──私はかつての仲間の深い悲しみと狂気を見た。
『なるほど……緋の眼は脳みそと視神経が強く関係してる……そりゃそーか。感情が昂ると出てくるんだもんね』
『……はい。しかしこれを読む限り研究は失敗に終わったようですね』
『そう。──どう思う?』
『どう……とは?』
『あーしでも研究続けられるかなぁ』
──私はとある独裁小国家出身の研究者である。
専門は医学に化学。軍事工学も国に雇われてからは学んだ。国に雇われて多くの兵器を狂ったように作り、それなりに恵まれた地位を手に入れて20年……私は生きるために取り憑かれたように研究を行った。
だが私は研究職を辞することになった。亡命したのだ。思い立ったのは新たな化学兵器の案を思いついた夜のこと。私はふと自らを顧みて今更ながら後悔してしまった──私の行いはどれほど罪深いことなのだろう、と。
私の作った兵器で人が資源の如く消費されていく現実に遂に嫌気が差した。吐き気がする。気持ち悪い。自分とはどれほど醜悪な存在なのだと鏡を見て嫌悪感を抱いた。
そして今からでも遅くはない。私は今すぐここを離れるべきだと思い、着の身着のままに私は家を出た。まるで親と喧嘩して家出をする青少年のようにあまりにも唐突かつ衝動的に。
そうしてその日の内に私は逃げ──すぐに後悔した。多くの国家機密や軍の機密情報を持つ私は追われる身となった。当然だ。想定が甘いというレベルではない。想定すらしていなかったのだから。
必死に逃げる私に対し、連中は私を連れ戻そうとした。国境を越えられるくらいなら殺せと命じられているのだろう。敵国に亡命などすれば自国に被害が出る。上がそう判断するのも当然だった。
そして私は泥に塗れた。必死に逃げて逃げて路地裏にあった紙袋を頭に被ってまで逃げようとした惨めな私。その程度で逃げ切れるはずも隠れられるはずもない。私に銃口が向けられたのは至極当然の帰結だった。
『うっわめっちゃ修羅場じゃん。大丈夫?』
だがしかし──そんな死にゆく運命から私を助けたのが彼女だった。
彼女は念能力と呼ばれる力で追手を軽く撒いてから私に食事を振る舞った。最初に出てきたのは温かいスープだった。
そのスープの味は今でも忘れない。私が彼女のチームに入ってアマチュアとはいえグルメハンターとなったのは彼女への深い感謝と食という人間の欲求の1つでありながら人生の潤いには欠かせないその分野に対する純粋な興味があったからだろう。
新たに食分野の研究を行い、ハンターとして充実した生活。第二の人生を歩んでいた私。
それがまた一変してしまったのは彼女を襲った悲劇のせいだろう。彼女は何も、一切悪くない。
軍事分野の研究を行い、多くの人間を間接的にとはいえ殺してきた私と違って彼女に非はまったくない。
『それは……』
『って聞かれてもわかんないよね~。あはは、やっぱいいや。そんじゃ私はもうしばらくここにいるねー。ヴルストは帰っていいよ。おっつー』
多くの書物と実験の跡を見る彼女の瞳に私は瞠目する。
書物を見るその瞳はまるで子供のようで──緋色に爛々と輝いていた。
『スピカさん……』
『んー?』
『私も研究を手伝います』
気がつけばそう口にしていた。
仲間として彼女が心配だった。おそらく他の仲間たちも今は外にいるが全員が協力するだろう。
それだけ彼女のことを大切に思っているから。
『え? マ? 助かるけどいいの?』
