転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
執筆の励みになっております
清潔感のあるカルデアの廊下を、大男二人に脇から抱え込まれて宙ぶらりんになった少女が輸送されている。
言うまでもなく、オレである。
構図は少し違うが、捕獲された宇宙人のような有様だ。
道ゆく人は当然一様にギョッとするが、下手人の余りに堂々とした姿に『何か事情があるんだろう』と納得して歩き去っていく。
おい待て、納得してんじゃないよ。
先に召喚されて信頼されてるからって、その信頼をここで使うのはおかしいだろ。
「…あの。流石に恥ずかしいので、降ろしていただくとか…できませんか?」
「お前が逃げないというなら、考えてもよいな。どう思う、復讐者の私」
「我が妻を見るがいい。少しでも目を離せば、瞬く間に姿を晦ますだろうよ。騎兵の我」
同一人物だから当たり前なんだけどさ、息がピッタリすぎないか?
オレがちょっと身じろぎするだけ互いに身体の位置を調節して、力を入れられないようにする神業はなに。
どんなシチュエーションを想定して訓練してたの?
あ、そこの奥様連合の方、どうか助けていただけませんか。
…ああダメだ、どっちも役に立ちそうもねぇや。
赤面するな戦乙女、アワアワすんなゴスロリ姫、見せ物じゃないぞ!
自分の夫のところに行こうとするなよ、どんな発想を得たんだよオレたちから!
ガキどもはこんなの見るんじゃない、教育に悪いわ。
「これが大人の…」って何を想像してるんや、そこの聖女だかサンタだか説明されても分からんかった女の子は。
目を指で隠すなエロじゃないぞ、純粋に拉致だよコレは!
(…なんでこんなことに。というか、マスターに一枚噛ませるのは卑怯だぞぉ)
どうやら、経緯は単純なことで。
異常を察した藤丸は、先に同じように察していたらしい兄と夫に相談をしたようなのだ。
事情を共有した彼らはオレの悩みを明らかにするために、先ほどのような回りくどい一計を案じたというわけだ。
藤丸の部屋に改めて押し込まれ、三人で何やら相談しているのを見ているのは死ぬほど恐ろしかった。
「まずは私たちが」「■■■」とか、オレをボコボコにする順番決め?
というか兄はやっぱり意思疎通できるのかよ、オレと話すのがそんなに気まずいのか。
今度会ったら、"狂化"を完全に解いて逃げ道無くしてやるから覚悟しとけよ。
心中で大騒ぎしたとしても、終わりはあっさりと来てしまうもの。
夫二人による残虐な市中引き回しの終着点は、カルデアにおけるオレの部屋。
両方からの圧に負けてドアを開ければ、さも当然のように入っていく。
意外に柔らかな手つきで、オレはベッドの淵に降ろされる。
もしや希望はまだあるのかと見上げた先にある光景に、すぐに後悔することになった。
「では、夫婦の話し合いを始めよう。…復讐者の私にとっては、ずいぶんと久しぶりではないか?」
「違いない。我にとっては、会話一つでも感慨深さを隠せん」
一見和やかな会話に聞こえるでしょう、これ無表情で言ってるんですよ。
アラフィフの夫は、アラフォーの夫をもっとコワモテにした面をしているから、タダじゃ済まない感がスゴい。
目の前にした哀れなオレは、もはやプルプルと震えるくらいしかできない。
そんな天敵を前にしたネズミが如き醜態を晒すオレを見て、二人が溜息を零すのが見えた。
震えが歪に止まり、王妃時代に外を駆けずり回ってはお説教をくらった記憶が蘇ってくる。
懐かしさと、今まで誤魔化していた話を聞かれた恐怖が入り混じって、頭が変になりそうだ。
いや、もう限界だったんだろう。
表面張力だけで水面が保たれていたバケツから、最後の一滴によって水が一気に溢れるように。
隠すと決めていた最大の汚点を知られ、心はとっくに決壊していた。
「……ご、ごめん、なさい。ごめん、なさい。ごめ、ん、ごめん…あなた」
気づけば、二人に謝っていた。
もう、オレの愚かさは神話に刻まれてしまって、変えようがない部分に食い込んでしまっているのに。
その報いは現在進行系で、あらゆる世界で、オレの無様として晒されてしまっているというのに。
過去も現在も変えられないと、この世にいる誰よりも知っていたはずなのに。
醜態を見かねたのか、エウリュステウスたちは大きな身体を屈め、視線を合わせてくる。
常ならば心から安堵し、身を寄せる温かさが、今だけは何よりも鋭い刃としてオレを切り刻む。
「アダマンティア。先ほどの話で、お前に悪いところなどなかっただろう」
そんな、わけが。
そんなわけが。
「そんなわけない!」
オレは、死ぬときに満足していたんだぞ?
