【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie   作:セロ弾きのゴーシュ

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【カルデア編】バレンタインは修羅場でDie(後編①)

 アダマンティアによって構築された、最早風物詩となったバレンタイン特異点。

 数多のショコラティエ&ショコラティエールが鎬を削る、チョコスイーツの祭典として栄華を極めた場所。

 

 そこは今、暴風雨と雷霆が渦巻く死地に変生していた。

 特異点の主を反映するかのように熾烈な競争のなかにも温かみのあった都市は、大自然の脅威を前に余りにも無力。

 往来を行き交っていた一般客たちは、半ば無駄であることを悟りながら店舗へと駆け込んでいく。

 

 ワケも分からず避難するしかない民衆は、次に現れた更なる理不尽を前に、心からの嘆きを吐き出す。

 

「バカげてる…!」

 

 空に君臨する、巨大な顔面が据えられた浮遊する巨大戦艦。

 周囲を押し潰さんばかりに放たれる神性が、神霊に類する物体であることを否が応でも叩きつけてくる。

 人間の営みなど気まぐれ一つで破壊し尽くすモノが、無秩序に力を振り撒いていた。

 

 ただ在るだけで格の違いを見せる絶望の化身は眼を開き、矮小な生命を睥睨する。

 未完成の躯体を、より全盛へ。

 ただ一つの至上命題を叶えるため、畏れを捧げる考える葦に、まだ足りぬと吼え立てた。

 

【____!!】

 

 一方のカルデアは、眼前の機構がどのようなモノか正確に理解していた。

 マスターである藤丸立香は、できれば二度と相対したくはなかった闖入者の正体を看破する。

 

「あれは…大神ゼウスの真体!?」

 

「そんな、オリュンポス十二神の真体は、汎人類史では失われているはずでは…!?…ですが、確かにあの姿は、異聞帯でわたしたちと戦った大神ゼウスに酷似しています!」

 

 マシュ・キリエライトの困惑は、当然のことだ。

 第五異聞帯、神々が築いた星間山脈都市オリュンポスを統べる総元締めたるゼウスの真体。

 あれは、ifにifを重ねた異聞帯だからこそ現存した、あり得ざる威容であるのだから。

 

 各々の困惑と疑問が、頂点に達した頃。

 突如カルデア一行の前に、泡状の結界が姿を晒す。

 結界は役目は果たしたとばかりに砕け散り、内部には今まで黒幕側でありながらカルデアを導き続けたアドメーテーが。

 

「事情は、アタシから説明するわ。加えて、あのデカブツの正体もね」

 

「…?!」

 

 現在に至るまで目的を秘し、ただ「楽しんでね」と伝えるに終始していたアドメーテーからの突然の提案。

 明らかな対応の変化に対して、通信越しにダ・ヴィンチが問いを投げる。

 

『こちらとして助かるけど、いいのかい?君の召喚主であるアダマンティアは、今までずっと秘密主義を貫いていたけど』

 

「ええ、もう隠す必要がないもの。目的から何まで、全部そちらに提供する」

 

 その態度には、今までにはなかった焦りが多分に滲んでいて。

 現在の事態は黒幕であるアダマンティアにとっても想定外であることを、あらゆる言葉よりも如実に示していた。

 

 実際に語られた内容は、全てが斜め上の情報ばかりで。

 目的も、行動も、成果物も、全てが純粋な善意で構成された、一周回って喜劇じみた顛末。

 余りにも信じ難いことが紛れもない真実なのだと、アドメーテーは語る。

 

 説明が終わった場に満ちるのは、緊急事態をは思えない微妙な空気。

 ある者は虚空を見つめ、ある者は頭を抱え、ある者は怒りが過ぎて笑いに転じてしまっていた。

 

「で、では。何かね」

 

 カオス極まった全員の気持ちを代弁するように、未だ厄災を振り撒く飛行物体を指さしてゴルドルフが話し始める。

 指や瞳、肉体の先は例外なく震えており、動揺がいかに大きいかという話だ。

 

「あの空飛ぶ実寸大宇宙戦艦は、カルデアに反旗を翻す秘密兵器だのではなく。マスター・藤丸への、純粋なバレンタインプレゼントだと?」

 

「…事実よ。加えて言えば、母様は今、あのデカブツの核に捕らえられているとも言っておくわ」

 

 神代の魔女の規格外さと、魔術における基礎的概念を失念していたことによる悲劇。

 ギャップどころではない事象に同時に襲われ、ゴルドルフは白目を剥く。

 

