【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
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『愛する人たちの幸せの一つを、己が奪い取ってはいないか』
アドメーテーの苦悩は、上記に集約される。
この疑問が芽生えたのは、内にある記憶を振り返ったことがキッカケである。
超早熟と言える成長をアドメーテーが示す理由は、当人の天才性もさることながら、記憶の蓄積が他者より数倍多かったことも大きい。
何せ胎内で意識が発生してから今まで、見聞きした情報全てをインプットしているのである。
情報を処理するだけで、発達は進んでいく。
そうして幼い頃は受け取るだけだった情報を改めて理解する過程で、両親のやり取りが今とは異なることに気がつく。
何処が、とは具体的には言語化できない。
だが、明らかに己を前にしたものとは違うのである。
母親が物を取ろうとするときも。
「侍女に頼むもよいし、私に頼んでもよい。故にお前が動く必要はない、と言っているだろう」
「あはは…、すみません。ついつい自分でやろうとする癖が抜けなくて」
「慣れぬ王宮暮らしだ、仕方のない部分もある。だが侍女たちのためにも、子のためにも控えてやってくれ。何より、だ」
「何より、なんですか?」
「私を、最愛すら守れない無力な男にさせぬためにも、堪えてくれると助かる。我が儘な夫ですまないな」
「……そこで謝られては、こちらも呑むしかありませんよ。…心配していただいて、ありがとうございます」
父親が寝室へと駆け込んできたときも。
「アダマンティア!」
「こんばんは、エウリュステウス。伝言は聞いたようで」
「ああ聞いたとも!『夫が来るまで眠りにはつかない』などと言われてはな。一体どうしたというのだ」
「出産が近づき、国の状況を万全に整えたいのは分かります。ですが、最近は根を詰めすぎです」
「…そのためだけに、あのような珍しい駄々を?」
「ええ、貴方の言葉を返します。私を、夫の健康すら守れない無能な妻にさせぬためにも、一緒に眠りませんか?」
「…お前には勝てんな。理解した、他の者にも休むよう伝えよう」
「はい。賢王としての余裕、見せてきてくださいな」
妊娠していたから、だけではない。
両親が互いに向け合うものが、何か異なる。
故に優秀ながら未だ幼い少女は、己の存在が愛する両親を害しているのでは苦しんでいた。
無論、護衛兵ヤニスと侍女ソフィアは、理由には気づいている。
主が見ていたのは所謂"夫婦のやり取り"であり、自身の子であろうと見せる者は稀なのだと。
だが同時に二人は、真相を口で説明したところで、理解はできても納得はすまいと察していた。
成長を側で見守り続けた者として、アドメーテーの強情さを身に染みて理解している。
以上の理由から、二人は奔走した。
『ご協力いただき、ありがとうございます』
『こちらは口裏を合わせるのみ、協力というほどでもない』
まずは、エウリュステウス夫妻が二人で過ごす時間を作る必要がある。
そのために、親族であるアルケイデスの協力を得た。
『だが、よいのか。これは、お前達が仕える王への背信行為とも言えよう』
『陛下からは、アドメーテーを第一に考えるよう仰せつかっておりますれば。背信などとんでもないことです』
『…子は親に似ると言うが、王と家臣でも似たようなものらしい』
このような会話もありつつ、策は成就。
アドメーテーが従者を連れてアルケイデス夫妻の家に行く、という状況を偽装した。
つまり夫婦にとっては数年ぶりとなる、少なくとも直接的な子の世話に頭を割く必要がない時間の完成だ。
アドメーテーが望むものを見ることが叶う、千載一遇の好機。
夫婦の部屋に設けられた護衛用の覗き窓を前に、ソフィアは最後の確認を行っていた。
「アドメーテー様、くれぐれも」
「バレないように、でしょ?ソフィアとヤニスがバツを受けるのは、アタシもいやだもの、気をつけるわ」
アドメーテーは、胸をドンと力強く叩く。
二人が相当を危ない橋を渡っていることなど、当然理解している。
彼らが己に向ける忠誠の程を常から感じているからこそ、アドメーテーの感謝の念は深い。
返事に対して満足そうに二人は頷くと、覗き窓を手で指し示す。
アドメーテーは深呼吸の後、少しの震えと共に片目を開く。
(これが上手くいったら。アルケイデスおじさんに頼んで、また二人の時間を作ってあげないと)
などと、三歳児離れした予定を立てながら。
(なーんて、考えてるのかね。我が子ながら、賢すぎるってのも考えものだ)
夫との会話と並行しながら、オレは覗き穴の向こうに陣取っている娘に意識を割く。
気遣いの仕方が一桁歳の子じゃないんだよね、賢王と神の血って凄いわ。
娘と部下の暗躍に気づいたのは、何も偶然というわけじゃない。
オレは兄がいつヘラの介入を受けてもいいように、家の周辺に監視網を極秘に構築している。
だから、アイツらがこそこそしてるのも全部お見通しというわけだ。
因みに兄だけはオレが魔術を使えることを知っているため、情報が筒抜けだと承知だろう。
それでも、特に妨害や告げ口をせず任せるままにしている。
その事実を、オレはこう受け取っていた。
(何とかしてやれ、ってことか)
三人を事前に止めることは容易い。
アイツらは全員いい子だから、オレから問い詰められれば最後には誤魔化せなくなる。
もっと手っ取り早くするなら、共犯だろう部屋にいる侍女たちの一人に話を聞いたっていい。
ただ、それでは娘の悩みを真に解決できたとは言えない。
今回の一件は、オレたちにも非があることだしな。
(歌を覚えてたんだから、他の出来事も知っていると承知で動くべきだったわ。それでも、まさか全部覚えてるとはねぇ)
いやでもさ、仕方ないじゃん?
