ラインフォルトの見習い使用人   作:まぎょっぺ

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場面飛びまくりなので一旦切ります。


第一章
Ⅶ組の朝【一】


「おはようございます、ガイウス」

 

「ああ、おはようルドルフ」

 

 入学式から二週間の日が経ち、ようやく新入生たちも学園生活に慣れ余裕が生まれ出した頃の日曜、トールズ士官学院に新年度初回となる自由行動日が訪れた。

 休日とは異なるが名の通り生徒達には自由な行動が許されその気になればトリスタ郊外まで外出することも出来る。

 その日の過ごし方は生徒により様々で、文武両道の士官学院というだけあり厳しい日々のカリキュラムで疲れた体を休める者、座学授業の予習復習に励む者、あるいは学院のクラブ活動に勤しむ者もいる。

 第三学生寮の面々も特科クラスⅦ組に所属するというだけでその多分に漏れることはなく、陽も昇りきらないような朝方に学生寮玄関口でエントランス周りを清掃して回るルドルフは数少ない例外で、こうして降りてくる他のⅦ組メンバーと顔を会わせるのが日常となっていた。

 

「自由行動日と聞いていたが、ルドルフはいつも通りのようだな?」

 

 制服姿のガイウスが穏やかな表情で語りかけるのにダイニングの扉を開けて出てきたルドルフは恭しく頭を下げる――のを思いとどまり微笑む。

 この二週間で必要以上に畏まった態度を改めるようアリサだけでなくクラスメイトの皆から言われ続け、身に着き過ぎた習慣に苦心している姿だった。

 

「ええ、今日も召し上がって頂けますか?」

 

「ああ、こちらこそ世話になる」

 

 ガイウスがダイニングへ入るとルドルフはさらに奥のキッチンへと向かっていく。

 清掃に加え朝の仕事としてルドルフがこの第三学生寮で担っている、というよりもぎ取ったもう一つの仕事が寮での食事の支度だった。

 入学式の翌朝から朝食の用意を完全に整え起きてきたⅦ組の皆を迎えたルドルフ、クラスメイトからそんな世話をしてもらうことにアリサを始めとして難色を示すⅦ組メンバーだったのだが。

 

 第三学生寮の寮食という体裁を取ることで学院から食費に支給が受けられること。

 それにより皆が外食、自炊することの手間、費用が節約でき、登校時間への支障も抑えられること。

 そしてルドルフにとって寮の調理を担当することが様々な立場、出身である皆の嗜好を学ぶことで使用人として――無論ラインフォルトに仕えていることは伏せてだが、の能力向上に繋がるとして望ましいことであること。

 

 学院からの手当てについて下調べをした上でメリットが一方的でないことを示し、引け目を薄らせたことで半ば強引にルドルフは第三学生寮の調理役を勝ち取ったのだった。

 とはいえ実際、ルドルフが寮での調理を担当することは他の生徒たちにとって有益に働いてもいる。

 

「お待たせしました」

 

 テーブル端の席に腰かけていたガイウスの元に出来上がった朝食を運び、そんなことを口にするルドルフにガイウスもいつものことなので指摘こそしないものの、そんなことは無いとばかりに小さく首を振る。

 並ぶ料理は出来立てであることが一目で分かり、四方を折りたたまれ正方形に整えられたガレットの中央では卵の黄身が鮮やかに照り、白身を彩るベーコンとチーズが食欲をそそる香りを立ち上らせていた。

 付け合わせのアスパラ、トマトのソテーも湯気が上がり共に焼きたて、円筒器(ココット)によそわれたインゲン豆のソース煮込み(ベイクドビーンズ)も同様に出来立ての仕上がり。

 キッチンへと向かい料理を運んでくるまでの間に十分と経っておらず、素人が一から調理を始めたのでは到底真似できない早さだ。

 調理用の使い捨て衛生手袋を嵌め直すと、赤いソースの満たされたベイクドビーンズの鍋に火を点け、ベーコンをソテーしている間に下ごしらえをした残りの食材を用意、仕立てたガレットの生地をもう一つのフライパンへと流し込む。

