転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【Strange Fake編】第三章 兄が闇堕ちしててDie

 メソポタミアの大親友コンビに、計画を笑ってしまうくらい壊されて。

 砂漠の半径数キロを真の不毛の地に変えた喧嘩を皮切りに、状況は大きく動き出した。

 

 英霊の力を存分に垣間見た在野の魔術師たちの多くは、聖杯戦争へ参戦する意思を喪失。

 聖杯戦争そのものの解析を通して、今後の得を取ろうとする姿勢を見せる。

 また巻き込まれては命が危ないと、スノーフィールドから退去する者も少なくはなかった。

 

 オレにとっては、都合がいい変化だ。

 魔術師は苦手だが、殺したいわけではない。

 神話の再演を見てなお諦めない無謀な輩に関しては、こちらの管轄外だ。

 …黒幕が目指す目的を考えれば、恐らくそういう馬鹿がいることを前提としているのだろうが。

 

 英霊たち、そしてマスターたちの動きも活発だ。

 警察署を正面から襲撃するアサシンに、死徒と代行者の戦い。

 極め付けはテレビに映り、地元ニュースとして話題になるセイバー。

 例外がない聖杯戦争など存在しないが、今回は余りに大盤振る舞いである。

 

 だがこれらの馬鹿騒ぎですら、この聖杯戦争で巻き起こるイレギュラーの序章でしかなかった。

 

(六騎のサーヴァントを触媒に、真の七騎を召喚する。…どこまでも英霊を舐めた手口だが、よく考えたもんだ)

 

 英雄王に神造兵器、ガイアの抑止力たる死の騎士。

 大物をここまで取り揃えておいて、全て儀式としては偽扱いとは。

 この計画を考えた黒幕は、よほど人の愚かさが極まっているか、愚かさを愛しているかのどちらかなんだろう。

 

 新たに活性化する地脈の動きを注視しながら、オレは今後の動きを想定する。

 英霊十四騎が暴れる聖杯大戦とすら言える事態で、こちらの目的を通すためにはどのように動けばよいか。

 思考一つ、動き一つに椿ちゃんの未来がかかっている。

 

「とりあえずは、同盟相手が欲しいですね。そうは思いませんか、まっくろさん」

 

【……。…】

 

「魔女さん、友だちが欲しいの?」

 

 こてんと首を傾げる椿ちゃんを撫でながら、条件を列挙する。

 友だちというには物騒だが、間違ってはいない。

 

 人格的にまともで、ギルガメッシュ・エルキドゥ同盟との戦争において手札となる程度には強く、いざとなればオレたちだけで制圧できる。

 中々の難題だ、特に一番最初が地味に難しい。

 英霊なんてものは、大抵が人格破綻者と同義だからな。

 

 アサシンはいい線いっているが、あの猪突猛進っぷりは危うい。

 セイバーも強力ではあるが、正体がリチャード一世と考えると不安が残る。

 バーサーカーは人格面ではよさそうなんだが、戦闘力が分からない。

 キャスターはマスターが警察署長、つまり黒幕側であるから論外。

 

(いざとなれば贅沢は言ってられんが、現時点決めるのは早計。ここは真陣営とやらを見て、改めて選ぶ方が丸い)

 

 拙速は巧遅に如かずと言えど、失敗が幼児の生涯に影響するとくれば話は別。

 どれだけ時間を取っても足りないが、時間は有限。

 一刻も早くそれぞれの陣営を把握して、最適な同盟相手を探さなければ。

 

 そうして分析に徹していれば、無視できない物体が出現した。

 

「…ん?」

 

 選定の最中にスノーフィールドから離れた渓谷で、間欠泉のように迸る禍々しい魔力が監視網に引っかかる。

 先日の英雄王たちにも優るとも劣らない、ただ存在するだけでも格の高さが分かる力だ。

 …加えて、どこか懐かしさを感じてしまう気配でもある。

 

 次いで魔力塊から放たれた物体_恐らく矢_は一切減速することなく、ギルガメッシュらが拠点とするホテルへと奔る。

 次の瞬間にはギルガメッシュが展開していたのだろう防御宝具と激突し、暴力的な魔力の風を拡散させていった。

 凡百の英霊ならば容易く霊核を喰い潰される一撃、それを万全に防いでみせる一連のやり取りは、両者が一流すら超える英霊である何よりの証左。

 

 練り上げられた、美しさすら感じさせる一矢。

 オレは見覚えがあった、ありすぎた。

 だが目を逸らしていた、逸らさざるを得なかった。

 それでも、もはやどうしようもない。

 

「兄さま…?」

 

 たとえ、魔獣の裘で顔を隠そうと。

 たとえ、神性の喪失により肉体が萎もうと。

 たとえ、禍々しい力に霊基を歪められようと。

 兄を見誤るほど、オレは耄碌してはいない。

 

