【本編完結】転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
執筆の励みになっております
今回も、導入ということで少し短いです
将来の暗黒上司ことエウリュステウスと出会ってから数年、予想通りオレは喪女街道を突っ走っていた。
自分でも分かっていたことだが、そらそうという話である。
オレだって、主神の正妻に嫌われている女と関わりたいとは思わない。
古代ギリシャにおいて、女性は十代で何処かに嫁ぐのが基本だ。
と言うより、結婚によってのみ父親から夫へと法的な保護者が移り、社会的な承認を得ることが可能という社会構造をしている。
故に未婚の女性は、オレのように魔術を使った裏技でもなければ満足に外出すらできない。
そして結婚が叶わない女性が辿る道は、主に二つ。
未婚女性として家の名誉のために軟禁生活を送るか、生涯未婚を誓って処女神の巫女として仕えるか。
…うーん見事なまでの男尊女卑、古代ってクソだな!
両親は悩み、最後には後者を選んだ。
方々の神殿に打診し、ようやく引き取ってくれそうな場所を見つけたらしい。
オレとしては複雑な心境だが、これも親心である。
「仕方のないこと、ですかね」
それでも、憂鬱なのは隠せない。
オレはモヤモヤとしたものを抱えたまま、件の神殿へと両親と共に、従者を引き連れて向かっていた。
潮の匂いを纏う心地よい風を馬車のなかで感じながらも、オレは少し不安だった。
別に生涯未婚が、ではない。
古代ギリシャにおいては思い切った決断なんだろうが、中身が男のオレとしては好都合ですらある。
本当ならギリシャ美人なんかとお近づきになりたかったが、贅沢は言ってられんわな。
魔術の修練ができないこと、でもない。
寧ろここまできたら、開き直ることだって視野に入る。
神に仕える者として、堂々と胸を張って魔術を学ぶのも手だ。
問題は、そこではない。
内心を隠す素振りすらなく、オレはため息を吐き切る。
「…処女神の巫女って、男友達との連絡はいいんでしょうか?」
ここで笑うやつ、古代ギリシャを分かってないぞ。
どんな些細な行動も、凄惨な悲劇に化けるのが古代ギリシャ。
巻き込まれるのが唯一の友達だと思えば、気にし過ぎなんてことはない。
処女神という言葉だけなら、とても清楚で穏和な女神様をイメージするかもしれない。
だがなかには、ゼウスに強姦された己の巫女にキレて、巫女を牝熊に変えた上で息子に殺させるような神もいる。
いや、今から行くところの神がそうなんですけども。
こんな訳の分からないキレ方をする女神が、男友達との文通を許してくれるだろうか。
怖すぎて確認すらできんわ、命が惜しい。
…それでも、諦めきれないものはある。
「結局、手紙で報告もできませんでした」
余りにも急に決まったことだったから、手紙を書く暇すら捻出できず。
このままいけば、消息不明ルート一直線だ。
いや、エウリュステウスが探せば分かるんだろうが、多忙な身だろうしな。
それに、アイツはいい奴だ。
拗れかけたコンプレックスが治ったなら、友人なんていくらだってできるさ。
(アイツは、エウリュステウスは。…オレなんかに拘らなくても、いいもんな)
オレにとってのエウリュステウスは、今生で初めての友達で、家族以外の外界との繋がり。
でもアイツにとってのオレは、数多くできるだろう友達の内の一人でしかなくて。
こんな厄ネタだらけの女なんて、本来なら関わりを持つだけで危険な存在でしかなくて。
そんなことは分かっているのに、割り切れない。
だって今でも、目を閉じれば鮮明に思い出せる。
『僕は数日間、この近くに留まる予定なんだ。よってお前には、近辺の案内と護衛を命じるぞ!』
『…そうか。お前も楽しめているというのならよい。…僕も、お前といると楽しいよ』
『いや、すまない!…ただ、ただ嬉しいんだ。僕のためにここまでしてくれる人なんて、それこそ初めて会ったから』
『____我が名はエウリュステウス!ミュケナイ王ステネロスが一子なり!偉大なる賢王となる名だ、遠く離れようと決して忘れることは許さん!』
オレなんかの言葉で、心からの笑顔を見せてくれたアイツの顔を。
オレの出自を知ってもなお、堂々と名乗ってみせた愚かなほどの誠実さを。
覚えている、一つ残らず。
「……っ!」
堰を切って溢れそうになったナニカを誤魔化したくて、オレは御者に停止を願う。
どうやら従者たちも休憩するタイミングを図っていたらしく、一行は海に面した開けた場所で止まった。
馬車から降り、両親と従者たちに許可をとって、少し離れた場所で立ち尽くす。
幸いにも、涙は流れていなかった。
…オレは、ちゃんと古代ギリシャでやっていかなきゃいけないんだから、涙なんて流している場合じゃない。
(運命の日まで、オレは生き延びて腕を磨き続けないといけない。兄と、まだ知らない兄の家族のために)
頬を叩いて、オレが成すと誓ったことを改めて刻む。
ただ流されるまま、生き延びるだけの人生なんて御免なのだから。
生まれて、家族に愛されて、友達もできた。
古代ギリシャへの望まない誕生だったが、多くの人から多くのものを貰った。
全てを返せるとは思っていないが、せめて何か意味を残したいんだ。
(大丈夫、オレは、ちゃんと思い出にできる。アイツとの数日間を、宝物にして走り抜けられる)
緩みかけた気持ちを引き締め直して、いざ戻ろうと、足を向ける。
古代ギリシャなんて魔境は、女が一人で外に長居していい場所ではない。
(よし。じゃあ、さっさと行こ____)
思考は、最後まで続かなかった。
理由は、至極単純で。
圧倒的な神気が、海から一直線に向かってくる。
本能が平伏すべきと全力で肉体に訴えかけ、己が肉体に宿る神性が身近な気配に歓喜する。
奥底から湧き上がる両極端な衝動に、オレは全身を竦ませることしか選択できなかった。
そして。
【____】
初めてその目で見る、"神霊"という上位存在に。
精神と肉体は、一切の抵抗すら赦されずに蹂躙された。
◯アダマンティア
一般的ギリシャ美少女トラブルに見舞われた
自認的には明確に男なため、精神が致命傷を負った
◯女神ヘラの加護
お節介ではあるが、強力な虫除けでもある
それがなくなれば、こうなるのは時間の問題であった
◯ポセイドン
本作では、"愛情を誤学習したポンコツAI神"として解釈
主人公の悩みをキャッチ、解決策として神の寵愛を授けた
「処女神の巫女になると親友に連絡が取れるか分からない、だが自分から断ると両親の真心を台無しにしてしまう。それでも己の成すべきを貫こうとするとは、なんと健気で美しい心根を持つ少女なのだ。兄上の血を引いているし、是非とも助けてやりたい」
↓
「よし!ならば、我の寵愛をくれてやろう。そうすれば巫女になるのは避けられるし、未婚の言い訳も立つ。我ながら名案だな!」
なお、当然ながら当人の同意などはとらない
ギリシャの神だからね、仕方ないね
モチベーションになりますので、感想等お待ちしています
次に書くお話として、どちらがいいかお答えください
-
女神ヘラのお節介がない世界線 ※鬱注意
-
娘目線から見た生前エウリュステウス夫妻