 生地を丸く広げソテーしたベーコン、チーズを乗せ中央に卵を落とし入れ生地の形を整えてから蓋をした瞬間には空いたフライパンでハーブ塩をふった付け合わせのトマト、アスパラのソテーに入っている。

 それらが焼き上がりほぼ同時に火の通ったガレットに胡椒をふって共にプレートへ移し、温まったベイクドビーンズをよそえば主菜は完成。

 計ったようなタイミングで脇のラインフォルト製トースターがチン! とベル音を鳴らし予め投入していたパンの焼き上がりを報せる。

 狐色に焼き上がった食パンと仕上げにオレンジ、キウイのフルーツをカットし添えれば瞬く間にその日の朝食が整っていた。

 調理を仕事とする人間とそうでない人間との差はこの手際の良さだろう、手狭とまではいかずとも決して広くもないキッチンでそれなりの人数の朝食を用意するのには要領の良さが求められる。

 起床時間も様々で皆が皆同じ時間に朝食を摂るわけではない寮生活の食事に対応できる技量をルドルフは持ち合わせており、確かにⅦ組のメンバー内でこれ以上の適役は居なかった。

 

「いつもながら見事だな。……?」

 

 一度キッチンへと戻り、盆を手にして来たルドルフはそれに乗ったティーカップのソーサーを持ちガイウスの朝食の脇へ置いた。

 朝食に紅茶、あるいはコーヒーを添えられるのはノルドという辺境の出身であるガイウスにもこの二週間のトリスタでの生活で馴染んだ習慣ではあったが、そのカップから漂う香りが彼に目を瞠らせた。

 

「これは……」

 

「はい、ノルドの方で嗜まれている茶葉だそうですね。以前ガイウスから聞いた話を商店の店主様にしたところ取り寄せて頂けたので用意してみました。初めて淹れる茶葉でしたので上手く出来ているかいささか自信はありませんが」

 

「――いや」

 

 カップを手に取り、口元へ運んだガイウスはその香りを嗅ぎ、一口つけると眉尻を下げてルドルフへ顔を向ける。

 普段から柔らかな表情を浮かべているガイウスだがそこにあるのは彼自身の若年にそぐわない落ち着きを一層強く感じさせるものだった。

 

「まだ一月もしないが、懐かしい香りだ。ありがとうルドルフ、今日はいい風が吹いてくれそうだ」

 

 ガイウス特有の言い回しだが間違いなく好感触を示すその言葉にルドルフも胸を撫で下ろした次の瞬間、顔を壁の向こう、エントランスへくるりと向けた。

 

「皆さん早起きのようですね。ガイウス、失礼します」

 

 階段を誰かが降りてきたのを感じ取ったらしく先程のようにダイニングを出ていくルドルフの背を見送りながらガイウスも用意された朝食に手をつけはじめた。

 

「おはようございますマキアス、今日も良い天気ですよ」

 

「……君という奴はまさかこんな日にまで朝食を用意したのか」

 

 壁を隔てた先から声の主の渋面が目に浮かぶような台詞を聞きながらナイフで切り分けたガレットを運んだガイウスの口元が綻ぶ。

 この二週間でそんな光景が第三学生寮、朝の恒例となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 朝の支度を終え上階から降りてきた生徒たちをルドルフが誘い、もとい引き込むこと数回、ダイニングの空気は微妙に緊張したものを漂わせている。

 その原因となっているのはテーブルの端と端、対角の席に腰掛ける二人、マキアスとユーシスだった。

 入学式での諍いから二人の仲は全く改善の兆しを見せず、ひたすらユーシスを敵視し事あるごとに食って掛かるマキアス、それに対し挑発的な物言いで返すユーシスの間には常に緊張感が漂い、周囲の人間まで萎縮してしまい遅れてダイニングに招かれ朝食を済ませたリィン、エリオットもどこか居心地悪そうにしている。

 

「――ごちそうさま、美味しかったよルドルフ」

 

「悪いな、いつも任せて」

 