 分析してみれば、現在の兄の霊基はアヴェンジャーのソレに近い。

 恐らくは令呪による強制力及び何らかの汚染を通して、精神の根底にあった復讐心が前面に出るよう調整された結果。

 ならば、これは。

 

「たとえ未来を変えたとしても、過去と現在は変えられない、…ということですか」

 

 兄が外道につけ入れられる余地を作り出したのは、オレの過去の行いだ。

 たとえカルデアで家族らに説得され改心したとしても、変えられるのは己の心のみ。

 既に神話・歴史へと刻まれてしまったものは、どうあっても変えられない、変えてはならない。

 

 このまま聖杯戦争が進行すれば、必ず戦うことになるだろう。

 そのとき、オレは戦えるだろうか。

 オレのために復讐者へと堕ちた兄を、オレは殺せるか。

 …分からない、何も、分からない。

 

「魔女さん?」

 

「ッいいえ、なんでもありませんよ」

 

 オレの様子を見かねたのだろう、椿ちゃんが心配そうに声をかけてくる。

 安心させるために普段を装うが、擬態は上手くできているだろうか。

 自信など、どこにもない。

 

 案の定、我らがマスターを納得させることはできなかったようで。

 椿ちゃんはオレの正面へと回り込むと、しゃがむよう要求するジェスチャーを一つ。

 大人しく従えば、頭には柔らかな少女の感触が染み渡った。

 

「今の魔女さんは、まっくろさんや魔女さんが来てくれるまでのわたし、みたい。…誰かに、会いたいの?」

 

「……すごいですね、椿ちゃんは。どうして分かったのですか?」

 

「いつも魔女さんとまっくろさんは、わたしを見てくれるから。わたしも、二人のことは見てるんだ!」

 

 椿ちゃんはこともなげに言って、無邪気に笑う。

 無垢な親しみと、その年頃で身につけるには余りに深い智慧を湛えて。

 それともこれこそが、この一年のなかで育んだ絆と言うべきナニカが成せることなのか。

 

 …何を迷っていたんだ、オレは。

 過去と現在は変えられないが、未来は変えられる、だというのに。

 ここで立ち止まっても、何も変えられないではないか。

 

「ありがとうございます、椿ちゃん。…少し、出かけてきます。まっくろさんと一緒に、いい子で待っていてくれますか?」

 

「うん!がんばってね、魔女さん!」

 

 ああ、そうだ。

 英雄王も、神の兵器も、堕ちた兄も、何する者ぞ。

 たとえ敵がどれだけ強大だろうと、微塵も関係などあるものか。

 

 幼児の声援を受ける英雄こそが、何よりも強い。

 

 手をブンブンと振る椿ちゃんと、その側に侍るペイルライダー。

 二人の気配を感じながら、夢の世界における渓谷へと辿り着く。

 ここで夢と現実の境界を壊せば、そこはもう戦場だ。

 

「ギルガメッシュ様に、兄さま。あの女性は、ヒッポリュテ様ですね。…交渉次第では、同盟相手になってくれるやも」

 

 途中で加わったヒッポリュテを含めた三騎は、どうやら力量と格は彼女が一歩劣るらしい。

 それは即ち、オレが探し求めた同盟相手に相応しい可能性を秘めている、ということだ。

 

 好都合だ、一石二鳥だ、一挙両得だ。

 堕ちた兄を見定め、ヒッポリュテとの同盟の道を探る。

 どちらも重要で、一つたりとも取りこぼさない。

 

 そして大前提として、生きて椿ちゃんの元へと帰る。

 これだけは外せない、当然だ。

 

「さぁ、盤面に己を乗せるときです。…登場は、とびきり派手にするとしましょうか」

 

 オレはそう決めて、夢と現実の境界を、雷霆を以て打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 半神半人たちが集い、いまだ破壊を撒き散らす渓谷。

 大地が悲鳴を上げ、草木は抵抗一つ許されず消し飛び、多くの獣たちが逃走叶わず命を終える地獄で。

 

 ソレは、空より顕れた。

 

 空が、裂ける。

 そう比喩するしかない異常な亀裂が走ったと思えば、中心には魔獣に跨りし女が一人。

 万物がひれ伏すことを自然とする圧には全くそぐわない、たおやかな微笑を浮かべていた。

 

「____格が違う、というのであれば。私が、彼女に助力いたしましょう。それでいかがですか、英雄王?」

 

 女は神気という言葉ですらまるで足りない、神そのものとしか言えない気配を纏っている。

 天空の神気、女神の神気、大地の神気。

 それら全てを己の力として組み上げた濃密な神性は、ただ在るだけで支配者としての格を示す。

 

