【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
執筆の励みになっております
さて、死徒の処遇を決め、まず聖堂教会に挨拶と相談をしようというわけだが。
これから無茶を言ってしまう相手に対して、仇敵たる存在だけ持って訪問というのは如何なものか。
加えて、椿ちゃんへのお土産も用意せねば嘘吐きになってしまう。
色々と考えたオレは、まずスノーフィールドにあるショッピングモールへと向かう。
頭を悩ませた末、定番お土産だという老舗ブランドのチョコを購入し、ついに向かうことと相成った。
ちなみに、代金は全てジェスターの財布持ち。
生殺与奪を掌握している以上、金くらい誤差だよ誤差!
「ふむ、これが中央教会。夢の世界ではソレなりに馴染み深いですが、現実だと直に見るのは初めてですね」
聖杯戦争において神秘の秘匿に奔走し、敗退したマスターの受け入れも行う教会は、市街地から少し外れた地に構えられている。
教会の影響力が十分でない州にも関わらずこの好立地は、母体とする宗教の知名度が窺い知れた。
既に椿ちゃんを待たせているため、早く帰らなければならない。
そう思いドアを開けようとすると、僅かに漏れ聞こえる神父らしき声に手が止まる。
僅かな疲労を滲ませた、職務には真面目なできるエリートといった雰囲気だ。
「やれやれ…なんという失態だ……。あの外道を取り逃がすとは」
本職が代行者な者らしからぬ迂闊さだという考えは一瞬、こちらは気配隠しを纏ったままだと思い至る。
しかも、礼拝堂ではなく奥まった一室で発せられた独り言だろう。
うっかり盗聴してしまうとは、悪いことをしてしまったと自省する。
それにしても、ずいぶん職務に熱心な方のようだ。
『聖杯戦争の監督役は信用してはダメ』というカルデアの記録は、今回に限っては例外ではなかろうか。
期待を込めて、入り口をノックする。
「どなたかいらっしゃいますか。できれば、監督役の方だとありがたいのですが」
直接言わずとも、こうすれば伝わるだろう。
実際にオレの目論見は成功したようで、急ぎ具合とは不自然なほどに小さな物音を立て、扉が開かれる。
「お待たせした、監督役のハンザ・セルバンテスだ。そちらは、今回の参加者ということで間違いないか?」
昨日に監視網で捉えた神父服の男が、一礼と共に問いを投げてきた。
自然体ながら隙の全く見えない所作は、流石対死徒のプロフェッショナルたる代行者といったところ。
「サーヴァントのみですが、そうですね。本日は、挨拶と相談のためにお邪魔させていただきました。問題ありませんか?」
「もちろん。教会の中立的な立場を脅かすようなものでなければ、どちらも対応しよう。では、中で話を聞こうか」
ハンザさんに教会内部の礼拝堂へと導かれ、そのまま少しだけ当たり障りのない話と説明を聞く。
どうやらハンザさん曰く、オレが初めて自主的に監督役への挨拶に訪れた陣営のようだ。
この戦争の黒幕自体が最初は教会の関与を排除しようとしていたのだから、それも当然か。
それと見た目は遊び人といった風体のハンザさんだが、やはり真面目な方のようで。
監督役としての業務を遂行する傍らで、部下を死徒捜索に充てているらしい。
…見目が若い頃の夫に少し似ていて、かつ職務に熱心なのは、私的にも高評価である。
ならば、持参した手土産は監督役に集中するために役に立つだろう。
そう思いながら、オレは道中で買っておいた商品を包んだ包装とバックを取り出す。
怪訝そうな顔をするハンザさんを横目に、まず前者を差し出した。
「監督役だけでなく代行者の務めまで、ご苦労様です。これは、スノーフィールドのショッピングモールで購入したものです。部下の方と一緒に召し上がっていただけると」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。英霊から手土産の類をいただくとは、確かに今回の聖杯戦争は異常事態続きのようだ。…それで、こちらの鞄は?」
そつなく包装を受け取ると、ハンザさんの視線はバックへと真っ直ぐ注がれる。
警戒も混ざったソレは、当人の事情を鑑みれば妥当といったところだ
やはり気になるか、当然ではあるが。
勿体つける必要性も別にないし、さっさと本題に入ってしまうか。
「はい、先ほど仰っていた死徒についてのものです。私の相談も、それに関係しておりまして」
オレはバックを開き、中から拘束した少年形態のジェスターを取り出す。
ハンザさんはわけが分からない様子だったが、少年の見た目には覚えがあるらしい。
「…ほう」と、口から洩れる言葉が証明している。
事情を手っ取り早く説明するため、ジェスターの心臓部に存在する弾倉状の器官を勝手に動かす。
すると肉体が著しく伸長し、まるで手品のように警察署を襲撃した青年の姿を象ってみせた。
目を見開くハンザさんに向けて、オレは本題を切り出した。
「私が捕獲した死徒、ジェスター・カルトゥーレの処遇について、少しだけお話がございます。お時間いただいても?」
ハンザさんにオレの提案に納得してもらい、代行者の視点から様々なアドバイスを受けていると、時間はとっくに夜。
途中で椿ちゃんには遅くなる旨と、加えて友だちのことで大事な話があるとは伝えてはいたが、ここまで遅くなるのは予想外だ。
(十歳の子は、九時半から十時くらいに寝るのが推奨されているというのに。いや本来の椿ちゃんは寝てるから問題ないけど、生活習慣を崩したくはなかったなぁ)
お土産の増量も諦め、未だ制限を付けたままのジェスターと共に直帰。
肝心の椿ちゃんは、家の前でペイルライダーと共に待ち構えていた。
顔には心中の不安がありありと浮かんでおり、"大事な話"がかなり悪い方向に効いているらしい。
確かにオレは、これから椿ちゃんに年不相応な重荷を背負わせるつもりではある。
だが、コレは一般人として生きていくことが叶わない少女にとって、必ず必要となる心構えを育てるため。
心を鬼にするんや、オレ!
