うす汚ねェクルタ族の血を増やしてやるし!   作:黒岩

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今更ですが今回のレオリオやらサダソも含めて本作は独自解釈があります。ご注意を。


レオリオ×ト×サダソ

 ──それはゴンが怪我を完治させてから約一ヶ月。ゴンとキルアが修行を再開したその日のことだった。

 

(身体が動かない!!)

 

 天空闘技場から師匠の待つ宿への帰り道……ズシは突如として動けなくなった。

 声も出せず何も見えず何もできない。

 ただ身体が金縛りにあったかのように身動きが取れず、ズシはそのまま意識を失う。

 

「おっと。気を失ったね」

 

 それを行ったのは天空闘技場200階の闘士であるサダソという男だった。

 彼は仲間のリールベルトと共にゴンやキルア……200階に上がってきたばかりの2人と戦うために友人であろうズシを攫って脅迫しようとしていた。

 彼らの目的であるフロアマスターになるためには同じ200階の闘士相手に戦って10勝が必要。

 だが適当に誰とでも戦うというわけにはいかない。

 

 彼らは念の洗礼を受けた。そして念を覚えて200階で戦ってきたことでそこが甘い世界でないことを知っている。

 普通にやれば10勝する前に4敗して失格になってしまう。フロアマスターへの挑戦権を得ることは難しい。あのヒソカやカストロ。最近やってきた元フロアマスターのスピカを相手に勝てると思うほど彼らは身の程知らずではない。

 

 だからこそゴンとキルアだった。念を覚えたばかりの新人。おまけに子供であり彼らにとってはまさに都合の良いカモであった。

 ゆえに戦闘日を指定して戦おうと待ち構えていたが、彼らは90日間の期限ギリギリまで戦わないという。それでは困る。サダソらにも期限が迫っており、そんなことをされれば戦えないどころか嫌な相手に当たる確率も高い。

 だからこそ人質を取ることにしたのだが──

 

「やめとけよ」

 

「!」

 

 ──背後から彼らを、正確には何かあると思ってズシを尾行していたキルアともう1人が彼らの前に現れる。

 

 キルアは修行の後に一度別れてから尾行を行い、もう1人は修行を終えて勉強を終え、近くの店で息抜きに飲み歩こうとしていた時に偶然キルアを見つけ、そしてキルアに「ズシが狙われてる」と簡単に事情を説明した上で黙るように言われて事情を説明して一緒に付いてきた。

 

「こんなカビ臭くてせこいマネしなくてもさ。オレが相手してやるよ。いつがいいんだっけ?」

 

 そうしてキルアは誘拐を阻止した。その上で戦ってもいいとプライドを捨てて軽く口にする。

 それはゴンという友達のためでもあり、自分のためでもあった。キルアは暗殺一家ゾルディック家の出身。以前のキルアならあっさりと殺しかねない出来事だが、自分を戒めて殺しは行わずに事態を丸く収めようとしたのだ。

 

 全員に勝ちをプレゼントする──そんな提案をして。

 

「いいやキルア。それじゃダメだぜ」

 

「! レオリオ」

 

 だがしかし。そこでキルアに待ったをかけた人物がいた。

 それはキルアと一緒に流れで付いてきたレオリオ。その彼の強く握られた拳は震えている。

 卑怯な手でゴンとキルアを狙おうとしたこと。そして何よりもズシを気絶させて誘拐しようとしたこと。自分の仲間に対してそんなふざけたことをしたことに、レオリオはキレていた。

 

「おいクソヤロー共。そんなに戦いたけりゃオレが相手してやるよ。戦いてぇ日はいつだ? その日をお前らの命日にしてやるぜ」

 

「バッ……! 待てって!」

 

 口悪く思ったことを口にするレオリオを冷静なキルアが首根っこを掴んで少し後ろに下がる。彼らに背を向けてひそひそと声を抑えながら。

 

「話聞いてたか!? ズシが狙われないようにするためにはオレが戦うしかないんだよ」

 

「だからってわざと負けてやるこたぁねーだろ!」

 

「負けてやれば向こうも譲歩すんだろ!」

 

「譲歩だぁ!? そんなの二度と戦う気が起きねーくらいボコボコにしてやれば済む話だろうが! 向こうの要求は戦うことだけだろ! ズシさえ助けりゃ後はあいつらぶっ飛ばして終いだ!」

 

(こいつ暗殺者のオレより沸点低いじゃねーか!)

