【ワルキューレロマンツェ】と
【ウマ娘】のクロスオーバー作品となります
主にワルキューレロマンツェの主人公
水野貴弘とウマ娘のメジロアルダンが
メインのストーリーとなります
この物語は【ウマ娘シンデレラグレイ】の
ストーリーを基準に作成していますが一部
個人的な解釈やご都合主義が加えられてる
可能性がありますので、ご了承ください
今回の第1話は【シンデレラグレイ】の
コミック16巻と17巻のピッタリ間に
なっており"北原 穣"がトレセン学園に
赴任した直後あたりとなります
それではご覧くださいませ
まだ冬の寒さが残る3月の肌寒い春
東京の府中の街中……府中の駅に欧州から
日本に帰国したばかりの1人の青年が
スーツケースを引きながら歩いていた。
「数年振りの日本だが……
この町は良い意味で変わってないな」
青年は懐かしそうな表情で
呟いた彼の名前は水野貴弘
彼はウマ娘を指導するトレーナーの資格
それも世界中の殆どの国や施設で指導に
当たれる国際トレーナー免許を取得する
若いながらトレーナーとして高い実力を
持っているが数ヶ月前のとある出来事が
原因で彼は失意と絶望の中で故郷である
日本に数年振りに帰国したのである
そんな貴弘がスーツケースを引きながら
事前に契約していたアパートへ向かおうと
歩みを進めている時であった
「えっ? 貴弘くん!?」
「んっ? 美桜か?」
名前を呼ばれ振り替えると
そこには腰まで伸びるしなやかな
桜のようなピンク色の長い髪の少女と
赤みがかったピンク色で肩に届くくらいの
ミディアムのセミロングで毛先がふんわり
広がるシルエットが特徴の1人のウマ娘がいた
「嘘!? なんで日本にいるの!?」
そう言いながら美桜と呼ばれた
少女は嬉しそうに貴弘の元に駆け寄った
彼女の名前は希咲美桜
貴弘とは幼い頃からの幼馴染みで
昔は欧州で同じ学園に通っていた中で
美桜が日本に帰国した後も電話などで
互いの近況を語り合っていた仲である
「美桜……久しぶりだな
美桜がウィンフォード学園を卒業した後に
日本のトレセン学園からスカウトを受けて
帰国して以来だから3年ぶりになるんだな」
「そうだね……
ウィンフォードか……懐かしいな……
じゃなくて!? 貴弘くんはなんで日本に!?」
「ああ、済まない……
ちょっと色々あって今日帰国したんだ」
「そうなんだ……
だったら連絡くれたらよかったのに……」
少し辛そうに帰国した理由を打ち明けた
貴弘に少し違和感を覚えた美桜だったが
触れてはいけないと察して何があったか
問わないことにして再会を喜んでいると
美桜の隣にいるウマ娘が
「あの、美桜さん……この方は……?」
そう言って首を傾げながら美桜に尋ねた
「ああ、ごめんね、チヨちゃん!
紹介するね!前に話したと思うけど
彼は水野貴弘くん! 私の幼馴染みなんだ」
「あっ、この方が……
はじめまして、貴弘さん
私はサクラチヨノオーといいます」
「サクラチヨノオー……
そうか、君が美桜の初めての
パートナーに選んだウマ娘なんだね
君のことは美桜からたくさん聞いたよ
一昨年の日本ダービーに勝ったんだってね
ダービーを勝った日の夜に美桜が国際電話で
大泣きしながら君の強さを教えてくれてたし
他にもトレーニング中の話や休日には一緒に
出掛けた話を聞いて会ってみたいと思ってた」
「えっ……美桜さん……私のこと
そんなに話してくれていたんですね!」
貴弘の話を聞いたチヨノオーは
嬉しそうに美桜に満面の笑顔を向ける
それを見た貴弘は一昨年の5月に
日本にいる美桜からかかってきた
電話の内容を思い出した
【一昨年の5月29日】
その日、昼食を食べていた貴弘
すると貴弘のスマホに着信があり
画面を見ると美桜と記されていた
「美桜? この時間だと
日本は今は夜の7時か8時くらいか?」
欧州と日本とでは7時間の時差が
あるので欧州が昼食の時間だと
日本は逆に夕食時の時間であろう
そう思いながら通話ボタンを押す
『あっ! もしもし、貴弘くん!?
