転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
執筆の励みになっております
strange Fakeを履修途中ですので、箸休めの死後編です
ハデス様とヘスティア様のご厚意で、オレが新しい冥府の判官となって。
冥府での新しい日々は、女王であった頃と比較して別ベクトルで過酷なものであった。
判官の仕事は、主に死者の魂を三つの世界へと振り分けることだ。
魂は生前の行いによって送られる世界が決められ、英雄や徳の高い者が対象のエリュシオン、一般人が対象のアスフォデロス、罪人が対象のタルタロス、となっている。
まず、仕事量が膨大すぎる。
ギリシャに限らずだが、古代における命は軽い。
食料や医療技術の問題もあるが、何より神様が一度癇癪を起こせば数百人が消し飛ぶのもザラなのだから。
そうして送られてくる大勢の人間の魂を、たった数人の判官が来る日も来る日も振り分け続けるわけだ。
普通に死ぬよね、これ以上死なないから無茶し放題なのが更にふざけてるよ。
同じ判官の先輩にアドバイスとか聞こうとしてもさ、恐ろしい速さで仕事を捌きながら何食わぬ顔で言ってくるのよ。
『コツ?量を熟すことです。そうすれば、段々と基準が見えてくるはずですよ』
そんなん知っとるんじゃ、分かっとるんじゃい!
基準を教えて欲しい、という話なんじゃい!
などと言うわけにもいかず、礼とともに曖昧な笑みを浮かべるしかなかったオレは、弱い王妃である。
次に、ミュケナイの民が熱烈すぎる。
まだまだ判官としては日が浅いが、やはり死者のなかにはミュケナイ出身の者もいる。
そこは仕方ない話だ、ほとんどが高齢者なのも国として健全な証なんだろう。
問題は、例外なく全員が『アダマンティア様に会わせて欲しい』と強く希望することだ。
いやオレが原因なんだけども、もっと正確には遺言を公開処刑した推しが元凶なんだけども。
自分が蒔いた種であり、誰か様の独断で起こったことのため、ハデス様からは面会を許可されている。
こちらも、民から様々な近況を聞けるのは楽しい。
でもね、その度に仕事が止まるんだわ。
ただでさえヒーコラ言いながらノルマを捌いてるのに、面会で一時間くらい話すのザラよ?
断ればいいって?
無理だよぉ、あんな目されたら断れないよぉ!
「どうすればいいと思いますか、ケルベロスさん?」
【知らぬ。興味もない。疾く仕事に戻るがいい】
「相変わらず容赦がないですねぇ…」
素っ気ない返事に、オレは体育座りのまま肩を落とす。
オレから見て左上の首の言葉に同調するように、右上と下の首もウンウンと頷いている。
いつも左上の首が喋るのを見るに、リーダー格に色々と委ねてるんだろうか。
最後に、仕事仲間が一癖も二癖もありすぎる。
同じ判官は公明正大さを買われた名君ばかりで、なんちゃって王妃のオレは肩身が狭い。
あとは神獣や神様ばかり、気疲れがすごいのだ。
(ケルベロスも最初は無視を決め込んでて、通い詰めてようやく言葉を返すようになったし)
神獣という存在は、格としては人間より遥か上だ。
故に大抵プライドが高く、人間と言葉は交わさない。
今こうして返事をしてくれている時点で、かなりの特例と言えるのだろう。
(でもそれだけじゃ、まるで足りない。癒しが、セラピーが欲しい…)
…仕方ない、前世の知識に頼るか。
仲良くなるために最初から知識を使うのはゲームの攻略のようで忌避していたが、恐らくこれ以上の進展は難しいだろう。
そう思い「むんっ」と気合を入れるオレを、ケルベロスは訝しんでいるようだった。
ブンブンと手を振りながら近づいてくるオレの姿に、ケルベロスは呆れた目を隠さない。
最初は露骨に警戒され、脅されもしたんだから、この対応は実はかなり軟化している。
なんで仕事場の先輩に話しかけるだけで死にかけるんですか、おかしいですよハデス様!
ただ少し違うのは、三つの鼻が常よりも忙しなく動いていることだ。
流石は神獣、犬としての能力も桁違いだ。
その能力故に、お前はオレの策略に嵌る(予定な)んだがなぁ!