 

 怒りが収まらない様子のレオリオにキルアが内心呆れるが、心底そう思ってるわけじゃない。

 だからこそ結局レオリオを止めきれない。キレたレオリオは再びサダソらに向き返り、指を突きつけて告げる。

 

「おい。もっかい言うぜ。オレが戦ってやる。あんたらの誰でもいいし全員でも構わねぇ。だからズシを離しな。それで文句はねーだろ?」

 

「……くくく、威勢がいいね。まあ戦ってくれるなら構わないよ。ゴンちゃんにキルアちゃんよりも君の方が弱そうだしね」

 

「ああ!? んだとてめー!」

 

「くく、ならこれから一緒に登録しに行こうか。こいつはそこで返してやるよ」

 

「……上等だぜ。吠え面かかせてやっから楽しみにしとけ」

 

 そうしてレオリオはサダソと戦うことになった。事情を知るキルアはレオリオを止められなかったことに僅かばかり責任を感じてこの一件を黙っている──それがレオリオとサダソの試合が決定した一連の流れであり理由だった。

 

 

 

 

 

 ──そして現在。5月29日。天空闘技場ではレオリオVSサダソの試合が始まろうとしていた。

 

「さあいよいよ始まります!! 新たに現れた期待の新人! レオリオ選手とサダソ選手の一戦!! ここまで圧巻のパワーで勝ち上がってきたレオリオ選手! 熟練の闘士相手にどんな戦いを見せるのか!!」

 

「レオリオ、大丈夫かな?」

 

「さあな。ただで負けるってことはねーと思うけど」

 

 観客席にはレオリオを応援するためにゴンとキルアがいる。ゴンは既に脅迫の件についてキルアから聞いていた。自分は脅迫されなかったが、キルアやレオリオが戦うことになったことに少し腹を立てている。

 キルアはゴンには脅迫しなかったことに安堵し、自分とレオリオだけで済ませたことに対してサダソらは「意外に欲張らなかったな」と内心考えていた。

 

 ──だが真実は少し違う。サダソらはゴンも脅迫しようとしていた。ズシの靴をゴンの扉の前に置いて電話をかけてゴンにも戦うように脅す。その計画が失敗したのはひとえに──

 

『はぁはぁ……ズシくんの靴……!! なんでこんなところに……? 届けてあげなきゃ……♡ うひひ、ちっちゃいなぁ……♡ 返す前にちょっと……ちょっとだけ……♡ いやさすがに……♡ でもちょっとだけなら……♡ 落とし物の1割は交番に届けたら自分の物になるし……♡ ちょっとだけならセーフだよね……♡ あっはー♡』

 

『……………………』

 

 ──1人の変態(ショタコン)が先にズシの靴を拾ってしまったから。ゴンに物陰から電話をかけようとしていたギドはゴンの部屋の前で少年の靴を拾ってはぁはぁしてるギャルを見てそっとその場を後にした。

 アレに触れたら大変なことになる。そもそもあんな変態だがカストロやヒソカに勝つほどの化け物だ。危ない奴には近寄らない。ギドもサダソもリールベルトもスピカと関わる気はなかった。

 

 だがそのおかげでゴンは脅迫されなかった。実は自覚なくゴンを守っていたスピカは、今もキルアの隣のゴンの隣で弟子の試合を見守っている。

 

「観客多いね。ゴンくんあーしの膝に座る?」

 

「ううん。それよりスピカさん。レオリオは勝てるかな?」

 

「勝てんじゃね? 知らんけど。──それよりゴンくんキルアくん、ジュース飲む? あーしがミックスしてきた特製なんだけどすっごい甘くてでも後味さっぱりで美味しいからさ」

 