「遅くなってすみません、椿ちゃん。態々外で待っていただいて、寒くないですか?」
「ううん、だいじょうぶ。……魔女さん、大事な話って…?」
「やはり気になりますか。ここではなんです、リビングで話しましょう」
椿ちゃんとペイルライダー、ジェスターを伴って家へと帰る。
その間、椿ちゃんの表情はずっと暗いままだ。
これだけ精神的に追い詰められているのは、召喚直後くらいではないだろうか。
いつになく流れる時間が遅く感じるリビングで、テーブルの片方にオレとジェスター、向かい側に椿ちゃんとペイルライダーが座る。
…ペイルライダーまで着席する必要はないのだが、主の不安にせめて寄り添おうという判断なら言いはすまい。
「まず、椿ちゃんに聞きたいのですが。ジェスター君について、どれだけのことを知っていますか?」
「…ジェスターくんに、ついて」
「なんでも構いません、どんな些細なことでも」
私からの曖昧な質問にも素直に対応し、知る限りの情報を列挙し始める。
しかし悲しいかな、オレの予想通り両手の数にすら達せられず言葉に詰まってしまう。
ジェスターの野郎、やっぱ仕置きしてやろうかな。
友だちについて、実は何も知らなかった。
傍目から見る人間ですら辛いのだ、当事者である椿ちゃんのショックは計り知れない。
だが、ここからが本番なのだ。
「私は彼の顔を見て、すぐにピンときました。なので、先ほどまである人に確認を取りに行っていたんです」
自慢ではないが、オレは椿ちゃんに信頼されている。
それは可能な限り嘘がないよう振る舞ってきた結果であり、利用する腹づもりなど微塵もなかった。
今回ばかりは、それを最大限使わせてもらう。
「____ジェスター君は、多くの罪を犯したすごく悪い人だったんです」
信頼している人物から放たれる、信じたくはない言葉。
縋るような思いで椿ちゃんはジェスターを見つめるが、返されるのは沈黙だけ。
この状況でそれが意味する事実など、一つしかない。
実際は、余計なことを言い出さないようオレが縛っているのだが。
必要という考えは変わっていないが、かなり心が痛い。
「ジェスターくんは多くの人を悲しませ、多くの人を傷つけました。私が確認を行ったある人というのも、彼の仲間によって家族を失ってます。本来ならその人へと引き渡し、それなりの対応が必要でしょう」
「そうしたら、ジェスターくんはどうなっちゃうの…?」
「…まず間違いなく、椿ちゃんとは会えなくなります。いえ、彼を恨んでいる人によって、もっと酷いことになるかもしれません」
オレが言葉を濁していることは、椿ちゃんも分かっているのだろう。
己の友がこれから辿る末路に、まるで自分ごとのように悲愴な面持ちをしている。
椿ちゃんは魔術師の両親に育てられたとは思えないほど、常識的な倫理観と正義感を備えた少女である。
友だちが酷い目に遭うのを痛ましく思うのと同じくらい、他者を傷つけた人間が罰を受けるべきであることを理解している。
二つの葛藤は、未だ思春期とすら言えぬ年頃には厳しすぎるくらいだ。
だからこそ、この提案が椿ちゃんに成長をもたらすと、オレは考えている。
悪鬼外道と謗りたくば好きにするがいい、こっちはタイムリミット付きなのだ。
「ですが、一つだけジェスター君を助ける方法があります。そして、そのためには貴方の協力が必要です」
「わたしの…?」
「はい。貴方が、ジェスター君がこれ以上は罪を重ねないよう叱り、悪いことをすれば怒るのです。…できますか?」
仲がよい人間が悪事を働いていた場合に、それを悪いと述べて正道に引き戻すことは、意外と難しい。
関係性という枷が邪魔をして、ズルズルと引きずり込まれてしまうことだってある。
だが、椿ちゃんはそうなってはダメだ。
何せ彼女の両親こそが、前述の悪事を働く側の人間なのだ。
故にこそ、この試練を椿ちゃんに課すことを決めた。
(これは、正直言って賭けに等しい。椿ちゃんくらいの年頃の子に、こんな悩みは本当ならいらないはずなんだ)
リビングにかつてない沈黙が満ち、時間の進みすら曖昧になる。
