転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【Strange Fake編】第二章 主と同僚の教育が命がけでDie

「ウォォォン!!」

 

【……】

 

 無人のビル街を、三つ首の魔犬_ケルベロス_とペイルライダーが並走する。

 時速40キロほどの速度を維持した両者は互いに競い合うように、はたまた競い合いを演出するかのように加速と減速を繰り返している。

 規模はまるで違えど、彼らの振る舞いは親戚の幼児と遊ぶために手加減をする年長組の子どもたちを思わせた。

 

 伝説の魔獣と死の騎士にあやされているのは、我らがマスターである椿ちゃん。

 オレの宝具兼友である魔犬の背中に跨り、恐怖を感じても可笑しくない速度での疾走にもキャラキャラと笑う。

 召喚された際にも思ったが、今生のマスターはメガラちゃんのように肝が座っているようだ。

 

「わんちゃん、はやーい!まっくろさんも待ってー!」

 

「落ちても絶対に受け止めますが、ちゃんと掴まるんですよー!危ないですからねー!」

 

「はーい!」

 

 オレからの呼びかけにも元気に応えており、豪華メンバーによる鬼ごっこを楽しんでいる。

 邪気のない心からの歓声に、ペイルライダーはともかくとして魔犬は満更ではなさそうである。

 

 微笑ましさと物騒さが混在する稀有な景色を観察しながら、オレは椿ちゃんに魔術的な解析を行い続ける。

 これは寂しさを紛らわせるための遊びであると同時に、定期的な検査も兼ねているのだから。

 結果は、こちらの予想を遥かに超えるもの。

 

(…テオス・クリロノミアとの適合率が、余りにも高い。あのクソ両親め、一体どんな菌を埋め込みやがったんだ?)

 

 椿ちゃんに流し込んだヘラ・クリロノミア・レプリカは、対象者とオレの結びつきを強め、身体能力等をサーヴァントのソレへと近づける。

 しかし、今回は効果が顕著にすぎる。

 いくらケルベロスが速度を緩め、肉体が強化されているとは言え、十歳の少女が魔獣の疾走に補助具なしで掴まり続けられる訳がないのだ。

 

 驚異的なまでの適合率と、能力の伸び幅。

 恐らく椿ちゃんに埋め込まれた菌は、南米の神に類するものなのだろう。

 そう仮定すれば、前述した結果にもいくらか納得がいくというものである。

 

 魔術回路の効率を爆発的に向上させる、南米の神に類する菌。

 人体を超常の存在へと近づける、ギリシャの神の根源たるナノマシン。

 二つの神話的遺物の恩恵を得た現代に蘇りし神代人、それが今の椿ちゃんだ。

 …やっぱ後見人必須やな、両親以外でだけど。

 

「身を守るためにも、体の動かし方や魔術の修練も並行して進めませんと。できるだけ楽しんでいただけるよう、内容も練らなければ」

 

 オレは解析の結果を踏まえた上で、今後の教育プランを練っていく。

 修行は椿ちゃんが今後も生きていくために必須ではあるが、苦しみを強要するものであってはならない。

 そんなものを受けなければ生きられないというのであれば、救えたとは到底言えないからだ。

 

 いくら生前は王妃、死後は冥府の判官として多くの人々と触れ合ってきたとは言っても、これは中々の難題である。

 だが今のオレには、心強い味方がある。

 

(素人だったオレを一角の魔術師にした二世先生の授業に、パンクラチオンの名手たるケイローン先生直々の講義!他にもカルデアに集った一流講師たち、その授業を記録したデータ!)

 

 たとえ教育者としてはズブの素人であろうと、人を見る目には少しだけ自信があった。

 カルデアの情報と併せれば、それなりのものが作成できるだろう。

 

 目指すは一流魔術師、一流パンクラチオン選手。

 椿ちゃん育成計画は、そうして始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 月日が流れて約一年、育成計画は順調すぎるほどに順調だった。

 資料の存在や椿ちゃんの要領の良さもあるが、最も大きい要因は本人のやる気の高さだ。

 

 魔術にしてもパンクラチオンにしても、どれだけ排除しても多少の痛みは伴う。

 だが椿ちゃんは怯まず、楽しんで修練に打ち込む。

 …痛みへの耐性は両親の実験由来で、主なモチベーションが"私たちや両親に褒められること"であることを除けば、よいことであると言えよう。

 