「……何も入ってねーだろうな? ちなみにオレ、毒とか効かないけど」

 

「そんなん入れるわけないじゃん。入ってるのは愛情くらいかなー♡」

 

「はぁ……ならもらうよ(なんだかなー)」

 

「いただきます!」

 

「召し上がれー♡」

 

 だが隣の少年2人にスピカは夢中だった。スピカはいつにも増して機嫌良さそうに笑顔で2人に話しかけ自家製のジュースも振る舞う。キルアは警戒していたが、結局は受け取ってゴンと2人でジュースを飲む。そしてすぐに目を見開いた。

 

「美味しい……!」

 

「美味い……!」

 

「でしょー? ま、それ飲みながら安心して試合見よっか。別にどうもならんっしょ」

 

「……あんたはレオリオが勝って当然だと思ってるのか? (マジでこのジュース美味いな)」

 

「当然とは思ってないけどねー。でも何とかなるんじゃね? 的な。一応教えることは教えてきたし」

 

「レオリオは練まで出来てるんだっけ」

 

「んー……ま、それは見てみてのお楽しみってことで」

 

 思わせぶりにスピカは微笑を浮かべる。

 ゴンとキルアはレオリオと常に修行と共にしてるわけじゃない。そもそもレオリオは医大受験のための勉強を優先していて、そのために午後は基本勉強時間に当てている。

 念の修行や戦闘経験を積むための天空闘技場での試合は全て午前中のみだった。その時間にゴンとキルアと顔を合わせることもあったが、師匠が違うので一緒に修行を見ているわけじゃない。

 だからゴンとキルアはレオリオがどの程度念を使えるのか詳しくは知らなかった。2人の目にはレオリオが自信満々にそこに立っているように見える。いつもの背広を脱いでポケットに手を入れているレオリオの姿に誰もが勝算はあるのだろうと信じて疑わない。

 

 だが当のレオリオは──

 

(やっべー……本当に勝てんのか? オレ……なんでこんなことになったんだ?)

 

 内心バクバクだった。本当に勝てるのか、と。

 尤も試合に発展したことを後悔はしていない。ダチが誘拐されそうになって黙っていられるか、とレオリオは思っている。こいつの能面みたいな顔をぶっ飛ばさないと気が済まないと。

 

 しかし勝てるかどうかと言われればレオリオはこう答える──自信は全然ない、と。

 

 そもそもレオリオは念での戦闘経験は0である。喧嘩の経験はそれなりにあって自信を持っていたが、ハンター試験で他の受験者を見て若干だが世の中にはよりすごい奴が沢山いると思い知った。

 ゴンやキルア。それにクラピカの強さをレオリオは知っている。仮にどうしてもやらないといけない状況になったのならレオリオは戦うだろうが、それでも勝てるかと言われると答えは分からない。沈黙するしかないだろう。

 

 そしてそれは念での戦闘でも同じ。レオリオはこれまで受験勉強に時間を費やしてきた。それだけにより自信がなかった。

 もっともこの試合が決まってから今日までの17日間、何もしてこなかったわけじゃない。レオリオは試合が決まってからスピカにしっかり教えを請うた。

 

『──はい。そんじゃ次は腕立て伏せ1000回。終わったら休憩で練10分。で、終わったらまた筋トレ1000回ねー』

 

『できるかー!! 休憩で練ってなんだよ!? 頭イカれてんのか!?』

 

『文句言わなーい。あーしは禁止してたのに自分で200階クラスの試合にエントリーしたんだからしばらくは修行時間増やしてもらうし。──あ、それ以外の時間はこの重しを付けて生活ね』

 

『にしても鬼すぎんだろ!? 殺す気か!?』

 

『終わったらちゃんと筋肉疲労に効く料理作ってあげるから早くやってねー♡』

 

『ぐっ……!!』

 

 だがその内容は厳しい筋トレばかりだった。念の鍛錬もしっかりやったが、比率としては筋トレの方が多い。普段の生活でも重しを付けさせる徹底ぶりだった。

 

