「──おい! そっち行ったぞ! さっさと飛ばせ!」
「わーってるし!」
──視界全てに広がる海原。大陸の影すら見えない海の上であたしはチームの1人として“凝”を用いながら油断なくその大きすぎる魚影とそれを追いかける2人を目で追う。
ヨルビアン大陸西端から南西500kmの沖合。大型クルーザー5隻に乗員37名。それが今回あたし──駆け出しのグルメハンターメンチが参加してる探査チームだ。
獲物は世界最大かつ幻のうなぎとも呼ばれる虹うなぎ。
非情に凶暴かつ体長は50メートルから100メートル。あるいはそれ以上と呼ばれており、遊泳速度は時速80キロを超える。産卵地は不明。主な生息地も分からず発見すら困難。多くのグルメハンターが虹うなぎの捕獲や産卵地の特定に取り組んでいるが未だ成果はあがっていない。
それなのにハンター試験に受かって間もなく、念もようやく形になった程度のあたしが今回探査チームに参加できてるのはあたしの師匠のせいだ。
「ひっ!? ちょっ、めちゃくちゃ危ないんですけど! こんなん噛まれたら念でガードしないと即死じゃんね! ほら早くジンちゃん取り押さえて!」
「おめーも手伝えよ! 楽しようとすんな!」
「してねーし! 尻尾の方がバタバタして、うぷっ、ごぼっ! 喋ってると海水がめちゃくちゃ入ってきてヤバげ! マジで暴れすぎ! メンチちゃんもみんなも手伝ってー!」
「は、はい!」
海の上で虹色に輝くうなぎを何とか取り押さえようとしているのは
今回の虹うなぎの捕獲と産卵地の特定に興味を持って探査チームに参加してきた人。師匠が言うには「優秀だけど大雑把でめちゃつよ~ってカンジ。あれはあーしでも勝てんわ~」ってことらしい。……正直師匠に大雑把とか言われたくはないと思う。あたしを探査チームに入れる時も「まーなんとかなるっしょ!」と気の抜ける笑顔で探査チームへの参加を半ば強制してきたくらいだし。
……と、あたしは考えながらも必死に特注の網を引っ張って虹うなぎを大人しくさせる。産卵したばかりの虹うなぎは特に凶暴であるらしく、虹うなぎの成体はかなり暴れていたが師匠とジンって人が気絶させてようやく大人しくなった。
「オッケー! しごおわ! いや~みんなサンキュね~! あーしのお腹もぐーぐーなってヤバいし帰ってあーしが蒲焼焼いてあげんねー」
「……別にオレは探査チームのリーダーでもねぇし構わねーが先に学者チームに報告とかしなくていいのかよ? 虹うなぎの産卵地の特定はかなりの功績だし先に伝えといた方がいいんじゃねぇか?」
「もちろんちゃんとやるし一報はしとくけど動画に写真も撮ったし書類とかは後からでもなんとかなるっしょ。それに海の幸は新鮮な内に食べた方が美味しいし! ここまで頑張ったチームみんなでとりまご飯してバイブス上げる方が大事じゃんね!」
「……ま、そうだな。なら楽しみにさせてもらうぜ」
「おけまるー! うへへ、めちゃ美味そ~じゅるり。それじゃメンチちゃん、捌くの手伝って!」
「……はい!」
虹うなぎの成体を捕獲し、調査が一段落したところで師匠は一見何も考えてないように見えるようなギャルっぽい笑みでチームみんなでの食事を提案し、ジンという人もふっと笑ってそれに賛同する。あたしは言われてうなぎを捌くのを手伝った。
あたしの横では長い金色の髪──黒やピンクなどのメッシュが入っているが──をまとめて包丁で鮮やかにうなぎを捌くギャルがいる。
そう──あたしの師匠スピカ=アントルメはギャルだった。
濃いめのアイメイクにピンクのネイル。長い金色の髪には先程も言ったように黒やピンクのメッシュに赤いインナーカラーまで入っている。
服装もへそ出しルックで短パン。いわゆる見せハイレグパンツの紐の部分がお腹の部分にはみ出しているし白いタンクトップシャツの裾を結んでいて上から同じく白いジャケットを袖に通している。前は閉じてない。先程までは海に飛び込んでいたため脱いでいたが普段はそんなギャルギャルした格好をしている。……あたしも人のことは言えないけどね。
ただ師匠は口調も適当というか緩いし性格も大雑把だし適当だ。いや、実際には色々考えているのは確かだけど。
何しろ師匠はあのリンネ=オードブルの弟子で
普段は喜怒哀楽の激しいちゃらんぽらんで緩いギャルでも仕事振りは尊敬できる人なのだ。……それだけに普段の態度が……。
「はーい完成~☆ あーし特製うな重に蒲焼に白焼き! お吸い物も付けて虹うなぎ定食! 召し上がれ~!」
「っ……!! 虹うなぎは初めて食べたが……確かにこれはめちゃくちゃ美味いな」
「でしょ~? 身は信じられないぐらいホクホクふわふわで脂の乗り具合も絶妙! あたし特製のタレも加えて~……んん~~!! これはあーしのフルコースに入れれるかもね~♡ メンチちゃんはどう? 美味しい?」
「美味すぎて……もう感無量です」