何せ初めての子だよ、オレも夫もキッチリしたいじゃん。
『さすがパパとママ!』とか、思われたいじゃん。
というか、三歳(現代規準だと二歳)にしてはマセすぎじゃろ!
あと娘目線でも夫婦の会話…つまりイチャついてると認識されてたのかよ、マジかよ。
…いや、いいですけどね、友愛だろうと愛は愛ということで、ええ。
「…どうした?何か汚れでもあったか」
「いえいえ。別にそういうわけでは」
怪訝そうに、または心配そうに見つめてくる夫に、オレは首を横に振る。
なんか妊娠してから、夫の心配性が加速したような気がする。
元から色々と抱え込む性分だから、素直に口に出してくれるだけありがたいんだが。
だが、これはタイミング的に丁度いいかもしれん。
イチャつきとやらを見たいというのなら、恥を忍んで見せてやるのも親の務め。
それに、一つ娘の考えで修正してやらにゃならん部分もあるしな。
やるべきことを決めたオレは、早速行動を開始。
具体的には、横に座る夫の膝に頭を勢いよく乗せた。
所謂膝枕、というやつである。
「!?」
急襲を受けた夫は、右手を先ほどまでオレの顔があった空間に伸ばしたまま停止した。
どうやら、熱でも測ろうとしたらしい。
顔が面白いくらい赤くなりやがって、熱が出たのはそっちの方だな。
これ以上のことをしても、子どもが生まれても、己が意図しない接触に慣れが来ないらしい。
…あざとい奴め、オレをゼウスらせて(動詞:神目線で人にキュンとくること)何がしたいんだ?
「ただ、そうですね。アドメーテーがいない部屋は久しぶりだな、と思っただけです」
「な、なるほどな」
夫は、頬を薄く赤に染めたまま周囲を見渡す。
王の格を示す調度品も、周りにいる洗練された侍女たちも、何も変わらない。
一つだけ、アドメーテーがいないことだけが違う。
改めて、その事実を認識したのだろう。
夫は口角を緩めて肯定を示し、手櫛でオレの髪をなぞる。
「確かに、不思議なものだ。ほんの数年前は、今の様が常であったというのに。私は、此処に違和感を覚えている」
「気が合いますね。私もです」
もっと具体的に言えば、寂しいと感じているのだろう。
この部屋は、オレたちが最も家族としての時間を積み重ねた場所だ。
アドメーテーが、その日の修練の成果を身振り手振りを交えて自慢げに伝えてくる。
傍で控えるヤニスとソフィアを呼び出し、寸劇のようにして披露してくれることもあった。
オレと夫は相槌を打ちながら、三段飛ばしで成長していく我が子の将来を夢想するのである。
アドメーテーは、本当にオレに色んなものをくれた。
だから、あの子の心を曇らせるものは、取り払ってあげないと。
「…口には出しませんでしたが。実はアドメーテーを産む前、結構不安だったんですよね」
「それは、当然のことだろう。命を懸けた難行を前に、不安を覚えぬ者などいない」
「出産そのものも、確かに不安でした。ですがもっと不安だったのは、私は己の役目を果たせるか、というところでした」
古代ギリシャに生まれ落ちて、権力とは無縁の場所で育った。
そこからいきなり放り込まれたのは、ミュケナイという巨大国家の妃という地位。
上手くやれるなどとは思えなかったし、実際上手くはできていないだろう。
「王妃という役目を十全にこなせているのか、今も答えは出せません。そこに母親が加わって、どうして立派にやれるだろうと、不安だったのです」
「だが、今はそうは思っていない。お前の顔は、己の意味に惑う者のソレではなかろう」
思わず、笑みが漏れる。
相変わらず察しがいい、賢王と呼ばれるだけはある。
ああ、そうだ。
実際に出産を経て、惑いは消え失せた。
「____幸せとは、こんな形をしているのだと。あの子の顔を見たとき、思ったのです」
上手くやれるとか、やれないとか。
ああまったく、そんなものがどうしたのか。
重要ではないと、心に叩き込まれた。
「そうだな。なれば、考えている暇すら惜しくなろうよ」
「はい」
夫の言うとおりだ。
迷いなく同意できるあたり、似たようなことを思っていたのだろう。
ただ、この幸せが形を成した子のために、自分にできる全てをしたくなったのだ。
この子のためになら、命だって惜しくはないと心底から思った。
だから我武者羅にやってこれた、覚悟なんぞ決めなくとも、人は走り続けられるんだと初夜以来に実感した。
(オレなんかよりずっと賢いアドメーテーなら、理解できるだろう?)