お前はオレを失えば心が折れそうなほどに悲しむと、お前と共に慈しんできたミュケナイの民が多くの涙を流すと、十二分に知っている立場であったはずなのに。
オレは知っているだけの悲劇を防ぐことができたと喜んで、実際に起こるだろうと容易く予測できる悲劇をまるっきり考えなかった、本当の馬鹿だ。
ミュケナイ王を公私共に生涯支え、賢母にして慈母と讃えられた姿など、ただのまやかしだった。
生涯の過半を共に歩み、人生すら預けあってもいいと互いに信じた友としての姿など、烏滸がましいにもほどがある。
身勝手に動き、身勝手に救ったと勘違いし、身勝手にくたばって、いたずらに周囲に悲劇を振り撒いた、善良なふりをしたいだけの害悪こそが偽りのない正体だったのだ。
…生きるだけで迷惑な害悪ならば、せめて、いっそのこと。
自己中心的な自罰が脳内を何百回と巡り、もはや目の前すら見えなくなる。
深海へと沈み込むような意識を浮上させたのは、馴染み深い声よりも少し低く深い響き。
「ならぬ」
思考の全てが、己への嫌悪感と大切な人たちへの申し訳なさでいっぱいになって。
無意識に霊核を潰そうと伸びた手を、復讐者のエウリュステウスは万力が如き力で掴み、押さえつけていた。
表情には、厳しさのなかに労りの気持ちがありったけ乗せられている。
そんな顔で、見ないでくれ。
罵倒され、蔑まれ、憎悪され、いっそ殺された方が楽になれるのに。
「なんで、ですか」
「自罰的なお前のことだ。追い詰められれば、己の存在を不要と嘯くだろうと思っておった。それは、大いなる間違いだ」
どれだけ振り払おうと足掻いても、その手は振り解けない。
そんなことは実際に試さなくとも理解しているはずなのに、動かずにはいられなかった。
これ以上、対等で在り続けたいと願った存在の前で、失望を避けられない無様を晒したくはなかったから。
「…では、教えてください。私の意味を。ただ悲劇を広げただけの私の意思が、何を生み出したのかと」
気付けば、エウリュステウスたちに問いかけていた。
改めてずいぶんと底意地の悪い質問だと、また自己嫌悪が始まりそうになってしまう。
英雄たちに囲まれ、王妃として持ち上げられてすっかり勘違いしていたが、オレの性根というものは本来アイツらの傍にいるべきものではなかったのだろう。
だが、二人はその質問に対して小揺るぎもしない。
分かりきっている事実を一つ一つ犯人に問いかける推理ドラマの勿体ぶった主役のような、そんな雰囲気すら感じさせる余裕があった。
「お前は、己が知る未来に起きる悲劇を防ぐために尽力した。そうだな?」
「そう、です」
「その悲劇とは、女神ヘラに吹き込まれた狂気により、義兄殿がメガラ殿と御子息らを殺すことだ。我の認識に異論はないな?」
「え、えぇ。あ、の。この質問に、なんの」
確かに推理ドラマの主役のようなとは思ったが、本当に推理の真似事を始めてしまう二人に、困惑が隠せない。
賢王である二人が力を合わせれば、それは確かに大抵の謎ならば容易く紐解いてしまうだろうけど。
今のオレには、目の前の推理劇が何を導き出そうとしているのか、まるで理解できなかった。
目の前の人間の困惑を置き去りにして、二人は思考を高速で回していく。
元々魔術以外では頭がお世辞にもいいとは言えないオレは、その様を眺めることしかできない。
…少しだけ懐かしいと、思ってしまう。
お説教が一通り済んで反省したと分かるといつも考え込んで、オレの個人的な願望を国に落とし込んでくれようとしていた。
赤ちゃんが全員健やかに育ってほしい、一人で死ぬのは寂しい、死んだあとに誰も悼んでくれないのは悲しい。
時代を考えれば甘ちゃんが過ぎるオレの願いを、エウリュステウスは一つだって見逃さなかった。
「「アダマンティア」」
場違いな思い出に浸っていれば、当人からの呼びかけで引き戻される。
正面に視線を向けようとすると、その前に二人によって顎から顔を掬い上げられる。
突然の行動に、オレは抵抗一つ満足にできなかった。
視界には、二人の姿がいっぱいになって映り、それ以外には何も見えない。
『余計なことは考えるな』と言われているようで、それに素直に従ってしまう自分にも笑ってしまう。