【汝もほとほとしつこいな。その根性は認めよう、根性だけは】
「ふっふっふ、今日の私を今までと同じにされては困ります。秘密兵器というべきブツを、今回は用意しました」
【随分と自信に溢れている。だが、無駄だ。冥府の監視者たる我を____】
地位を誇示しようとする言葉は、唐突に途切れる。
どうやら本格的に気付きそうだ、なら引き伸ばしのような無粋な真似はすまい。
オレは格納していた秘密兵器を、盛大に広げてみせた。
静謐を保つ冥府に、あり得ざる甘い芳香が広がる。
目の前に並べられたのは、この時代では決して見ることができないブツ____スイーツの数々だ。
王道のケーキの数々にクッキー、和菓子まで取り揃えているぞ。
胸を張るオレに対して、ケルベロス側から珍しく言葉をかけてくる。
【こ、れは…。食い物、なのか?】
「冥府の偉大な先達に、手土産もなかったのは非常識だと思い至りまして。取り急ぎ、甘味をご用意いたしました」
【甘味…?我が知るものとは、まるで匂いが…】
当然だ、これは現代の合法麻薬の一つである"砂糖"を使った菓子なのだから。
古代ギリシャにはそも砂糖がなく、ハチミツやブドウ果汁が主に天然の甘味料として使われている。
そんな時代に現れた甘さ全振りの調味料、これに釣られないスイーツ好きがいるだろうか、いやいない!
しかも、今の時代では医薬品や整髪料として使われるバターを大量にぶち込んでいる。
記憶では分からない工程を魔術で大分誤魔化すから、生前は作れなかったんだよな。
我が子にすら食わせたことのない珠玉の品々に、ケルベロスは大いに揺れている。
「いかがしましたか?全てケルベロスさんのための料理です、遠慮は無用です」
【む、むむむ、むむ。しかし、冥府神に仕える我が、このような誘惑などに…】
と言いつつ、足はフラフラしているし、二つの首はもう欲望に負けかけている。
流石は神話に刻まれるレベルの甘党、効果覿面だ。
ついに近寄ってきた下の首にショートケーキを放り込んでみれば、反応は劇的。
身体を大きく震わせ、感動しているのが見てとれた。
【!】
「どうですか?」
そのまま返事すら忘れ、スイーツの山へと首を突っ込む。
閉じ込められていた匂いが更に広がって、辺り一帯が甘味の気配で埋め尽くされる。
作っといてなんだけど、普通にオレも食いたい。
こうなってしまえば、後は脆いもの。
次に右上が、最後には左上と、次々に屈していく。
最後には威厳など忘れて、菓子を食い漁るために全てを注ぐ始末である。
「…好評なようで何よりです」
【ッ!!……悪くはない、悪くはな】
そう言いつつも、視線は常にスイーツをロックオンしている。
へっ、チョロいもんだぜ。
この日以降、ケルベロスの態度が著しく柔らかくなっていったことは言うまでもない。
大好物を作ることが叶う唯一無二の存在を、邪険に扱うものはいないということだ。
「そう言えば。ケルベロスさんは、私が作るお菓子のなかで何が一番好きですか?」
【別に汝の菓子を好んでなどないが。捧げ物を残すのは、道理に反するだけだが?】
「いいんですかー?次に来るとき、たくさん好物が来るチャンスですよー?」
【ぐっ!……ショートケーキとやらが、よい】
「はい!次はたくさん作ってきますね!」
「最近、ベルセポネ様からお悩みを相談されてまして…」
【なぜ微妙な顔をする。奥方様に選ばれるなど、名誉この上ないではないか】
「それは、そうなんですけど。流石に、『夫婦円満の秘訣はなんですか?』と聞かれるとは思ってなくてですね」
【番の仲の良さは重要だろう。それで、汝はしっかり答えたのだろうな?】
「とりあえず、男装するために必要なセットを贈りました。でも、ハデス様が好みかどうか…」
【…男装?なぜ番の仲を保つために、男の格好をする必要があるのだ】
「色々ね、あるんですよ」
【???】
【おい、その腫れた頭はどうした?汝をそこまで痛めつけるなど、相当な奴を怒らせたのだろう】
「あぁ、これですか。ベルセポネ様の神性を解析しようとしたら、ハデス様に大層叱られまして」
【____何をやらかしとるか!!このバカモン!!】
「すいません!!ハデス様に怒り方が似てて怖いんですが?!」
【ええい黙れい!本当に汝は元王妃か?!とんでもない阿呆ではないか!】
「もう二度とやりませんから!たっぷり絞られましたから!」
【まったく!それで、何故そのような不敬の極みを成そうとしたのだ。何の考えもないほど、汝は無分別な輩ではあるまい】
「…二柱の神性を分析できれば、夫妻の御子が冥府でも産めるようになるのではと、思いまして」
【…冥府は死者の在るところ。新しき命が生じることなど、たとえ主であろうと罷りならんだろう】
「それは、そうなんですけど。でもやっぱり、愛し合ってるなら、子どもは欲しいものじゃないですか」
【無茶苦茶をやる奴だ、力も持っておるのが性質が悪い。……だが、心意気は買おう。赦されるのなら、我も一度拝謁したいものだ】
「ですよね!?やっぱりもう一回お願いしてきます!ハデス様の神性はもう解析してますから、あともう少しなんです!」
【おい馬鹿やめよ。というか、しれっと聞き逃せないことを言いおったな!?】
【ふん、ここにおったか。随分と此方にも顔を出さず、何をしておる】
「ケルベロス。いえ、つまらない感傷ですよ。ここには菓子もありませんし、見て面白いものもありません」
【菓子はいらんわ。汝に何があったのか、それを知るために態々出向いたのだからな】
「…先日に冥府に招かれたミュケナイの民から、娘が結婚したと聞きまして」
【ほう。確かに六人産んだなかで、ただ一人女がおると言っておったな】
「……この目で晴れ姿を見たかったし、できれば赤子をこの手に抱きたかったなぁ、と。そう考えると、少し」
【…我は、今の汝を慰める言葉を持たぬ。故に、我が玉体に触れる栄誉を許す】
「いいんですか?確かに触れてみたいと、モフりたいとは思っていましたが」
【モフ…?細かいことはよい、許す。さっさと立ち直るがいい、気落ちしておる汝は気味が悪くて仕方がない】
「その言い方は、それはそれでどうなんですか。…でも、ありがとうございます」
オレとケルベロスが親友と呼ぶに値する間柄になった頃、オレははたと気づくことがあった。
人によってはそんなことかと笑うだろうが、こちらにとっては最重要項目だ。
(あれ?なんかいつの間にか、オレの方が色々としてもらってないか?)