『はい。どうします? この研究を引き継ぐということは緋の眼をなくす研究を行うのでしょう?』
私は当然そうだと思った。研究を引き継ぐなら。彼女がここに来るまでに呟いていたこと『
──彼女が変わることを考慮せずにそう思っていた。
『違うよ?』
『え……では何を』
『逆だよ逆──緋の眼を増やす研究をしようと思ってね』
書物を読み続ける彼女の丸い瞳は未だ緋色に輝き続け、歪み始めた口元からは八重歯が覗いている。
──それがこれから約3年間行われる悪魔染みた研究の始まりだった。
~とある独裁小国家の兵器開発部門元主任研究員にして現アマチュアハンター ヴルスト=カニバルの研究日誌から抜粋~
「──強化系ってマジ強いんよ。なにせ身体能力の強化具合が全系統でNo.1だし、攻撃も防御も治癒もできる」
「つまりガチの戦闘……殴り合いじゃ負けねぇってことか」
「そう──チン◯ンも強化できる」
「言葉通じてねぇのか?」
「肉体を治癒することで絶倫にもなれるし、強化系はかなり夜が強いって前に水商売やってる念能力者の友達が言ってたし、良いライフハックっしょ?」
「役に立つような立たねぇような……なんとも言えねーな……」
──念能力は1日にしてならず。どういうことかっていうとコツコツ継続するのが大事ってこと。
まあなんでもそうなんだけどね~。ただ念能力はサボるとすぐに弱くなっちゃうし。そういう人はいっぱい見てきた。基礎修行とか鍛錬を怠って以前より弱くなってるとか情けなくない? いや忙しいとかなんか理由はあるんだろうけどさ。毎日の基礎なんてルーティーンに組み込めば大したことないしやんのはマジおすすめ! 念って美容と健康にもいいからね~。
「はい。そんじゃ発見せて~」
「おう! いくぜ!」
なのであーしは今日も弟子の基礎修行に付き合ってる。なんだかんだもう修行を始めて5ヶ月くらい経ってんからね~。レオリオくんもやるようになってきたじゃ~ん。その証拠に発の修行で水見式をやると……。
「どうだ見たか!!」
「お~綺麗な橙色じゃ~ん」
水の入ったコップに向けてレオリオくんが練をするとすっごい綺麗な橙色になった。温かそうで良い色じゃんね~。これはもう……うん。いいかな。ってことであーしは懐に隠してたクラッカーを鳴らす。
「おめでと~!! レオリオくん、裏ハンター試験ごうか~く!!」
「うおっ!? びっくりした……いつの間にそんなもんを。でもよっしゃああああ!!」
「そろそろかな~って思ってたからね~。お祝いのケーキやご馳走にシャンパンもあっからね~」
「うおお!! 最高だ!!」
あーしはレオリオくんに念の基礎修行、四大行の修了と裏ハンター試験の合格を伝える。レオリオくんはそれを聞いて……ってかクラッカーにびっくりしてたけど気を取り直して拳を突き上げて喜んだ。うんうん、師匠としても喜ばしいし。そんじゃこのままパーティだぜ!
「ゴンくんキルアくんズシくんにウイングちゃ~ん! レオリオくんの四大行の修行終わったからみんなでパーティしようぜ~!」
「マジっすか!?」
「なるほど……それはめでたいですね」
「うげっ、マジ? またレオリオに先越されたのかよ」
「おめでとうレオリオ!」
あーしは別室から出てまだ修行をしてるゴンくんたちに声をかける。裏ハンター試験のことは卒業と同時に伝えなきゃだからね。あーしは修行させるために先に伝えちゃったけど2人はまだ知らないから卒業試験は別室でやってたんよね~。でもこっからはパーティじゃん!