果たして数十秒か、数分か、はたまた数十分か。
椿ちゃんが、俯いていてた顔を上げる。
オレを真っ直ぐに見据える視線には、先ほどとは一味違う覚悟というべきものが宿っていた。
「…わたし、やります。ジェスターくんがいい子でいられるように、わたしが叱る。悪いことをしようとしたら、いっぱい怒る。……だから、ジェスターくんを助けてください!」
ああ、やはり、今生のマスターは強い。
椿ちゃんは、今日友だちになったばかりの悪人を助けるために、己の人生すら賭けると言ってみせた。
子どもの戯言と嗤う無粋な者など、話にもならない。
本人がどう捉えているかは重要ではない、実際そうであるのだから。
これを以て、儀式は完了した。
「____ならば、契約を」
椿ちゃんの言葉を楔に、両者の間で結びつきが生まれる。
オレが骨子を作り上げ、代行者が監修した、人間と死徒を繋ぐ契約。
神代の魔術で織り上げられたソレは、最早オレですら解くことはできない。
ある意味、椿ちゃんは壊れているのだろう。
彼女は本気だ、心の底から。
ほとんど他人のような存在を守るために、本気で人生を擲ててしまえる。
このような精神性は、壊れている以外に表現のしようがない。
しかし修羅の道は、壊れていてこそ正常なれば。
きっと椿ちゃんは、自分の道を歩いていける。
魔力風が収まれば、儀式は完了した合図。
対象となった両者の左手には、鮮やかな紋様が描かれている。
「これは…」
「左手に刻まれた印こそ、契約の証。大罪人である友を守るという、椿ちゃんの覚悟の証。その覚悟、忘れないでください」
オレからの問いかけに、椿ちゃんは一度力強く頷く。
そのまま勢いよく立ち上がれば、ジェスターへと向かって満面の笑顔を向けて走り寄る。
契約に縛られた責任感よりも、初めての同年代の友を守れた嬉しさが勝るのだろう。
一方のジェスターは、それはそれは愉快な顔を晒している。
それも仕方ない、執着していた暗殺者を穢す方策を探していれば、強制的に少女と契約を結ばされたのだから。
しかも、己が一方的に奉仕する不平等契約である。
(因果応報としか言いようがないけど、こういうタイプって厄介なんだよな。…一個だけご褒美を教えてやるか)
オレは念話の要領で、ジェスターへとメッセージを送る。
初対面から今まで好き放題されていた彼への、ちょっとしたプレゼントというヤツだ。
(貴方と椿ちゃんとで結ばれた契約は、当然椿ちゃんが主で貴方が従です。…ですが聖杯戦争中に限り、他者は貴方が主で、椿ちゃんが従であると認識するよう仕立てました)
(……へぇ?)
(ここまで言えば、貴方の方がよくわかっているでしょう。ジェスター・カルトゥーレ?)
ジェスターのような己の欲求を一番の軸に置いた人種は、抑え続けたところでいつかは反発する。
ならば致命的にならない範囲でガス抜きさせた方が、大体の場合は上手くことが運ぶ。
王妃時代から冥府の判官時代まで、多くの人間と触れ合った経験則だ。
案の定、ジェスターは遊びがいのある玩具を与えられた子どものような、無垢で邪悪な笑顔を釣り上げる。
当然悪いことを考えていると見做され椿ちゃんに叱られていたが、あの性根は一生モノだろう。
ガチガチに契約は固めてあるから、無茶はできないし。
(むしろこれ、バレたときに一番ヤバいのはオレなんだよな)
見事なまでの猪突猛進気質な暗殺者が、もしネタバラシを受けたなら。
怒りだの諸々の激情は、当然ながらオレへと向かうだろう。
あの宝具、普通にオレが喰らったら死ぬんだよね。
…アレ、予想以上にヤバいことになるか?
オレ、死んだんじゃないか?
◯ジェスター・カルトゥーレ
繰丘椿の守り吸血種に就職し、奔走する羽目になった
さながら汚いア◯カード
◯ハンザ・セルバンテス
子どもの倫理教育に使われる死徒、という図に爆笑した
繰丘椿の事情も共有されており、代行者に勧誘している
◯繰丘椿代行者ルート
死徒と神秘とパンクラチオン、加えて代行者の技能で戦う
一人ヘル◯ング機関&イスカリ◯テである
モチベーションになりますので、感想等お待ちしています