【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【カルデア編】バレンタインは修羅場でDie(中編②)

 数千年ぶりに再会した娘へ、怨敵を模した像を建造中であることを伝えるミッションは、予想通り命がけだった。

 いやだって見せた瞬間に激昂しかけるんだもん、オレでなかったら殺されてたわよ。

 

 てっきり受け入れられないかと思っていたのだが、最終的には納得してくれた。

 どうやら本人曰く。

 

神々(ロクデナシ)の似姿を、マスター(人間)への贈り物に。…神に捧げるのではなく、神が捧げられるのなら、いいわ』

 

 ということらしい。

 確かに言われるまで気づかなかったが、よく考えなくても大不敬だったなコレ。

 …別にいっか。

 なんか当神としては深遠な考えもあったらしいが、傍目にはただの強姦魔な神に払う敬意なんてクソ喰らえだわ!

 

 アドメーテーも親であるオレが贔屓目抜きで驚く優秀ぶりであり、正に八面六臂の大活躍。

 生前は経理だなんて専門外だったろうに、オレよりよっぽど正確で速い。

 店舗同士の諍いを時には弁舌で、時には拳で瞬く間に解決するのは見事の一言。

 最近は、最早この特異点の運営者は娘だったのでは、と思いそうになるほどだ。

 

「まぁ、順調なのはいいことですよね。カルデアの皆さんも、ちゃんと楽しんでいただけてるようですし」

 

 オレは特異点中に散布したテオス・クリロノミアを介した遠見で、カルデアからやってきた皆の様子を観察する。

 連日大盛況である店内ではマスターたちが縦横無尽に働いており、本当に本職ではないのか疑わしくなってくる。

 

 看板には大きく、"ショコラティエ・カルデア"。

 シンプルだが、分かりやすくていい店名だ。

 

 新進気鋭のカルデアは、査定の度に各エリアを突破。

 既に中心部に店を構え、同じく新規参入組の"元祖ショコラティエ ヤヤウキ・カンパニー"や古参店舗を相手に、熾烈なデッドヒートを繰り広げている。

 新参で看板に"元祖"を入れる厚かましさの戦の神だが、歴史を考えると実際間違っていないのがアレだ。

 

(そもそも南米の神を特異点に招いた記憶とかないけど、盛り上がるならヨシ!)

 

 放置という判断を下し、観察を中止。

 社長室の豪奢なイスから離れ、ドア前で待機する。

 時間的には、そろそろなはずだからな。

 

 事前に連絡があった時刻ピッタリにドアが開かれ、アドメーテーが姿を現す。

 ずいぶんと自然になった屈む動作を済ませたのを確認し、オレは思いっきりハグをしかけた。

 

「お帰りなさい、アドメーテー!」

 

「…ただいま、母様」

 

 若干の羞恥心が抜けないのか、未だに声が上擦っているのが愛おしい。

 いつでも振り払えるにも関わらずされるがままの素直さも、たまらなく可愛らしい。

 あ〜、我が子最高!カルデアに連れていけねーかな!

 

 ずっとしていたいぐらいだが、オレは特異点の黒幕。

 やるべきことをはやらねばと、毎回のことながら断腸の思いで解放する。

 

「ありがとうございます。カルデアの様子について、定期報告を」

 

「ええ。相変わらず素晴らしい適応力ね、マスターさんたち。中央部で求められる条件…"愛され続ける名店"のコツを、既に掴んだみたい」

 

 その報告は、予想通りながらも嬉しいもので。

 流石は数多の特異点を修復してきたマスターだと、勝手に誇らしくなってしまう。

 この調子で勝ってくれれば、オレも憂いなくプレゼントをお披露目できるというものだ。

 

 マスターたちが頑張っているというのなら、こちらも負けてはいられない。

 アドメーテーに対して、オレは黒幕兼社長として大仰に呼びかける。

 