 だからこそレオリオには自信がない。戦闘の鍛錬はしてこなかった。念についても多少はできるようになったがそれでも劇的な成長はしていないとレオリオは感じている。

 

 そして対戦相手のサダソもまた、レオリオを軽く見ていた。

 

「くく……逃げずに来てくれてありがとう」

 

「あ?」

 

「これでオレは6勝。フロアマスターにまた一歩近づく。君達みたいな新人が沢山入ってきてくれて本当に助かるよ」

 

 試合開始前から──いや、それよりも前からサダソは確信していた。

 レオリオが相手でもゴンやキルアが相手でも。誰が相手でも自分は勝てると。

 勝てないのはスピカにヒソカ。あるいはカストロのような格上だけ。同格以下なら自分の能力は無敵だと自信を持っている。

 それはゴンやキルア、ズシにサービスで自分の能力を見せようとしていたことからも表れている。

 

「生憎だがな。その夢は叶わねーぜ。──お前はオレにぶっ飛ばされるんだからな!!」

 

「できるかな?」

 

 だがその自信はレオリオの心に火を付ける。もっとも、サダソとしては何ら問題のないことだったが。

 

「ポイント&KO制! 時間無制限一本勝負! ──始め!!」

 

 審判による試合開始のコール。その合図と同時に、レオリオは前に走った。頭の中には師匠であるスピカの教えが常にある。

 

『とにかく近寄らないと勝てないかなー』

 

(先手必勝だコラ!!)

 

 真っ直ぐいってぶん殴る。レオリオの頭にはそれしかないし、その戦法しかない。飛び道具の類は使えないし、ナイフを使ったところで念を纏わせれないなら意味ない──と今のレオリオは考えていた。

 

 だが試合開始直後に動いたのは当然レオリオだけじゃない。サダソも同じだった。レオリオはその場で嫌な気配を感じて立ち止まる。

 

 ──“見えない左腕(ゴーストアーム)”。

 

 かつて200階の洗礼を受けて左腕を失ったサダソ。その服の左裾はゆらゆらと揺らめくのみで何もない。

 だがそこにサダソの能力があった。己のオーラで左腕に変化させて操る“見えない左腕(ゴーストアーム)”。

 

(くく……オーラでオレの失われた腕を作る“見えない左腕(ゴーストアーム)”!! タネが分かっても誰もオレの左腕の攻撃は躱せない。そうやって警戒しても無駄なことさ)

 

 サダソはその能力に自信を持っている。見えないというのはそれだけで強い。

 そして掴んでしまえばそれだけで終わり。だからこそ余裕を持って待ち構えていた。

 

「どうしたのかな? 向かってこないのかい? その距離じゃオレは倒せないよ」

 

(……嫌な感じだ……!! 何も見えねーが……スピカの話が本当なら──“凝”!!)

 

 レオリオが立ち止まったのは何となく嫌な気配を感じたから。そして言われていたことを思い出し、レオリオは練でオーラを跳ね上げ、同時に目にオーラを集める。

 するとサダソの服の左裾から伸びる大きなオーラの手が見えた。

 

(見えた!! スピカの言う通りだぜ!!)

 

 この数ヶ月の修行で何とかできるようになった凝でサダソの左腕を視認するレオリオ。やはり見えるとレオリオが思い出すと同時に、試合を見ていたスピカは自分の予想通りだったと同じことを思う。

 

(やっぱあれは見えないという能力を持つ発じゃなくて“隠”を使ってるだけじゃんね)

 

 そうスピカはそれを予想していた。この天空闘技場の特異な環境とそこにいる闘士を見て。

 200階の洗礼。念能力者による攻撃を受けて辛うじて生き延び、念に目覚めた者達。彼らに念を教えてくれる師匠はいない。サダソもギドもリールベルトもカストロでさえ。その念は全て自己流だ。

 

 ゆえに四大行やその応用技。念には系統があることすら知らない。水見式の存在すら知らないのだから当然だろう。

 そして後遺症が残るほどの怪我を負った三者はどれも失ったものを埋め合わせる念を習得しようと願った。

 ギドは両足を失ったため義足になりながら己を独楽のように操ることを。リールベルトは下半身不随になったことで車椅子のまま戦うことを。

 そしてサダソは失った左腕に代わるものを。そうして出来たのが“見えない左腕”である。

 

