【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【生前編】娘にとんでもないところを見られてDie(中編)

 アドメーテーは、自他共に認める未来の英雄である。

 生まれて一週間後には言葉を話し、数ヶ月もせぬうちに歩き回るまでに成長。

 武術と魔術も、乾いた土に水が染み込むように修める。

 

 三年も経つ頃には、講師として国有数の賢者や強者を用意せねばならないと、嬉しい悲鳴が連日上がる事態に。

 かき集められた講師陣ですら、一年もすれば己では教えられる事柄がなくなってしまうだろうと褒めちぎる。

 正に、将来を嘱望される才媛と言えよう。

 

 ここまで才能を発露させた背景には、両親の働きもまた大きかった。

 最高の環境を用意する労力は当然の話として、最大の要素は精神的な支えという部分だ。

 

 一例としては、初めてアドメーテーが言葉を発したとき。

 その日は、誰一人として予想しないほどに早かった。

 

「…か、あさま。おうた、きき、たい」

 

「「「っ…!!?」」」

 

 周囲で母娘の世話をしていた侍女たちは、驚愕を隠すことができずに彫像のような有り様を晒す。

 彼女らを責めることなどできない、何せ喋り出したのは生後一週間の赤子である。

 一般的には一歳前後で意味のある単語を話すと考えれば、一週間で意味の通る文を話すのは余りにも早熟だった。

 

 驚愕は動揺に、動揺は容易く恐怖へと変異する。

 しばしば天才という存在は、そうして周囲から排斥される悲劇に見舞われるものだ。

 人間という存在は、たとえ超常が日常的に闊歩する古代ギリシャにおいても、理解できない物事を忌避する本質は変わらないのだから。

 

 本来はアドメーテーも、己の伯父と同じように畏怖される者としての道を歩んでもおかしくは無かった。

 …赤子を一片の躊躇もなく抱き上げる、母親であるアダマンティアがいなければ、だが。

 

「なんのお歌がいいでしょう。お母さんに教えてください」

 

 止める暇すら与えない、あまりにも自然な動き。

 幼子であるのならば、例外なく慈しみの対象であると。

 万の言葉より雄弁な振る舞いに、侍女たちは"賢母"という民の言葉が誇張ではないと痛感する。

 

「お、なかに、いるとき。きこえた、おうた。…いい?」

 

「ええ。もちろん」

 

 アダマンティアの唇が動き、遠き異郷の子守唄の調べが響き渡る。

 先ほどまで驚愕を露わにしていた侍女たちに、既にどこにも恐怖の兆しはない。

 居合わせた全員が、叙事詩の始まりと見紛う眼前のやり取りにすっかり目を奪われていた。 

 

 これは、アダマンティアが聖女の如き揺るがぬ心を持つためにできたというわけではない。

 タネは実に簡単、かつ自明。

 

(生まれてすぐキャッキャ言いながら毒蛇ぶっ潰した兄に比べたら、これくらいは普通か。神の血ってなんでもありやし)

 

 単純に、比較対象がよりぶっ飛んでいたというオチ。

 未来において一神話体系の頂点に立つアダマンティアの兄と並べられれば、どのような英傑も一段落ちる。

 

 当人の呑気な真意はともかくとして、である。

 これがアドメーテーの人生において、大きなターニングポイントとなったのは言うまでもない。

 エウリュステウスは妻と娘のやりとりを知ると、すぐさま部下に命令を飛ばした。

 

「これは我が妻と娘が天に祝福された者だという、何よりの証左である。すぐにでも、この出来事を国を超えて広めよ!」

 

 エウリュステウスは嫁バカであり親バカだが、同時に神にも認められし賢王である。

 故に国という巨大な機構を維持・発展させるためには、他者には侵しがたい大義名分が一つでも多く必要であり。

 同時にその大義名分が、妻と娘を守る実体なき盾になると十二分に理解していた。

 

