ジョジョの奇妙な冒険part10 CLOCK WORK VALUE 作:アマのしゃちほこ
第1話「ガラクタ森の黒い矢」
朝の光は、上の方からしか降りてこない。
この国ではそれが当たり前だった。
高い場所ほど明るく、低い場所ほど汚れていく。
そして最下層のさらに外れには、壊れた機械、折れた配線、役目を終えた端末が積み上がった場所がある。
人々はそこを――ガラクタ森と呼んでいた。
「……今日も何かあるかな」
少年は鉄屑をかき分けながら進んでいた。
名はジョシュア・ジョバーナ。
価値ランクは低い。
けれど、顔に悲壮さはない。
彼は信じていた。
この国では、価値がすべてだ。
ならば、価値を上げればいい。
上に行けば、人生は変わる。
それだけのことだ。
「お、これ使えそうだ」
錆びたネジを拾う。
少しひしゃげた歯車を拾う。
壊れた端末の中からまだ動く部品を見つける。
そのたびに、ジョシュアは小さくうなずいた。
「積み重ねりゃ……上がれる」
ガラクタ森は、下層の連中にとっては食い扶持だった。
少しでも売れるものを探し、換金屋へ持ち込む。
その日を生きるために、毎日ここへ来る。
ジョシュアも、その一人だった。
やがて彼の足が、妙なものの前で止まる。
「……ん?」
鉄板の下に埋もれていたのは、一本の矢だった。
形は古めかしく、金属の飾りがついている。
だが、光っていない。
むしろ光を吸っているみたいに、異様に黒い。
「なんだこれ……」
ジョシュアはそれを拾い上げた。
冷たい。
重い。
嫌な感じがする。
だが、形だけ見れば部品に近い。
少なくとも、換金屋に持っていけば何かにはなるかもしれない。
##換金屋
小さな店だった。
下層の人間が拾ったゴミを、価値に変えてくれる場所。
ジョシュアは部品を並べ、最後に黒い矢を置く。
店主は無表情で一つずつ見ていき、やがて黒い矢の前で止まった。
「これはダメだな」
「え?」
「売り物にならん」
ジョシュアは眉をひそめる。
「金属だろ」
「形だけだ。価値がない。むしろ捨てていけ」
店主は顔をしかめた。
「気味が悪い。持って帰るなら勝手にしろ」
「……じゃあ、持って帰る」
ジョシュアは黒い矢を受け取った。
せっかく拾ったものを、そのまま捨てる気にはなれなかった。
価値がなくても、形あるものは捨てにくい。
そういう気分だった。
##通り道
換金屋を出たジョシュアは、矢を布に包んで歩き出す。
その時だった。
「おい」
振り向くと、通りの向こうに男が立っていた。
若いが、目つきが悪い。
下層の連中よりは少し上に見える。
胸元のプレートには数字が刻まれていた。
VALUE:47
「その部品、見せろよ」
男の名はガルド・マルケス。
少し価値を得たことで、急に世界が自分のものになったと思い込んでいる手合いだった。
「……ただのゴミだぞ」
ジョシュアは言った。
「そんなに欲しいなら、もっとマシなの拾えよ」
ガルドの顔が歪む。
「口のきき方に気をつけろよ、低価値」
周囲の人間が、さっと距離を取る。
誰も止めない。
止める理由がないからだ。
「その包み、寄こせ」
ジョシュアは一歩も引かなかった。
「俺のものだ」
その一言で、ガルドの目が変わる。
「……は?」
ジョシュアは少しイラついていた。
換金屋でゴミ扱いされ、今度は通りで絡まれる。
その苛立ちが顔に出る。
「俺のものだって言ってる」
次の瞬間、ガルドが殴りかかってきた。
ジョシュアは軽くよけ、拳を出す。
ゴッ。
拳がぶつかる。
ガルドは後ろによろけた。
「……っ!?」
数歩後ずさる。
予想外だったのだろう。
ただの下層のガキだと思っていた相手に、先に殴り返された。
「てめえ……!」
怒りが一気に膨らむ。
「やったなァ……!」
ガルドはなぜか立ち止まり、もう一度殴ろうとした次の瞬間――ジョシュアの横っ面に衝撃が走った。
ドゴンッ!!
「がっ……!?」
体が横に飛ぶ。
地面を転がる。
何が起きたかわからない。
「見えねえだろ?」
ガルドが笑った。
「俺はな、金の矢を刺したんだよ」
そう言って、懐から一本の矢を取り出す。
金色に光る、ジョシュアの黒い矢とよく似た形。
「これで力を得た」
ガルドはガラクタ森に落ちているネジを拾い、指で弾く。
シュッ!!