「──待てよ」
と、思ってたらなんか背後からレオリオくんがキメ顔であーしを呼び止めてきた。ん、なんだろ。告白でもすんの? でもあーしオジサンは……いやレオリオくんはまだ二十歳だけどあーしの好みは10代前半だからな~。
「? どしたん?」
「約束、忘れてないだろうな?」
「約束?」
「惚けんな! 俺は……そう! あの約束のためにここまで頑張ってきたんだぜ! 後でしっかり約束を果たしてもらうからな!」
「あ~」
あ~~~~おっぱいか。そんなんあったね。忘れてた。レオリオくんがすっごいやらしい顔してる。ウケる。でも……ん~そうだなぁ。確かに言ったけどあれって……。
「いやまだ修行終わってないし」
「へ?」
「念の修行ってのは四大行だけじゃないから。せめて固有の発と応用技を習得してからじゃないとね~」
「な……な……嘘だろおおおおおお……!?」
うわ~すっげーガッカリしてる。頭を抱えて叫んでんじゃん。いやまあおっぱい一揉みくらい別にいいかもだけど実際まだ修行は終わりじゃないからここで満足してもらうわけにはいかんのよね~。だからまだまだエロパワーで頑張って貰わないと。
「約束って?」
「修行が終わったらあーしの乳揉むって」
「うわ、そんなんで頑張ってたのかよ。マジレオリオって感じだな」
「う、うるせーな! こいつの方から持ちかけてきたんだぜ!? 俺は悪くねー!」
「い、いやらしいッス……」
「スピカさん……そんな約束をしたんですか?」
「いいっしょ? やっぱモチベ上がった方がいいと思ってさ~」
子供たちがレオリオくんの修行の動機に呆れててきゃわいい。ウイングちゃんも呆れてるカンジだけどウイングちゃんは真面目だからな~。昔っからザ・真面目。そこが良いところなんだけどね~。師範代になる前の修行時代に会った時も……。
『ウイングおにーさん♡』
『スピカさん。どうしましたか? 私は今、師匠に言われての修行の最中なのですが……ふぅ』
『そんなん言ってもう5時間くらいやってんじゃ~ん。もうそろそろ休んだ方がいいって。ほら居酒屋行こ~♡』
『す、スピカさんはまだ未成年ですよね? それに修行もサボるわけには……』
『えーでも居酒屋のご飯食べたいもん♡ ねーいいでしょ連れてってー♡ あーし枝豆とモツ煮込みとだし巻き卵と唐揚げとフライドポテト食べたーい♡ 締めのお茶漬けとラーメンも行きたいな~♡』
『しかし……』
『──こら!! 何サボってんだい!?』
『し、師匠! いえ、その……』
『ん? ああ、スピカのガキも来てたのかい。あんたも暇なら修行したらどうだ?』
『残念でした~♡ あーしの修行は朝から昼にかけて終わらせてまーす♡ あーしは天才なので♡ もうおばさんにも勝てちゃうかも♡』
『おばっ……こんガキャー!! だったら試してやろうだわさ!!』
『きゃーこわーい♡ おばさんの僻み~♡ ──ひっ!? 危ない! このおばさん、何本気で攻撃してきてるの! 大人気ない!』
『黙りな! あんたが言ったことだわさ! 精々揉んでやるから自慢の逃げ足と念弾見せてみな!』
『このっ……! この筋肉おばさんめ……! ならあーしの新しい最強能力“
『やってみな!』
『……師匠にスピカさんもすごいなぁ』
──と、そんなこともあったなぁ。もう10年以上前の話だね~。あーしはすっごい可愛くてちっちゃい子供の歳下なのにあーしにはさん付けだったしすごい礼儀正しくてからかい甲斐もあるから好きな大人の1人だったんだよね~。師匠のおばさんの方はあんまりだったけど。
「……………………」
「スピカさん? どうかしましたか?」
「いや修行してた頃のウイングちゃんのこと思い出してて。あの時は若かったな~」
「昔のウイングさんどんな人だったの?」
「気になるッス!」
「す、スピカさん。その話は今ここでは……」
「めっっっ……ちゃ真面目でさ~。あーしがよく修行サボってご飯行こうって誘っても全然乗ってくれなくて。でも修行終わった後は絶対断らないから優しかったかな! 欠点は身嗜みがいい加減なところくらい!」
「へえ、なら今と変わってないじゃん」
「修行……これで終わりじゃねぇのか……」
あーしが思ってたことを正直に言うとゴンくんたちが興味を持って聞いてくるのであーしは指を立てて笑顔で答えてあげる。ウイングちゃんが恥ずかしそうに焦ってて面白い。レオリオくんはまだ落ち込んでる……しょうがない。後で何か別のご褒美でもあげよっかな。
あ、良いこと思いついた。せっかくだしパーティする前に──
「そうだウイングちゃん。せっかくだしあーしらもたまには組手でもする?」
