うす汚ねェクルタ族の血を増やしてやるし!   作:黒岩

9 / 9
シール×ノ×ヒミツ

 スピカ=アントルメはクルタ族である。

 クルタ族はルクソ地方にある森の中に里を作って暮らしており、周りは自然しかない。

 幼い頃のスピカはそれが退屈だった。同年代の子供もおらず、やることもあまりない。だから──

 

『きゃははは!!』

 

『待て! 待たんかスピカー!! また儂の書斎にブービートラップを大量に仕込んだな!?』

 

『え~? あーしじゃありませーん♡ 知らないでーす♡』

 

『……本当か? ──ぬおっ!?』

 

『うっそぴょーん!! やーいやーい♡ 落とし穴に引っかかったー♡ そんで書斎のはあーしが考案した新しいトラップだよー♡ ざーこ♡』

 

「こ……このクソガキがー!!」

 

 ──スピカはメスガキになった。

 

 毎日のようにイタズラをして逃げる。煽りながら逃げる。小馬鹿にしながら逃げる。とんでもない生意気な娘。

 それなのに勉強はできた。身体能力もひたすら逃げ回ったりしているうちにいつしか大人顔負けになった。才能があった。いたずらばかりしていたのにも関わらず能力はあると長老すら認めていたのがその証拠だろう。

 10歳の時に外出試験を受けて外に出ることが出来たのもひとえに大人すらも小馬鹿にして見下す。その性格ゆえの感情のコントロールと足の速さ──ひとえに才能ゆえである。

 

 そしてそんなメスガキっぷりは11歳の時に受けたハンター試験でも遺憾無く発揮された。

 

『え~お兄さんすご~い♡ かっこいい~♡ その調子でがんばれ~♡』

 

 ──第一次試験はちょろそうな参加者をおだてて代わりに矢面に立たせ。

 

『あはは♡ おじさんたちおっそー♡ こんな子供に旗取られるなんて恥ずかしい~♡』

 

 ──チームを組んで他のチームの旗を取り合う二次試験では脚力を活かして旗を取りながら相手を煽って逃げまくり。

 

『これはメガアッサドクグモ♡ バルサ諸島の樹海にのみ生息する凶悪な毒グモ♡ 噛まれると神経性の強力な毒で余裕で死ねる♡ でもアルコールが好物でそれに近寄っていく習性を持つ♡ 捕まえるのは簡単♡ ちなみに食べても美味しくない♡』

 

 ──貴重な動植物を採取してポイントを集める三次試験では子供とは思えない知識でポイントを集め。

 

『誰も戦えないなんて言ってない♡ 子供だと思って甘く見るのは愚の骨頂♡ 雑魚すぎて笑える♡』

 

 ──最終試験の戦いでは予め持ってきていたトラップや他の受験者から奪った改造モデルガン5丁を乱射しまくって他の受験者を倒し、そうしてハンター試験に合格した。つまるところかつてのスピカという人物は。

 

『はぁ~~~~♡ 人をからかうのって楽しい~~~~♡』

 

 スピカは安全圏から人を小馬鹿にするのが好きだった。カスである。自らが子供であるという要素を強調して負けてる大人を見て楽しんだ。悦に入っていた。メスガキである。

 

 そんなスピカをババアととあるおにーさんがわからせ、いつしかスピカはメスガキではなくギャルになったが……それでも時折、スピカはその顔を覗かせる。

 

 スピカの距離を取って念弾で攻撃するという戦法は、逃げるのに攻撃してくるというスピカの性質が現れたもの。スピカが放出系であったのは至極当然のことだったかもしれない。

 

「あと3ぽい~んつ♡」

 

 天空闘技場でのヒソカとの戦いの中で、スピカは右腕が破壊されたヒソカを離れた距離であざ笑う。

 その姿はギャルでありながらかつてのメスガキの姿そのもの。だが幼い頃のスピカとは違い、その内心は表情とは裏腹に冷静だった。

 

(あっぶな~。あの能力めんどいな~。近づいたら確実にオーラつけられるし離れてても凝をしなきゃどこに付いてるかはわからない。でもオーラを変質させるなら多分ヒソカは変化系。射程距離自体は短いはずじゃん。おそらく長くても10メートルくらい!)