(だけどオーラを左腕に変化させるだけならオーラは見えるし攻撃は避けられる。だからこそオーラを消そうと試みたはず。そうして隠を習得したってことだよね~)

 

 そう。それは念をしっかりと覚えた者達なら知っている絶の応用技“隠”。

 自分のオーラを見えにくくする高等技術。サダソは己のオーラの左腕を見えなくしたいと願い、偶然その隠にたどり着いた。

 

 ゆえにサダソは己の能力をそういうものだと勘違いをしている。念の師匠がいない。自己流で念を鍛えた結果、それが隠であり凝で見えてしまうことに気づいていない。

 

「来ないならこのまま待ち構えておこうかな(──と見せかけて!!)」

 

「!」

 

「!? (躱された!?)」

 

 だからこそサダソはレオリオに自身の伸ばした左腕が躱されたことに驚愕する。的確な回避。まるで自分の左腕が見えたかのような動きに動揺してしまう。

 無論それだけで能力を解除してしまうほど“見えない左腕”は軟じゃない。彼にとって幸運だったのは、自分が願った能力が自分の系統と偶然にも一致していたことだ。

 

(あっぶねー……! あの腕伸びんのかよ……!)

 

(どういうことだ……!? オレの腕は誰にも見えていないハズ……!! 偶然か……? あるいは勘……何かを感じ取ったか?)

 

 レオリオは内心で腕が思ったより伸びてきたことに驚き、サダソは自分の腕が嫌な気配を感じて警戒され、避けられてしまうことを経験上知っている。左腕が見えずともサダソが身に纏うオーラ自体はそれなりに膨れ上がっているからだと。

 

(なら当たるまでやるだけだ……!!)

 

「おおっと!! サダソ選手にレオリオ選手! 互いに距離を保ちながら動き回っています!! これが噂の見えない左腕なのか!? 我々には何が起こっているのか全くわかりません!!」

 

 だがサダソの攻撃手段はこの“見えない左腕”による攻撃のみ。サダソは左腕を振り回し、レオリオにダメージを与えようと試みる。

 対するレオリオは凝を行いながら何とかそれを回避していた。ここまではレオリオにとっても想定通り。

 だが。

 

(!? やべっ、凝が……ぐっ!!)

 

(当たった!!)

 

「クリーンヒット!! サダソ1ー0!!」

 

「レオリオ選手、僅かに吹き飛んだ!! 何かに当たったようです!!」

 

 サダソの“見えない左腕”がレオリオの身体にかする。そうしてフィールドに転がるレオリオ。審判のコールと実況の声が攻撃に当たったことを会場に伝える。

 だがその理由までは多くの者はわからない。ゴンとキルアが理由を口にした。

 

「今のってもしかして……凝が解けたから?」

 

「ああ。多分な。戦闘中にそんな維持できねーんだろ」

 

「せいか~い。レオリオくんもかなり頑張ってるけど戦いながらずっと凝するのはまだまだキツイかな~」

 

 その答えをスピカが正解と認める──そう。レオリオは常に凝を維持して戦えるわけじゃない。

 未だ念を覚えて数ヶ月。2ヶ月間ゴンとキルアが修行を中断していたため、念の習熟度はそれほど変わらないが凝を戦闘中に使い続けるまでに至ってはいない。

 

(痛ぇ!! が、骨が折れてねーだけマシか……打撲程度か。威力はそこそこだが射程はそんなに長くねーな。手の動きも遅ぇ)

 

 レオリオは己の左腕を軽く抑えながらダメージの程度を把握する。そしてまたスピカの教えを思い出す。射程は長くないし威力もそこまでじゃない。おまけに動きも遅い、と。

 

 だが念の系統のことまでは教えていない。ゆえに理由はわからない。サダソがおそらく変化系であり、それゆえに射程距離を伸ばすことはそこまで得意じゃないと。

 オーラを切り離しているわけじゃないため一定の威力は保たれるが、それでもオーラが自身の身体から伸びれば伸びるほど威力は下がる。“見えない左腕”を最大限発揮させるには少なくとも数メートル以内に近づく必要があった。

