転生したらヘラクレスの双子の妹でDie 作:セロ弾きのゴーシュ
執筆の励みになっております
ここからは外伝です
男衆が奮起した出来事について、主人公目線で書きました
【死後編】死んだら推しの神様が目の前にいてDie
いやーついに死んじゃったよ、オレ。
最初に自分が死んだことを確信したときに出た感想は、ずいぶんと気の抜けたものだった。
いやでも、仕方ないとは思いませんか?
生まれてからずっと死なないように頑張ってきたんだから、一度死んでしまえば緊張の糸も切れるというもの。
今のオレは、所謂燃え尽き症候群というやつだ。
(とはいえ、どんな状態なんだ?死にたてホヤホヤなのは分かるけど、視覚も聴覚も独特すぎて周りが分からん!)
奇妙な解放感をひとしきり楽しんだ後にやってくるのは、確かな違和感。
視覚らしいものをクルクルと回してみても、気配は何も分からない。
一体冥界にいるのか、空にいるのか、はたまた地獄にいるのかも分からない。
何も手がかりがない探索ゲームという虚無に、少しだけ飽きてきた頃。
オレの魂を掴む、恐らく少女の手と思しき感触が生まれた。
【急でゴメンね!でも急いでるから、質問は後で受け付けるよ!】
予想通りの少女らしい可憐さを放つ声だが、纏う存在感の強さはただの少女ではない。
まるで15歳のときに初めて浴びた、神に連なる上位存在が放つ圧を有している。
かといって萎縮するようものでもなく、暖炉から覗く火にも似た柔らかさがあった。
チグハグな声に魂を引かれ、どれぐらい経ったか。
唐突に生前の頃と同じ視界が開ければ、周囲は薄暗くも荘厳な神殿。
よくよく目を凝らしてみれば、意匠には見覚えがあった。
「…これは」
【察しがよいな。運命に抗いし英雄よ】
地の底から響くような声は、畏れと共に静謐さを聞く者にもたらす。
それこそが目の前に鎮座する巌のような男を表すものならば、正体はただ一つ。
震える声で、オレは不敬を承知でその名を呼ぶ。
なぜなら、彼はオレが生前に心から信仰を捧げていた二柱しかいない神の内の一柱。
「ハデス、さ、、ま?」
【然り。冥府の管理者、地下の神、富める者。どのように呼ぼうとも構わん】
物言いはそっけないようだが、それはハデスの気性の表れだ。
死という世界で最も平等な概念を管理し、その上で好きに呼べという寛容さ。
オレが想像した通り、いや想像した以上の神だ。
急いで平伏しようとするオレを、男神の横から現れた少女が柔らかく受け止める。
恐らく手を引いてくれた少女が彼女で…ちょっと待て。
じゃあ、このお方は、もう一柱か?
【おぉ!賢母と言われていただけはあるね!お察しの通り、僕はヘスティア。炉と竈の神だよ】
…本物も某紐を付けてるんだ、流石神話公式の巨乳は違うわ。
まさか死んで最初に、推していた神と一度に会うとは。
こんな幸運があるなら、死ってのも悪くないかも。
そんなことを考えてしまうが、よく考えなくても異常事態だ。
なーんで一都市国家の王の妻でしかないオレに、こんな特別待遇が?
【キミからすれば、いきなり訳が分からないよね。でも仕方なかったんだよねぇ。だってさ____】
女神から明かされた内容は、想像を遥かに越えたものだった。
というか、オレ自身のやらかしがどれだけ酷いかを示すものだ。
・キミが神の血や加護から再現した物体は、既に失われた神々の真の姿_真体_を構成する重要技術だよ!
・ソレがあるなら、オリュンポス十二神は先のマキアで失った真体を取り戻せるかもと話題沸騰!
・一部の神々は、キミをオリュンポス山に召し上げて真体復活の総指揮を取らせようとしてるよ!
・僕たちは反対派だから、亡くなってすぐにキミを冥府にご招待して、冥府の判官にしようとしてるよ!
いや、そんなエゲツないものだったのかよアレ。
神罰ものだとは思ってたけど、神罰とか通り過ぎちゃってるが?
でも、そうするとおかしなところもある。
「ハデス様とヘスティア様は、何故に反対されているのでしょうか。真の姿を取り戻すというのは、私のような凡夫にはよいことにしか思えません」
失ったものは、取り戻したい。
普遍的な感情であり、全く自然だ。
オレを神々の麓にご招待ってのは、名誉ながらも少々虫がよくないかとは思うが。
問いを受けた二柱は、どちらもがオレをじっと見つめる。
その視線は、対象への慈愛や労りが込められているように感じられるものだ。
…オレの自意識過剰でなければ、なんで?
