるわ!」

 

 ARCUSに手をかけながらルドルフが発した呼びかけに応じたアリサは既に進路の先、交差路の角から体を覗かせアーツの準備姿勢に入っているドローメに弓の狙いをつけていた。

 矢をつがえる瞬間、アリサは導力弓に仕込まれた導力器に触れその機能を駆動させる。

 (やじり)の先に赤い揺らめきが生まれ、撃ち放たれた矢はその揺らめき――炎を纏いながら空を駆けドローメの粘体に突き刺さった。

 物質的な攻撃に対しては耐性のあるドローメだったが矢が纏う炎に巻かれたまらず、といった体でアーツの展開が解ける。

 すかさずオーブメントを駆動させていたルドルフのアーツ、エアストライクが追い打ちドローメに止めを刺した。

 いずれも小型の魔獣といえど八体の群れを危なげなく処理した四人は周囲を警戒しつつ陣形を戻して奥へ進み続ける。

 

「本当にもうきりが無いわね、いつになったら出口に着くのかしら」

 

「ふむ、ここまで昇った高さを考えればそろそろ地上は近い、終点も遠くは無いだろう」

 

「だといいけれど……それにしてもエマはアーツに大分慣れてきたんじゃない? さっきの初動、随分様になってたわよ」

 

「そんなに大したことはありませんよ、使っているのはまだ初歩のアーツばかりですから」

 

 アリサに今の戦闘でのアーツによる先制攻撃をそう評されるとエマは照れくさそうに笑い謙遜の言葉を口にするが、幾度かの戦闘を繰り返す中で彼女は初めて手にしたという戦術オーブメントの扱いに早くも順応し、火の属性力を秘めた紅耀石(カーネリア)のクオーツが支給されていたこともあってドローメのようなタイプの魔獣を素早く処理してみせるまでになっていた。

 同種のクオーツを支給されていたアリサも弓での射撃に時折アーツを交えている一方で、ラウラは戦術オーブメント駆動の感覚になかなか馴染めずにいる。

 それでも長大な両手剣を使いこなす持ち前の剣技だけで四人の中で最も多くの魔獣を斬り捨てている彼女だったが。

 

「――ふむ、ルドルフ」

 

「何でしょう? ラウラさん」

 

 何事か思い立った様子でラウラは左腕の剣帯に剣を吊るすと、ARCUSを取り出しそのオーブメント盤から蒼い煌めきを放つ、蒼耀石(サフィール)のクオーツを一つ取り外してルドルフの方へ差し出した。

 

「どうも私が持つよりそなたが使ったほうが良さそうだ、受け取ってくれぬか」

 

「僕にですか? ですが……」

 

 確かにラウラはアーツをほとんど使用しないスタイルで戦ってはいたが、戦術オーブメントの利用法は何もアーツだけではない。

 ラインを繋げ導力を僅かに流し込むだけで使用者の身体能力を向上させたり、攻性アーツに対して威力を削ぐ防御障壁を展開することができる。

 もとよりラウラが持っているような駆動の起点となる中央スロットから複数の導力ラインが伸びているタイプの戦術オーブメントはそういった用途に特化した造りでもある。

 アーツが不得手だとしてもその有用性は確かであることから差し出されたクオーツを受け取ることにルドルフは難色を示すが、ラウラは首を振り言葉を重ねた。

 

「このARCUS、使いこなせば確かに便利なのだろうが私にはまだ慣れないようだ、無理をして隙を晒すような事があっては本末転倒、そして我らの中で最も導力に余裕があるのはそなたであろう? ならばこうするのが最善だ、貸し借りが気になるというのならここを出てから返してくれれば問題ない」

 

 全く折れる様子の無いラウラにルドルフも観念して手を伸ばし、差し出されたクオーツを受け取った。

 

「ではこの場だけ、お借りさせて頂きます」

 

 ARCUSを開きルドルフは受け取った蒼いクオーツをオーブメント盤にセットする。

 これで彼の戦術オーブメントにはマスタークオーツを除けば翠耀石が一つ、蒼耀石のクオーツが二つ組み込まれ、属性力を累算する単一ライン型の特性上これまでより高出力のアーツが使用可能になった。

 

「でもラウラは本当に大丈夫なの?」

 

「心配無用だ、ここまでの戦いで見た限りそこまで厄介な魔獣は居ないらしい。それに――」

 