勢いでやらかしそうになって止められたことは数しれず、実際にやらかして説教をいただくことはそれ以上。
ときにはオレをハデス様の下へと引き摺り出し、一緒に謝ってくれることさえあった。
…これではいけない、向こうばかりが歩み寄っては、対等な友とはとても言えない。
夫と同じようにとは言わないが、冥府でできた一番の友に、こちらも度量を示さなければ。
そう気持ちを新たに、妙案を引っ提げてオレはケルベロスに会いに行く。
オレの姿を認めたケルベロスは尻尾を振ったあと、一瞬で眉を顰めやがった。
【汝よ、此度はどんな思い付きを持ってきた】
「分かりますか。流石はケルベロスです、友だちと以心伝心で私は嬉しいですよ」
【汝が毎度毎度、碌でもないことをしでかすが故であろうが!…おい、準備を進めるな!】
ケルベロスの制止を無視しつつ、ウキウキで術式を組み上げる。
いつの間にかオレへの負の信頼が限界を突破している事実は悲しいが、これを見れば一発逆転確実だ。
術式が組みあがった瞬間、オレの肉体が物理限界を超えて蠢動し始める。
ぎょっとするケルベロスを尻目に、術式はあっという間に効果を表した。
「どうです?余暇で作った肉体変化の魔術。一番に見せたかったんですよ!」
そこにあるのは、オレの髪色と同じ小麦色の毛並みを備えた犬____もちろん、オレだ。
大きさはケルベロスより一回りほど小さいが、その姿は冥府の監視者の隣に立っても見劣りはしないだろう。
「今までケルベロスは、ずいぶんと私に合わせてくれましたからね。次は、私が貴方の流儀に合わせる番です!」
【…】
「冥府の監視でも、駆け比べでも。貴方の楽しいことを、私にも教えてくださると嬉しいです」
【……】
「あの~、せめて声を出していただけますと…。もしかして、ケルベロス的美観だと、今の私って結構ブスだったり____」
【それだけはない!!】
うおビックリした、めっちゃ否定してくるじゃん。
ただ反応を見るに、オレの今の姿はケルベロス的にも中々イケてるらしい、やったぜ。
クルクルとその場で回ってみれば、ケルベロスは揺れる毛並みにずいぶんと熱烈な視線を送ってくる。
前世の記憶を総動員して形成したオレ的さいかわ美犬、多少は驚いてくれなきゃ嘘というものだ。
「さぁ、まずはケルベロスの言語を勉強しなければ。せっかく姿を真似たのですから、言葉も覚えたいです!」
【…汝、よっぽど周りに恵まれておったのだな】
「?はい!貴方を含めて、出会いの運には自信がありますよ!」
ちなみに、ここから滅茶苦茶ケルベロス語の勉強をした。
加えて、よっぽど犬の姿が気に入ったのか、時々ケルベロスに頼まれて犬の姿で遊ぶようになった。
…ただ、ケルベロスの眼が時々捕食者のソレになる理由は最後まで分からんかった。
カワイイに振りすぎて、キュートアグレッションな衝動を刺激してんのか?
◯ケルベロス
犬ver.主人公がドストライクだった魔犬
しかし夫がいるのも既に知っているため、脳が破壊された
その後ヘラクレスに連れて行かれ、強制的に菓子断ち
更に夫の姿も見る羽目になったため、恨みは深い
◯アダマンティア
魔犬の舌と脳を破壊した犯人
テンションが妙に高いのは、死後でしがらみがないから
モチベーションになりますので、感想等お待ちしています