 

 先程の攻防。見えたオーラと起こった結果からスピカはヒソカの“伸縮自在の愛(バンジーガム)”の特性をある程度看破し、その厄介さを正しく理解する。

 

(あーしの“交換する悲嘆の印(ぴえん)”の射程は20メートル以内。なら適切な距離は12……いや、念のため14メートルくらいは離れるのがベスト。14メートルから20メートルの間を維持し続けて仮に近づかれて付けられても入れ替える)

 

 スピカの右掌に現在あるシール“交換する悲嘆の印(ぴえん)”はスピカを中心にシールを付けたもの同士を入れ替える能力。

 ただしその範囲は半径20メートル以内。右掌で触れればシールは貼れるが、範囲内から離れると消失する。入れ替えも行っても消失するため、またヒソカを入れ替えるにはもう一度右の手のひらで触れる必要がある。

 だが自分を入れ替える場合は他の物体に触れるだけでいい。

 

(あと1、2回攻撃を当てれば試合終了。もうこの能力は見せちゃったし、使いまくって終わらせるし!)

 

「鬼ごっこさいか~い♡」

 

「……!!」

 

 冷静な内心を感じさせず、スピカは相手を小馬鹿にするような笑みのまま念弾を生み出し、それをヒソカに向かって大量に放つ。

 

 迫りくる念弾の嵐。それを紙一重で避けながら、ヒソカは考えを巡らせていた。

 

(瞬間移動能力は放出系の中でも珍しい能力じゃない……だけど発動するには条件を満たす必要がある♦ 結界形式か地雷形式か……♣ あるいはそれに属さないが特殊な条件を満たすか♥)

 

 ヒソカは自分が移動した現象からそれが瞬間移動能力であることに気づき、更に能力の発動条件を推測する。移動した距離自体は短く、スピカ本人がヒソカの近くにいた。

 

(一瞬ボクの拳を受け止めた際に手のひらに見えたマーク……あれが鍵かな♠ 触れることで能力の発動条件を満たすのかもしれない♦ ただ確認できなかった♣ もう一度発動させる必要があるね……♥)

 

 どちらにせよ近づかなければ始まらない。瞬間移動の能力があるとしても近づかなければヒソカに攻撃手段はないからだ。遠距離ではひたすら念弾を撃たれる。

 

「今度はヒソカ選手!! 右腕に重傷を負いながら果敢に踏み込んでいったーっ!!」

 

 実況は既に右から左へ。ヒソカはスピカの一挙手一投足にのみ集中する。念弾が掌から生まれる。やはり手のひらにマークが見えた。

 

(ならここで……!!)

 

 ヒソカは右腕が使えないながらも隙を見て距離を詰め、左の拳を放つ。

 それはあっさりとスピカに躱されたが、それは問題ない。既にオーラは付けている。

 

(“伸縮自在の愛(バンジーガム)”……発動!!)

 

「!?」

 

 瞬間、周囲の瓦礫が一斉に四方八方からスピカに向かって飛来した。

 そう、左腕のパンチはオーラをくっつけるための布石で躱されても問題ない。

 念弾を躱しながら周囲の瓦礫に素早く“伸縮自在の愛(バンジーガム)”を張り付けたヒソカは、左腕と繋がったオーラをスピカに貼り付ける。

 そしてスピカが距離を取ると共に縮むように操作した。

 

(“交換する悲嘆の印(ぴえん)”!!)

 

「!」

 

 瓦礫が直撃する直前、スピカは能力を発動。ヒソカから見て右の方に一瞬で移動した。

 同時に念弾を出しながらヒソカを攻撃しようとするが、互いにその攻防で察する。

 

(うーん、条件少しバレちゃったかな?)

 

(右に移動……!! そして彼女がいた場所に別の瓦礫が現れた……!! やはりあれはマークを設けたものと自身、あるいはそのマークが付いたもの同士を入れ替える能力……!!)

 

 2回目の能力の発動。たったそれだけでヒソカは能力を発動する条件を見破る。

 今の四方八方から降り注ぐ瓦礫の雨。それに対して最も効率的な能力の使い道は、ヒソカとスピカを入れ替えることだ。

 

 そうすればヒソカは瓦礫の雨に晒されたことだろう。“伸縮自在の愛(バンジーガム)”が解除されても慣性は消えない。そうなればヒソカはダメージを免れない。

 ならそうしなかったことには理由がある。

 

(宙に跳んだ方が良かったかな? でもそうすると移動ができないし、端にあるシールも消えちゃうし、空中に跳んでる時に“伸縮自在の愛(バンジーガム)”を付けられると面倒じゃんね)

 