【我らは、自らの在り方を既に人と共に生きるものと再定義した。星々を征く躯体は、既に無用の長物】
【そうそう!それにあの体、カチコチで好きじゃないんだよね。抱っこした赤ちゃんが泣いちゃうよ!】
【それに…】と、女神がオレにトテトテと近づいてくる。
そのまま恐縮するオレに、包み込むような抱擁が与えられた。
身体的特徴だけでない、神々の権能からくる柔らかさ。
緊張感を保っていないと泣いてしまいそうな、心からの愛情を感じる。
【キミは身寄りのない者が亡くなると、魂が迷わないように助けていただろう?それだけじゃない、子どもが生まれると聞けば、自分から産湯を持って駆けつけていたね】
【我を祀る神殿を建立し、冥府におけるミュケナイの民の安寧を日々願ってもいた。特別扱いはせぬが、祈りは確かに届いていたとも】
「それは…。ハデス様とヘスティア様に信仰を捧げる者として、当然の行いでございます」
【ま、そうなのかもね。でも僕らとしては、生前ずっと神様に振り回されたキミが、死後も振り回されるのが気に入らないのさ!】
二柱の言葉は事実だが、それでも特別扱いされるほどとは思えなかった。
オレがミュケナイという国と民のことも好きで、好きなものの生き死にを数字として扱えなかったからそうしただけ。
神殿建立も、民の安寧のために神を利用するような、本来なら不敬案件に該当するのではなかろうか。
だが、慈悲深い二柱はそうは思わなかったらしい。
オレが王の妻とは思えないくらいドタバタしていたのを知られているのは、何とも恥ずかしいが。
ここまで心配りをいただいたのなら、断るという選択肢はない。
オレは二柱に可能な限りの感謝と敬意をこめ、改めて平伏した。
「判官の任、謹んで受けさせていただきます。これより、清浄なる冥府のために力を尽くしましょう」
【うんうん!いやー受け入れてくれよかった。…それで、実はもう一つ話があるんだけどさ】
「?」
話を聞くと、どうやら判官になるにあたり冥府の食事を取るため、地上には出られなくなるとのことだ。
それはこちらも承知の上だったが、どうやらその前に一つお願いを叶えてくれるらしい。
…サービスが行き届いてるな、本当に古代ギリシャ?
一つ願いと言われて、少し頭を捻ってみる。
これでも人生にあんまり悔いはないので、改めて言われると難しい。
なんかあったかな、必要なことは大体やったような____
「…あ」
【なにか見つかったかい?】
こちらを覗き込んでくる女神に、オレは願いを話す。
準備に夢中で、死ぬ者として欠いてしまった重要なやり残しを。
「残してきた家族に、言葉を遺したい。…できれば映像付きで」
という冥府の原則をぶち壊しかねない願いは、意外とあっさり受理された。
どうやら映像で姿はお互いに見られるが、声だけはオレからの一方通行という形式にすることで、実質遺書ということにするらしい。
オルフェウスの件もそうだったけど、結構人情派な対応するよね。
【それじゃあいくよ。…あんまり時間は取れないから、個人宛じゃなくて全体にね?】
女神からの忠言に対し、少しの震えと共に頷く。
ビデオレターなんて前世では同人誌くらいでしか聞かなかったけど、実際にやると緊張するな。
なんて思っていると、唐突に映像が繋がる。
どうやら、夫と兄の家族が一箇所に集まっているらしくて好都合だ。
…いやでも、雰囲気暗すぎないか?
ショックなのは分かるけど、予想の十倍は雰囲気が死んでるぞ…いや死人はいるんですけども。
特に夫と兄がヤバい、一番しっかりしなきゃいけない大黒柱が一言も発してなくて一番ヤバい。
メガラちゃんは偉いね、子どもたちに言葉をかけてあげて…それに比べて男衆!
これは、オレの願いは正解だったようだ。
『私の声が、聞こえますか』
オレからの呼びかけで、映像の存在に気づいたらしい。
信じられないようなものを見る目つきで、全員がオレの姿を凝視している。
ちょっと手を振ってみると、子どもたちが涙目で手を振りかえしてくれた。
今思うことではないが、やはり可愛い。
『少しぶりですね、アダマンティアです。ハデス様とヘスティア様の慈悲のもと、冥府より最期の言葉を遺しに参りました』
家族に自己紹介するのは変な気分だが、一応の形式で伝えてみる。
どうやら振る舞いから本人だと確信し、かつ自分たちの言葉は届かないと察したのだろう。
オレの言葉を一言も聞き逃すまいと、居住まい正すのが見てとれた。
『まず、経緯を説明いたします。実は私、生前魔術の研究を嗜んでいたのですが、その研究成果がとても価値があるものだったらしく。神々のなかに、私をオリュンポス山に召し上げようとする方が出てくるほどだそうd…っ!?』
オレの言葉を聞いて、家族全員が殺気立つ様が見え、思わず動揺してしまう。
いやこわっ!、うちの子ってこんな威圧感出せるんだ…流石クオーター神の子ってこと?