急にごめんね……今、時間大丈夫かな?』
「構わないぞ……どうしたんだ?」
貴弘が電話に出ると電話口の
向こうから美桜の大泣きしながらも
嬉しそうな声が聞こえてきた
「聞いて……っ! チヨちゃんがね!
私が初めて担当する、チヨちゃんがね!
今日の日本ダービーで勝っちゃったんだよ!」
「日本ダービーを!?
そうか……そっちは、もうそんな時期か
それにしたってダービー優勝は凄いじゃないか!」
『うん!もう本当に凄くて
サクラの花びらが舞うみたいに
綺麗に駆け抜けてくれて感動しちゃった!』
受話器越しに美桜の喜ぶ声を聴きながら
貴弘は自分のことのように嬉しい気持ちになる
日本ダービー制覇はウマ娘やトレーナーたちに
とって最大の目標で最高の名誉の1つの舞台だ
その舞台で学生時代に切磋琢磨してきた仲間が
担当するウマ娘を日本ダービー制覇に導いたと
聞けば嬉しくならない訳がない
「おめでとう、美桜。
お前が日本で立派にトレーナーを
やってことが分かって俺も嬉しい」
「うん! ありがとう!」
貴弘はチヨノオーのダービー勝利の興奮と
チヨノオーが激戦の末に栄冠を掴み取った
感動で大泣きをしている美桜に電話口から
心からの祝福の言葉を贈った
しかしダービー制覇の栄光から一転。
無理が祟ったのか直後に骨折が判明し
翌年の春に1年ぶりに復帰したものの
安田記念と宝塚記念で惨敗した上に
直後にウマ娘にとっては選手生命すら
脅かす大怪我と恐れられる屈腱炎を
発症してしまったことを聞いた時には
美桜は責任を感じて深く落ち込んだ
様子で電話してきた日のことを今でも
昨日のことのように鮮明に覚えていた
不幸中の幸いなのが発見が早かったので
症状はかなり軽度だったので日常生活に
影響はないレベルだったのでリハビリを
頑張れば復帰も可能なことであろう
現に今もチヨノオーは美桜と2人で
元気に明るく本当の姉妹のように
親しそうに話ながら歩いていたのだ
「それはそうと美桜と
チヨノオーこそ、こんな所で
何していたんだ? 何処かに
行く途中だったみたいだったが?」
「うん……去年の天皇賞(秋)で怪我して
入院した、この子の友達が今日退院だから
一緒にお迎えに行くんだ」
「去年の天皇賞(秋)か……
欧州でもニュースになっていたぞ」
貴弘の言うとおり昨年の天皇賞(秋)は
春秋通じて記念すべき100回目の天皇賞
ということもあり他国でも話題になったが
話題になった理由はそれだけではなかった
「何でも今は永世三強と呼ばれる3人の
ウマ娘が大注目で、あの天皇賞(秋)を含めて
何度も熱い死闘を繰り広げているみたいだな。
優勝したウマ娘も3人の内の1人だったらしいな」
「そうなんだよ……
オグリキャップ、イナリワン、
そして、スーパークリークの3人のウマ娘で
特に人気なのがオグリキャップって娘だけど
へぇ~、欧州でも話題に取り上げられてたんだ」
今の日本のウマ娘レース界は
その永世三強を含めたレベルの高い
ウマ娘たちの活躍により過去に最も
盛り上がったシンボリルドルフが現役で
活躍していた時以上の盛り上がりと注目の
高さになっていることは最近まで欧州で
過ごしていた貴弘の耳にも届いていたのだ
「ああ、日本のウマ娘のレースが
海外で話題になっているのを見た時は
俺も嬉しかったな……だが去年の天皇賞(秋)で
怪我をしたチヨノオー友達っていう娘は……?」
「メジロアルダンちゃんだよ
チヨちゃんのルームメイトで親友なの」
「メジロって……あのメジロ家か?」
メジロ家……日本だけでなく他国にも
名を知られる日本の名家でレース業界でも
影響力を持ち過去に何人も優秀なウマ娘を
輩出して好成績を納めてきた名門でもある
「うん、そうだよ……
アルダンちゃんはメジロ家のお嬢様で
すっごく綺麗で強いウマ娘なんだけど
生まれつき脚が弱くて……あのレースで
足に怪我をして、今日まで入院していて
さっき言ったけど今日、退院なんだけど」
「?」
美桜がそこまで話すと美桜と
チヨノオーは辛そうな表現になる
「実は、アルダンちゃん……
退院しても、もうトレーナーがいないの……」
「トレーナーがいない……?