 アリサの心配の声にラウラは再び抜いた両手剣を見つめ、何か思いを馳せているような間を挟んで言葉を続ける。

 

「私が目標とする父上の実力ならば戦術オーブメントに頼らずともこの程度何の障害にもならない、私も弱音を吐いてはいられぬ」

 

 意思の強さを感じさせる、静かだが強い口調でそう言い放ったラウラの言葉にアリサとエマが思わず感嘆の息を漏らす。

 

「私からすればラウラさんも十分すごいのですけど、お父さんはそんなに……?」

 

「うむ、まだ私などでは足元にも及ばないだろう、娘である私がこう言うのもなんだが、剣士としても、父としても、尊敬できる素晴らしい人だ」

 

 恥じる様子も見せずそうラウラが口にした言葉にエマが感心を深める一方で、アリサの表情には僅かに憂いのような色が差す。

 

「お父さん、か……」

 

 彼女の父はルドルフがラインフォルトに雇われるより以前に亡くなっており、その事に端を発して起こった変化が彼女の家族の形を歪め、深い傷を残すことになっていることをルドルフは知っていた。

 しかしそれだけ、ラウラの発言で思い出してしまったのだろうその存在に彼女が今どんな思いを抱いているのか、窺い知ることは出来ておらずアリサの顔色に気づきながらもルドルフは何の言葉もかけることもできなかった。

 

「む、どうかしたかアリサ?」

 

「あ……ううん! 何でもないわ、それより――他の人達は大丈夫かしらね、一人で行っちゃったあの三人なんか特に」

 

 殊更に明るい口調で誤魔化すようにアリサはそう話題を切り替えたが、幸いにしてラウラに気にした様子は無く追及されることはなかった。

 

「そうだな、ユーシスといったか、アルバレア公爵家の彼は剣の心得があるようだったが銃を持っていた男子の方は少し心配だな」

 

「すれ違いになっていないといいのですが……あの小さな女の子にも会えていませんし」

 

 誘われるよりも早くダンジョンに入ってしまった少女のことを心配するようにエマが呟く。

 行き止まりに突き当たる分岐路も少なくない道すがら、遭遇する魔獣を速やかに殲滅できることでここまでダンジョン内を順調に踏破していた四人だったが、どこかで追い越してしまったか、あるいは追い付けていないのか、先行した三人のいずれとも出会えてはいなかった。

 

「あの女子ならば大丈夫だろう」

 

「え?」

 

「あの落とし穴に掛からなかったこともそうだが、随分と荒事に慣れているようだった。だからこそ共に来てほしかったのだがな……ここの魔獣の強さを考えればそう心配することはないだろう」

 

 思わぬ発言にエマは目を丸くしていたが、ルドルフは広場から立ち去った少女の姿を思い起こしながら得心が行くのを感じていた。

 見た目の幼さと裏腹の冷静さを保っていたあの小柄な少女が腰に提げていた武器は一対のナイフと拳銃を一体化させたような特異なもので、とても素人が扱えそうにはない代物だった。

 急ごしらえには見えないそんな得物を持ち合わせていることからしてラウラのように武門の家柄、ではないにしても実戦経験者であることを窺わせる印象は十分にあったのだった。

 

「そういえば彼も珍しい武器をお持ちでしたね」

 

「ふむ? 彼とは」

 

「はい、リィンというお名前だそうですが、あの黒髪の……あっ」

 

 十字の刃が備わった槍を持っていたノルド出身というガイウス、エマと同じく支給品であろう魔導杖を携えていたエリオット、そして腰にルドルフが気にした得物を佩いていたリィン。

 広間で別れた三人の出で立ちを思い出しながらその特徴を口にした瞬間、アリサの眉が不穏に跳ねるのを見て取りルドルフは失言を悟る。

 しかしそんな姿を見た彼女もわざわざ言い咎めることではないと判断したのかそれ以上の反応はため息を一つ漏らしただけだった。

 

「ああ、あの……確かに帝国ではあまり見ないものだろうな」

 

「というと、ラウラさんはご存知なのですか?」

 

 ルドルフが目にしたのは黒塗りの鞘に納められた剣、と思しき武器。

 思しき、と言うのもその形状がルドルフの知るものとは僅かに異なっていたからだった。

 

「うむ、あれはおそらく太刀と呼ばれる東方由来の剣だろう、帝国縁の剣に比べその刃の鋭さに重きを置いた造りをしていると聞く」

 