 念弾を放ちながらスピカは先程の自身の行動を振り返る。ヒソカは知る由もないが、スピカが空中へ跳んで逃げなかったのは能力の発動条件である地面に両足を付けることが出来なくなること。それと他に仕込んであるシールとの20メートルの距離より離れてシールを消さないため。そして何よりヒソカの“伸縮自在の愛(バンジーガム)”を警戒したためだった。

 

 スピカはヒソカの“伸縮自在の愛(バンジーガム)”の射程を測っている。空中に逃げて距離を詰められてオーラを飛ばされてはヒソカに攻撃のチャンスを与えることになる。

 

(近づいたらまたオーラ付けられてあーしも能力使わないと逃げられないし。まー右腕が使えないヒソカとの殴り合いならあーしのが有利だし近づいてもいいけど……遠距離のが安全なんだよな~)

 

(彼女に掌で触れられるとおそらくマークを付けられる……!! おまけに右腕が使えない今のボクじゃ近接戦でも不利……!! あのマークを囮にして普通に打撃を与えられることも考えられるね……♦ 困ったな……!!)

 

 再び放たれるスピカの念弾。ヒソカは回避。それを行いながらスピカは念弾の陰に隠れて隙を見つけて周囲の瓦礫に掌でタッチしてシールを貼る。念弾を時々地面に向けて放つのはフィールドを破壊して対象になる物体を増やすのに適切な攻撃だった。

 反対にヒソカは、やはり距離を詰めるしかないと考える。結局のところヒソカの勝ち筋はそこにしかない。近距離で戦っても今は不利になることを正しく理解しながらも、ヒソカはその厄介さに興奮して血を滾らせていた。念弾がフィールドに直撃して視界の線が互いに途切れる一瞬、ヒソカは準備を完了させた。

 

(スピカは一定の距離を保ちながら逃げ続けている♥ おそらくはその距離が発動条件!!)

 

(ひたすら相手のミス待ちでもいいけどそれじゃ決定打にかけるし、確実な隙を作るならもっかいヒソカ自身にマークを付けなきゃかな……!!)

 

 この瞬間、互いの思惑が僅かだが一致する。ヒソカが距離を詰める。スピカはあえてそれを待ち構えた。

 

「おおっと!! 激しい肉弾戦!! それも今度はスピカ選手が押しています!! このまま勝負が決着してしまうのかー!?」

 

 フィールドの中央で格闘戦が始まる。

 だが右腕を破壊されたヒソカは腕を構えてオーラを集めながらガードするので精一杯。ヒソカも無理に攻撃せず、ただガードすることのみに意識を集中させた。

 だがそうなると必然的に。

 

(……!? 貼った……!! だけど……)

 

「!」

 

 ヒソカの最後の攻撃。無事な左腕での苦し紛れのストレート。それを右掌で受け止めたスピカはシールを張りながらも、そのまま追撃はせずにあえて距離を取る。追撃の打撃を行うこともできたが、異変を感じ取ったがゆえに。

 

「どうしたのかな……? チャンスだったと思うけど……♣」

 

「…………(今の拳の感触……一瞬だったけどちょっとおかしかったし。シールは貼ったけど……)」

 

 スピカは距離を取って凝を行う。“伸縮自在の愛(バンジーガム)”が付けられていた。

 

「逃さないって言っただろ?」

 

(っ……また引き寄せられて殴られる!! あーし自身は両足を付けてないと移動できないし、引き寄せられる前に移動しなきゃじゃんね。そして隙を作るならヒソカ自身を移動させるしか勝たんっしょ!!)

 

 先程の違和感もあってスピカにこのまま引き寄せられて防御するという選択肢はない。能力と思わしき謎の感触の正体が分からない以上、スピカはヒソカを入れ替えることで距離を取りながら攻撃のチャンスを作ることにした。

 スピカは“伸縮自在の愛(バンジーガム)”で引っ張られて両足が離れる前に“交換する悲嘆の印(ぴえん)”を発動させた。対象はヒソカ自身とスピカ自身。シールを貼られたことはさすがに気づいているだろうとスピカは判断し、入れ替えが警戒される前提で互いの位置を入れ替える。念弾をすかさず自身の背後に放つ用意をしながら。

 

 ──“交換する悲嘆の印(ぴえん)”!! 

 

 能力の発動から間を置かず、スピカの視界が切り替わる。

 

 ──だがその入れ替えはスピカの想定するものと違っていた。

 

「!?」

 

「──やあ♥」

 

 そう、スピカの目の前にはヒソカがいた。正確にはヒソカの左拳の位置。ヒソカの左側に。

 

(別のものを入れ替えた!? ──ならやっぱり何かを左拳に貼ってたってこと!!)