「では、こちらも真体の仕上げに入りましょう。残りの報告については、歩きながらでも構いませんか?」

 

「もちろん」

 

 打てば響く返事に気をよくし、オレはアドメーテーを伴って歩き出した。

 如何にも強者!という感じの娘と歩いていると、オレも黒幕として貫禄が出てきたのではなかろうか。

 余計にオレのチンチクリンさが強調されてる?本当のことを言うと泣くぞ。

 

「マスターの働きは当然として、マシュさんも凄まじいわ。能力が高いのもそうだけど、一人だけモチベーションが桁外れ」

 

「ふっふっふ、予想通りです。マスターが店主の店を、特異点で一番に。マシュちゃんが最もやる気を出すシチュエーションです」

 

 ぐだぐだ特異点でマスターが一国一城の主となった際の興奮っぷりを見る限り、マシュちゃんはマスターが表立って評価される立場に立つことを好んでいる。

 恐らくだが『自分の好きな人が、他者にも評価されると嬉しい』ということなのだろう、生粋の後輩属性だわ。

 一流パティシエール顔負けの腕前に気力も十分とくれば、クオリティの面で他店が勝ることは至難の技だ。

 

 千里眼を併用したとは言え、ここまでは想定通りに進んでいる。

 我ながら恐ろしいぜ、自分の才能という奴が。

 

「…それと。父様と伯父様から、毎度のことながら伝言を預かってるわ」

 

 恐ろしい現実が、気分を急転直下させる。

 

「…それ、無視とかできませんか?」

 

「諦めも肝心ね。『カルデアに帰ったら家族会議といこう』、だそうよ」

 

 毎回メッセージを託してくる兄と夫だが、最早内心の怒りを隠さなくなってきている。

 三人とも仕入などの裏方で目覚ましい活躍を見せているが、モチベーションがオレへの説教だ。

 正直に言おう、こわい!

 

 アドメーテーに泣きつくのは、最後に残った親の威厳を投げ捨てるようで嫌だし…。

 やはり完成物を見せてマスターを喜ばせ、溜飲を下げてもらうしかない。

 結果を出せば説教の勢いも落ちるだろう、多分!

 

 そうして歩いていけば、高層ビル内部を模したエリアが、徐々にギリシャの建築様式へ。

 最後にSFで登場する宇宙船のような構造へと切り替わっていけば、目的地はもうすぐ。

 

 お出迎えするのは、第五異聞帯でマスターたちと殺し合ったという巨大な顔。

 言うまでもなく、ゼウスの真体だ。

 

「神霊としての彼には、余りよい印象はありませんが。真体で見るだけなら、中々カッコいいですね」

 

「ノーコメント。アタシは、今でも全面的に賛成はしてないもの」

 

「それでも協力してくれるんですね。そういう優しいところも、私は好きですよ」

 

「…ずるいわ、それ」

 

 顔を赤くしたアドメーテーを微笑ましく見つめたあと、視線を真体へと移す。

 神話体系の頂点に君臨するに相応しい威容は、培養したテオス・クリロノミアとチョコレートで構成されている。

 バレンタインだからね、やっぱり素材は譲れない。

 

 オレが解析した構造を、大量生産したチョコ使い魔が四六時中駆け回って建設する、休みなしのフル稼働。

 それでようやく間に合いそうという話なのだから、一人では絶対にできなかったな。

 あとは聖杯を収めた核にエンジンに相当する機関を積めば、ようやく完成だ。

 

「…母様、ここまで寄せる必要はあったの?外見だけならともかく、権能まで使えるようにしなくても」

 

 アドメーテーからの指摘に、オレは胸を張って反論する。

 昔なら頷いていただろうが、カルデアを知る先達として娘に色々と新常識を教えなければ。

 

「甘いですねアドメーテー、甘々です。カルデアの英霊には、不老不死の仙丹を贈る方までいますから。クオリティを限界まで極めてこそ、マスターへ私の感謝が伝わるのです」

 

「アタシはカルデアを知らないから、そう言われると反論できないけどね。ま、母様がやりたいことをやるといいわ」

 

 納得してくれたかは不明だが、どうやらいいらしい。

 生ぬるい目線を、背後からビシバシと感じる。

 

 なんか気を遣われてる気がしないでもないが、今更止まるなどない話なのだ。

 ここまできたら、いけるところまで直進だぁ!