 おかげで今の椿ちゃんは、肉体的にも魔術的にも常人を遥かに超えた域にある。

 もし正面から打倒しようと言うのならば、死徒の討伐を使命とする戦闘集団である代行者、そのなかでも上澄みでなければ難しい。

 心優しい主は、相手を積極的に害することはないが。

 

(魔力量も効率も、申し分なく。第二種永久機関としての性質を持つテオス・クリロノミアを使いこなせば、たとえ二騎の英霊を全力で使役しようと魔力が枯渇することはそうない)

 

 聖杯になど興味はないが、主を害されるのは御免だ。

 恐らく最初に召喚されたサーヴァントとして、椿ちゃんを鍛え、夢を触媒にペイルライダーの霧を広げ、監視網を都市周辺に張り巡らせた。

 いざとなれば、即座に敵対者の情報を調べ上げられるように。

 

 全ては、椿ちゃんをあらゆる苦難から守り、真に未来へと踏み出させるため。

 手間をかけ、あらゆる努力を惜しまなかった。

 

 そして今日からの数日間で、それらが無駄でなかったことを証明する。

 

「強力な魔力が二つ、砂漠方面へと高速で向かっていきます。…いよいよですね」

 

【……!】

 

「…?」

 

 魔術に僅かでも素養があれば即座に気付けるであろう、隠す気など微塵もない二つの魔力塊。

 もはや互い以外の全てが些事と言わんばかりの直進っぷりは、まるで開戦を告げる鏑矢のよう。

 

 瞬きのうちに魔力塊は合流し、その後は旧交を温めることもなく、更に爆発的な高まりを示す。

 もしくは今まさに始まろうとしている異次元の殺し合いこそが、旧知の仲であろう両者にとっての挨拶のようなものなのか。

 

 世界が捻れ狂う破砕音をBGMにして始まった同窓会は、当然ながら夢の世界にも影響を及ぼす。

 現実世界をガラスの如く蹂躙する衝突は、雷鳴という形となって表出した。

 

「かみなり!」

 

 大気を裂く鈍い轟音に椿ちゃんは反射的に身を竦め、己が備えた驚異的な身体能力を如何なく発揮。

 常人では目の端にすら捉えられない素晴らしいタックルは、そのまま椅子に座ったオレへと見事に命中。

 

 カタカタと震え始める小さな背中に触れれば、椿ちゃんはうわ言のように謝罪の言葉を繰り返す。

 何に謝っているのかなど本人にすら知る由もないが、根源が恐怖であることは疑いようがなかった。

 

「かみなり、怖いよう…」

 

「大丈夫です、なーんにも怖いことはありません。私たちは、雷なんかに負けませんから。知っているでしょう?」

 

「ぅん…」

 

 恐怖を宥めようと背中に手を置けば、すかさずペイルライダーが動く。

 自身を構成するモヤを周囲に展開し、光と音を遮断する天幕を瞬く間にこしらえてみせた。

 

 次いで天幕から分かたれたモヤは、この一年でずいぶんと様になった人型を形成。

 未だに震えの収まらない椿ちゃんの手を取れば、ようやく動揺から回復したようであった。

 

 英霊二騎が戦うでもなく少女を慰める光景は、客観的に見れば奇妙奇天烈極まりないもので。

 それでも効果は抜群と言ったところで、椿ちゃんの浅い呼吸は数分もすれば夢のなかを揺蕩うゆっくりとしたリズムを刻みだす。

 

「ずいぶんと椿ちゃんに寄り添うのが上手くなりましたね、ペイルライダー」

 

【……。………。】

 

「ええ。即座に突貫せずにいてくれて、感謝しかありませんよ。敵戦力の解析もせずに飛び込めば、いくら貴方でも勝敗は分かりませんから」

 

 冗談のように話しているが、全くの真実だ。

 ペイルライダーは機構じみたロジックで動くサーヴァントであり、自己の意思があるかどうかすら定かではない。

 恐らく最初に指針としていたのは、"サーヴァントはマスターを守り、願いを叶えるもの"という聖杯から与えられた知識だけだ。

 

 故に召喚されて間もない頃のペイルライダーであれば、椿ちゃんを害する可能性のある存在に対して一も二もなく排除へ動いただろう。

 その上で椿ちゃんの両親や周辺の動物を巻き込み、死の園を形成することで主の願望を叶えようともしかねない。

 というか一回しようとした、必死に止めたけど。

 

(あのときの説得は、死ぬほど大変だった。何せ短期的に見れば、ペイルライダーの行動は正しいんだもん)