 この施策の結果、伸び伸びと常識外の才能を育むアドメーテーに恐れを抱く民はいなくなった。

 天の祝福を受けた御子の成長は、そのまま敬愛する賢王夫妻の偉大さを示し、引いてはミュケナイの安寧と繁栄を示す吉兆となるのだから。

 

「母さま、父さま、見てた?!アタシ、もう先生に一本とれるくらい強くなったー!」

 

「ああ、見ていたとも。素晴らしい成果だ、アドメーテー」

 

「でも、無理はいけませんよ。貴方が健康なのが、私たちは一番嬉しいのですからね」

 

「はーい!」

 

 両親からは無償の愛を、民からは惜しみない称賛と期待を。

 のちに"巨人殺し"の異名を誇る戦士となる幼子は、多くの温かい感情に包まれて育っていった。

 

 

 

 

 

 

 宮殿内部の庭。

 

「はぁ…」

 

 そんな国を挙げてのアイドルのような立場にある三歳児は、現在腕を組んで物思いに耽っていた。 

 幼子が頭を捻りウンウンと唸る様は、何も知らぬ者にはただ可愛らしく映るだろう。

 

 しかし、アドメーテーの早熟ぶりを知る者は、彼女が真剣に悩んでいると察する。

 若年ながら王女の側仕えをこなす侍女と護衛兵はどちらが話を切り出すかをかけ、十数秒の醜い争いを展開。

 戦いに勝利した侍女が、恭しく言葉をかけた。

 

「アドメーテー様、いかがなさいましたか?」

 

「…ソフィアとヤニスこそ、大じょう夫?タンコブできてるけど…」

 

「名誉の負傷です」

 

「え、でも…」

 

「名誉の!負傷です!」

 

「そ、そうなの」

 

 侍女と護衛兵_ソフィアとヤニス_は、エウリュステウスが娘の側で務めを果たす栄誉を許した精鋭中の精鋭。

 生まれた時からこれまで共にあった、家族の次に近しい年上の親戚のような二人。

 両者の普段の仕事ぶりは直々に選ばれるだけあり、アドメーテーも驚くほどに完璧で隙がない。

 

 ただ時折忠誠心が暴走するのか、業務には支障を来さない範囲で奇行を繰り返す悪癖を持っていた。

 アドメーテーは未だ完全に慣れたとは言いがたいソレを努めて無視し、試すように言う。

 

「父様と母様には、内しょにしてくれる?」

 

「貴方様が望まれるのでしたら。我々の主は、アドメーテー様ただ一人でございます」

 

「ソフィアの言う通りですよ。拷問されたとしても、口を割るつもりは微塵もありませんな」

 

「そこまでされそうになったら話してよ!?…でも、ありがとう」

 

 兄・姉代わりとも思っている二人、その内にある忠誠心の高さを実感しつつ、アドメーテーは深呼吸を一つ。

 そして、己を苛む疑問を吐露した。

 

「…母様と父様って、幸せなのかな」

 

 問いを聞いた二人は、一度思考を硬直させた。

 発された言葉の意味は分かる、主たる少女が真剣そのものであることも分かる。

 ただ、何故そのような苦悩を抱くに至ったのかが分からない。

 

 今回は、一層慎重に向かい合う必要がある。

 両者は、同時に同じ判断を下した。

 

「…我々の所感ですが、両陛下はとても幸福だと考えておりました」

 

「理由を教えてくれる?」

 

「はい。国王陛下の叡智と王妃殿下の慈悲の恩恵を受け、ミュケナイは今や繁栄を極めつつあります。治める国の安寧と繁栄は、やはり幸福から切り離せぬかと」

 

「加えて初子であるアドメーテー様は、天に祝福された天才ときたもんです。子の健やかな成長に勝る幸福は、そうはないと思います」

 

 賢王として神にすら認められた王と、大神の血を引きながら女神ヘラの加護を賜り、身分の区別なく慈悲を向ける王妃。

 そして、生まれた娘もまた祝福を身に宿した麒麟児。

 人のしがらみは前提とした上で、神霊の理不尽が罷り通る古代ギリシャにおいて、これほど順風満帆な王族も珍しい。

 

