【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【カルデア編】バレンタインは修羅場でDie(後編②)

 衝撃に身を揺らされ、重い瞼を上げる。

 

「…んぅ?」

 

 粘り気のある液体で満たされているように、一挙手一投足に抵抗を感じる。

 揺蕩うという表現がぴったりくる、赤く発光した空間。

 目を覚ましたのは、そんな場所だった。

 

 はて、何故こんなことになったのだったか。

 寝ぼけたままの脳みそで、記憶をひっくり返す。

 確か中央部での決戦が始まって、そろそろ勝敗がわかりそうで。

 だから、優勝賞品として渡すアレの進捗をチェックしようと、久しぶりに直接工房に出向いたら____。

 

 開眼する偽ゼウス真体と、抑えつけるオレ。

 それを悲壮な表情で見つめる、アドメーテーの姿。

 

 …あー、全部思い出したわ。

 納得し、周囲を再度確認して結論づける。

 

「ということは、ここは偽ゼウスの核、ですか。…ずいぶんと、私を舐めていらっしゃるようで」

 

 チョコで作った躯体が真に迫りすぎて、神性が宿るまでは納得してやろう。

 クオリティの高さを示す証拠として、少しだけ誇らしい気持ちがないでもないしな。

 魔術師の卵として、そこだけはいい。

 

 だけど、だ。

 こんな囚われの姫みたいな似合わない立ち位置にしおって、許さんぞー?

 

「製作者である私を動力扱いの上、よりにもよって核に縛り付けるとは。その調子乗り、誰に似たんでしょうね?」

 

 …まぁ、恐らくオレに似たんだろうけども。

 考えるのやめとこ、悲しくなるし。

 

 早速動こうとすると、液体以外の抵抗感にぶち当たる。

 そこでオレは、四肢に鎖のような拘束具が装着されていることを悟った。

 どうやら四方から、肉体と魔術を縛る礼装の類を使用しているらしい。

 

 確かにこれでは、オレは手も足も出ない。

 うーん、残響とはいえ流石は大神の似姿に宿る神性。

 女を好き勝手するため絞る知恵は、今でも健在らしい。

 

(が、詰めが甘い。本当に抵抗を許さないつもりなら、オレに象徴以上の意味を持たせちゃダメだろ)

 

 オレは方針を変え、体内で動力として稼働するテオス・クリロノミアの権限を上書きを図る。

 これは魔術でもなんでもなく、プログラムを元に戻すだけの作業だ。

 …生意気にも抵抗しやがる、そら弄ってはあるか。

 

 仕方ないと、オレはカルデアに来てから学んだ"分割思考"で多方面から干渉していく。

 七個に分けた思考を並列して攻略に用いて、テオス・クリロノミアをハックするのである。

 簡単に言うなら、脳みそで行うDDoS攻撃だな。

 シオンちゃんの見様見真似だが、上手くいくもんだ。

 

 試行錯誤の末、管理者権限の上書きに成功。

 上書きしたソレらを偽ゼウスへと流し、内側から誤差レベルで徐々に侵食を開始していく。

 時間を要することは致し方ないが、いずれシステム全体を掌握できるだろう。

 

「まず、視覚から共有しましょう。外部の様子を知れば、対策も立てやすいですし」

 

 とはいえ、見たくないなぁ。

 兄と夫は当然として、アドメーテーがどんな顔してるか。

 バレンタインのプレゼントが敵対するとか、マスターに合わせる顔もないよ。

 

 断続的に伝わってくる衝撃にビクビクしながら、待つこと数分。

 盗聴ならぬ盗視の準備が整い、オレは恐る恐る視覚の共有を開始した。

 

「……………うわぁ」

 

 ドン引きしたような、いや『ような』ではなく実際にしているのだが。

 そのような声を出すことを、どうか許してほしい。

 いやでもさ、こんなん見たら引かない方がおかしいぞ。

 

 カルデア所属の英雄たちが、嬉々として偽ゼウス君の躯体を削り取る光景とか。

 

 恐らくだが、今の偽ゼウスはチョコレートとしての側面が強く出ている。

 故に神としてではなく、素材として消費しきってしまえば、核を潰さずとも殺せるという判断なんだろう。

 

 でもさ、それだけじゃないよね、この集団。

 モチベーションが違うじゃん、もう色々。

 

「あーあーあー、兄さまもエウリュステウスもイイ顔。これで殴られる敵のなかにが私がいないなら、笑って見てられるんですが」

 