どういうことだ? レースにはトレーナーが
いないと出走できない……去年のレースに
出走してるなら勿論、その時のトレーナーが
いるはずだ……トレーナーは、どうしたんだ?」
貴弘の疑問は最もである。
ウマ娘がレースに出走するためには
トレーナーと契約を結ぶ必要があり
出走申込書に自身の名前と出走する
レース名に加え自身のトレーナーの
名前も書かなくてはならない決まり故に
トレーナーがいないと出走できないのだ
「実はアルダンちゃんね……
前任のトレーナーに見捨てられたの……」
「見捨てられた……?」
美桜の話を聞いて貴弘の鼓動が
胸騒ぎで高鳴る……見捨てられたと
言っている時点で残酷な話なことは
ほぼ間違いないのと貴弘にとっては
数ヶ月前のトラウマが脳裏に浮かび
心の中が身構えてしまったからだ
そして美桜が話の続きを話し始める
「さっきも言ったけど
彼女は他のウマ娘より足が弱くて
軽い怪我をすることも多かったし
体も弱くて体調を崩してレースや
トレーニングを休むこともあって
そこに来て去年の天皇賞(秋)後に
発症した大怪我を理由に入院中に
契約を一方的に解除されたの……」
「!?」
「本当に、酷いんですよ……
アルダンさんは体が弱い自身のハンデに
悲嘆せずに努力を積み重ね続けてたのに
アルダンさんの前任のトレーナーさんは
もう付き合いきれないと告げていって……」
「……」
美桜とチヨノオーから聞かされた話を
聞いた瞬間に貴弘の脳裏には数ヶ月の
ウィンフォードで自身の師匠であった
人物から言われた自身のトラウマの
原因の言葉を思い出した
『脆いウマ娘など見捨てろ』
その冷酷な言葉がフラッシュバックし
貴弘の手は怒りによって自然と強く
握りしめられていた
すると……
「よかったら、貴弘くんも一緒に来ない?」
「一緒にって……迎えにか?」
「うん」
思わぬ美桜からの誘いに貴弘は
怒りを解き握りしめていた手を緩める
「見ず知らずの男が一緒だと
アルダンって娘が不安がるんじゃないのか?」
「私と美桜さんが一緒なら大丈夫ですよ」
「そうだよ! それに……
アルダンちゃんにも貴弘くんを
紹介したいと思って……だから、お願い!」
美桜はそう言って両手を合わせ
必死に貴弘に同行をお願いしてくる
「そうか……?
(……まあ、どうせ暇だし久しぶりに
美桜に会えたし美桜から何度も話を聞いた
チヨノオーとも色々と話をしてみたいしな……)」
2人の話を聞いてゆっくり考えた貴弘は……
「……なら暇だし、挨拶がてら同行するよ」
「ふふ、よかった」
「ありがとうございます」
貴弘がついて行くと告げると
美桜もチヨノオーも嬉しそうな笑顔になるが
美桜には笑顔の裏にホッとした様子も見えた
それから病院に向かう道中で互いの近況や
プライベートの話をしながら歩を進めると
やがて総合医療センターと記された大きな
病院が見えてきた
「あの、病院だよ」
どうやら、その病院が
メジロアルダンというウマ娘の入院先らしい
そして敷地内に入り正面玄関へ向かうと
チヨノオーと同じ紫色の制服を着ていて
美しい水色のウェーブがかった長い髪の
ウマ娘が医療スタッフ達と話をしている
場面に出くわした
更に側には黒塗りの高級車が停まっていて
運転手と見られる男性とメイドと見られる
年配の女性と若い女性の3人の姿もあった
「お待ちしておりました。お嬢様」
「アルダンお嬢様!
