転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【Strange Fake編】第一章 ダブルブッキングが気まずすぎてDie

 スノーフィールドと呼ばれる、アメリカ合衆国西部に存在する都市。

 その姿をそっくり模倣した夢のなか、スクランブル交差点の中央において、三つの影が対面していた。

 

「これからよろしくね!魔女さん、まっくろさん!」

 

 一つ目の影は、十歳前後と思しき日本人の女の子。

 黒髪をボブにした可愛らしいシルエット、年頃相応の情緒のなかに、どこか危うい責任感の強さを秘めている。

 名前を"繰丘椿"、今生でのオレのマスターらしい。

 

 子どもがマスターなんてのは、聖杯戦争においてはありえないことではないだろう。

 巻き込まれた一般人、調整されたホムンクルス、生贄など、可能性はいくらでもある。

 魔術師の非人間性と傍迷惑さには腹が立つが、そこはオレが元凶をシバけばいい話だ。

 

「こちらこそです、椿ちゃん」

 

 二つ目の影はオレ、アダマンティアだ。

 椿ちゃんに合わせて挨拶を返すが、表情は自分でも自覚ができるくらいには宜しくない。

 今回の召喚における異常続きな有様を考えれば、致し方ないと見逃してほしいものである。 

 

 クラスはライダーだが、ここからして普通ではありえない。

 大抵オレが召喚されるのであれば、ミュケナイ王妃であった頃の魔術師としての側面が、キャスタークラスとして充てがわれる。

 だが今は冥府の判官という側面での顕現となっており、常と勝手の違う状況であることは明らかだった。

 

 次いでオレは、己の左方向をチラリと盗み見る。

 そこには、今回の召喚及び聖杯戦争がとびっきりの異常事態であることを示す、最大の根拠が居座っていた。

 恐らくオレがライダーであるのも、隣のコイツに性質が引っ張られたからだ。

 

【__________】

 

 黒いモヤに、三つの曲線が円状に巡る異形。

 シュミラクラ現象だか何だかの影響で、顔のようにも見える様が不気味な存在。

 …どうやら、コイツも椿ちゃんのサーヴァントのようだった。

 

 クラスはオレと同じでライダー、解析した結果として『対象に乗り、病を運ぶ』と言う意味でのクラス選定であることが判明している。

 時には風に、時には動物に、時には人体に乗り、陸も海も空も超えて侵食していくとなれば、中々センスのいい解釈と言える。

 真名は恐らく"ペイルライダー"という奴だ、前世の厨二病罹患時の知識と魔術による解析万歳である。

 

(きな臭いどころじゃなく、普通に緊急事態なのは確定しとるやないか!椿ちゃんがマスターじゃなきゃ、とっくに退去のために動いてたんだが!?)

 

 今後のための状況整理を放り投げ、愚痴が飛び出そうになる。

 申し訳ないが、今だけは勘弁して欲しいもんだ。

 

 何故ならコイツは恐らく地球側の防衛機構、所謂カウンターガーディアンというヤツだ。

 カルデアという場所で、顰めっ面をした二世先生から教わった要件に、バッチリと該当しやがるのだから。

 

(ありがとう二世先生、ありがとうカルデアのオレ。テオス・クリロノミアを別口の記録装置として応用する実験は、バッチリ成功だ…!なんて、喜んでばかりもいられない)

 

 ここではない世界、白紙の地球を歩む旅路に同行する自分のファインプレーへの賛辞もそこそこに。

 オレはテオス・クリロノミアと改めて同期して得た知識と解析した情報を元に、今後の対策を練り始める。

 

(この聖杯戦争は、人為的に狂わされている。抑止力が最初から干渉しているのも、オレが最初ルーラーとして召喚されそうになったのも、それが大本の原因だ)

 

 本来ならば、オレはルーラーとしてこの地に喚び出される手筈だったのだ。

 カルデアでの経験を霊基に刻んだオレは、"現世への願いはなく"、"冥界の判官としての経験故に中立"と、一応はルーラー足りうる存在となっているために。

 オレ、聖人になった覚えはないんだけどな

 