「神っしょ~? 養殖化ができたらこれがレストランに並ぶんだからマジヤバいよね? まあ値段はめちゃくちゃ高くなりそうだけどさ」
そうして師匠が作ったうなぎのフルコースを探査チーム全員で食べる。未知の食材や超高級食材を一番に食べられるのはグルメハンターの醍醐味だ。
虹うなぎは師匠の調理も相まってこれまで食べてきた物の中でも1、2を争う美味しさだった。
「あ、そういえば話したいことがあるんだった。帰りながらメンチちゃんにジンちゃんも聞いてくれるー?」
「あ、はい」
「ジンちゃん言うな。なんだよ?」
やはり師匠は尊敬できる。念だけじゃなく仕事のやり方も色々教えてもらったし、今後は師匠に負けないようあたしもグルメハンターとしてまずは一つ星を──
「最近色々あってさ~。愚痴なんだけどちょっと故郷がとんでもないことになっちゃって。あーしともう1人以外生き残りがいなくなっちゃったんだよね~」
「おーおーそれは気の毒……………………は?」
「し、師匠? 師匠の故郷って確か──」
「うん、クルタ族っていうんだけど知ってるー? 引きこもりの少数民族なんだけど緋の眼がマジヤバくてー。それを狙ったっぽい人らに滅ぼされたってわけ」
「いや、ってわけって言われてもそんなレベルの話じゃねぇが……」
その通りだった。師匠は一体何を言っているんだろう? そんなヘビーな話を食後かつ探索の帰路で突然カミングアウトして……師匠の生まれは知ってたけど……冗談じゃないわよね?
「……犯人は捕まった……いや、特定してんのか?」
「幻影旅団っぽいけど今調べ中なんだよね~。で、1人生き残った子が結構病んでて~……とそれは置いといて今、故郷をどうにか再興できないかな~ってあーし思ってるわけよ」
「こ、故郷を再興……ですか?」
「とりあえず土地を相続したり、権利関係整理したり色々ね~。でもクルタ族の生き残りはあーしとクラピー……もう1人しかいないから~~……」
あたしたちが呆気に取られてる間に師匠はジンの方を見てぐっとサムズアップをする。いい笑顔で歯を見せながら。
「──というわけでジンちゃん。精子バンクに登録してあーしに提供してくんない?」
「──するわけねーだろ!! 馬鹿か!?」
「──師匠……頭の病院に行ってください」
師匠の意味不明な発言にジンは声を荒げ、あたしはあたしで呆れが一周回って冷静な声でツッコんだ。何を言っているのこの人は……ハンターは個性的な人が多いって言われてるけどそれにしても何を言ってるの……?
「大丈夫! 責任とか考えなくてもいいし人工受精だから! もしくはクラピーくんの方から絞って募集して……メンチちゃん、どう?」
「どう? ──じゃない!! 弟子にどんな提案してんのよこのアホ師匠!!」
「そのクラピーってやつ、可哀想にも程があんだろ……」
「生きる目的を作るとしたらやっぱ食かエロじゃん? だからどっかからお嫁さんでも調達してくれば元気出るかなーって」
「励まし方が斜め下過ぎる……」
「ジンちゃんうなぎ食べて精ついたっしょ? あーしの発で医療機関まで移動して登録しない?」
「しねーよ!! アホギャルバカボケ!!」
「酷い! アホとかバカとか言うなんてさいてーじゃん!」
「急に精子くれって言う方がよくねーだろ!!」
「あっはっは! それ言えてるー!」
「くっ……心配して損した」
「ごめんごめん! ちょっと愚痴りたかっただけだし、忘れていいから!」
……なんか師匠の明るい雰囲気で霧散したけど……それでもあたしは見た。
「……まーでも
別れ際にこれまで一度も見たことがない……普段は完璧にコントロールしてる師匠の瞳が、
ただそれは本当に一瞬のことで次の瞬間には普段の瞳の色に戻っていた。
「そんじゃメンチちゃんおつー! あーしはしばらく忙しいから何かあったらホームコードに連絡するカンジでよろ~!」
「……はい。お疲れ様……です」
そうしてあたしは師匠と別れ、自らのハンターとしての活動に明け暮れることとなる。
数年が経ってあたしが
──そして次に出会ったのは……あたしが試験官を務めることになった第287期のハンター試験で……師匠は。
「──メンチちゃん久し振りじゃ~ん☆ あ、なんであーしがここにいるかって? いや~あーしの同郷の子の様子をこっそり覗きにきたのと、ついでに男の子を物色……じゃなかった。有望な子を探しにきたってカンジかな。──え? 帰ってほしい? いやいやちょっと待ちなってメンチちゃん! メンチちゃんも
──ものすごく
名前:スピカ=アントルメ
生年月日:1975年生まれ 10月10日
年齢:26歳
生まれ:ルクソ地方 クルタ族
身長:165cm
職業:グルメハンター【☆☆】 料理人 飲食店経営者
念能力:放出系
発:【???】
ということでギャグなのかシリアスなのかよくわからん話をお楽しみください。
感想、評価、良ければよろしくお願いします。