「いいえ、望んでやらせて頂いていることです、お気になさらず」

 

 礼を言うエリオット、少しばかり申し訳なさそうにするリィンと言葉を交わすルドルフは雰囲気の悪さも気にしていない様子で空いたプレートを片付けている。

 マキアスが既にいる場合、逆にユーシスが先に来ている場合でも二人を朝食の場に引き込むその肝の据わり具合、というより空気の読めなさは皆から羨やみも嘆かれもするところだった。

 マキアスとユーシスも当初、相手の姿が見えたときには寮外で朝食を摂ろうとしたものだが、個人でなく第三学生寮の食事であるという体裁を盾に迫るルドルフに押し切られる形で渋々席を同じくしている。

 

「なんだ、男子はもう揃っているのか」

 

 扉を開き、足を踏み入れて来た少女、ラウラの声に一同が顔を向ける。

 その背後にはアリサ、そして眠そうな眼を擦っている銀髪の少女――小柄な見た目相応に、皆よりも二つ年下であるらしいフィー・クラウゼルを宥めるように連れてきているエマの姿もある。

 揃ってダイニングを訪れたⅦ組女子たちだが悪感情に鈍いところのあるラウラとぼうっとしているときの多いフィー以外の二人は室内の微妙な空気に気づき表情を強張らせた。

 更にアリサは扉の方を見ていたリィンと目が合った瞬間サッと顔を赤らめ露骨に首を背けてしまう。

 その反応にうなだれるリィンだがこのやり取りもまた入学式からの間に幾度となく繰り返されていた。

 

「おはようございます皆さん、今朝食をお持ちしますので、席へどうぞ」

 

「うむ、そなたもご苦労だな、感謝する」

 

 使用人として精進の為、ということが武の道を追求するラウラの目には好意的に映ったのか、彼女はルドルフの行いをおおむね受け入れていた。

 促されるままに席にかけるラウラに続き、エマ、フィー、そして気まずそうにしながらもアリサが空いた席へ向かう。

 すっと傍へ寄り、椅子を引いたルドルフにじろりと視線を向けるアリサだったが、微塵も気にする様子を見せない姿にため息を一つ吐いて引かれた椅子に腰を落とす。

 そこでふと何かに気づいたようにアリサが顔を向けた先で、マキアスが神妙な面持ちになっていた。

 

「どうかした? マキアス」

 

「いや失礼……ここしばらくの君たちのそういう、その、なんだ……慣れてる感じが気になってね、本当に貴族というわけではないんだろうね?」

 

 その言葉に納得すると共に、他のメンバーのほとんどが困ったような、気まずいような微妙な表情になる。

 通常制服の色で貴族か平民であるか見分けることが可能なトールズ士官学院の生徒だが、Ⅶ組の生徒たちは赤い制服が与えられている為その限りではない。

 加えてアリサは皆に姓を伏せて名乗っていることもあり、たとえ帝国貴族全ての姓を把握していたとしても判別は出来ない。

 ルドルフが裕福であるアリサの両親に昔世話になり、その恩返しとして彼女の家の手伝いをさせてもらっていると仮の説明をしてはあったものの、貴族嫌いであるマキアスにアリサのあまりに仕えられ慣れた態度は気になるものであったらしい。

 

「はぁ、マキアス、あなた――」

 

「違いますよ、マキアス」

 

 アリサが諌めるよりも早く、その後ろからルドルフが否定の言葉を発した。

 忠告も空しく彼女に対する尽くし様からルドルフの並々ならぬ気遣いは周知のところだったが、そのルドルフがアリサの発言を遮ってまで発言したことに、アリサを含めた皆が程度の差異はあれど驚きを見せる。

 

「アリサは貴族ではありませんよ、それは保証します――空の女神(エイドス)に誓って」

 

 大陸の主な信仰対象である空の女神の名まで出して告げられた言葉にマキアスもぐっと息を詰めた。

 大袈裟な物言いにも聞こえるが、こうまで恥ずかしげもなく言い放たれれば真摯な印象の方が強くなる。

 ここまで言い切られ尚、疑いを向けるというならそれは余程相手を信用していないか器量の狭い者ぐらいだ。

 