今の会話も聞いているだろうアドメーテーを、オレは思い浮かべる。
『己の存在が幸せを奪う』など、とんでもない。
決してあり得ないのだ、そんなことは。
お前こそが、オレたちにとっての幸せなんだ。
朝に寝ぼけ眼で挨拶する姿も、修練に汗を流す姿も。
真剣に教えに耳を傾ける姿も、睡魔に負けて舟をこぐ姿も。
ただ在るだけで愛しくて仕方ない、息をしていることに神にすら感謝したくなる。
(だから、大丈夫。お前は、ただ在るがままに、やりたいことをやればいい)
どれだけ賢くなろうとも、力をつけようともいい。
成果を上げようと、迷惑をかけようといい。
アドメーテーが私たちの子である事実は消えず、であれば幸福に翳りなど生じえない。
言いたいことは言えたと、オレは膝枕を維持しつつ体ごと顔を夫へと向けた。
声色からわかっていたが、夫はとても穏やかな表情を浮かべていて、そのままオレの前髪を梳いてくる。
「今の言葉、あの子にも直接伝えてやってはどうだ。あの聡さであれば、お前の言葉も不足なく受け止めるだろう」
そう言われて、今更ながら思い出す。
夫はこの会話が娘に聞かれていることを、この場で唯一知らんかったな。
いや教えるわけにもいかんから、当然ではあるが。
…つまり、オレの膝枕に赤面した姿を晒したことも知らないわけだ。
普段からカッコいい父親として振舞っている努力を思えば、あんなのを見られたら悶絶間違いなしだ。
(いや、オレも兄もバラすつもりは毛頭ないし、知りようがないけどな)
精神的安寧のためにも、黙っておくが吉____
普段の十割増し、ぐちゃぐちゃになった土砂降りの声が、硬い物体が破壊された轟音を伴って飛来する。
ほぼ反射で飛来物を受け止めた夫は、その正体_アドメーテー_を認めた瞬間に目をむいた。
夫の腕のなかで泣きじゃくる娘、粉々に破壊された壁、破壊された壁の奥で顔色を青すら超えて白くするヤニスとソフィア、視線を逸らす侍女たち。
ここまで揃ってしまえば、答えにたどり着くなど簡単なことで。
数瞬後、全員が夫の後ろに鬼を見た。
…みんな、死んだんじゃないか?
〇アダマンティア
このあと、夫を必死になだめることになった
自分も実質共犯だとは、口が裂けても言えない
◯主犯&共犯者たち(アドメーテー含む)
"アルケイデスに一撃入れるまで終われない修練"
を罰に課され、全員が絶望した
◯アルケイデス
義弟に依頼され、時折ミュケナイ兵の修練を行う
「片棒を担いだ身として同情はするが、手加減はせん」
モチベーションになりますので、感想等お待ちしています
次は、女神ヘラのお節介加護がなかった世界線です
神話フィルターMAX(with某海神)により、閲覧注意です
【"春の終わりに君を待つ"ネタバレ注意】
遂に出てきましたね、ギリシャ冥府夫妻
個人的には、女神ペルセポネが大分好きです
一人称あたし系家族&旦那LOVEロリ顔美少女女神
性癖で拙作を書いている私に、刺さらないはずもなく
あとは、アスカラポスくんもいいキャラでした
拙作のケルベロスと仲良くできそう、と感じました
次に書くお話として、どちらがいいかお答えください
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女神ヘラのお節介がない世界線 ※鬱注意
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娘目線から見た生前エウリュステウス夫妻