 ラウラの説明によれば剣と太刀、同じ剣という武器ではあってもその性質には確かな違いがあるものらしいのだが。

 

 ――肉を切る包丁と魚をさばく包丁のような違いでもあるのでしょうか。

 

 剣という代物に造詣の浅いルドルフはそんな微妙に的を外した感想を抱いていた。

 

「なんにせよ背の高い男子も槍を持つ所作が様になっていたし、何よりその太刀を持っていた者、ひょっとするならば……いや、とにかく素人では無さそうだった、心配無用だろう」

 

 言葉の途中で不自然に間を挟んだラウラを三人は少し気にするも、彼女の有無を言わせない雰囲気に口を挟むことは出来なかった。

 

「――む」

 

「どうしました?」

 

「音がする、この先で誰かが戦っているようだ、そう遠くは無いな」

 

 僅かな戦闘の気配をいち早く感じ取ったらしいラウラの言葉にルドルフ達は顔を見合わせ、頷きを交わし道先へと足を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 ルドルフ達が階段を駆け上がった先の開けた空間で、数種の魔獣と交戦する男子生徒の姿があった。

 護拳の備わった騎士剣を振るい、飛び掛かる一匹の飛び猫を両断するその人物は先の諍いで名の知れているユーシス・アルバレア。

 散らばる魔獣の多さに応援に入ろうとしたルドルフ達だったが、それは無用な心配だった。

 今また一匹の飛び猫を斬って落としたユーシスは背後から襲いかかったコインビートルを振り向きざまの刺突で難なく頭部を貫き仕留める。

 続けてこれまでルドルフ達が交戦したものと同種の魔獣が群れたかっていたが、彼はその動きが全て見えているかのような軽やかな立ち回りで全てを難なく躱し、返り討ちにしている。

 

「ほう……」

 

 マキアスに対して示してみせた自信が決して虚勢や傲慢などでは無かったことは明らかなその剣腕にラウラも感嘆の息を漏らす。

 アーツを使うドローメタイプが居なかったこともあるが、一分足らずの間に周囲の魔獣はユーシス一人の手により葬られてしまった。

 周囲の魔獣が全て息絶えたことを確認したユーシスは構えを解き、だが臨戦の緊張感は漂わせたまま顔をルドルフらの方へ向けた。

 

「お前たちは――そうか、道理でな」

 

 一人一人を一瞥したユーシスは何事かに納得いったようなことを呟き、剣にへばりついた魔獣の体液を払い、拭き取ると鞘に納めた。

 それが人前での抜刀を避けた礼儀であることに気づき、ルドルフ達も各々剣、あるいは矢などにかけていた手を離した。

 

「見事な腕前だな、感服したぞ」

 

「……アルゼイドの息女にそう評されるのならば俺の剣も捨てたものではらしいな」

 

 素直にユーシスの実力を褒めたラウラだがそんな言葉を返され目を僅かな驚きに瞠る。

 

「私の事を存じ上げていたか」

 

「いや、だがその両手剣、振る舞いを見れば察しはつく、かの光の剣匠の高名、そして直々に剣を学んでいるというご息女の噂は聞いていた」

 

 四大名門、アルバレア家の膝元であるバリアハートはアルゼイド子爵が収めるレグラムに程近いこともあり彼はラウラのことを知り得ていたらしい。

 

「では改めて名乗らせてもらおう、ラウラ・S・アルゼイド。ご存知の通りレグラムの出身だ、宜しく頼む」

 

「――アリサ・Rよ、宜しくお願いするわ」

 

「僕はルドルフ・シュヴァルベと申します、どうか宜しくお願い申し上げます」

 

 ラウラに続いたアリサの姓を伏せた自己紹介に一瞬眉を顰めたユーシスだったが矢継ぎ早にルドルフが名乗ったこともあり指摘の言葉は出ない。

 二人に続き名乗ろうとするエマだったが、その様子には少しばかりの困惑が見て取れた。

 

「エマ・ミルスティンと言います、辺境の出身で帝国の礼儀に疎いところもありますが失礼の無いよう気を付けますので、どうか宜しくお願いします」

 

 その畏まった物言いにユーシスはフン、と小さな嘆息を漏らすとエマへと顔を向けた。

 

「俺の家柄については既に知れていることだろうが、余計な気遣いは無用だ、学院生徒は平等たれ――そう校則にも記されていることぐらい主席ともなれば記憶しているのではないのか?」

