転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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初親友が未来の愚王でDie

 厳しい冬を越え、季節は次へ。

 花は咲き、鳥は歌い、春告げの精霊が活発になる頃。

 

「兄さまがいないと、花嫁修業くらいしかすることなくて暇ですね…」

 

 絶賛ティーンとなったオレは、暇の使い道を見つけられずにぐでぐでしていた。

 前世なら中学校に入学し勉学に励むのだろうが、ここは超男社会の古代ギリシャ。

 女性は十代前半から十五歳までには嫁に行ってしまうので、今のオレはかなり遅めの花嫁修行生なのだ。

 …相手も決まってないのに、ようやるもんだよホント。

 

 まぁ相手がいないのは主にオレの生まれと素行のせいなので、何処にも文句は言えない。

 普通に考えれば、誰が好き好んで主神の正妻に睨まれている女と結婚したがるというのか。

 もしいるとすればソイツはよっぽどの大物か、救いようのないバカだ。

 

 それに、オレが幼い頃にリノスさんを殺そうとした兄を止めたのもよくなかった。

 リノスさんに魔術が使えることを口止めした結果、オレは周囲から"アルケイデスを膂力で抑え込んだ女傑"として名が通っている。

 誰が女傑じゃ、こちとら神の血を引く美少女やぞ!

 中身は男だから、最悪のびっくり箱だけどな!

 

(兄はケイローン先生のところに行ったから、後数年は帰ってこないし)

 

 一方の兄は師匠たちの技の尽くを上回り、生半可な教師では教えられない存在になった。

 だから両親は伝手を辿り、ギリシャ最高峰と名高い名講師、ケイローン先生の門戸を叩いた。

 

 生で見るケイローンは、荒くれ揃いと悪名高いケンタウロスとは思えないくらい賢かった。

 女ってだけでナメてくるようなこともなかったし、賢者と呼ばれるだけはあるわ。

 ただ賢すぎるのも考えもの、だって兄と話してるときに急に聞いてくるんだよ?

 

『そちらの妹君にも、幾つかお教えできるものがありそうです。体系化された魔術に興味はありますか?』

 

 初対面でなんでオレが魔術の練習を独学でしてるって分かるんだよ、めっちゃ怖いよ。

 兄は『流石は音に聞こえし賢者ケイローン。我が妹の才を即座に見抜くとは!』とか言って喜んでるし、呑気すぎるわ。

 

 前世の知識を持つ者としてケイローン塾に興味がないわけではないが、あそこは英雄を育てるところなんだよなぁ。

 古代ギリシャの英雄、ほぼイコールで神と王の都合で大迷惑を被って死ぬ奴ってのは有名すぎるんだわ。

 結局、花嫁修行だのなんだのと理屈をつけて断ってしまった…かなり惜しそうな先生の顔に心が痛くなったね。

 

「やっぱり、こういうときは外に出るに限りますね」

 

 言うが早いか、さっさと魔術で精巧な身代わり人形を作り、肉体に幻術をかける。

 たちまち姿は年頃が同じくらいの少年となり、その出来栄えは中々見事なもんである。

 

「行ってきます。母さまと父さまが来たら、適当に誤魔化してくださいね」

 

 命令を受諾した人形の首肯を確認し、身体強化をかけた俊足で素早く自宅を出る。

 未婚の喪女がほぼほぼ確定しているオレは、親不孝者街道を全力で謳歌していた。

 明日生きてるか分かんないんだから、今を精一杯楽しまないとな!

 

 

 

 

 サボりを満喫し始めて暫く経つと、何処かから悲痛な叫び声が聞こえてくる。

 すわ事件かと半ば期待混じりに近づいてみると、そこには魔物たちに追い立てられる見知らぬ少年が。

 

「周辺では見覚えのない顔ですね。お忍びの方の連れ子でしょうか」

 

 これが大人なら方向だけコッソリ誘導して放置だが、今回は子ども。

 直接助けないとどうにもならないだろう。

 と言うわけで、身体強化を強めにかけて…。

 

「兄さま直伝ドロップキィィィィィック!!」

 

「「ガァアアアァァァァァァア!?!」」

 

「兄さま直伝右ストレートォォォ!!」

 

「「グギャアアアア!!」」

 

 肉体は女性でも、魔術を使えば怪力無双のマッチョメンになれる!