 

「これをマスターにお見せすれば、貴方も納得するでしょう。ふふ、楽しみ____」

 

 完成を目の前に気合が入っていたからか、もしくはアドメーテーが直接関わるために千里眼が常以上に働いているのか。

 勘とも言えるものが伝える、数多の危機信号。

 

 悪寒、脅威、想定外____動かざるモノが、動く予兆。

 

 咄嗟に、オレはアドメーテーに可能な限り頑丈な結界を張り、転移の術式を刻む。

 呆気に取られている姿に罪悪感が浮かぶが、母親としての感覚が告げている。

 我が子を守れ、命に代えても、と。

 

「母様っ!?何を…」

 

 アドメーテーも気づいたのだろう、明らかな違和感に。

 すぐにでも外に出て応戦しようとしているが、その結界は特別性。

 狂乱した兄の攻撃すら跳ね返す、あの日メガラちゃんたちを守った逸品だ。

 

 そして、ついに違和感は表出する。

 沈黙を保っていたゼウス真体の偽物の眼が、突如開く。

 エンジンなどなく、ただシステムとガソリンだけを積んだ状態にも関わらず、だ。

 

「ああ、クオリティを求めすぎましたね…!二世先生に習ったでしょうに、"照応"の概念をっ!」

 

 とは言え、だ。

 まさかチョコレートで作った躯体などに、仮にも主神が住み着くなどと。

 こんなもの、予想できる方がおかしいだろうに。

 

 恐らく宿ったのは、ゼウス本体ではないだろう。

 その影、更にその残響…名残りのようなものだ。

 未完成で偽物の真体に宿った、搾りかすのような神性。

 

 故に、ソレは貪欲に求める。

 己の威容を完成へと近づける、巫女にして伴侶を。

 

 分かった上で、オレは避けるのではなく、可能な限り押さえつけることを選択した。

 理由など明らかだ、もし避ければ、次はアドメーテーが狙われる。

 それはゴメンだ、巻き込んでしまっただけなんだから。

 

「____っ!」

 

「聞きなさい、アドメーテー!!」

 

 責任は、全てオレにある。

 後始末を娘に押し付けることは本意ではなかったが、こうなっては仕方ない。

 

 オレは、術式が起動してその場から消えようとしているアドメーテーに伝言を残す。

 あちらが何を言おうとしているのかは分からないが、これだけは伝えなければいけない。

 

「核を狙えと、カルデアに伝えなさい。私を取り込むのなら、弱点もまた取り込むと同義!」

 

 何を意味するかを、オレは理解した上で言い放つ。

 …全く、親失格にもほどがある。

 ただ、恩返しがしたかっただけなんだがなぁ。

 

 アドメーテーを包んだ結界が消えると同時に、拘束が限界を迎え。

 オレの意識は、偽のゼウス真体の演算領域と直結することによる圧倒的な情報量に蹂躙された。




◯ゼウス・バレンタイン
本イベントのレイドボス枠
チョコレートで形作られた躯体に、残滓が宿った姿
本物に比べれば激しく劣化しているが、権能も使用可能

◯アドメーテー
彼女は、真っ当な魔術師としては主人公より優れている
故に、対抗手段は当然の如く用意はしている
それはそれとして、トラウマに直撃して感情的になった

◯ヘラクレス&エウリュステウス
事情を伝えられ、色んな意味で怒り狂っている

◯アダマンティア
浮かれすぎて基礎的概念が頭から抜けていたアホ
身内からの説教に、二世からの説教がプラスされた


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