 一方のダ・ヴィンチは、分析によってアドメーテーから与えられた情報の真偽を確認し、顔を露骨に顰めさせた。

 強固な装甲に覆われてもなお弩級のエネルギー反応を発する核からは、確かにカルデアの霊基グラフにも登録された英霊の気配が放たれている。

 

『私の方でも確認した。仮称ゼウス・ヴァレンタインの核に相当する部分から、アダマンティアの霊基反応を検出したよ。…彼女が最後に託した『核を狙え』という言葉も、これなら頷ける』

 

 伝承においてアダマンティアという英雄は、双子の兄であるアルケイデスに心臓を潰されて死亡している。

 その逸話は霊基にも刻み込まれており、本人も冗談混じりに"英雄に心臓を潰されるのが弱点"だと話していたことを、この場にいる全員が知っていた。

 

 英霊であっても霊核を潰されれば消滅は免れない以上、何とも意味のない弱点。

 この場に限っては本来ならば殺しえぬ敵を消滅させる、最大の脆弱性へと化けている。

 

 しかし、決して無視してはいけない問題が横たわっていることを、藤丸立香は見逃さなかった。

 

「もし、核を潰したら。中にいるアダマンティアはどうなるの、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 脅威が今にも特異点全体を崩壊させようとしている状況でも、都合のいい嘘など吐けはしない。

 ダ・ヴィンチは誤魔化しなど一切混ぜず、淡々と己が頭脳が弾き出した残酷な結果を以って答える。

 

『今のアダマンティアは、ゼウス・ヴァレンタインの核とほぼ融合しているような状態だ。…恐らくだけど、彼女自身の霊核も、損傷は避けられない』

 

「それは…!他の英霊の方以上に、アダマンティアさんにとって霊核へのダメージは致命傷になり得ます!最悪の場合、霊基そのものが崩壊する可能性も____」

 

 特異点の解決のため、善意を以ってコトを起こした仲間との縁を断ち切れるか。

 たとえ異聞帯という生存競争を生き抜いてきた歴戦の強者たちであろうと、いや強者であるからこそ、簡単に答えを出せるものではない。

 質量を伴ったとすら錯覚するほどに、一行を取り巻く空気は重い。

 

 最初に動いたのは、今まで沈黙を保っていた騎兵のエウリュステウスだった。

 父ではなく王としての顔でアドメーテーを見据え、重々しく口を開く。

 

「だが、一つ解せん。お前は、最初からこの可能性に思い至っていただろう。なぜ、アダマンティアを止めなかった?」

 

『…確かに、そこは私も疑問だった。アドメーテーが幼少から魔術に関する英才教育を受けているのは、神話でも描かれているからね』

 

 偽ゼウス真体に歪ながらも神性が宿ったのは、"照応"という理によるものだ。

 日本で言えば丑の刻参りに代表される、本来似ても似つかぬ二者間に触媒などを用いることで繋がりを形成し、影響を与えるというもの。

 これは、古今東西あらゆる魔術基盤において確認される、普遍的かつ初歩的な理論である。

 

 特殊な経歴によって魔術に関する基礎教育を受けず、独自の方法で魔道を極めたアダマンティアならばいざ知らず。

 伝説に名高い魔術師でもあった英雄ならば、気付かぬ方が不自然な最悪の可能性を故意に見逃した意図とは。

 

 お前は止める側の人間であって、背中を押す側ではないだろう。

 非難を込めた詰問に、アドメーテーは告解の如く理由を零し始めた。

 

「…そうね。十中八九失敗すると思っていたし、上手くいったところで自爆するだけだって、分かってたわ。ただ」

 

「ただ?」

 

「…母様が、本当に楽しそうだったのだもの。止められるわけ、ないじゃない」

 

 確かに、特異点でのアダマンティアの振る舞いは、普段と比較して数段はアッパーだったと言える。

 だが、何故それが惨事を見過ごす怠慢に繋がるのか。

 

 要領を得ないと疑問符を浮かべる一行を横目に、アドメーテーは言葉を続ける。

 

「アタシが知る母様は、いつも微笑んで、優しくて、穏やかで。少し活動的なところもあったけど、それも家族や子どものため。…だから最初に今の母様を見たときは、カルデアで悪い影響を受けたのだと思ったわ」

 

「?…違うのかね?我々のなかでは、カルデア内の不届き者に唆された、という線すら上がっていたのだが」

 

