転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【Strange Fake編】第五章 二度目の兄妹喧嘩がハードすぎてDie

 スノーフィールド北部、半神半人たちが鎬を削る渓谷。

 数千年の時を超えて、ギリシャ神話における"最強"を争う兄妹たちの殺し合いが幕を開けた。

 

 先手を仕掛けたのは、アダマンティアが一年かけて都市周辺に散布したハデス・クリロノミア・レプリカによる地形攻撃。

 正確無比な剛弓という最も分かりやすい脅威を消し去るため、神話の魔女は戦場の舞台そのものを掌握する豪快な一手を選択する。

 

 相対する敵対者の脅威を誰よりも知るが故に、討ち屠るための策は十重にも二十重にも繰り出すべき。

 ある意味では限りない信頼のもと、アダマンティアは拳銃を象った右手を空中へと放り出されたアルケイデスへ向けた。

 

第一擬似権能、限定解除____撃滅せよ:

          ゼウス・クリロノミア・レプリカ

 

 神秘の希薄な現代の空を、旧き神々をも駆逐した雷霆が奔る。

 一切の慢心無く対象を包囲するように放たれた雷の群れは、獲物を追い詰める猟犬たちか、はたまた牢獄か。

 相対するのが並の英雄だったならば、必殺という言葉が相応しい一連の連携。

 

 そのような絶死の状況など、この英雄には凡庸な日常でしかない。

 あっという間に姿勢を整えたアルケイデスは、僅かな惑いもなく己が泥より打開の手段を引き摺り出した。

 

十二の栄光(キングス・オーダー):アウゲイアス王の牛小屋掃除

 

 神話に燦然と輝く十二の難行、第五の試練。

 『三百年間一度も清掃を実施したことがない牛小屋を、一日の期限の内に新品同然にせよ』という、怪物退治や宝探しとはベクトルの異なる試練。

 

 この試練においてヘラクレスは、二つの大河の流れを変更・合流させることで鉄砲水を人為的に造り出し、牛小屋を汚れごと流し去ってみせた。

 なれば、この逸話より生み出される結果は一つ。

 

 大瀑布にすら匹敵する濁流が、アルケイデスの周囲より盛大に放出される。

 

 自身すら苛んだ聖杯の泥とヒュドラ毒をも混ぜられた死毒の水流は、雷を受け止めるだけが狙いではないことは明白。

 渓谷の谷間を満たす穢れは大地へと侵食し、テオス・クリロノミアを瞬く間に機能不全に陥らせてみせた。

 

「流石ですね、兄さま」

 

 雷の対処と地形攻撃の封殺、一挙両得の妙手。

 加えてアルケイデスの有する心眼を以てすれば、同じ手は二度と通用しないという推測は容易だった。

 

 英雄の所以を存分に魅せつける対応を目の当たりにしても、アダマンティアに焦りはない。

 むしろ愛おしそうに頬を緩めると、友へと跨って発破をかける。

 

「我が友よ、やはり貴方の力が必要です!冥府での屈辱、私と一緒に晴らしましょうか!」

 

「ウォォォオン!!」

 

 歴史に刻まれた敗北を濯がんとする決意を漲らせ、ケルベロスが吼える。

 ただのそれだけの行為が、渓谷全てを震わせる。

 すると元より成象ほどの巨躯は更に膨張し、存在規模とでも言うべき格が著しく底上げされる。

 もはや魔犬は魔獣という括りなど大いに逸脱し、神獣のなかでも最上位と言えるステータスを獲得するに至った。

 

 この変化を見て取ったティーネは怪訝そうに、ギルガメッシュは泰然と見やる。

 アダマンティアに、魔術を使ったという痕跡はない。

 それにも関わらず、無視できないほどに魔犬が強化されているのだ。

 

「魔犬の力が、明らかに上がっている…?」

 

「先ほどの地を揺らす芸当、大方冥府の神に由縁する力を用いてのものなのだろうよ。…なれば此処は、既に冥府とでも言うつもりか」

 

 ギルガメッシュの言葉は、正鵠を射たものだ。

 一つの行動に幾重もの意図を込めるは、何もアルケイデスだけではない。

 その背中を見て育ち、悲劇を止めるために修練を続けたアダマンティアができぬ理屈などあるはずもない。

 