「ああ、待たせてすまない。昔から考え込むと長いのは、私の悪い癖だ」
「だが、答えを見出したのでな。我らからの解答、受け取ってもらおうか」
理知的で自信に満ちた表情は、二人とも何も変わらない。
この二人が定めた道なのであれば、きっと素晴らしいものになるに違いない。
民にそう信じさせることができるカリスマとも言うべき力を、今はオレ一人に行使している。
偽物の千里眼を使わずとも、確信できた。
次に続くものが何であれ、オレにとって霊基の髄にまで刻まれる致命傷になる、と。
どうしようもなく自分が変わってしまう、恐ろしさすら感じる一撃なのだろうと。
それでもいいと思った。
コイツらに変えられるのなら、どのようなものでもいい。
「私たち
「少し考えれば分かることであった。我が、お前なしでは賢王になれようはずもない」
そして、さも当たり前のように、子どもすら知る常識を教えるように。
エウリュステウスは、自身のあり様すべてをオレに放り投げてきた。
致命傷になるとは、分かっていた。
だがそれでも、これほどの傷になるとはまるで予想などできなかった。
身体ごと意識が凍りついたオレに、死体蹴りすら生温い追撃が待っていた。
「私を見よ、我が妻よ。お前の目には、何が映っている?」
「お前が見出し、お前が導き、お前が支え、お前が傷つけ、お前が奮起させ、お前が冥府にて出迎えた男の姿だ」
「王の姿を目に焼き付けよ。私たちこそが、お前の意思が生み出した何よりの結果だ」
濁流、という表現もまるで足りない。
もはや神雷とでも言うべき衝撃が、一発で飽き足らず数百発と浴びせられるような感覚。
ただの言葉が、どんな極上の美食や美女よりも魅力的に見える。
これは、きっと麻薬のようなものだ。
オレという存在の何もかもを堕とし、それでも手放せないものだ。
「……よいの、ですか?貴方を、私の意味に、してしまっても」
「ああ」
「これでも、半神半人の、不老の魔女です…よ?こんな化け物に全てを預けたら、きっと後悔します」
「あり得ぬな。…加えて言えば、たとえ本人であろうと、我が妻の侮辱は許されぬぞ」
いいや、きっと、分かっていない。
私という存在に、自分の全てを明け渡すことが、何を意味するのか。
誰よりも聡明で、同時に誰よりも愚かな夫には、何も分かっていない。
今でさえ、荒れ狂う血がバカな行いとして溢れ出さないよう、全力を賭して抑え込んでいるというのに。
多少歪んで浮世離れしていたとしても、美しい友愛なのだと思っていた。
今は、全く違ってしまった。
腐敗寸前の果実のような芳香を周囲へと振りまく、グズグズに融けた友への情だ。
それでもいいと、お前は言うのだろうな。
ならオレも、それがいいとしてしまおう。
「…貴方たちが私の意味になるだけでは、足りません。私たちは、対等ですもの」
そのままベッドへと倒れ込み、グズグズに融けた心をそのまま表情へと浮かべてみせた。
生前には一度だって見せたことはないだろう姿に、初めて二人に少しだけだが動揺が見えた。
見たことなど、そりゃあないだろう。
さっき、お前たちがオレをこうしてしまったのだから。
オレたちの友情をここまで歪めてしまった責任を、取ってもらわなければ。
「____私のことも、貴方の意味にしてください。そのように、魂まで書き換えてください。……私の
◯エウリュステウス探偵の推理
多分嫁の行動的に、悲劇自体を無くしたらダメなんだな
↓
理由は異聞帯と根は同じ、剪定事象に関連するものだろう
↓
…!なるほど"十二の試練"か、それはダメだ
ギガントマキアの前哨戦、無くせば歴史が致命的に歪む
↓
ならば"十二の試練"を提示する側…私はどうだ
嫁の介入がない場合、どのような王だったのか
↓
嫁のいない私では、賢王にはなれないだろう
自分のことは、自分が一番よくわかっている
↓
よし、この方向で説得しよう!
◯アダマンティア
その後二人がかりで攻略され、半日足腰が立たなくなった
見た目年齢十五歳をアラフォー&アラフィフが襲う図
傍目からは犯罪だが、内実は健全な夫婦である
「誘ったときは私のペースだったはずですのに…
モチベーションになりますので、感想等お待ちしています