 ライダーの方はともかくとして、アヴェンジャーの方の夫がニッコニコなの不気味すぎるが。

 いつもの五割増しでバフとデバフをばら撒いてるし、宝具もガンガン発動してやがる。

 

 加えて、カルデア中のギリシャ神話出身英霊が来たのではないか、と言わんばかりの大盛況。

 アルゴー号の皆さんはカイニスを筆頭に、新旧アルゴー号揃い踏みでチョコを殴ってるし。

 あと狩人として参加したであろうオリオンはともかくとして、アルテミスまでノリノリなのはどういう理屈なんだよ。

 あれか?ゼウスがアルテミスの信徒を襲ったエピソードのせいか?

 

 あとオイ、ここぞとばかりに電気を飛ばしあってる科学者コンビは何してんだ。

 確かにテスラ先生の方はゼウスをよく引き合いに出してたけども、何もチョコ相手に張り合わなくてもいいだろうに。

 

(いやでも、それだけじゃないな。上手く言えないけど、なんか人の欲望まみれの攻撃もあるぞ)

 

 偽ゼウスの動力として繋がりを得ているからか、そういった気配まで感じ取れてしまう。

 …血の繋がりだけでも憂鬱なのだが、自業自得なので呑み込んで。

 だが、英霊の方々は純粋に私怨や憂さ晴らし、あとは約二名が対抗意識で殴っているようで、攻撃の出どころに疑問符が浮かぶ。

 

 疑問は、聴覚の共有が完了した際に氷解した。

 映像のみではど迫力の英霊の戦闘ばかりに目を取られていたが、どうやら特異点の住人も戦ってくれていたようで。

 申し訳なさと共に嬉しさもあるのだが、一部のモチベーションが妙だったらしい。

 

『今だから言うんじゃがなー!儂が生前信仰してたのは、エウリュステウス様とアダマンティア様であってー!ゼウス様ではないんじゃよーー!!』

 

『ゼウス様がいないと王妃様が生まれていないから、そこだけは感謝しますけど!!王妃様を苦しめたのもアンタの行いなんですよ、この下半身トラブルメーカーが!』

 

 この声は、最初に特異点に来てくれたミュケナイ出身の人たち。

 …生前は本音を知りようがなかったが、やっぱり皆もストレス溜まってたんだなぁ。

 分かるよ、こっちは全然分かる。

 

 妙ちきりんなのは、極一部…特に中央部に店舗を構えるショコラティエ&ショコラティエールたちだ。

 欲望まみれな攻撃の正体は、恐らくここからだ。

 彼らは目を血走らせて、明らかに正気ではない表情で徒党を組み、偽ゼウスの解体に勤しんでいた。

 

『大神ゼウスの神性が宿ったチョコレート。それを使えば、どんな美味しいスイーツが作れるんだ〜?』

 

『英霊どもに負けるな!一片でも多くウチの店舗が獲って、すぐに新作を作るぞぉ!』

 

『ハァハァ…ゼウス様、今何味のチョコ纏ってる…?』

 

 どうしてこんなことになってしまったんだ、兄や夫とは別のベクトルで恐ろしい。

 

(こ、怖い…)

 

 オレは一流の菓子職人を招待したのであって、一流の変態を呼んだわけではないぞ。

 チョコスイーツのために神に挑む大馬鹿者の群れに、オレは人間の欲に果てがないことを思い知った。

 

 ここからオレが偽ゼウスを掌握しきり、内側から解体するまで。

 オレはゼウス…というか神への恨み骨髄な英霊たちの修羅場と、チョコに狂ってしまった哀れな変態たちの饗宴を見続けるハメになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 偽ゼウスを解体して、お恥ずかしくも救助され。

 オレにとって大変なのは当然ここから、何せ説教が待っていたのだから。

 

 まず、カルデアの所長たるゴルドルフさんからの説教、これが三十分。

 次に、魔術の先生である二世先生からの説教と復習、これが二時間。

 そして、珍しく言葉を発する兄からの説教、これが一時間。

 

 最後に、二人のエウリュステウスからの説教と言うフルコースだ。

 …正直、疲れていて何が何だか分からん。

 

「どうやら、反省はしているようだ。昔から、話せば分かるのだから当然ではあるが」

 

「はい…。それはもう。次に何かするときは、他の方に相談します…」

 