 アドメーテーは、ゴルドルフの疑問に首を横に振る。

 そうではない、真実はもっと単純なことなのだと。

 

「しばらく過ごして、理解したのよ。…今の母様こそが、一切の役割を負わない、残酷な未来という枷もない、アダマンティアという人間の素なんだって」

 

 半神半人という出自からくる周囲の畏れもなく、大英雄の妹という立場もなく、ミュケナイの王妃としての責務もなく、賢母としての務めもなく。

 そして何より、いつ起こるか分からない絶望の未来という障害もない。

 生前では終ぞ訪れなかった、只人としての時間。

 

 死後にやっと手に入れた、自分の時間とでも言うべきもの。

 あの自由人な姿こそが、"アダマンティア"という個人が持つありのままの姿なのだ、とアドメーテーは結論づけた。

 

「別に、生前が不幸だったとは言わない。それこそ、母様本人だって否定するに決まってる。…それでも、アタシは止めたくなかった」

 

 個人の感情のみで、人理を危機に晒す愚行。

 愚昧の徒の誹りを受けようとも知るものかと、何よりも瞳が雄弁に伝えていた。

 今の己は母のために世界すら捧げようという狂気が、溢れんばかりに湛えられている。

 

 次いでアドメーテーは一行に背中を向け、母を捕らえる怨敵へ戦意と殺意を滾らせた。

 故に責は己が負う、と言わんばかりに。

 

「確かに、止めはしなかったわ。だけど、()()()()()()()()

 

 そして、尋常ではない神気を内包する帯_戦神アレスの戦帯_を引き摺り出し、霊基に纏わせる。

 生粋の神嫌いであるアドメーテーは、決して戦帯を纏うという使い方を選ばない。

 バーサーカーとしての現界であったとしても、自害すら厭わない徹底ぶりだ。

 

 だが、母アダマンティアからの召喚という超限定的な状況に限り、アドメーテーは己の憎悪すらへし折る。

 復讐者にすらなり得る霊基の内で蠢く怨嗟の炎すら、母のためになら吹き消してみせた。

 

 狂気に身を委ね、更に霊基を歪め、初めて君臨する神に最も近い姿。

 彼女が見せる覚悟のがどれほどかということを、今の姿こそが何よりも示しているだろう。

 

「母様は助ける、聖杯もそちらへ送る。だから、貴方たちは帰還してもらって構わない。ここから先は、アタシがワガママを通すための時間だもの」

 

 「迷惑をかけて、ごめんなさいね」と最後に付け足し、アドメーテーは飛び立とうとする。

 決意は固く、最早誰をも止めることは叶わないと確信した。

 英雄としてだけでなく、母を思う子としての意地を、一体誰が挫くことができようか。

 

 だが、一つの言葉が、今にも突貫しようとするアドメーテーを地に縫い留めた。

 軽く、何気なく、それでも決して無視はできないものが。

 

「なら、オレも手伝うよ」

 

 止めるのではなく、助力しようと。

 まるで今から散歩へ行こうとする友人に付き添うような気軽さを伴って、藤丸立香は声をかけていた。

 

 事態を軽く見ているわけでは決してない、と表情を見れば分かる。

 藤丸立香という青年は、本気で言っているのだ。

 仲間を助けるために、今から神に挑み、そして殺すのだと。

 

 正気を疑うアドメーテーの視線を、どこ吹く風と受け流して。

 人理を救い、世界の生存を争う競争を踏み越えた、ただ一人のマスターは言葉を重ねる。

 

「策はあるんでしょ?なら、一人よりも皆でやった方がいいよ。…それに、この街で一番のショコラティエになれてないしね!」

 

「!その通りです、マスター!ヤヤウキ・カンパニーさんたちとの勝負は、まだ結果が出ていません。このまま帰還しては、ショコラティエ・カルデアは不戦敗となってしまいます!」

 

 人類最後のマスターと、その盾の言葉を皮切りに、一行の迷いは晴れていく。

 ダ・ヴィンチを始めとするカルデアの頭脳は、偽ゼウス真体を丸裸にせんと意気込み。

 冷酷で貴族主義を嘯く魔術師でありカルデアの所長たるゴルドルフも、建前を述べたのちに作戦実行の許可を高らかに歌い上げる。

 

 これに最も困惑したのは、カルデアの助力など可能性の一つにすら考慮していなかったアドメーテーだ。

 彼女は母に助力すると決意した時点で、霊基の全てを費やし、座にあるだろう本体にすら不可逆の傷を与えてでも、独りで母を救うと定めていたのだから。

 