 

 主の願いを、どんな形であれ叶える。

 サーヴァントの原則に沿えば正しいのはペイルライダーであり、それを止めるオレは面従腹背の徒と捉えられても可笑しくはない。

 あの無機質な気配は、感情すら朧げなそれにとっての純粋な殺意だ。

 

 長期的な戦略上の利点など、語ったところで無意味だと即座に理解した。

 ペイルライダーのロジックに沿った上で、力を即座に振るうことが己の行動原理に沿わない理由を述べなければいけない。

 トンチのようなお題目を乗り越えるために口から出たのは、ありふれた精神論という有様で。

 

『今生の主たる椿ちゃんは、とても優しい子です。もし己の孤独を癒した"まっくろさん"が、家族や動物を病によって蝕むことで願いを叶えていたと知れば、抱く悲しみはいかほどか。意思などなくとも、想定程度は可能なはずです』

 

【………】

 

『それに、貴方は"騎士"なのでしょう。騎士の務めとは、守るべき存在が苦しむのを横目に、目標へと一目散に向かうことを指すのですか。主の希望を真に叶えたいと願うなら、それを正しい行いと言えますか?』

 

 思い返しても、ずいぶんと形振り構わない説得。

 思考能力の有無すら曖昧な存在へ、火曜サスペンスで刑事が犯人を説得するかの如き説教を垂れ流すとは、というお話である。

 

 ただ、その悪あがきとしか言えない言葉のどこかに、病魔の化身であり死の騎士の琴線に触れるものがあったようで。

 それ以来ペイルライダーは自らが動く前に、椿ちゃんとオレへ伺いを立てるような素振りを見せるようになった。

 また、それまで以上に椿ちゃんの側に侍り、主が何を望むのかを観察する日々を送っている。

 

(制御できている、なんて傲慢なことは言わないが、大人しいのはいいこと。それに)

 

「希望の叶え方には、きっと正解はなくとも不正解はあります。不正解を選んでしまえば、幸せにしたい人を却って不幸にしてしまうやもしれません」

 

 これは生涯を改めて振り返り、カルデアの経験を刻んだオレが伝えたいこと。

 抑止力として動くシステムであったペイルライダーに与えられた、二度あるかも分からない奇跡が悲劇で終わってほしくはないという願い。

 

 ペイルライダーに今は意思がなくとも、未来は分からない。

 そのときに最初に浮かぶ本当の感情が、主を悲しませたという"後悔"であってほしくはなかった。

 オレと同じ誤ちなど、同じ主を戴く同胞に背負ってほしくはない。

 …なんでオレ、死んでからも育児じみたことやってるんだろうね?

 

(やめやめ!いい機会なんだから、さっさと二騎のサーヴァントを解析しないと。…でも、召喚した瞬間に殴り合うような物騒な友情を持つ強力なサーヴァントとなると、中々候補が____)

 

 限られる、と続けようとした思考が、止まる。

 次いで反動のように唸りを上げた本能が、危機を知らせる警告音をけたたましく響かせた。

 

 破滅的な予感に従うように、椿ちゃんを起こさない最大の速度でプロセスを刻む。

 映された映像には、無惨なほどに破壊された砂漠でなおも荒ぶる二騎の英霊。

 

 黄金鎧を纏いし美丈夫と、性別を超越した美貌を誇る麗人。

 その間に飛び交うのは、数多の宝具と地より練られし星の力。

 

(ギルガメッシュとエルキドゥ、じゃねぇかよぉ!!ギルガメッシュは知ってたさ、警察署長のおっちゃんが言ってたの盗聴したからな!でも、なんでエルキドゥがいんだよ!?)

 

 対ギルガメッシュ用に組んでいた策略が全部パァだよ、ふざけんな!

 この二人に同盟を組まれてもみろ、オレとペイルライダーが全力でかかっても勝てるか怪しいわ!!

 

 よしんば勝てたとしても、目的が達成できなきゃ負けも同然なんだよぉ!

 このチート連中が、オレの苦労を考えろってんだ!!

 

(…どうしよう。流石に最大の壁はギルガメッシュと考えていたところに、同じくらいの壁が生えてきたぞ?あんなチート相手に、どうやれば生き残れる?)

 

 プランは崩壊、練り直し。

 二世先生との縁には希望が灯ったにも関わらず、次に襲い来るのはメソポタミア最強の親友コンビ。

 

 オレ、死んだんじゃないか?




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