 心根が弱い者ならば目端にとらえるだけで己が眼を潰すだろう、半神半人の英傑たちによる宴への闖入者。

 もはや渓谷の命運は尽き、破壊は避けられぬ未来となって、更に戦いは加速していくという確信のみが満ちる空間のなか。

 

「…なぜ、お前が」

 

 ただ一人、神々への復讐者に身をやつした弓兵のみが、亡我の極みにあった。

 

 己にとっての真の英雄、罪の具現、何より守りたかった者、何より今の姿を見せたくなかった者。

 抱いた願いを嘲笑うかのように、男に最愛にして最悪の試練が立ちはだかった。

 

 

 

 

 スノーフィールド都市部、ある高層ビルの一室。

 聖杯戦争を己が玩具と放言して憚らない少女…フランチェスカ・プレラーティの哄笑が、吹き抜けとなった空間に響き渡っている。

 

 哄笑はやがて嘲笑に、狂笑に、最後には涙すら浮かべて笑い転げる。

 悠久の時を生きる女の形を成した魔物は、ただ自身の想定を超えた混迷を歓迎していた。

 

「来てくれたらいいなって思ってたけど、ほんっとうに来てくれるなんて!アーちゃんもいるのなら、この聖杯戦争、もっともーっと楽しくなっちゃうね!」

 

 愉悦と歓喜の極みにあるフランチェスカとは対照的に、警察署長であるオーランド・リーヴは冷や汗をドッと増やす。

 戦場から十キロ単位で離れているにも関わらず、肌を震わせるように伝わる神性。

 半神半人の英霊が更に増えたことは大きな出来事ではあるが、それだけではないことは確実で。

 無秩序を嗤う"老害"の様が、状況が更に悪化していくことを何よりも示していた。

 

 オーランドはスノーフィールドを舞台とした聖杯戦争の黒幕の一人ではあるが、思考の根底は警察官のそれだ。

 そもそも黒幕側として与した理由からして、内部に取り入ることで市民への被害を減らすことが目的であれば。

 あからさまな変調を見逃すという選択肢は、当然の如くあり得ない。

 

「あの英霊の、何がそこまで可笑しい!お前は、また一体何を呼び寄せた!?」

 

「『呼び寄せた』?違う違う!私だって想定外だよ!…あぁでも、あの復讐者が召喚されたんだから、彼女が来るのも当然だったのかな?」

 

 要領を得ない言葉の羅列に、オーランドは歯噛みする。

 魔物の言葉に耳を真剣に傾けるものではないと承知していても、未だかつてない異常事態の連続に混乱する頭は誤魔化せない。

 それでも警察官として成すべきを成さねばならないと、眼前の魔物を睨め付ける。

 

 堅物が珍しく狼狽を表に出す様子に気をよくしたのか、フランチェスカはニヤけた口角はそのままに語り出す。

 コレを伝えれば男はどんな反応をするのだろうと、無邪気な外面の内に邪気をたっぷりと詰め込んで。

 

「あの復讐者が神話最大の英雄なら、あの子は神話最大の特異点(イレギュラー)。何せ半分神様なだけじゃなくて、神様の力を再現しちゃったんだからね!」

 

 「これって、とんでもなく凄いことだよ?」と楽しげに、謳い上げるようにクルクルと舞う。

 フランチェスカの声色には、何処か自慢げな色が乗せられていた。

 

 一方のオーランドは、与えられた情報から推測できる闖入者の正体に目を見開く。

 半神半人の女で、神の力を再現し、神話最大の英雄と対比するように語られ、"アーちゃん"と呼ばれる英霊。

 上記に完全に一致する英霊は、一人しかいない。

 

「…まさか」

 

 多くの英傑を輩出したギリシャ神話、半神半人が入り乱れる魔境。

 

 そのなかでも燦然と輝く、半神半人の双子のうちの一人。

 

 四柱の神と縁を繋いだ巫女、ミュケナイの国母、賢王を導きし懐刀。

 

 多くの逸話と共に語られるが、魔術に心得のある者は揃ってこう評した。

 

 ただ家族のため、"神の威を人の手に貶める"偉業(禁忌)を成し遂げた破戒者。

 

 ____"神殺しの魔女"、アダマンティア、と。




◯アダマンティア
「大物たちに挨拶だから、最初にバチーンと決めるぜ!」
と内心意気込んでいる

◯偽ライダー陣営(いっぽうそのころ)
「魔女さんが会いたい人、どんな人なんだろうね!」
【…(凄惨な映像が流れるとダメだと考え、モヤで隠す)】
「あ、まっくろさんずるい。わたしにも見せて!」
【…(上手い対応が思い浮かばず、困り果てている)】


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