「!」
「師匠と……」
「スピカさんが組手!?」
あれ、なんか軽く言っただけなんだけどちょっと空気が締まったカンジになったんだけど。やっぱ気になっちゃう系? 一応師匠クラスのタイマンだからすごそう的な? いやでもただの組手なんだけどなぁ~。あんまり期待されても困るじゃんね~? ウイングちゃん。
でもウイングちゃんは真面目だから色々考えてそう。弟子の修行を見てる時なのにそんなことしていいのか。でもやってみたい気持ちはある──って、そんな顔してんよ。しゃーない。あーしからもう一押し。
「弟子たちの勉強にもなりそうだしね~。ちょっとくらいいいんじゃない? ね? ウイングちゃん」
「……いいんですか?」
「全然よくない? 見稽古も修行の1つっしょ?」
──まあ実際は実力がすっごい離れてると見ても何も分からないんだけどそこは方便。あーしも久し振りにウイングちゃんと闘ってみたいし、ウイングちゃんもやりたそうにしてるからね~。あーしってば気も使えるんだから。
「──わかりました。では胸を借りさせていただきます」
「そんじゃちょっと外行こっか。ここだと色々壊れちゃうかもしんないし」
ってことであーしとウイングちゃんは宿を出て更に街を出て人気のない場所へ向かう。ゴンくんたちも当然ついてきた。これは良いとこ見せなきゃね。
「ウイングさんとスピカさん、どっちが強いんだろう?」
「分からねーけど……(スピカは見たけどウイングが戦ってるところはまだ見てない。でも試合だけを見るなら……)」
「ゴクリ……」
「おっぱい……」
「ってまだ言ってんのかよ……」
──そうして見つけた人気のない原っぱであーしとウイングちゃんは少し距離を取って向かい合う。少し離れた場所でゴンくんたちが見てる。頑張るぞ~。
「適当に一本強いの入れたら終わりでいい?」
「はい。よろしくお願いします」
そうして久し振りにあーしとウイングちゃんの組手が始まった。
ウイングは己の血が沸き立ち、同時に冷えるのを自覚していた。
理由は自分の目の前に立つ相手──スピカにある。
スピカはプロハンターとしてウイングの先輩に当たる。歳はウイングの方が4つ上だがハンターになったのはスピカが先。
そして実力の方でもウイングは自らが劣っていることをずっと昔から自覚していた。
何しろスピカは天才だった。
ウイングとスピカの出会いは10年以上前。スピカがある人物に勝つための武者修行として各地の心源流の道場破りをして門下生や師範代クラスをとにかくぼっこぼこにして首から「雑魚♡」と書かれた看板を下げさせていた頃に出会った。
当時ウイングは心源流の門下生ではあったがスピカの狙いはウイングではなく彼の師匠に当たる人物にあった。心源流の正式な師範の1人。念の達人で肉体的にも強いその人物にスピカは挑み……しかし敗北した。
『出直してくるんだね』
『バーカバーカ! おばさん! 次は勝つし! 覚えてろー!』
そしてスピカは逃げた。スピカは昔から逃げ足が速い。勝てないと悟った瞬間に逃走に切り替えて逃げる。道場破りをしておきながら負けそうになったら逃げるのは汚いにもほどがある。
だがウイングは知っている。彼女は天才でありながら負けず嫌いで、一度負けた相手には何度でも挑みに来ることを。
その後、スピカは何度もウイングの師匠に挑みに来ては負けて帰っていく。師匠もスピカを邪険にしなかったこともあってウイングとはそれなりに仲良くなった。
だがウイングは自分より歳下の彼女を微笑ましく思いながらも、少しばかりの劣等感を感じていた。彼女は天才。師範と勝負が成立する上に戦う度に驚くべき早さで成長している。最終的には師匠からも一本を取るほどには。
対する自分は凡人。血を吐くほどの努力の末にようやく念を開花させて毎日のように基礎修行をして10年でようやく師範代クラス。
それも勿論立派なことだ。ウイングは決して自らの努力や実力を卑下してはいない。それは教えてくれた師匠や流派。今の弟子たちにも失礼に当たるからだ。
しかしそれでも目の前の人物と比べれば自分は劣るとウイングは見ていた。
(放出系の念能力者としては随一の実力を持つ
(ウイングちゃん構え綺麗だなー。心源流って皆真面目だから適当に乱してあげたら楽だけど師範とか師範代クラスになるとさすがにそれだけじゃ勝てないんよねー)
ウイングは心源流としての構え──ズシと同じ構えを取ってスピカのオーラの流れを注意深く観察する。そしてその練の力強さに思わず笑みを零してしまった。
対するスピカはウイングの綺麗な構えに感心しながらそれに合わせるように構えを取った。それはウイングやズシと同じ心源流の構え。