「…なんで。どうして、迷惑をかけたサーヴァントと、それを放置したサーヴァントのために、命を賭けられるのよ」

 

「「それが、カルデアのやり方なのだ。アドメーテー」」

 

 思わず溢れた問いに答えを返したのは、二人のエウリュステウスで。

 後ろではヘラクレスが、腕を組んで我が意を得たりとばかりに頷きを繰り返す。

 

「お前が言ったことだ。今のアダマンティアが素だというのなら、カルデアはソレを晒してもいいと思える場なのだろう?」

 

「ならば、その組織を運営する人間は、例外なく気持ちのいい馬鹿者どもでなければ成り立たぬであろうが」

 

「■■■■!」

 

 どうやらカルデアという組織は、ずっと前からこのような気風らしい。

 世界を救うという大いなる命題を抱えながら、愚かとしか言いようがないほどに人の温かさに満ちていたらしい。

 その性質を損なうことがなかったからこそ、アダマンティアは自由を謳歌できたらしい。

 

 ことここに至って、アドメーテーはカルデアを、そしてマスターである藤丸立香を理解した。

 理解してしまったのならば、納得するしかない。

 負けを認めるように、両手を挙げて脱力する。

 

「確かに、そうかもね」

 

 今から死地へ向かうというのに、顔は満面の笑顔を浮かべていて。

 どうやら己は、そんなバカたちの愚かさを好ましく思っていたらしいという気づきに対して、誇らしく胸を張りたい気分だった。

 

 娘を彩る心からの表情に、エウリュステウスは口の端を一瞬だけ上げた。

 穏やかな笑みは一瞬、王としての厳然とした表情を作り直し、生前は家族であり同士、部下であった最愛の一人へと問うた。

 

「それで。お前がいう策とやらを、そろそろ聞かせてもらおうか。あのような規格外を己のみで弑さんとするからには、それなりにものと想定してもよいだろう」

 

 父親としての期待を隠しきれていないと、アドメーテーは苦笑する。

 次いで敵を噛み砕かんと獰猛な笑みを形作り、高層ビルの一つを指さした。

 

「ええ、当然よ。本来のアタシなら絶対に選ばない、強力な一手よ」

 

 

 

 

 アドメーテーをして"強力な一手"と言わしめる、乾坤一擲の策を請け負う何者か。

 ビルの屋上を目を凝らして見つめてみれば、そこには金の長髪を靡かせた男が立っている。

 人間など容易く地平線まで吹き飛ばす嵐の只中において、まるで休日の昼下がりのような余裕を崩さない様は、現代服と改造銃も併せて奇妙なマッチを生み出していた。

 

 男の名前を、どのような存在であるかを、カルデアの一行は知っている。

 カルデアに召喚されたサーヴァントの一騎であり、何よりもショコラティエ・カルデアと特異点一の店舗の座をかけて争いあった好敵手。

 

 戦いと魔術、美と不和、夜と支配、嵐と疫病、犯罪とルール、幸運と不運、摂理と対立する二者。

 そして、その衝動から生まれる躍動を司る超越存在。

 

 その名は、テスカトリポカ。

 

「チョコレート…カカオで形作られた神、ねぇ。なるほど、嬢ちゃんの眼は確かなようだな」

 

 南米において全能の名を背負った神霊は、異郷にて神となった機構、その贋作を不敵に見やる。

 僅かな沈黙の後に、裁定は為された。

 

「____こいつは、オレの世界にはない無法(もの)だ」

 

 たったの一言、それだけで十分だった。

 力をいくら持とうと、智慧をどれだけ積み上げようと、避けられないものがある。

 神話に刻まれた、絶対の原則。

 

 捧げるものと、捧げられるもの。

 この序列は、覆ることは決して叶わないものであるが故に。 




◯ケルベロス
実は、本イベント以前で主人公の素を知るほぼ唯一の存在
「まぁ、我は前から知ってたけどな」
でも貴方、どこまでいっても大切な友人止まりですよ?

◯テスカトリポカ
アドメーテーからの取引を受け、特異点に招待された神霊
噂に名高いミュケナイの闘争が見られると、内心楽しみ

◯全盛期のミュケナイ
主人公の子×6+ヘラクレスの子×3+死兵ミュケナイ民
彼彼女らを、賢王エウリュステウスが指揮する鉄壁の布陣
なお時間切れでヘラクレスがかっ飛んでくる模様、地獄?


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