退院、おめでとうございます!」
「ばあや、サキ……ただいま戻りました」
"ばあや"と呼ばれた年配のメイドと
サキと呼ばれた若い女性のメイドが
水色の髪のウマ娘を出迎えると
ウマ娘の少女も微笑みを見せる
「退院、おめでとうございます
メジロアルダンさん……しかし、くれぐれも
ご無理だけはなさらないでくださいね」
「オーバーユースは絶対にダメですからね」
「常に慎重な判断を。いいですね……?」
「はい。重々承知しております
今回も、大変お世話になりました」
水色の長い髪をしたウマ娘が
医療スタッフ達から退院後の注意事項などを
受けて医療スタッフに対してお礼と入院中に
お世話になったお礼と感謝の挨拶をしていた
その様子を見届けてから美桜とチヨノオーは
水色の髪のウマ娘の元に笑顔で駆け寄っていく
「アルダンちゃ~ん!」
「退院、おめでとうございます、アルダンさん!」
「美桜さん! チヨノオーさん!」
2人の姿を見たウマ娘も嬉しそうな表現になる
「わざわざ、お迎えに来て
くれたのですね……あら? そちらの方は……?」
美桜とチヨノオーからアルダンと
呼ばれた長い水色の髪のウマ娘は
2人と一緒にいる貴弘に気付くも
変わらぬ微笑んだ表情を向ける
「アルダンちゃん、紹介するね。
彼は水野貴弘くん! 私の幼馴染みなんだ」
「まあ! 美桜さんの……」
美桜から貴弘が幼馴染みと聞いて
アルダンは更に明るい笑顔になる
「はじめまして。水野貴弘です」
「ご丁寧に、ありがとうございます。
わたくしはメジロアルダンと申します。
どうか以後、お見知りおきを」
「美桜様のご友人の方でしたか……
お初にお目に掛かります、水野貴弘様。
私はメジロ家にお仕えするメイドで今は
アルダンお嬢様の身の周りの世話係などを
任されております……"ばあや"とお呼び下さい」
「同じくアルダンお嬢様に
お仕え致しております。メジロ家のメイド
天利サキと申します。以後お見知りおきを……」
「いえ……こちらこそ」
メジロアルダンは洗礼された美しい姿勢で
貴弘にお辞儀をしながら自己紹介をすると
彼女の専属のメイドの2人からも自己紹介を
されて貴弘も背筋を真っ直ぐ伸ばして綺麗な
姿勢でお辞儀をして返した
「トレセン学園に入学してから
美桜さんには何度もお世話になっていまして」
「そうなんですか……?」
「はい……特に今回の入院生活では
美桜さんとチヨノオーさんは何度も病室に
足を伸ばしてお見舞いにも来てくださって
励ましのお言葉を掛けてくださったんです」
「そうなんです!美桜様は、お忙しいなか
チヨノオーさんの指導とリハビリをされながら
トレーナーに契約を解除されたお嬢様のことを
不憫に思い心の支えになってくださったのです
故にメジロ家の方々も心から感謝されています」
アルダンとサキは美桜に心からの感謝の
思いを抱きながら貴弘に事情を教えてくれた
「お陰でお嬢様も、
前向きにリハビリに励まれて
当初の予定より早く回復され
今日の退院を迎えられました」
「はい……ですが私はもう
ウマ娘として走る資格を失ってしまいました」
「お嬢様……どうか、お気を確かに」
悲痛な表情で瞳に涙を浮かべるアルダンに
専属メイドのサキが必死に励まそうとする
アルダンとサキの様子と話の内容からして
先程の駅前で美桜から聞いたアルダンが
担当トレーナーに契約を解除された為に
レースに出走ができない件の話のようだ
「……まだ新しい
トレーナーさんは見つからないんですか?」
「はい……メジロ家の方からも
何人かのトレーナーにオファーを
出していますが良い返事を頂いていません」
トレーナーについて尋ねるチヨノオーも
それに答える"ばあや"の声も表情も暗く
退院を祝う雰囲気ではなくなってしまう
「良いのです……
もう、潮時……それが定めなのでしょう……」
アルダンが覚悟を決めた声を
発しながらも寂しそうな表情で呟いた
「そんなことないよ!」
しかし、そんな雰囲気を変えたのが美桜だった
「ねえ、貴弘くん……
貴弘くんは、これからどうするの?
もう何かすることが決まったりしているの?」
そう言って美桜は貴弘に必死な様子で詰め寄った
「いや……まだ決めていない……
今は、ちょっと何かする気が起きなくてな……」
「だったらさ……貴弘くんが
アルダンちゃんのトレーナーになってあげてよ」
「はっ……?」
「「「「えっ……?」」」」
詰め寄ってきた美桜の発した言葉に、まず貴弘が
戸惑いの声を発するとアルダン、チヨノオー、
サキ、"ばあや"の4人が美桜と貴弘に視線を向ける
「改めて紹介させて! 欧州で何度も
好成績を残したトレーナー! 水野貴弘くんを!」
「おい、美桜!?」
美桜から先程は貴弘のことを幼馴染みで
友人とか紹介しなかったが、ここに来て
トレーナーであることを打ち明けられて
普段は冷静な貴弘も、困惑してしまった
「え!? 貴弘さんも
トレーナーだったんですか!?」
どうやらチヨノオーも美桜から貴弘が
トレーナーだと聞いていなかったのか
驚いた様子を見せる
「そうだよ! あれ? 言ってなかったけ?