 いや~魔術って最高である、ありがたいね。

 こんなことしてるから嫁ぎ先がないのでは?、とか言った奴はぶっ飛ばすからな。

 

 兄直伝体術で魔獣を追い払い、尻もちをついた少年に近づく。

 亜麻色の髪を靡かせる中々の美少年は、まだ現実を理解できていないのか目を白黒させている。

 不用心な子だ、化物や神に襲われても文句言えないぜ。

 …ここでナチュラルに神が候補に挙がる辺りが、ギリシャがギリシャたる所以か。

 

「危ないところでしたね。立てますか?」

 

「う、うん…っあぁ、見事だった。お前、名前はなんて言うんだ?」

 

 男の意地か、身分故のプライドか、少年は胸を張る。

 身なりからして何処か偉いさんのご子息とは思っていたが、話し方からしてやっぱりそうらしい。

 名乗りね、適当に偽名でいいか。

 

「ジョージと言います、しがない農夫の息子でございます」

 

「…いやいやいや。ただの農夫の息子が、あんなことができるわけないだろ!偽名じゃなくて、ほ・ん・みょ・う!」

 

「とは言っても、貴方さまも自身の真名は知らせたくないのではないでしょうか。ここは互いに偽名で通すのが、一番収まりがよいかと愚考した次第」

 

 オレの言葉に一理あると考えたのか、少年は頭を捻って考え出した。

 なんの事情もなけりゃ、余所者がこんな森まで来ないだろうしな。

 家族共々外遊に来たが、たまには自由になりたくて脱走したどこぞの役人の息子と見たぞ。

 

「確かに、私も今ここで名を明かすのは都合が悪い。かと言って恩人に名乗らせておいて、こっちが名乗らないのは礼儀にもとる。その気遣い、褒めてつかわすぞ」

 

「身に余る光栄でございます」

 

「それで、だ。気遣いついでに、一つ命じることがある」

 

 見知らぬ推定偉いさんの息子に、初対面で命令を受ける。

 

 普通の人なら余計なことに首を突っ込んだとなるところだが、生憎こちらは暇を持て余したニート美少女。

 命の危険がないなら、暇つぶしはいくらあってもいいのである。

 

「僕は数日間、この近くに留まる予定なんだ。よってお前には、近辺の案内と護衛を命じるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 いきなり始まった護衛任務は、予想を超えて中々の楽しさだった。

 

「なぁジョージ。あの木の上に生った果実は美味いのか?」

 

「えぇ。生でも美味ですが、焼いて花の蜜を塗ると絶品です。ご用意しましょうか?」

 

「うむ、頼む。あ、お前の分もちゃんと取ってくるんだぞ。私と一緒に食おうじゃないか!」

 

 推定役人の息子である少年は、身分が多分上ということを忘れるくらいには気安い。

 未来の権力者としての自覚が薄いか、それとも何か理由があるかは知らないが。

 

「確かに美味い!ここの住人は、毎日こんなご馳走が食えるのか?」

 

「いえいえ。魔獣たちが住んでいる森にしか生えていないもので、あまり頻繁には。我が家では結構な頻度で出されていましたが」

 

「お前ほどの男を育てた家ならば、それもそうか。一度会ってみたいものだ」

 

「勿体ないお言葉です」

 

 ギリシャの男にしては肉体的に非力だが、傲慢さがないのはプラスポイントだ。

 よほど裕福な暮らしをしていたのか、目に映るものに一々興味を持つのも案内しがいがある。

 魔獣をぶっ飛ばした姿を見ていながらオレに対して自然に接する、ある種の鈍さも隣にいて心地よかった

 

 オレの素性を知る近所の奴らは、神との確執や怪力の逸話のせいで碌に会話もしてくれない。

 気持ちは分かるけどね、オレでも話そうとは思わないし。

 …だから正直言って、今生でほぼ初めての兄以外の同年代との会話が普通に楽しい。

 精神年齢は成人のはずだが、肉体に引っ張られてるんだろう。

 

「ふふ」

 

「?どうした、ジョージ。急に笑い出すなんて、おかしなことでもあったか」

 

「いえ、申し訳ありません。実は、家族以外の同年代の方とこうして散策するのは初めてのことで。それが殊の外楽しいものですから」

 