勿論スピカは心源流ではない。彼女の本来のスタイルは足技が主体かつ絡め手の多いトリッキーなスタイル。そもそも近接戦よりも離れて戦うことが多い。
だがスピカは多くの心源流の使い手と戦うことでその構えと技をある程度覚えた。ゆえにそれも使える。基礎の体術においてもスピカは若い頃の武者修行によって良さ気な技を適当に取り入れて使うという独自の体術を会得していた。
ゆえに天才──ウイングはそれを理解している。だからこそ思った……今の自分がどこまで通じるのか試してみたいと。
ウイングは深く息を吸い、精神を集中させる。
次の瞬間に一気にウイングの目が見開き、同時に精孔からオーラを一気に吹き出させる。
「はぁっ!!」
練──スピカのオーラに負けじとオーラを出したウイングに、対するスピカは冷静に分析を行う。
(オーラつよ~。ウイングちゃん強化系だからな~。普通に殴り合うと攻防力を常に多めにしないと負けちゃうからダリィんよね~。オーラはこっちのが上だから何とかなりはするけど油断はできないっしょ)
そう。ウイングは強化系。対するスピカは放出系の念能力者。
通常の格闘戦で殴り合う場合、身体の各部位に割り当てるオーラの量によって肉体の強化幅が、つまり攻撃力や防御力は増減する。
そして強化系は身体能力を100%強化することが出来るため、他のどの系統に対しても有利に殴り合うことができるが、対するスピカは放出系で肉体の強化量は80%。
スピカも近接戦は苦手じゃない。他の系統に対しても有利に殴り合えるだけの力は持っているが、その中でも唯一殴り合いにおいて不利を背負うのが強化系である。
もっともそこいらの強化系念能力者相手に遅れを取ることはない。たとえば今のゴンと戦ってもスピカは難なく彼を制するだろう──なんなら変態的なことを考える余裕すらあり、別の意味でゴンが危ない。
しかしウイングは違う。強化系の必殺技は基礎──他の系統が行うような特別な能力や発。制約と誓約に頼る必要がない系統である強化系。
その基礎を毎日欠かさず行っているウイングのオーラと身体能力は決してスピカ相手に殴り負けない。
「はあっ!!」
「!」
ゆえにウイングは自分から仕掛けた。素早く踏み込み、右手の拳にオーラを集める凝でスピカに正拳突きを放つ。対するスピカも素早く足を上げて防御。流による素早い攻防力の移動で左足に凝を行ってウイングの正拳突きを防ぎ、少し下がる。そして。
(痛い~! やっぱ防御できるけど強化系は攻撃が重くてめんどうすぎ。普段ならすぐ離れて念弾に切り替えるけど組手だしね~さすがにそれはなしっしょ)
(! 防がれた! さすがはスピカさん。オーラの攻防力移動……“流”! 流は実戦において何よりも重要な技術。試合を見て分かっていたけどスピカさんの凝に対してこちらも凝では決定打を当てられない。硬にするべきか、あるいはどうにか隙を作るしかない)
互いに力量を測る。念での戦闘においてこの段階は極めて重要だ。最初の激突で。あるいは相手のオーラを確認した時点である程度どのような戦略を取るべきかを定める。戦闘においての思考。これが出来ない念能力者は実戦において生き残れない。
ただしこれは実戦じゃない。あくまでも組手だ。ゆえにスピカは普段なら下がるところを下がらず、そのままの状態で相手をする。
そう、この形式ではウイングが有利だ。これはあくまで弟子たちに見せるための組手であり見稽古。実戦的過ぎる戦術をスピカは取れない。
(発は……いやぁでも空気読めてなくない? “
(やはりここは攻めて隙を作る!)
ウイングはそれを理解している。この形式は自分の方が有利──だからこそ負けたくない、と。
強化系の身体能力。心源流の拳法。流による素早いオーラの振り分けを行いながらウイングはスピカに次々と打撃を放っていく。
対してスピカはそれを同じく流でオーラを振り分けながら防御し、時に躱していたが──受けてばかりで攻められてはいない。受けてばかりだと削られるだけ。ゆえに攻めたいが、心源流の拳法。その戦いではウイングには隙が見当たらない。
(しゃーない。やっぱ本来のスタイルに切り替えるか)
「!?」
そしてウイングは見た。スピカが内心で切り替えを行った瞬間、スピカの足の裏にオーラが集まり、一瞬で加速したのを。その技術にウイングは驚愕しながらも理解する──スピカが本来のスタイルを解放したと。
(あれは放出系の系統別修行で用いられる“浮き手”を足に転用した“浮き足”……!! 以前から使っていたスピカさんお得意の技……!!)