「――そうか、すまなかったアリサ君、不躾なことを聞いたようだ」

 

「い、いいわよ! もう」

 

 頭を下げるマキアスを慌ててアリサが制し、それが一応のその場の収まりとなった。

 

「では料理の方をお持ちしますので少々お待ちください。フィーは飲み物、ミルクで宜しかったですか?」

 

 周りと比べ幼い少女へ確認を取るルドルフ。

 異性に対し呼び捨てにすることを初めのうちは遠慮していたのだが、彼女たちの方からそちらの方が気楽で構わないと言われ今では気にすることもなくなっていた。

 

「ん、お願い」

 

 コクリと頷いて返したフィーに微笑むとルドルフはキッチンへと戻り四人分の朝食支度に取り掛かった。

 少年の姿が離れたところでこっそりとマキアスは詰めていた息を吐いていた。

 先の誰何に対する答え、その言葉の真剣さ以上にルドルフから有無を言わせない圧力のようなものを感じてしまっていたが為だ。

 普段温厚そのものに見える彼からなぜそんな気配を感じ取ってしまったかは、マキアス自身が貴族という存在に向けている感情、その矛先を僅かでもある人物に向けてしまったからだということ容易に想像出来た。

 

「大丈夫か? マキアス」

 

「あ、ああ、すまない、みっともないところを見せた」

 

 隣に座るリィンから気遣われ苦笑で返すマキアスだったが、続いてテーブルの隅から聞こえた声にその表情はすぐに険しいものとなってしまった。

 

「これに懲りたら、少しは考えてものを言うことだな」

 

「……っ、これは失礼。無駄に余裕がお有りになる大貴族様には滑稽に見えたようだな」

 

 押しも押されもせぬ大貴族であるユーシスの言には敵意を剥き出しにするマキアスだったが、先程の失言による引け目もあってか反駁に精彩を欠いている感は否めない。

 既に食事を終え紅茶のティーカップを傾けていたユーシスは怜悧に細められた瞳で憮然としたマキアスを一瞥する。

 

「学年次席ともなれば自身の発言が与える影響ぐらい考えられて当然と思っていたが、これは見込み違いだったようだな」

 

「何をっ! それはどういう――」

 

「止めよ」

 

 言葉を重ねたユーシスにマキアスが激情も露わに立ち上がるそこへ、制止の言葉を放ったのはもう一人の貴族身分である少女、ラウラだった。

 

「一日の始まりである朝食の場でそのような言い争いをして、皆に申し訳ないと思わぬか?」

 

「それは……そうだが……」

 

 真っ直ぐに見つめ諌めてくるラウラにはマキアスも憤りを向けられず、もっともな意見に返す言葉は尻すぼみになってしまう。

 彼女も貴族ではあるがその身分を笠に着るような態度の無さ、どころか誰に対しても身分を気にせず分け隔て無い態度で接する人柄には毒気を抜かれてしまうようで、マキアスもユーシスに向けるような態度は取れずにいた。

 

「ユーシスも、忠告するにせよ言葉は選ぶべきかと思うぞ」

 

「……そんなつもりも無かったのだがな、善処はしよう」

 

 あくまで尊大な態度を崩すつもりは無いらしいユーシスだったが、それ以上場を荒立てる意思も無いらしく、彼の口からそれ以上の口撃が飛び出すことは無かった。

 同じテーブルを囲みながらも足並みは未だ揃わず、これも未だ変わり切れない入学式から続くⅦ組というクラスの有り様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 学院のクラブ活動、あるいは寮外で自由行動日を過ごす生徒たちを見送った昼まだき、寮に残っていたルドルフはキッチンで寮に残ったメンバー、エリオットと起床の遅かったサラ教官の昼食の準備に入っていた。

 エリオットはそこまでしてもらわずとも良いと遠慮していたが、三階の自室から降りてくるなり冷蔵庫内の一角を占拠しているビール缶の塊から数本を抜き出したサラがさらりとルドルフにランチを依頼したことでついでという名目を得てしまい無駄に終わっている。