彼も私と同じウィンフォードでトレーナーの
勉強をしていたんだけど成績もトレーナーの
腕や目利きも学園内では常にトップクラスで
最速で国際トレーナー免許を取得したんだよ」
「えっ!? それって……
美桜さんより凄いことなんですか?」
「もちろんだよ! 私なんて
まだまだ貴弘くんの足元にも
及ばないし……何より彼のお父さんは、
あのシンボリルドルフとマルゼンスキーを
指導して育て上げた伝説のトレーナーなんだよ」
美桜は自分のことのように
貴弘の実績をこれでもかと自慢気に紹介した
すると……
「「えっ……? えぇぇぇぇぇっ!?」」
アルダンとチヨノオーが
驚愕のあまり大きな声を発してしまいメイドの
サキと運転手の執事も貴弘を見入ってしまった
「ほっ、本当なんですか美桜さん!?
あのルドルフ会長とマルゼンスキーさんを
育てた伝説のトレーナーの……む、息子さん……!?」
チヨノオーが驚き戸惑うのも無理はなかった
シンボリルドルフとマルゼンスキーといえば
日本では知らぬものはいない日本ウマ娘界の
頂点に君臨する存在でありチヨノオー自身も
マルゼンスキーには並々ならぬ憧れの想いを
抱いていたのでマルゼンスキーを鍛え育てた
トレーナーの息子で更にウマ娘界では世界で
最高峰のウィンフォードでトップクラスだと
聞いたことで興奮を抑えられなくなっていた
「あの世界最高峰の
ウィンフォードでトップクラス……?
それほどまでに凄い御方が、なぜ日本に……?」
美桜の勢いに圧倒されて頭を掻きながら
タメ息をつく貴弘に驚きながらも一筋の
小さな希望を宿らせたアルダンの瞳が
真っ直ぐに貴弘に向けられていた
「……父のことは関係ないよ
俺は俺だ……寧ろ今の俺は何処にも
所属していない、ただの無職のトレーナーだ……」
貴弘は自分を卑下するかのように
肩を竦めながら、やや投げやりな口調で
今の自身の状況を包み隠さず全て打ち明ると
美桜に続いてチヨノオーが貴弘に詰め寄った
「でしたら、私からも
お願いします! アルダンさんの
トレーナーさんになってあげてください!」
「……」
詰め寄るチヨノオーと期待の目を向ける美桜
しかし貴弘は胸の奥に燻る重い痛みに視線を
落とし言葉を濁そうとした時だった
「メジロアルダン……?」
アルダンが震える手で涙を流しながら
縋るように貴弘の手を、そっと掴んできた
「貴弘さん、お願いします……
私は、まだ走りたいです……諦めたくないんです」
「!?」
アルダンの悲痛な叫び……その瞬間
貴弘の脳裏に数ヶ月前の冷たい雨が降る
ウィンフォード学園での光景が鮮烈に甦った
つい数ヶ月前にウィンフォード学園で
貴弘が担当していたメジロアルダンと
同じように脚にハンデを抱えたウマ娘
周囲のトレーナーからは
「あいつはダメだ」「早く諦めろ」と
心無い言葉を浴びせられ続けていたが
それでも貴弘と彼女は互いを信じて
血を吐くような努力を重ね切磋琢磨してきた
最後までパートナーを信じ抜く
それが貴弘の絶対の信念だった
しかし……そんな貴弘とウマ娘の前に
無情にも最後に立ち塞がったのは絶対的な
実力を持つ貴弘のウィンフォードでの師匠の
"ユリアーヌス・クマーニ・エイントリー"だった
『無駄だ、貴弘。
脚の脆いウマ娘に注ぐ情熱など
ただの自己満足に過ぎん……強靭な肉体を
持つ者だけが勝利の栄光を掴む資格がある
お前のやっていることは無駄でしかないぞ』
師匠に自身の信念を……
二人の努力を全て真っ向から否定された
そしてその冷酷な言葉は限界まで戦い続けていた
彼女の心に決定的なトドメを刺してしまったのだ
『……ごめんなさい、水野トレーナー
私……もう、疲れました……やめさせてください』
寂しそうに微笑み涙を流しながら
ウィンフォード学園を去っていった彼女の後ろ姿
信じ抜いたはずのパートナーを救えず走る喜びを
奪ってしまったという貴弘の圧倒的な無念と絶望