男衆に至っては、殺気だけで魔獣の心臓すら止めかねない。
怒ってくれるのは嬉しいけどね、オレも流石にどうかと思うし。
ちょっと図々しくはないかと思うよね、マジでさ。
と内心愚痴りながら、気持ちを切り替える。
『…ですが。それに反対のお立場であるハデス様とヘスティア様から、私を冥府の判官にするというお話をいただきました。今後は、冥府で私のできることを精一杯成すつもりです』
二柱の名前を聞くと、映像から伝わってくる殺意が和らいだ。
現地人的にも、両名は安牌って立ち位置なんだろう。
他の神霊が大体アレってのが、頭が痛い話だが。
一先ず、今のオレの立ち位置は説明できた。
次から、本格的に遺書となる内容だ。
『私が亡くなったという知らせを聞き、皆のなかには様々な反応を示す者がいるでしょう。怒り、悲しみ、悔しさ…もはや何もしたくないと、そう思う方もいるかもしれません』
『その上で、私はとても残酷なことを言います。忘れるのでも、忘れないのでもなく…私を、過去にしてほしいのです』
そう、それが願いだ。
オレの真意がもっと詳しく知りたいのだろう、皆が一層声に耳を傾ける。
『私は、常々言っていました。過去と現在は変えられずとも、未来は変えられる、と。同じことを、私の死でも成してほしいのです』
『アダマンティアは死んだという過去を受け止め、もういないという現在を見据え、その上で未来へと踏み出す。皆にならできると、私は信じています』
これは、オレが古代ギリシャの地で生きるなかで見出した人生の指針だ。
神々の理不尽がバーゲンセールのように大安売りで飛び交う世界で、過去と現在に固執しては到底生き残ることはできない。
いや、誇りある生を謳歌できない。
死ぬことは、この世界では珍しいことではない。
生まれるだけで死に、生きるだけで死に、最後には皆死んでしまう。
だからこそ人間には、誇りある生が必要だと考えている。
『…ですが、時には挫けそうになるときがあるでしょう。人間、いつでも前を向けるわけではありません。私はそれを非難する者を、決して許しません』
『そのときは、下を向いてください。何故なら、私は大地からいつも貴方たちを見守っています。たとえ誰も見てはくれないと感じても、私は見逃しません』
実際、物理的に下にいるからね。
古代ギリシャってすごいよね、地下掘ったら冥府なんだもん。
話の説得力が違うってもんである。
『そして、皆が誇りある生を全うし、冥府にて迎えられるときが来たのならば。私に、皆さん自身の言葉で伝えてほしいのです』
『ミュケナイの誇り高き民が駆け抜けた、短くも輝かしい旅路を。自慢の民と大英雄、そして賢王によって更なる黄金期を迎えた、我が故郷の素晴らしさを』
実際オレがいなくとも、ミュケナイはさらに発展するだろう。
古代に生きる人々は、現代人の根が抜けないオレよりもずっと強く、逞しい。
そこにエウリュステウスとアルケイデス、更には可愛い子どもたちが加わるのだ、怖いものなしである。
…だから、そんなに悲しまないでくれ。
オレのことで悲しまれると、少し苦しい。
本当なら、オレは歴史に欠片だっていないはずの人間なんだから。
『では暫しの別れです、私の愛しい家族たち。次に会うときは、両手いっぱいの土産話と、素敵な笑顔を見せ合いましょうね』
最後に再会の約束を残し、オレは映像を切ってもらうよう頼む。
言いたいことは全部言えた、あとは今を生きる者たちの問題というものだ…アイツらなら大丈夫だろうけどさ。
いやでも、こんな演説みたいになっちゃうとはな。
やり切ったという達成感を隠せないオレに、女神が抜き足で近づいてくる。
表情はいたずらが成功したわんぱくな子どものような、家主に獲物を見せる猫のような複雑なもので。
この時点で少し嫌な予感が拭えないが、勘違いかもと惚けてみる。
【いい遺言だったよ、アダマンティア。僕も聞いてて、ちょっと涙ぐんじゃった】
「ヘスティア様にそう言っていただけるとは、光栄です」
【もしかして信じてないなぁ?ホントだよ?ミュケナイの民も大喜びさ!】
実際に反応を見せられないのが残念なのだろう、女神は大はしゃぎである。
オレとしても、信仰していた女神に褒められるのは悪い気はしない。
……なんだって?ミュケナイの民も?
…もしかして、ついにオレは幻聴でも聞こえるようになったのだろうか。
まさかヘスティア様ともあろう御方が、遺言を公開処刑するような真似をなさるなんて、まさかねぇ?
【ん?だってアダマンティアって、民もみーんな家族みたいに思ってたでしょ?だから家族って言われて、そういうことだと考えたんだけど…】
【流石に僕ら神々の都合の部分は、エウリュステウス君とアルケイデス君に届ける映像以外では切ってるけどね!身内の恥だし!】と、女神様は意気揚々である。
…オレ、死んだんじゃないか?
この逸話により、カリスマスキルに+補正が付きました
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