ウイングはその速さと技術に畏敬の念を抱く。
本来、“浮き手”とは地面に対して逆さまになり、掌からオーラを放出することで身体を浮かせるもの。放出系の系統別修行の1つで最も難しいものの1つだ。
しかしスピカはそれを足で行った。移動や跳躍の瞬間に足にオーラを込めることは念能力者なら誰もが自然とやることだが、スピカはそのオーラを更に放出して更に速くなる。放出系の極みとも言えるオーラの扱い。
(速い!)
(くるっとターンしてそれから……)
スピカがウイングの視界から消え、一瞬で背後に回る。“浮き足”を使っての高速移動。ウイングに掌底。それをウイングは振り返りながら左腕でガードしたが、次の瞬間にはスピカが宙を舞っていた。
その場でくるんと前ひねり宙返りを行い、ウイングの死角に移動しながら蹴りをお見舞いする。
「くっ……!」
「っとと……」
ウイングはギリギリでそれを腕を交差させてガードした。ダメージはない。“浮き足”の弱点はオーラの攻防力の移動が一瞬、足の裏に集中するため攻撃力も防御力も落ちること。本来は距離を取ったり移動するための技。近接戦で敢えて使うことは少ない。
ただスピカは素早く凝で蹴りの威力を強めたが、それでも吹き飛ばせなかったのはひとえにウイングが強化系で同じく素早い流が出来るから。
(いける……昔と違って反応できる……戦える……! これならスピカさんから一本取ることも……!)
愚直なまでの努力は強化系はより強くする。ウイングは何一つ特別なことはしていないが、それでも──いや、それだけでいい。この安定した力こそ強化系の必殺技なのだ。
だからこそスピカ相手にもウイングは勝機を見出した。無論、実戦であればまた別だろうがこの勝負なら、と。
──ふぁさ。
「……!? これは……」
それは突然のことだった。
ウイングの頭上に、空から何かが落ちてきたのだ。何か布のような紐のような、しかし大きめの何か。それが頭にかかったことでウイングは驚愕し、すぐ様それが何かを確認して──硬直する。今手に掴んだものが何なのか飲み込めず、思考がフリーズしてしまったから。
だがその戦いを見ていたゴンたちにはわかった。先程の宙返りの際にスピカが素早く落としたもの。それは──
「あ、ウイングちゃんごめーん♡
「────」
──スピカの水色の下着だった。
ウイングが更にフリーズする。やはり、と。同時に少しずつ理解して顔が赤くなる。
だが組手の最中だからと自分をすぐに戒めようとしたが、気づく。ブラジャーで僅かに出来た右目の死角。そこにスピカが踏み込んできていた。
「っ、しまっ……」
「えいっと」
再び“浮き足”での奇襲。以前、試合でカストロに行ったのと全く同じ戦法。隙を作って攻撃。今度はそれを高速で近づいて蹴りを放った。
ウイングはそれを何とか念でガードするが間に合わない。ガードしきれずに吹っ飛ぶ。手痛いダメージ。強いのを一発貰ってしまう──条件が満たされてしまった。
「今のは?」
「……ええ。私の負けですね」
「わーい! 勝ったぜ!! あーしの勝ち~!!」
(き、汚ぇ……!!)
(汚いッス……!!)
(すごい勝負だった……!!)
(ふっ、下着くらいで動揺するたぁ甘いな。気持ちは分かるが)
ウイングが自らの敗北、未熟を認めて息を入れる。スピカはそれを聞いて大いに喜ぶが、観戦していたキルアやズシたちはその戦法の汚さに呆れていた。……若干1名は素直に興奮し、もう1名は別の意味で興奮していたが。
スピカの豆知識:スピカの3サイズは身長165cm B95(H)・W58・H88。
今回はここまで。思ったより下ネタ入れられなかった……ウイングさんは若い時からメスガキに纏わりつかれてたのでカストロより耐性はあります。次回は主にキルアくん。お楽しみに。
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