 だが、聖杯に備え付けられた機能を改竄し、召喚を弾いた黒幕がいる。

 召喚途中で繋がりが断ち切られて宙ぶらりんになったオレは、冥府という共通点を有するペイルライダーの召喚に引っ張られた。

 最終的には、元ルーラーと守護者を抱えた少女マスターの誕生とあいなったわけだ。

 

 聖杯戦争自体の分析は、現時点ではここまでが限界である。

 オレがもう少し頭がよければ_もしくは夫のような賢者が召喚されていれば_、今の時点でももう少し何かわかるかもしれないが、もしもの話は置いておくべきだ。

 そう思考を切り上げて、オレは改めて幼いマスターの姿を認める。

 

「…?どうしたの、魔女さん」

 

「いえ。椿ちゃんは、いつからここに?」

 

 質問を受けた椿ちゃんは、まずは指を折り始め、次いで数え切れないと悟ったのか頭を揺らしながら記憶を探り始める。

 それでも分かりかねたのだろう、申し訳ないという表情を浮かべたまま、俯きがちに頭を振った。

 

 オレは内に湧き上がる怒りが椿ちゃんに伝わらないように努めながら、その頭を優しく撫でる。

 …これは目の前の少女への感情ではないのだから、怖がらせるのは本意ではない。

 

「そうですか、頑張りましたね。もう大丈夫。私とまっくろさんは、椿ちゃんと友だちになりたいのです」

 

「…ほんと?魔女さんも、まっくろさんも、いなくなったりしない?」

 

 恐らく自前の魔術であろう、現実を投影した夢の世界。

 その世界にずいぶんと長い間独りぼっちでいたのだろう、椿ちゃんは孤独というものに少なからず寂しさを抱いているようだった。

 

 懇願にすら思える問いかけに頷けば、先ほどまで隣に佇んでいただけだったペイルライダーも、黒い影を頷きの形に伸び縮みさせてみせる。

 意思などない機構のような存在だと考えていたが、どうやらマスターの行動に対して反応を示す機能程度はあるらしい。

 またはオレの反応を見て、サーヴァントとしての振る舞いを学習しているのか。

 はたまたサーヴァントとして現界するにあたって、擬似的な人格を付与されているのか。

 

(いや、そんなことは些事だな)

 

 オレたちの肯定に受けて名前通りに、いや比較にならないほど美しく咲き誇る椿ちゃんの笑顔。

 この表情を引き出すことが叶ったのならば、ペイルライダーの行動がどうのなんて考察は野暮のすることだ。

 知識ばかり増えるとこれだからいけない、自省しておかなければ。

 

 ならば、次はマスターである椿ちゃんの問題についてだ。

 虚構の世界で正確に分からないほどの日数を過ごしているという本人の認識と、この世界は一日を十数日に伸ばすような術式がかけられているわけではないという分析結果。

 確実に、現実における椿ちゃんは長い昏睡状態にあるはずだ。

 

(原因は、夢越しに現実の椿ちゃんを覗いて分かった。…脳にまで転移した、魔術的に加工された蟲、菌の類だ)

 

 召喚される際に雪崩れ込んできた、無垢な少女の悲痛な叫びがフラッシュバックする。

 およそ十歳の少女が抱えてはならない痛みと、それ以上の恐怖を纏った号哭。

 

____ごめんなさい、ちゃんとやりますから。

 

____ちゃんとがまんしますから!

 

____だから、だから捨てないで!捨てないで…!

 

 死後の安寧など与えん、国の宝になんて無体を働くのでしょうか、実の子どもになぜこんなことができるのです、やはり魔術師は基本的にクソだ。

 冥府の判官として、王妃として、母として、一人の人間として溢れ出す罵詈雑言を呑み込み、現実を直視する。

 