そのトラウマが今も彼の心を縛り付けていた
「貴弘くん……?」
「!」
美桜の呼び掛けにハッと我に返る貴弘
目の前にいるメジロアルダンの瞳には
数ヶ月前には救えなかった彼女と同じ
ガラスの脚の苦しみというハンデを
背負いながら「絶対に諦めない」という
強い光が確かに宿っていた
貴弘は深く息を吐き出し自嘲気味に
しかし、その瞳に再び確かな熱を灯していた
「……(欧州で全てを否定され
挙げ句の果てに担当ウマ娘から走る喜びを
奪ってしまい、もう何もする気が起きないと
本気で思っていた……だけど、目の前にいる
このウマ娘は理不尽に全てを奪われながらも
まだ走ることを諦めていない……それに比べて
俺は一度の失敗で何を腐ろうとしているんだ)」
トレーナーに見捨てられるという自分よりも
辛い思いをしながらも決して諦めようとしない
アルダンの姿に貴弘の心の中に再び立ち上がる
決意が宿ると過去のトラウマを振り払うように
アルダンに対し力強く自身の右手を差し出した
「メジロアルダン……
何かする気が起きないなんて、前言撤回だ
俺に君のトレーナーをやらせてくれないか?
そして、どうか俺に君の夢を叶えさせてほしい」
「貴弘さん……」
貴弘の言葉にアルダンの瞳から
堪えきれずに一筋の涙が零れ落ちる
諦めかけていた夢の続きが目の前で
再び動き出す時が来た瞬間であった
そしてアルダンは震える手で
貴弘の手を"ぎゅっ"と握り返した
「はい……! 宜しくお願いします……!」
瞳から大粒の涙を流すアルダンを姿を見て
貴弘は今度こそ最後まで守り信じ抜くことを
心の中で強く誓った
それを見つめる美桜は満足げに
しかし嬉しそうに笑みを浮かべ
チヨノオーは自分の事のように
飛び跳ねて喜んでいてメイドの
サキも喜びと安堵の涙を流して
"ばあや"も穏やかな笑みを見せ
貴弘とアルダンを見つめていた
すると迷いを断ち切った貴弘は
コートのポケットからスマホを取り出した
「貴弘くん? どこに電話するの?」
「……保留にしてた返事を
今直ぐしなくてはいけない相手がいてな」
そう言うと貴弘は、その場から
数歩離れると、ある番号へ発信する
肌寒い3月の春風が吹き抜ける中
コール音が鳴り響くとスマホの向こうから
日本の競馬界を統べるあの男勝りな大声が
スピーカーから勢いよく響き渡ってきた
『もしもしッ!
トレセン学園理事長、"秋川やよい"であるッ!』
「秋川理事長、ご無沙汰しています。水野です」
『おお、水野くんか!? 欧州での一件以降
連絡がつかなくなった故に心配しておったぞ!
……して、スカウトの返答は如何にッ!?』
「……ずっと返事を
保留にしてしまい申し訳ありませんでした
スカウトの件……喜んで、お引き受け致します」
『ぬおっ! 本当かッ!?
傷心で引き籠もるかと思いきや
一転して承諾となッ!?』
「ご心配をお掛けしました
たった今、命を懸けて一緒に走り
支えたいと思える最高のウマ娘に出会いました
担当したいウマ娘の名前は……メジロアルダンです」
『メジロアルダン……!
去年の秋の盾の後に契約を解除され
本日退院を迎える、あのガラスの脚の少女か!
面白いッ! 伝説の倅が誰もが匙を投げた
不屈の少女の手を取るか……これぞまさに
【起死回生】ッ!! 待っておるぞ、水野くん!
学園の門は、いつでも開かれておるからなッ!!』
"秋川やよい"との通話を終え
スマホをコートのポケットにしまう貴弘
振り返ると美桜とチヨノオー
そしてアルダンが
それぞれの想いを胸に貴弘を見つめていた
貴弘は過去のトラウマを振り払い再び
トレーナーとしての第一歩を踏み出した
こうして貴弘とアルダンの
奇跡へ逆転劇が始まったのであった
(第1話・完)
原作コミックではメジロアルダンは
コミック18巻の宝塚記念の直前に
退院していますが今回の物語では
都合により3月退院となっております