 

(なんで避けられる……おまけに攻撃を食らっても立ち上がるか……やっぱり掴むしかないね)

 

 サダソもまたただ左腕で殴るだけでは決着はつけられないと自分の能力を理解している。もっともこの天空闘技場のルールであれば攻撃を当てるだけでポイントを得られる。ゆえに威力はそこまで必要なく遠距離での攻撃は主に牽制を行い次の攻撃に繋げるためのもの。

 サダソの戦法は常にKO勝ち狙いだ。

 

「長引くと痛いだけだからな……すぐに終わらせてあげるよ」

 

「! (オーラが増えた!?)」

 

 サダソが“見えない左腕”を伸ばしてくる。今度は殴ったり引っ掻くような動きじゃない──相手を掴む動きだった。

 

(喰らえ──消失する相手の魂(バニッシュグラップ)”!!

 

 広げた左手がレオリオを掴むために動き出す。それに対してレオリオは再び凝を行ってから待避。自分を掴もうとしてくる左腕から逃れる。

 

(なんか知らねーがさっきよりやばい!! 掴まれたら終わっちまう気がする!!)

 

 相手のオーラが増大したことを感じたレオリオの直感は正しい。サダソの“消失する相手の魂(バニッシュグラップ)”は左手で掴んだ対象を条件付きで絶状態にする。

 

 つまりそれが“見えない左腕”の本当の能力。左腕に掴まれたら終わり──サダソが能力に絶対の自信を持つ理由。

 

(掴めば動けなくなる!! それで終わりだ!!)

 

 もっともサダソはオーラを消すことを絶と言うことを知らないが、オーラを消して動けなくさせるものだとは理解している。

 そうしてオーラの左腕で相手の身体全体を掴み、隙間なく覆うことで窒息させる。それがサダソの必勝の戦法。

 

「くっ……」

 

「また逃げるだけかな?」

 

 回避し続けることしかできないレオリオ。サダソはひたすら“見えない左腕”を伸ばしてそれを追う。

 その状況に対し不利に感じながらも避けさえすればいいとレオリオは何とか隙を探そうとする。“見えない左腕”に注視しながら。

 

「!」

 

「しまっ──」

 

「くく、オレが動かないとでも思ったかい?」

 

 ──だがその考えがレオリオに隙を生じさせる。この試合が始まってからずっとその場でオーラの左腕のみを動かしていたサダソだったが、ここにきてサダソが自ら動いてレオリオとの距離を詰めた。

 オーラの左腕を置き去りにしての格闘。当然だがサダソは200階の闘士。つまり念の洗礼を受けるまでは己の肉体のみで戦い、ここまで昇ってきたということになる。

 両足を失ったギドや下半身不随になったリールベルトと違い、サダソは左腕以外は無事。ゆえに多少の格闘能力は維持している。こうして近づいて戦うことも出来なくはない。

 もっともサダソの“消失する相手の魂”は相手のオーラ量や回数制限。その場から動かないことを条件としている。制約と誓約の概念を知らないサダソだが、そうすれば力が強まると思い込んでいたサダソは普段はあえて近寄ったりはしない。

 

(隙ができた!! “消失する相手の魂(バニッシュグラップ)”!!)

 

「!?」

 

 だが見えない筈のオーラの左腕が見えていること。それがサダソに別の行動を取らせてしまう。レオリオの身体を右半身で押すように吹き飛ばしたサダソは数メートル先に吹っ飛んで膝を突くレオリオを左腕で掴んだ。

 

「レオリオ!!」

 

「まずいぜあいつ!! あのままじゃ……!!」

 

 ゴンとキルアが掴まれたレオリオを心配する。レオリオのオーラが消えていた。

 

「くくく……思ったよりいい動きだったけどこれで終わりだね。それで聞きたいんだけど、なんでオレの左腕が見えていたんだい? ──ああ、今は喋れないか」

 

(っ……オーラが練れねぇ!! 息も出来ないし声も出せねー!!)