 ただ怒り狂ったところで、椿ちゃんが過去に受けた壮絶な拷問じみた実験も、貴重な時間をただ夢の中で浪費させられているという現在も、一つだって変えられやしない。

 全てを正面から受け止め、未来を変えるために行動を開始しなければいけない。

 そのために、オレは椿ちゃんへと手を差し伸べた。

 

「早速、私たちにスノーフィールドを案内していただきたいのですが。一つお願いがございます」

 

「お願い?わたし、できるかな…」

 

「いえいえ、難しいことでは。私たちは、ここを全く知りませんから…手を繋いでいただけませんか?」

 

「…いいの?」

 

 再び二人揃って頷けば、全身を使って喜びを表現し、手を催促するように差し出してくる。

 数えることすら叶わないほど味わってきた孤独が終わり、新しい友達に街を案内するのがよほど楽しみなのだろう。

 あーいい、やっぱり子どもはこうでないといかんわ。

 

 椿ちゃんの催促に応えて手をしっかりと握り、ペイルライダーにも念話を用いてイメージを叩き込むことで、不恰好ながら手に該当する部分を作らせる。

 …ビッグネームな割りに意外と素直だな、"サーヴァントたるものかくあれかし"みたいな原則を律儀に守ってるのか?

 そんな細かい疑問を思考の隅に追いやりつつ、オレは繋いだ手から己の宝具を椿ちゃんへと密かに流し込んだ。

 

第二擬似権能、限定解除____調和せよ:

           ヘラ・クリロノミア・レプリカ

 

 「…?」と、椿ちゃんは僅かな違和感を抱いたのか、周りを一度見渡した。

 だが違和感の正体に気づくことはなく、オレたちに街の案内を開始する。

 

 その一方で、内心決死の覚悟だった私は一安心だ。

 何せ椿ちゃんはともかく、隣にいるペイルライダーが怖い。

 "マスターの守護"を一義に置いているであろうコイツの目の前で堂々と宝具を使えば、問答無用で敵対と見做される危険性があったからだ。

 

(…成功!ペイルライダーはどうか分からんが、椿ちゃんは何にも気づいていない!)

 

 マスターがそも認識しておらず、その上で危害がないものであればと半ば祈るような気持ちであったが、賭けは成功だ。

 あとは体内のテオス・クリロノミアが椿ちゃんに巣食う蟲を排斥し、意識状態が回復するまで生き残ればいい。

 …とはいかないのが、魔術師の面倒臭いところだ。

 

 治療のために用いたのは、神々の遺産とも称されるオリュンポス十二神の力の源。

 そのまま彼女を魔術師の両親の元へ帰しても碌なことにはならず、かと言って後見人がいない状態では魔術的なサンプルに加工されるのが関の山だ。

 一度助けたのならば、助け尽くさなければ無責任というものである。

 

 故に、私はこの世界における成すべき試練を設定した。

 兄や夫のようにとはいかないが、それでも英雄の端くれとして椿ちゃんを救うという決意だ。

 

(消えるまでに椿ちゃんを親から自立させて、ペイルライダーとは穏当にお別れしてもらって!…その上で、この世界の二世先生の教室へ椿ちゃんを放り込んでやる!)

 

 …いや待て、ちゃんとこの世界でも二世先生は先生なのか?

 というか、アメリカで時計塔の君主と縁を繋げるのか?

 魔術師的には歴史が浅く神秘も薄い場所に、先生みたいな有力者が来てくれるのか?

 オレの疑問に答えられる者は、夢のなかにはどこにもいない。

 

 やばい、オレやっぱり英雄にはなれへんかも。

 …オレの計画、最初から詰んだじゃないか?




◯繰丘椿
南米由来の菌と、ギリシャにおける神々の遺産
二つを体内に宿した、魔術的価値がヤバい少女
後見人がいないと、戦争で生き残っても命が危ない

◯ペイルライダー
疑似人格、身近なお手本を基にサーヴァントを学習中

◯偽ライダー陣営
死の騎士、冥府の判官を抱える一大勢力
内情はともかく、敵対戦力としては目を離せない陣営


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