 初見殺しが通用すれば、それで結構。

 通用せずとも、ハデス・クリロノミア・レプリカを励起させられればよし。

 友が本領を発揮するための場作り・時間稼ぎこそが、騎兵にとっての最優先事項である、と。

 

「行きましょう、ケルベロス!生者ならばいざ知らず、死者が貴方に勝る道理などなし!」

 

 ただの踏み込みで大地を割り砕き、ケルベロスは死毒の水により飛び地状となった渓谷を駆け抜け、怨敵を中心にして円を描く。

 天仰ぐ巨体でありながら、意思を持つかのように襲い来る汚濁した流体、神気とヒュドラ毒に塗れた鏃の尽くを掻い潜り、それでいて乗り手に負担などかけはしない。

 

 回避を信頼する友に任せ、アダマンティアもまた己が生涯で磨いた魔術を存分に振るい始めた。

 霊基を巡るテオス・クリロノミアを用いて体内に工房を形成し、威力にしてAランクに匹敵する火炎と氷塊、光弾を一息に乱射する。

 それらに対して僅かでも処理に手間取れば、合間を縫って放たれる本命の雷霆が肉体を芯まで炭にするだろう。

 

 しかし。

 

「ぬぅうん!!」

 

 それら全てを力と技で征服してこそ、かつてヘラクレスと呼ばれ、神の栄誉を背負った英雄であれば。

 アダマンティアは兄が見せる離れ業に、興奮気味に吐き捨てた。

 

「…ほんっとうに、敵にすると恐ろしいですね!普通でしたら、とっくに勝負はついてるんですよ!」

 

 氷炎の嵐を弓の一振りを以て打ち払い、雷霆の放出タイミングを読んでときに濁流でいなし、ときに戦帯に部分的に神気を発露させることで僅かに逸らす。

 逸らしたことで生まれた間隙に身体を滑り込ませると同時に矢を撃ち放ち、追い討ちとなる光弾を一つ残らず相殺。

 神の力を拒絶した人の身では一撃が致命傷となる魔女の殺し間を踏み抜き、その上で凝縮された殺意が幾多の矢となってケルベロスを射殺さんと疾駆する。

 

 ギリシャ神話において最も神に近づいた傑物二人が織りなす、見る者に感嘆と言うべき感情すら抱かせる死の舞踏。

 両者の極限まで練り上げられた技量故に、戦いは千日手に近似した様相を呈していた。

 戦いの趨勢が未だどちらにも傾かない様を見やり、ヒッポリュテは言葉を零す。

 

「…だが、この状況は喜ばしいものでないだろう。ここからどうするつもりだ、ライダー」

 

 戦いのなかで両者の実力だけでなく、互いが抱える事情をもある程度察することが叶ったのだろう。

 直情的な部分ではなく女王として冷静な思考を以て、ヒッポリュテはアダマンティアが不利なのだと判断する。

 

 通常千日手とは、同一の局面が繰り返され、決着がつかなくなる状況及びルールを指す。

 戦いの舞台がチェスや将棋などのボードゲームであれば引き分けとなるが、命の奪い合いという場において真の千日手など成立し得ない。

 アダマンティアは飽和攻撃により本格的な反撃の機会を封殺しながら、自身が極めて緩やかに"詰み"の盤面へと陥りつつあると冷徹に見抜いていた。

 

(…あっちのマスターは、どんなズルかましてんだ。消費魔力でスタミナ勝ち、なんて狙えないくらい魔力を溜め込んでやがる)

 

 大英雄であり何よりも強さを知る兄に対して、正々堂々と戦闘で上回れると楽観視するほど、アダマンティアは愚鈍な女ではない。

 故に最初からこう着状態を形成し、アルケイデスの弱点である莫大な魔力消費を突くつもりであった。

 マスターである繰丘椿の魔力量とテオス・クリロノミアが有する性質を考えれば、それこそが最も現実的な勝ち筋であると。

 