 

「レオリオ選手の動きが突如として止まったー!! これがサダソ選手の見えない左腕!! 掴まれた相手は失神するまで動けない!! まさに必殺かつ理不尽な一撃です!!」

 

 サダソが勝利を確信する。審判や実況。観客の多くがレオリオの敗北を同じように確信した。

 それはゴンやキルアですら同じだったが──

 

「いやいや、こっからじゃんね?」

 

(こ、のっ……!!)

 

 ──それを見ていたスピカ。そして掴まれたレオリオだけがそう思っていなかった。

 

 そして最初に違和感を感じたのはサダソだった。

 

(!? オレの左腕が……!!)

 

「うっ……ぐっ、うご、ご……!!」

 

 ──レオリオの声が出ていた。いや、それどころの話ではない。サダソの左腕が、ゆっくりと開かれている。

 掴まれているはずのレオリオはその中心で全力で左腕を振りほどこうと力を込めていた。そして遂に。

 

「おっらああああああああ!!!」

 

「なっ……!!?」

 

「れ……レオリオ選手!! 動き出したー!! サダソ選手の見えない左腕をおそらく振り解いたのでしょう!! 分かりませんが!!」

 

 左腕を無理やり開いて拘束から逃れることに成功した。

 それを成した理由に実況や観客どころかサダソすら理解が及ばない。

 だが見ていたゴンとキルアは察した。もしかしてあれは、と。

 

「えっと、無理やり抜け出したってこと?」

 

「単純な腕力かよ。レオリオらしいな」

 

「レオリオくん、パワーだけはすっごいからねー(そもそもアレそんな強くなさそうじゃん。アレじゃ一般人に毛が生えた程度の相手しか拘束できないっしょ)」

 

 そう──ただの腕力。パワー。力だった。

 その事実を正しく理解するスピカは頬杖を突きながらも楽しそうに笑みを深める。そう、最初から、ゾルディック家の試しの門とやらを見てその話を聞いてから知っていた。

 

(レオリオくんはたった2週間であの試しの門を開けた。それも同じように開けなかったゴンくんやクラピーよりも上の2の門まで)

 

 レオリオが他の人より優れているもの。スピカはそれに気づき、修行をつけた。

 たった2週間やそこらで念のレベルを劇的に上げることは難しい。だけど元々才能のあるパワー。筋トレなら更に身体能力を高めることができる。

 何しろそれは既に実証されている。念をどこまで覚えられるかという不確かなものより計算しやすい。

 

 サダソの“消失する相手の魂(バニッシュグラップ)”は掴んだ相手を絶にして拘束する。その上で握り続けるが、相手の動きまで止める能力じゃない。あくまでも能力はオーラを消すこと。その上で相手を拘束するのは、見えない左腕によるもの。

 そしてその左腕の拘束は、それほど強くはない。今までの相手は体勢的に力を入れられない。不意を突かれて動揺して動けなかった。そういった要素が重なったことによるもの。

 だから左腕の拘束を念無しで抜け出せる力があれば、サダソの能力から容易に抜け出すことができる。このやり方は腕力に優れたレオリオや、あるいはキルアでも可能だろう。素の身体能力が高い相手ほどサダソにとってはやり辛い。

 見えない左腕も試合開始直後に速攻でサダソ本人を攻撃してしまえば何の役にも立たないのだ。仮にキルアと戦っていれば試合開始直後に一瞬で近づいてやられていただろう。

 

「うおおおおおお!!」

 

(っ! ガードを……!!)