 あくまで所感として語ってはいるが、これらはミュケナイに暮らす百人に聞けば百人が答える見解だった。 

 最早民草にとって、彼らは敬意だけでなく憧憬の対象とすら言えるであろう。

 

「ですが。アドメーテー様は、それだけでは不足なんですな?」

 

 しかし二人は、これでは求める解に足りないことを察していた。

 予想通り、アドメーテーは我が意を得たりと首肯する。

 

「二人が話してくれたことは、アタシも分かる。多分他の人に聞いても、同じ答えが返ってくるってことも」

 

「…教えてくださいませんか、アドメーテー様のお心を。それに添うことが、我らの望みです」

 

「……エウリュステウスとアダマンティアの、幸せ。それは、どこにあるのかなって」

 

 "父様と母様の幸福"、"エウリュステウスとアダマンティアの幸福"。

 ただ言い方を変えたような、言葉遊びとも思える問い。

 

 しかし、この両者の間には、無視することはできない意味の壁がある。

 少なくともそう認識しているアドメーテーは、俯きがちに続けていく。

 

「国が豊かなのも、アタシが健康なのも、うれしいと思う。アタシだったら、うれしい。でもソレは、王様としての、親としての幸せだと、思う」

 

(…なら、ただの二人の幸せは?)

 

 思い出すのは、大事に抱き続ける原初の記憶。

 あのときの両親にも、王として、親としての幸福があっただろう。

 だが、ただそれだけではなく、二つとは違った幸せがあったはずだとアドメーテーは考える。

 

 もしアドメーテーという存在が、その幸福を奪い取ってしまっているのだとしたら。

 その上で、己だけが幸せを甘受し続けているのだとしたら。

 もう、今までのように笑うことはできないと、顔を曇らせる。

 

「あ〜、なるほど。そういうことでしたか」

 

 一方で主であり妹のような存在であるアドメーテーの苦悩を把握し、ヤニスは頬をかく。

 普段から天才児っぷりには舌を巻くが、今回はとびきりらしい。

 生まれて三年も経たぬ子が、そこまで考えるかね、と。

 

 次いで、隣のソフィアへと小声で話しかけた。

 議題はもちろん、アドメーテーの心の暗雲を晴らす方法である。

 

「少し。いやかなり、リスクが高すぎないかしら?」

 

「でも、確実でしょ?根回しは任せましたよ」

 

「簡単に言ってくれるわねぇ」

 

 これを解決しようとするならば、何処までいっても護衛兵と侍女でしかない二人は、少々危ない橋を渡ることになるだろう。

 それは、最悪の場合は己の首が物理的に飛ぶような橋だ。

 

 そんなことなどは問題にもならないと、二人は速やかに動き始める。

 主のために命の一欠片までをも使い潰すことが、彼らが絶対とする仕える者としての誇りであるが故に。

 

「…アドメーテー様の苦悩を晴らす方法、我々がご用意いたしましょう」

 

「ほんとう、ソフィア!?」

 

「ええ」

 

 「でーすーが」と、ヤニスは笑みを浮かべてアドメーテーを見つめる。

 そのまま手を差し伸べ、己が主の心に問うた。

 

「____悪い子になる覚悟は、よろしいか。我が主?」




◯アドメーテー
クレヨンし◯ちゃんすら超えるレベルの超早熟児
超マセガキとも言う

◯護衛兵&侍女
こんなノリだが、実力はミュケナイでも上澄み中の上澄み
二人がかりでなら、アルケイデス相手に一分時間を稼げる

◯アドメーテーの悩み
「最近、ウチの両親イチャついてなくないですか?」

◯アダマンティア(生前)
裏でとんでもない計画が進行していることを知らない
「イチャついてないが?Likeなんだが?」
「Loveだったとして、友愛的なLoveなんだが?」


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次に書くお話として、どちらがいいかお答えください

  • 女神ヘラのお節介がない世界線 ※鬱注意
  • 娘目線から見た生前エウリュステウス夫妻
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