「…そうか。お前も楽しめているというのならよい。…僕も、お前といると楽しいよ」

 

 血の繋がりではない、己で結んだ情からの繋がり。

 名前も知らない少年と、きっとオレは今世で初めての友達になったんだろう。

 どっちも別に口には出さないし、恥ずかしいから出せないんだが。

 

 

 

 

 数日などというのは、楽しければあっという間。

 最初に示した逗留期間、秘密の交流が終わる時間だ。

 

「今日、故郷へ戻られるのですよね?」

 

「…ああ」

 

「遠いのですか?」

 

「遠いな。それに、私は本来一人で出歩けるような身ではない。今日までのようなことは、もうできないだろう」

 

「…そうですか」

 

 互いに「寂しい」という感情がある、ただそれを言葉には出さなかった。

 別れを余計に意識しちゃうからな、オレにも意外と繊細なところがあるんだ。

 

 無言の間すら心地よい、この数日間で築いたものに浸る。

 沈黙を破ったのは、少年の方だった。

 

「…私は、ある国の王となる男だ」

 

 …身分が高そうとは思ってたが、高すぎんか?

 いきなり落とされる爆弾として重すぎる、ちょっと待てい!

 

 しかし友達の真剣な様子を見れば、そんなことを言えるわけもなく。

 脳内で大騒ぎするオレを置いて、少年の独白は続く。

 

「だがその立場は、多くの陰謀の上に成り立つもの。本来ならば、私とは違う者が座るべき椅子だったのだ。…私よりよほど強く、血統も確かな者がだ!」

 

「それは…」

 

「どこへ行っても、誰かが好き勝手に噂する。『あの男より相応しい者がいるはずだったのに』と、『偶然と陰謀で転がり込んだ玉座』と!ふざけるな、僕に言われてもどうしようもないじゃないか!!」

 

 …なんというか、コイツも十代前半くらいとは思えない葛藤をしてるなぁ。

 偉い人には偉い人の苦労があるとは言うが、そりゃキッツいよ。

 今回の悩みは、結構共感できるだけに余計に同情してしまう。

 

 オレも、本来生まれるべき両親の本当の子を押しのけて、ここに生きているわけで。

 "誰かがあるべき場所に、自分がいてしまっている"という気分の悪さは、常日頃から感じている。

 成人の魂も持っていない純現地人の子どもでは、一層思い詰めてしまうだろうさ。

 

 多分この先も平穏に暮らそうとするなら、適当に慰めて終わりでいいんだろうなぁ。

 ギリシャ神話の王様って大抵特大の死亡フラグだから、関わらない方がいいだろうなぁ、マジで。

 

「過去と、今は、どうにもすることはできません。」

 

「ジョージ…?」

 

 …でも無理だわ、それはできんわ。

 友達を見捨てて得た平穏な暮らしは、多分生きてても楽しくないもん。

 

「変えられるのは未来だけです、友よ。変えられない過去への執着は、いつか貴方の魂すら腐らせてしまいます」

 

「…そんなことは、分かっている。ならばどうしろと言うんだ!偶然で得た偽りの玉座に、恥知らずにふんぞりかえればいいと言うのか!?」

 

「ふんぞりかえればよいのです。貴方は王なのでしょう。誰がなんと言おうとも、それだけは変わらないのです!」

 

 オレが初めて出す迫力にビビり倒しているのか、反論もできずに黙ってしまう。

 申し訳なくも思うが、ある意味好都合。

 こういうグルグル考えるタイプは、分かりやすくバシッと言うくらいでちょうどいい。

 

「賢王になるのです、友よ。ただの賢王ではありません、歴史にて永遠に称えられる賢王に」

 

「なったとて、どうなるというのだ。僕が偽りの王であることに変わりはない」

 

「いいえ、確信を持っていえます。貴方は歴史書にこう綴られる、『陰謀に流されることなく、玉座に甘んじることなく、自らの務めを果たした尊崇すべき王』と!」

 

 人間ってのは、実は神様と同じくらい勝手な生き物だ。

 始まりがよくなくても、終わりがよければ『結果オーライ』と受け止めてしまうような。

 ただ、今回ばかりは都合がいい身勝手さだよな。

 

 それに、コイツはいい奴だ。

 いい奴がいい王様になれるとは限らないが、オレはコイツがそうなれると思ってる。

 何より友達であるオレが信じてやれなくて、誰が信じるというんだ。

 

「共に過ごした月日は短いけれど、私は貴方がよい王になれると信じます!名すら知らぬ平民と、共に果実を食らうような人なのですから」

 

「…いや、だが…。僕なんかが…」

 

 それでも、コイツは決心がつかない。

 ある意味当然だ、十数年周りから押し付けられたものが、オレ一人で解消できたら苦労しない。

 …ただ、それはそれとしてウジウジしてるのは気に食わない。 

 

 あ〜もう、まだるっこしい!