 

 豊富な経験から一瞬で事態を理解するスピカ。だが正確に何をどうしたのかまではさすがにスピカにも分かっていない。答えはヒソカの能力にあった。

 

(やっぱり便利……♥ ボクの“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”……!!)

 

 ──ヒソカのもう1つの念能力薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)

 

 その能力は自らのオーラであらゆる質感を再現すること。

 ゆえに距離を詰める前にヒソカは準備をしていた。既に何かマークのようなもので入れ替えを行っていることに気づいたヒソカは隙を見て自らの左拳に“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”を張り付けた。

 ヒソカは距離を詰め、スピカに自らの左拳を触れさせる。触られて違和感に気づき、距離を取るであろうことを予想していたヒソカは同時に“伸縮自在の愛(バンジーガム)”をスピカにくっつける。

 

 そして“伸縮自在の愛(バンジーガム)”をくっつけられたスピカはヒソカの拳の謎の感触も相まって距離を詰められることを警戒する。入れ替えの能力を使う可能性は高い。それもヒソカ自身を動かす可能性が。

 

 シール(ヒソカはマークのようなものだと思っている)を新たに貼っていなければ入れ替えるのはおそらくヒソカとスピカ。

 もしくはヒソカが気づいていないところで何かに触れている可能性はあったが、覚悟しておけば対応できる。ヒソカはどちらでもいいように用意していた。

 

 スピカが自分の“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”を入れ替えるなら、即座に左拳で攻撃。そうでなければ即座に踏み込んで隙を突く。

 それはヒソカにとっても賭けだった! もしスピカが“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”と別の物体を入れ替える方を選択していれば、腕に張り付けている“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”の能力がバレた上にそこまで隙が作れない。敗色濃厚な選択肢。

 だがスピカとヒソカを入れ替えるなら、その瞬間にヒソカはスピカを攻撃する。入れ替える暇も与えずに。

 

(これで勝負が決まるとは限らないけどね……♦ それでもボクの愛は受けてもらうよ……!!)

 

 ヒソカは素早くスピカの足を払う。能力の発動条件に両足を付けてる必要があることを確信していたわけじゃない。移動の際に毎回動いていなかったことからその可能性もあると考え、攻撃の隙を作るためにやっただけだ。

 そして左拳に硬でオーラを集めてスピカに狙いをつける。予め用意していればリスクを無視して攻撃に集中できる。この虚を突いたタイミングじゃ硬や凝でのオーラでの防御は間に合わない。

 そもそもスピカは右手で念弾を放つ用意をしていた。念弾を放つ時、オーラはそこに集中している。

 回避も防御も不可能。だからこそヒソカは見た。左拳の“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”と入れ替えたがゆえにゼロ距離に近く、足払いをされて転倒している最中のスピカの。

 

「あっは♡」

 

「!!」

 

 ──驚いたような表情から、引っかかったと相手を小馬鹿にするような喜悦の表情を浮かべる瞬間を。

 

(──“転移する象の印(ぱおん)”)

 

「!? 消えた……!!」

 

 スピカが床に触れた瞬間、内心で能力の発動を念じる。ヒソカの拳が間近に迫る刹那、スピカは転移した──ヒソカの10メートル程後方に。

 そして念弾を正確にヒソカのいる方に放っていた。

 

「……!! (防御を……!!)」

 

 ヒソカは咄嗟にオーラを背中に集中させる。そこに集めたのはただの勘だった。スピカが自分を殺すことはないと考え、頭に撃ってくる可能性を排除した。その結果、背中にオーラを集める。だが回避する余裕はなく。

 

「……!」

 

「く……クリティカルヒット&ダゥウン!! スピカ10ー2!! そこまで!!」

 

 ヒソカは背中から吹っ飛んだ。思ったよりもダメージは低いのはヒソカがオーラでの防御を行った以上にスピカが威力を手加減したのだろう。着弾すればポイントが取れると判断して。

 

「勝者スピカ選手!!」

 

「なーんと!! これで決着ぅぅ~~~!! またしてもヒソカ選手が場外に吹き飛ばされ、勝者はスピカ選手!! 13年前に君臨していたフロアマスター!! その強さは健在!! いや、むしろより強くなって戻ってまいりましたー!!」

 

「す……すげぇ試合だったな……!!」

 