 

「え、ええ……確かにそう記されてはいましたが」

 

 確かに彼の言う通り、トールズ士官学院の校則にて生徒の身分による差別を行わない旨が記されている。

 しかし平民階級と貴族階級で分けられたクラス、学生寮などを初めとして古くからの伝統と共に貴族階級の優遇制度が残っているのは事実でありその校則が建前として有名無実化していることも周知の事実であった。

 

「ならばこそそのような遠慮は無用だ、俺の家が公爵家だからとて、畏まる必要など無い。……どこぞの誰かのように牙を剥くというのならば相応の態度で臨ませてもらうがな」

 

 おそらく先だって口論になったマキアスの事を言っているのだろう、それを置いても公爵家の子息という肩書きから高圧的な人柄を予想していた面々は顔を見合わせてしまう。

 アルバレア家、それとも彼自身の気質がそうさせているのかはルドルフ達に知る由も無かったが、少なくとも敬いを持って接することが彼に望まれていないことは理解された。

 

「成程、ではそのようにさせてもらおう、時に我らに対して何か思うところがあったようだが?」

 

「何と言うほどの事でもない、他の連中が仕留めた魔獣は幾度も見たが、その中でも数多いのはお前たちの仕業だろう、お陰で俺はここまで先行できているのだからな」

 

 この入り組んだ造りの迷宮には行き止まりに突き当たる通路も少なくは無く、他に先行したマキアスと銀髪の少女とも出会っていないことからどこかですれ違いになっていることは皆予想していた。

 ルドルフ達が苦戦することなく多くの魔獣を片付けていることは他の面々の交戦機会を減らす助けにもなっているらしい。

 

「剣士、弓使い、アーツ使いが……二人か、即興の編成にしては十分だな」

 

「確かに我らは構成に恵まれたな。そなたはこの先も一人で行くつもりか? もう出口も近そうなことだし、同行するのも手だと思うのだが」

 

「気遣いは無用と言ったが、馴れ合うつもりもない。大した魔獣も居ないようだし俺はこのまま行かせてもらうつもりだ。――お前達がそれだけの人数を揃えておいて心許ないと言うのなら手助けしてやらんこともないがな」

 

 あくまで単独で行くつもりという事に加え聞きようによっては挑発的にもとれるその言葉にアリサがやや眉根を寄せていたが一人、ルドルフは表情を変えずにさらりと口を開いた。

 

「でしたら是非とも同行をお願いしたいです」

 

「――ルディ?」

 

「駄目でしょうか? ユーシスさんが前衛に加わって下さるなら僕も後衛に徹することが出来ますし、安全度はより増すかと思いますが」

 

 何の躊躇いもなく助力を求めたルドルフをアリサが見るが、当のルドルフはそれをキョトンと見返し何の問題があるのかと言わんばかりの顔をしている。

 

「……本気で言っているのか? お前達がこの辺りの魔獣程度に苦戦するとも思えんのだが」

 

「確かにこれまでの戦闘に余裕はありましたが、より確実に安全を期することができるならそれに越したことはありません。ユーシスさんがお嫌でないのでしたら力を貸して頂けないでしょうか」

 

 ユーシスが意外そうに聞き貸すもルドルフは淡々と答える。

 言葉自体は合理的だが、予想外の反応だったのか表情を険しくするユーシスにラウラがフフッと小さく笑いながら語りかけた。

 

「さてどうするユーシス? 私の見立てでは彼は保護されるべき力無き民草、というわけではないようだが、ここまで率直に助けを求められて無視するのは帝国貴族の沽券に関わるのではないか?」

 

「……承知している、帝国貴族に二言は無い」

 

 物言いに難こそあれど自分から手を貸しても良いと言った手前、貴族としてのプライドもあり今更前言を翻すことも出来ないユーシスは浮かべた渋面を嘆息一つ吐いて消し去っていた。

 

「良いだろう、出口までそう遠くは無かろうがそれまでの間付き合ってやる」

 

 承諾の意を示したユーシスにラウラとルドルフが頷き返す一方で、アリサとエマはつい目を丸くしてしまう。

 あくまで尊大な言い方だったがユーシスの情を感じさせるこのやり取りで大貴族の子息という先入観から始まったそれぞれが持つ彼への印象に変化の兆しが見え始めていた。




2017.9/12 文章を一部添削。
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