 使いたくない手段だったけど、もう仕方ない。

 ここまできたら、やれること全部やってやる。

 半ばヤケクソになったオレは、外套を脱ぎ捨てると共に、自身にかけた()()()()()()

 

「有象無象の戯言など、一顧だに値しませんとも!私を見てください、友よ!」

 

「…お、ま…え!?ぎ、偽名なのはそうだが、男ですらなかったのか!!?」

 

「話を聞きなさいよ!」

 

 うるせぇ!

 今そんなこと気にしとる場合じゃないじゃろがい!

 

 普段は全く出す気のない神気と言うべき圧を全開にし、少年の前に立つ。

 どこの誰とも知らない馬の骨の言葉など、もはや考えの隅にすら浮かばないように。

 

「我が名はアダマンティア!大神ゼウスが一子なり!その私が信じるのです、それ以上の保証が必要ですか!?」

 

 普段は決して出さない、親の威光を全開にした説得。

 人と神の間に絶対の格差が存在する世界において、これは絶大な効力を持つ。

 すねかじりとは言わないでほしい、数日の付き合いで十数年に勝つにはこれくらいはしないといかんのだ。

 

 全開にした神気の影響で、シンと静まり返った森。

 呆然としていた少年は、出会ってから初めて大笑を見せた。

 

「…そんなにおかしかったですかね?」

 

「いや、すまない!…ただ、ただ嬉しいんだ。僕のためにここまでしてくれる人なんて、それこそ初めて会ったから」

 

 よく見れば、目尻には涙も浮かんでいる。

 ずいぶんと恥を晒したが、なんだかんだ成功はしたようである。

 神様の名前を出した上で失敗していたら、それこそ神罰モンだ。

 今後の平穏や諸々、賭けた甲斐はあったらしい。

 

 一頻り大笑いした後、少年はオレの前に立つ。

 神の子と名乗ってもなお恐れのない、オレが好ましいと感じた鈍さはそのままで。

 ただ違うのは、その姿には既に王の器とでも言うべき風格が宿っている…ように感じる。

 

「友であるお前の名を知ったのだ。こちらの名も告げなければ、礼を失した愚王になってしまうな」

 

「いいですね、その意気です。王様なんですから、堂々としていきましょう」

 

 ある意味で遠慮が抜けた会話は、これまでとは違った心地よさで。

 ずっと浸っていたいとすら思えてしまうものだったが、今はもっと重要なことがある。

 未来の賢王である男の名を聞き逃すことのないよう、オレは耳をそばだてた。

 

「____我が名はエウリュステウス!ミュケナイ王ステネロスが一子なり!偉大なる賢王となる名だ、遠く離れようと決して忘れることは許さん!」

 

 ……ん?

 ミュケナイの王様で?名前がエウリュステウス?

 なんか、忘れたらいけない名前だったような…。

 

 その正体に気づいたのは、彼と別れた後のことで。

 今世で初めての友の名を反芻していると、前世の知識が濁流の如く正解を知らせてきた。

 

(アイツ、ヘラクレスの未来のブラック上司じゃねぇか!!)

 

 え、つまり何、アイツが瓶被りのエウリュステウス!?

 神話において卑怯だの強欲だの、散々にdisられてるあの!?

 面影ないですやん、ただのいい子でしたやんか!?

 

 …やっぱり、説得しないほうがよかったかもしれない。

 オレ、今度こそ死んだんじゃないか?




・アダマンティア
未来の暗黒上司が友達になり、ヤベーと思っている

・エウリュステウス
思春期前でコンプレックスを拗らせる直前だった
完璧に拗らせると本家になるという設定
本作では代わりに性癖を拗らせた

モチベーションになりますので、感想等あれば是非
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