 ルドルフとしてはその程度のことなら全く苦ではないので一向に構わないのだったが。

 

「――これは」

 

 調理の最中、不意に足を止めたルドルフはかろうじて届いていた、調律された弦の奏でる音色に耳を傾けた。

 音楽にまで造詣が深いわけでない彼には正確に聞き分けることは出来なかったが、ヴァイオリンに類する弦楽器による音色だろうとは予想がついた。

 それが学院のクラブ活動において吹奏楽部に所属することを決めたらしいエリオットによるものだろうということも。

 現在寮に残っているのはルドルフ、エリオット、サラの三人のみ、ビールを片手に上がっていったサラが優雅にヴァイオリンを弾いている姿などはルドルフにも想像できなかった。

 耳に届くその音色は歪みも無く、透き通ったものでとても素人が奏でられるものとは思えない。

 エリオットの趣味に留めるには勿体無いと言える演奏技術を耳にしながら昼食の用意を再開しようとしたルドルフだったが、次いで耳を突いた機械音にそれを阻まれる。

 ヴァイオリンの柔らかな音色とは異なり耳朶を刺激するような音の発信源、キッチン脇に置かれたARCUSから響いているその音は通話機能の受信を報せていた。

 ARCUSを手に取りカバーを開いて耳にあてると、見知った人間の声が届く。

 

『ルドルフか? ええっと、リィンだけど』

 

「はい、こちらルドルフです、珍しいですねリィンからかけてくるのは」

 

 通信機能の利用に慣れていないのか、どこか浮いた調子の声で語りかけてくるのはリィンだった。

 

『急な話で申し訳ないんだが、ルドルフは午後から時間とれるか?』

 

「ええ、可能ですよ。夕刻までには戻りたいところですが、特に予定はありません」

 

 元々寮の普段行き届かないところの掃除をしようかと考えていたぐらいで、実質ルドルフのこの日の予定は空いていた。

 

『そうか、じゃあ頼みたいことがあるんだけど……午後からあの旧校舎の調査に付き合ってくれないか?』

 

「旧校舎? あの、ですか」

 

 入学式のオリエンテーションでの記憶は未だ新しく残っている。

 魔獣も多く徘徊しているあのような建物を調査とはどういうわけかとルドルフが問い返すまでもなく、リィンは説明を続けた。

 昔からあの旧校舎は学院生徒たちなどの腕試しの場として利用されてきたらしいのだが学院側もその全てを把握しているわけではないようだ。

 更に最近になってこれまで存在していなかった扉が現れている、謎の声が聞こえるなど異常現象の報告が相次いでいるらしく、先日オリエンテーリングで地下迷宮区画を一巡りする羽目となったリィンにあの時と比べ変化が無いか調査するよう学院長から依頼されたのだという。

 この自由行動日、Ⅶ組の皆もクラブ活動などに出ているが、リィンは学院生徒会の手伝いをすることになったらしく、これもその一環らしい。

 リィンの太刀の腕前が非凡なものであることはルドルフもオリエンテーリングの際分かってはいたが、それでも魔獣が数多く徘徊する迷宮に一人で入るというのは危険を伴う。

 ガーゴイルの例もあり、学院長からも他のⅦ組生徒からメンバーを募るよう念押しされたらしい。

 

「分かりました、そういう事情でしたらお力添えさせて頂きます」

 

『すまない、助かるよ。他の皆にも声は掛けてみるから、午後の一時ぐらいに旧校舎前に集まろう』

 

「了解しました、準備を整えておきます」

 

 通信の切れたARCUSを閉じ、頭の中で変更となった午後の予定を組みながらルドルフはオーブンの蓋を開き、衛生手袋越しの手で中の鉄板を掴み出した。

 

「そういえば、お嬢様は学院でクラブ活動中のはずですね」

 

 鉄板に敷かれた香味野菜の上に鎮座する焼き色のついた肉の塊、昼のメインとして予定していたそれを眺め、あることをルドルフは思い立っていた。

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