「……ああ……(レベルが高すぎる!! クソ、今のオレじゃ手加減されてても何をやってるのか全然わからねー!)」

 

 試合の決着が審判によってコールされ、歓声が上がる。試合を見ていたレオリオとキルアは文字通りレベルが違う戦いを見てただただ戦慄し、息を呑むしかない。しかもキルアはおそらく2人がまだ本気を出していないことを察していた。

 

 そしてこの試合を見ていた誰もが理解出来ていないであろう。観客の歓声に笑顔で手を振って応えるスピカは立ち上がるヒソカに手を差し伸べて笑顔で試合の健闘を称え合った。

 

「大丈夫~?」

 

「ああ……中々効いたよ♥ キミの念弾と能力、素晴らしいね♦ 最後の瞬間移動はどうやったのかな?」

 

「あはは、教えるわけないじゃ~ん。これで力は見せつけられたっしょ?」

 

「そうだね♣ ボクの要求に応えてくれてありがとう♥ また後で話そうか♠」

 

「りょ~。安静にね~」

 

「次は互いに制限なしでやりたいね♦」

 

 互いに笑顔で握手を行う。その様子はまさに闘士の鑑。

 だが2人にとっては取引成立の証だった。ヒソカとスピカはそれぞれの入場口に帰っていく。

 その際にスピカはさり気なくフィールドを横切って携帯を落とす振りをしながらそれを回収した。

 

(結局2つ使っちゃったけど正解だったね~。最初に仕込んでおいてよかった~)

 

 スピカはフィールドから2枚の“転移する象の印(ぱおん)”を回収する。

 そのうちの1枚は最後に左手で触れた時に貼ったもの。

 そしてもう一枚は試合の最初の方でスピカがヒソカの攻撃を回避する際にバク転を行った時に貼ったものだった。

 ヒソカの“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”の謎の感触を感じた時点でスピカはそれを使うことを覚悟していた。元々想定外のことが起こった時の保険だったが、正体不明の能力をヒソカが持っていることと思ったよりヒソカの対応力。実力が高かったがゆえに掌に貼ってある2つのシールを両方とも使うことに。使わなければ決定打にならないと考えた。

 

 そしてその能力を使ったこと。あえてこの2つしか使わなかった理由はスピカの能力の制約──スピカの能力の正体にある。

 

(このシール帳も含めて全部使ったらもうちょい楽に勝てるけど別にヒソカを殺すことが目的じゃないし)

 

 スピカは自分の腰元に下がっている可愛らしいシール帳を控え室に続く廊下で開きながら結果はまあまあだと満足気に微笑を浮かべる。

 

 何しろそのシール帳こそスピカの能力の正体だからだ。

 

 ──“流転する少女の流行(ぴえんこえてぱおん)”。その能力はスピカのシール帳から様々な効果を持つシールを取り出して貼り付けることにある。

 その制約にはシール帳からシールを取り出して対象に貼るという工程が必要になる。それが幾つもの効果を持つこの能力の根幹であった。

 

 ではなぜスピカは掌で触れることでシールを貼り付けることが出来ているのか。それは“流転する少女の流行(ぴえんこえてぱおん)”の能力の1つ超絶美少女天使手帳(プリクラ)にある。

 

 通常、“流転する少女の流行(ぴえんこえてぱおん)”はスピカの持つシール帳からシールを取り出して貼らなければならないが、そのシールをスピカの掌に貼ることで“超絶美少女天使(プリクラ)手帳”が発動。掌にシールが一体化し、シールを貼り付ける動作を掌で触れることに短縮することができる! 

 

 スピカはその能力で常に右手と左手に2つのシールを貼り付けている。今回は右の手のひらに“交換する悲嘆の印(ぴえん)”。左の手のひらに“転移する象の印(ぱおん)”を貼り付けていた。

 

 それによる手のひらで触れるだけでシールを貼り付ける。シール帳を開いてシールを貼り付けることもできるしその速度や動作は凄まじく速く正確だ。

 だが天空闘技場というフィールドでなおかつただの力を証明するための試合でそこまでする気はなく最初からスピカは“超絶美少女天使(プリクラ)手帳”で用いる2つのシールのみで戦うつもりだった。

 

 掌に貼ったシールを上書きして別のシールにする場合、その前に貼ってあったシールは24時間使えなくなる上にそれまでの間シールを同時に貼れる最大数が10枚減ってしまう。切り替えはリスク。どうしてもやる必要があると判断した時は行うが、あえて行う時は少ない。

 