 しかし、激しい戦闘と複数の宝具(戦帯・大瀑布)の連続稼働を以ってしても、アルケイデスへと送られる魔力には些かの揺らぎもない。

 その様子から、少なくとも一ヶ月以上は全力戦闘を行っても問題はないのだろうと結論づけた。

 ある意味では予想通りでもある分析結果に、アダマンティアは思考を切り替え大きく距離を開ける。

 

「…どうした。既に方策が尽きたのであれば、こちらから往くが」

 

「相変わらず、冗談が下手ですね。…策など、ええ」

 

 アルケイデスからの挑発を穏やかに受け止め、アダマンティアはケルベロスの背を軽くなぞる。

 友への労いとも、先にある苦労への謝罪とも取れる動作の後に、アダマンティアの瞳が金色と極彩色を纏う。

 

「____あるに決まっているでしょう、アーチャー」

 

 次の瞬間には、爆発的な神気の高まりが周囲の穢れを散り散りに弾き飛ばした。

 

第一擬似権能、限定解除____撃滅せよ:

          ゼウス・クリロノミア・レプリカ

 

 ケルベロスの肉体が、神雷を放つ。

 

第ニ擬似権能、限定解除____調和せよ:

           ヘラ・クリロノミア・レプリカ

 

 神獣と形容すべき威容は更に膨張し、竜種にすら伍するスケールを獲得する。

 

第三擬似権能、限定解除____管理せよ:

          ハデス・クリロノミア・レプリカ

 

 最後に冥府の監視者にとって最も馴染み深い神性の源が、その威容を保つ勁さを与える。

 

冥府の三頭魔犬(ケルベロス・イーコール)

 

 もはや戦場に君臨するのは、魔獣に非ず、神獣に非ず。

 纏うことなど決してありえない天の神性を己が身に宿した、神話すら超えた伝説の獣。

 

 "幻想種の頂点"である竜種も、己を地上へと引き摺り出した忌々しい英傑すらも、この姿を前にしては話にもならないと。

 再臨を果たしたケルベロスは、内に滾らせた報復の一念を咆哮として解き放つ。

 

「ウォォォォォォオオオオンン!!」

 

 渓谷の大地を捲り上がらせ、汚濁の激流を割り、死した魂は開かれた顎門に自ら生殺与奪の権を差し出す。

 逸話による死者への圧倒的な優位も併せ、凡百の英霊では倒すなど烏滸がましく、どれほど生き残ることが叶うかを語り始めるだろう。

 

 絶対的な死者の圧政者と呼んでも決して過言ではない脅威を前にして、アルケイデスは決断を下した。

 自身の秘奥を衆目に晒すことすら厭わぬと、万力を籠めて弓を引き絞る。

 本来は『竜を纏う』と表現される技術と神気の極致を、泥の如き魔力と怨嗟を以って現出させる。

 

「____ならば、我が最愛の怨敵よ。お前もまた、我が狂奔と共に踊るがいい」

 

 一子相伝すら許されず、かの大英雄がただ一人で築き上げ、ただ独りで完結させた一つの"神話"。

 剣で放てば無呼吸の剣舞九連撃、槍で放てば九連同撃の御技となる宝具(流派)ヘラクレスとでもいうべき偉業。

 

 復讐の徒と化したアルケイデスが繰り出せば、九連の剛矢が邪竜となりてあらゆる敵対者を砕く。

 一度掠めるだけで魂までをも腐らせる、死毒と悪性の坩堝を凝縮した必滅の業だ。

 

 大英雄が創り出した神話を穢し尽くす復讐鬼の執念が、神話を超えた死者を統べる獣へと挑む。

 

 もはやこの戦いは、どちらかの死を以ってしか鎮まることなし。

 趨勢を見守る誰もがそう判断し、終わりを固唾を飲んで見守るなか。

 

『はい、おしまい……っと』

 

 無粋極まる第三者が、その決闘に待ったをかけた。




◯アルケイデス
雷霆を人読み一本で躱しきる怪物
スピードで躱せないなら、全部読み切ればいいじゃない

◯アダマンティア
単独で飽和攻撃を遂行できる怪物
戦闘で勝てないなら、そも戦闘させなきゃいいじゃない


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