「…辞める気はないのだな。下手に誤魔化すような策を弄さんだけ、我としては安心できるが」

 

 自分で言うのもなんだが、オレはやろうと思ったことは大抵やれてしまう。

 故に、やろうかな?→やってみた!が直結気味になってしまうのが悪い癖なのだ。

 対策方法としては、正直に報連相を徹底するしかない。

 

 萎んだ朝顔のようにシワシワになったオレに、これ以上追い討ちをする気はないようで。

 厳しい顔つきを解き、どこか呆れた風な雰囲気が漂う。

 そこから、とりあえずの確認、とでも言うかのように質問が飛んでくる。

 

「…では、他に何がしかの贈り物の類はあるのか?」

 

「へ?」

 

「お前のことだ。マスターは元より、他の者へ宛てたブツがないとも限らん」

 

 別に夫にとっては、大した質問ではないのだろう。

 何か隠してるものはないよな?という軽いもの。

 

 だが、オレにとっては大問題だ。

 理由はとってもシンプル。

 

(ヤバイ!!マスターの贈り物に集中しすぎて、他の人のを何も考えてない!!)

 

 元々バレンタインは、世話になった人や恋人へ菓子を贈る日。

 ならば、対象がマスターだけでないのは明白。

 だというのに、他の人の分を何一つ考えてないなんてダメじゃん!

 

 チョコレートの在庫はあるから、少しでも時間を作れば最高級品が用意できる。

 だが今は無理だ、流石にノータイムは無理だ。

 何より報連相を徹底すると決めた手前、嘘は吐きたくない。

 

「えぇ〜と、ですね。あの〜」

 

「…おい。まさか、裏で止めていない企みがあるのではなかろうな」

 

「いえ!そういう、わけでは、ないんですけども…」

 

 今のオレは、連続説教で普通に疲弊している。

 故にマトモではないのだろう、未来のオレならそう判断する。

 

 だが、こちとら必死なのだ。

 いやだってそうでしょ、バレンタインに夫に贈り物を用意していない妻とか、ヤバいじゃん!

 それだけで夫婦仲がどうこうとは言わないけど、物事は良きにつけ悪しきにつけ積み重ねなんだから。

 

 どうにか手持ちだけで喜ぶものを思考を高速化させて探し、閃いた一つの道。

 最早これしかないと、オレは判断した。

 早速、体内で魔術を発動する。

 

「…?」

 

 幸運にも夫は疑問符を浮かべているだけなので、そのまま急ピッチで作業を進める。

 犬に化けた際の肉体変化の魔術の方向性を変化させて、感覚方面だけに特化。

 相手の臭覚や味覚を弄るのではなく、こちらの肉体組成だけでやる方向性で…。

 オラ、これじゃあ!

 

「これは…チョコレートの匂い?」

 

「だが、ここには種類に限らず菓子の類はないはずだが」

 

 疑問に思う夫の二人の視線は、次の瞬間にはオレへと注がれる。

 魔術の心得はなくとも、ソレくらいは気づくか。

 そう、臭気の発生源はオレだ。

 

 肉体変化の魔術を応用して、肉体が発する情報を全てチョコレートに変換する。

 別に肉体そのものを変化させたのではなく、あくまで相手が受け取る情報だけだが。

 そのまま、オレは二人に種明かしをする。

 

「ご存知ですか?当世では『プレゼントはわたし』という文化があるそうで」

 

「…つまり。お前自身が、という趣向か」

 

「…はい。どう、でしょうか」

 

 なんか、実際にやっといてなんだけど普通に恥ずかしい。

 説教でグロッキーになってなかったら、絶対にこんな手選ばんかったぞ。

 頬が熱い、というか顔全体が熱い!

 

 だが、誤魔化すのは成功したようで。

 困惑した表情を真顔にした夫二人が、こちらに近づいてくる。

 

 …え、今からするんすか?

 説教でかなり疲れてるんで、少し休憩とか…。

 あ、ダメだ!正座しすぎて動けねぇし逃げれねぇ!

 

 ……オレ、死んだんじゃないか?




◯アダマンティア
レイドボスの刑+説教の刑を受けた主人公
マスターにはミニチュアゼウスをプレゼントした


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次に書くお話として、どちらがいいかお答えください

  • 女神ヘラのお節介がない世界線 ※鬱注意
  • 娘目線から見た生前エウリュステウス夫妻
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