 そしてスピカは二重の罠を張ったのだ。入れ替えて何もなければそれで終わり。入れ替えた後に何かあれば転移で逃げて隙を作る。

 足払いをあえて受けたのも含めて攻撃の隙を作るためだった。硬で攻撃してくるなら他の部位はがら空き。念弾を蹴らずに適当に放ってもクリティカルヒットは取れる。

 そうしてスピカはヒソカに勝利した。

 

(これでヒソカから情報は得られるし、誰かしら誘ってみようかな。誰が空いてるかな)

 

 スピカは自分の携帯を操作しながら己の目的を達したことに一旦満足する。知り合いのハンターに声をかけるか迷いながら、それでいて()()()()()()()()()()()の名前はスルーする。

 

(もう念覚えたんかな? 今度様子見に行ってみるかー)

 

 クラピカ、と書かれた名前を少し過ぎてからある人物に連絡を残しておく。それから携帯をしまい、自らの弟子のことを考えた。

 

(もうここに用はないけどレオリオくんを戦わせてみても面白そうじゃん? ゴンくんとキルアくんにズシくんもいるし──ま、200階でやらせるのはもう少し育ててからだけど)

 

 もう少し念を覚えたら200階で戦闘経験を積ませてみてもいいかもしれない。その予定を頭の中で立てながらスピカは会場を後にした。

 

 

 

 

 

 ──と、思っていたら。

 

「──レオリオ対サダソの一戦!! 今買っとかないと後悔するよー!!」

 

(は? なに? あーしが知らない間にイベントでもあったワケ? サダソって誰? なんでそうなるし?)

 

 1ヶ月後。なぜかレオリオVSサダソの試合が知らないところで組まれていると知ってスピカは首を傾げていた。

 

「──サダソは見えない左腕を使う。200階に上がったばかりの闘士と既に5勝をあげているサダソ。勝負は見えているな」

 

「いや誰? ストーカー?」

 

「カストロだろ。なんで忘れてんだよ」

 

「……忘れられるのも無理はないだろう。私は無様を晒してしまった。だがあれから毎日下着を見て煩悩を抑える修行を──」

 

「あーねー。あーしら忙しいからおっつー。──それよりキルアくん。なんでそうなったか知ってる?」

 

「……さあね。勝手に登録したんじゃない」

 

「そっかー。それにしても見えない左腕ね……チ◯ポジ直し放題じゃん。いや、それどころかいじり放題もといやりたい放題……もしかして痴漢魔?」

 

「お前やっぱついてくんな!!」

 

 200階の個室からそれぞれ偶然一緒に出てきたキルアと共にスピカはウイングやズシ、ゴンが待つ宿へと向かう。……なぜか近くにいたカストロは無視された。

 




スピカの豆知識:スピカのシール帳は念能力と密接に関わっている。

『流転する少女の流行(ぴえんこえてぱおん)』
放出系・操作系・具現化系の複合能力。スピカの腰元のシール帳から様々なシールを取り出して貼り付けることでシールの様々な効果を発揮する。シールには『ぴえん』『ぱおん』『ぼかん』『ぶおん』『ひいん』『ぴえんヶ丘どすこい之助』が存在する。シールを貼る対象や効果がそれぞれ異なるがシールは1つの対象につきどれか1つしか付けることができない。ただし他のシールに上書きすることはできる。
ちなみにシールは表と裏、どちらでもくっつく。

『超絶美少女天使手帳(プリクラ)』
流転する少女の流行に付随する能力の1つ。シールは基本、シール帳から取って貼る動作が必要だが右手と左手に貼ることでシールは念のシールとなって掌と同化し、貼る動作を掌で触れるだけに短縮することができる。

制約と誓約
①シールは基本、スピカのシール帳からシールを取り出して貼る必要がある。
②シールを同時に貼ることができる最大数は40枚。※総数ではない。
③シールを貼れるのは1つの対象につき1つまで。
④右手と左手にそれぞれシールを貼ることで『超絶美少女天使手帳』を発動し、シールを取り出して貼る動作を掌で触れるだけに短縮することができる。掌に浮かぶシールは普段は隠すことができるが、シールを貼り付けたり能力を行使する際には発現させる必要がある。
⑤『超絶美少女天使手帳』で手に貼ったシールを別のシールに上書きする場合、前に貼ってあったシールの能力は24時間経つまで使えなくなり、更にそれまで同時に貼れるシールの最大数が10枚減る。

ということで今回はここまで。次回はレオリオとサダソです。お楽しみに。

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