ネジが弾丸みたいに飛んでいく。
ジョシュアの手に当たった――
ズドッ!!
ネジはそのまま手のひらを貫通し、地面に突き刺さった。
「ぐっ……!?」
手が、“地面に縫い止められた”。
「見たか?」
ガルドは笑う。
「触れたものの威力を上げる。これが俺の力だ」
ジョシュアは顔をしかめる。
見えない攻撃。
意味のわからない理不尽。
だが、ガルドの視線はすぐに黒い矢へ移った。
「で、その矢だ」
「……矢?」
「それ、刺してみてえんだよ」
ガルドの目がぎらつく。
「金の矢でこれなら、黒い矢でどうなるか知りてえ。お前を殺してから刺してみるとするかぁ」
ジョシュアの眉が上がる。
「やめとけ」
「なんでだ?」
ジョシュアは痛む手を押さえながら言った。
「殺したら、価値が下がるぞ」
ガルドは一瞬きょとんとした。
そしてすぐに笑う。
「お前みたいな価値の奴殺しても、価値なんか下がらねえよ」
そして拳を構える。
「終わりだ」
ガルドはニヤリと笑みを浮かべる。
今度は本気だ。
このまま動けなければ、次の一撃で終わる。
ジョシュアの胸の奥に、熱いものがせり上がる。
――死にたくない。
まだ、何も掴んでない。
まだ、上に行ってない。
こんなところで終わるわけにはいかねえ。
ただ、それだけだった。
上に行く前に終わりたくない。
まだ何も掴んでいない。
ここで潰れるのは嫌だ。
その思いに突き動かされるように、ジョシュアの反対の手が動いた。
黒い矢をつかむ。
そして、無意識のまま――自分の胸へ突き刺した。
「なっ……!?」
ガルドの顔が一瞬、固まる。
ドクン。
世界が静かになった。
ドクン。
呼吸の音だけがやけに大きい。
ドクン。
何かが、内側から“始まる”。
ジョシュアの背後に、1頭身の像のような影が立った。
今度は見える。
「……見える」
その影は拳を構えていた。
歯車のような模様をまとい、中心に深い穴がある丸い顔。
ガルドが拳を振り下ろす。
だが――ジョシュアは、すんなりとそれをかわした。
「……は?」
ガルドの目が泳ぐ。
「なんで避けた?」
ジョシュアは、まだ右手に刺さったままのネジを無理やり引き抜こうとした。
深く刺さっている。
しかし、ジョシュアは手を前に出す。
出し続ける。
「……止まらねえ」
止めようとしても、止まらない。
「……なんだこれは……!?」
ぽつりと呟く。
「なんだそれ……」
ジョシュアはもう一歩踏み込んだ。
「俺の方が聞きたい」
そして、拳を振る。
ゴラァッ!!
今度はジョシュアの拳がガルドの顔に入った。
「がはっ!」
吹き飛ぶガルド。
だが、すぐに立ち上がる。
目の色が変わっていた。
「調子に乗るなァ!!」
ガルドの背後の気配が膨れ上がる。
金の矢で得た力が、怒りでさらに強まる。
「ぶっ殺す!」
連続パンチ。
威力を上げたラッシュが空気を裂き、ジョシュアに直撃した。
ドドドドドドドドドッ!!
普通なら、これで終わる。
だがジョシュアは倒れない。
殴られながら、それでも前に出る。
痛い。
苦しい。
視界が揺れる。
それでも、足は止まらない。
「……なんで倒れねえ!?」
ガルドが叫ぶ。
ジョシュアは血の混じった息を吐いた。
「止まったら……終わるからだ」
もう一歩。
「止まらねえなら」
もう一歩。
「止まらねえまま」
さらに一歩。
「ぶち壊すしかねえだろ!」
拳が真正面から入る。
ドゴォッ!!
ガルドの体が大きく吹き飛んだ。
ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラァーーーー!!
風だけが吹く。
ガルドは倒れている。
ジョシュアは肩で息をしながら立っていた。
黒い矢はまだ手元にある。
そして、背後の“何か”も消えていない。
ガルドは地面に倒れたまま、かすれた声を出す。
「……なんだよ、それ……」
「止まらない想いだ」
ジョシュアはそう言って笑った。
その言葉が、自分でも妙にしっくりきた。
ジョシュアはガラクタ森の向こう、上へと伸びる街を見上げる。
高い場所はまだ遠い。
けれど、見えた。
「……この国で成り上がる」
声に出す。
「上に行く」
握った拳に力を込めた。
to be continue
---
ジョシュア・ジョバーナ
スタンド名『????』
パワー B
スピード B
射程距離 B
持続力 A
精密動作性 D
成長性 A
読んでくださりありがとうございます。よければ感想と評価もお願いします。