 

 そしてレオリオもまた単純なパワーのみで左腕の拘束を逃れ、サダソに向かって殴りかかろうとする。サダソは残った生身の右腕でガードを試みた。

 だが。

 

「──!!!」

 

 レオリオの拳がサダソの右腕をぶち抜き、顔面に突き刺さる。

 そのままフィールドに叩きつけられ、そのフィールドにも亀裂が入る。レオリオの純粋なパワーを練を維持した状態で殴っただけ。

 そのどちらもサダソを大きく上回っていた。

 

「……よし、死んでねーな。──審判」

 

「あ……ああ!」

 

 フィールドに倒れたサダソに近づき、死んでないことを確認したレオリオは審判を呼ぶ。駆け寄ってきた審判もまたサダソの様子を確認するとそのままKOを宣言した。

 

「し……試合終了~~~~!! な、なんとレオリオ選手!! サダソ選手のお株を奪う一発KO!! 凄まじいパワーでした!!」

 

「ま、あーしの弟子ならこんくらいはやってもらわないとじゃんね~」

 

「レオリオすごい!!」

 

「ああ(オレに言わせりゃ身体の動きはまだまだだけど……ま、オレもスッキリしたし細かいこと言うのはやめとくか)」

 

 観客からレオリオに惜しみない拍手と歓声があげられる。ゴンとキルアも改めてレオリオの強さを讃えるように拍手をした。師匠であるスピカも己の弟子の戦いぶりに及第点を与えて歯を見せる。

 

 レオリオ。200階クラスで1勝0敗──天空闘技場の観客たちにその存在を知らしめる一戦だった。

 

 

 

 

 

 ──だがそれで一件落着とはいかなかった。

 

「あんたたちさぁ……舐めてんの? 試合で戦うならまだしもズシくんを攫って更にゴンくんとキルアくん脅迫するとかありえなくない? ちょっと念覚えたからってちょづいてんの? あーしマジおこなんだけど」

 

「す、すみません……!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

「ゆ、許して……」

 

「謝ったら済むと思ってるのだるくなーい? とりあえず因果応報っしょ。次の戦闘日指定あーしと同じ日にしなよ。念弾ぶち当てっからね~」

 

「それだけは勘弁してください!!」

 

「な、なんでもしますから!!」

 

「い、命だけは……」

 

「今なんでもするって言った? じゃあ今からあんたらあーしのパシリね。闘技場は出てもいいけどしばらくはあーしの言う通りに働くように。ちょうど人手足らんかったんよね~」

 

「わ、わかりました……」

 

 後日──ギド、リールベルト、サダソの3人は事情をレオリオから聞いたスピカに呼び出され()()()()()()。ギドとリールベルトは天空闘技場の闘士として出場しながらスピカがプロデュースする屋台のお店でしばらく働き、レオリオの一戦の後にスピカにも威圧されたサダソは4敗したことで潔く闘士を辞めるとスピカに正式に雇われて見えないたこ焼き屋や見えないわたあめ屋。見えないお菓子屋さんとして働くことになるのだった……。

 




スピカの豆知識:スピカはグルメハンターとしてチームを率いている。飲食店の経営者でもある。
サダソの豆知識:サダソの発は『見えない左腕』※勘違いあり。

『見えない左腕(ゴーストアーム)』
変化系と具現化系の複合能力。オーラを左腕の形に変化させて具現化させる。見えないとあるが実際は見える。この能力を使う際に他の闘士が習得していない隠を毎回使っているためそういう能力だと思っている。射程距離は7~8メートルほど。離れれば離れるほど強度は下がる。動きもあまり速くない。

『消失する相手の魂(バニッシュグラップ)』
見えない左腕で掴んだ相手を掴んでる間だけ強制的に絶状態にする。絶にするだけで動けはするが、見えない左腕の拘束から逃れることができないとそのまま呼吸を止めて声を出せない程度に覆い隠すことができる。ただし強度はあまり高くないため相手のオーラ量によっては絶には出来ず、更にある程度身体能力が高ければ簡単に抜けられる上、動きもあまり速くない。

制約と誓約
①その場から動かないこと。少しでも動いた場合“消失する相手の魂”の効果は発揮しない。
②相手の身体の半分以上を掴まないといけない。手足を少し掴んだ程度では強制絶にはできない。
③強制的に絶にできるのは1日に1回のみ。

今回はここまで。レオリオの強みとサダソの念能力については独自設定です。
次回はまた修行。そろそろヨークシン編に向けて動き出します。下ネタ出せなかったので次回は出します。

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