ジョジョの奇妙な冒険part10 CLOCK WORK VALUE 作:アマのしゃちほこ
ガラクタ森。
風が吹くたびに、折れた鉄骨が軋む。
キィ……ギギ……
耳障りな音が、空気の中に溶けていく。
地面は、砂と錆と油、そしてチンピラどもの血で黒く濁っている。
踏みしめるたびに、靴底がじわりと沈む。
その中心で――ジョシュア・ジョバーナは立っていた。
肩で息をしている。
胸が上下し、吐き出す息は熱い。
その足元。
ヴァルク・アーベントが倒れている。
身体は歪み、血が地面に広がっている。
だが、かすかに呼吸はある。
ジョシュアは、それを見下ろしていた。
さっきまでの戦い。
止まらない体。
戻される空間。
ズレる位置。
全部がまだ、体の中に残っている。
その時。
「後ろを向くんだ」
後ろから声が聞こえた。
ジョシュアの目が細くなる。
ゆっくり振り返る。
そこに――男が立っていた。
錆びた鉄骨の上。
不安定な足場のはずなのに、まるで揺れていない。
風にコートが揺れる。
視線だけが、まっすぐこちらを見ている。
「全部、見てた」
淡々とした声。
ジョシュアは眉をひそめる。
「……誰だ、お前」
男は少しだけ口角を上げる。
「俺は、カイ……カイ・ツキシマだ」
一歩、降りる。
音が、ほとんどしない。
「お前はジョシュアだったな」
ジョシュアは警戒したまま睨む。
「……なんで知ってるんだ」
「戦いながら名前呼ばれてただろ」
当たり前のように言う。
一拍。
カイは視線を細める。
「なあ、ジョシュア」
「スタンドが出たのはいつだ?」
ジョシュアの眉が動く。
「……スタンド?」
「後ろに出てたやつだ」
ジョシュアは一瞬考える。
「……昨日だ」
「気づいたら出てた」
カイは小さく息を吐く。
「そうか」
ジョシュアは苛立ったように言う。
「さっきから何なんだよ」
「スタンドってなんなんだよ」
カイはジョシュアを見る。
「教えてやろう」
沈黙。
風の音だけが流れる。
「……スタンドっていうのは、精神が実体化したものだ」
短く言う。
ジョシュアは眉をひそめる。
「……なんだそれ」
カイは続ける。
「スタンドに目覚める前に黄金の矢を刺しただろう。それを使うことで、スタンドという超パワーを手にすることができる」
「……黄金の矢? 黒い矢のことか?」
カイは頭を軽く掻く。
「………? まあいい……」
一歩、近づく。
「お前が戦ってた時に後ろに出てた“あの人型”」
「あれがスタンドだ」
ジョシュアは黙る。
思い出す。
自分の動きに合わせて動く影。
拳を振ると、同じように振るあれ。
「……あれか」
カイは頷く。
「そうだ」
少し間を置いて――
「名前をつけるとしたら……」
ジョシュアを見る。
「『ドント・ストップ』だな」
沈黙……
ジョシュアの顔が歪む。
「……安直すぎねえか?」
カイは肩をすくめる。
「凄くイカしてるだろう」
ジョシュアはキョトンとする。
「……まあ、いい」
そしてカイを見る。
「お前もその……スタンドってやつ持ってんのか」
カイは答えず、すっと手を上げる。
その瞬間。
空気が、わずかに歪む。
背後に――人型の影が現れる。
滑らかな線。
均整の取れた体。
どこか“重さ”を感じさせる存在。
「これが俺のスタンド」
「『グラビティ・スケッチ』だ」
ジョシュアの目が動く。
「……こいつは、何ができるんだ」
カイは即答する。
「教えられない」
「は?」
「戦いになるかもしれない相手に能力は教えない」
淡々とした答え。
ジョシュアは少しだけ笑う。
「ケチくせえな」
カイは無視する。
そして、少しだけ声を落とす。
「それより」
ジョシュアをまっすぐ見る。
「お前、自分のスタンドを使いこなせてないだろ」
一瞬の沈黙。
ジョシュアの眉が吊り上がる。
「……別にいいだろ」
「お前には関係ねえ」
少し間を置いて、
「あと、名前で呼ぶな」
空気が少しだけ張る。
だがカイは引かない。
「いや、良くない」
一歩、近づく。
「ジョシュアは強くならないといけない」
ジョシュアの目が細くなる。
「ジョシュア」
わざと、名前を呼ぶ。
「お前も――上に行きたいんだろ」
その一言。
空気が変わる。
ジョシュアの喉がわずかに動く。
「……だったら」
カイは静かに言う。
「その方法を、俺は知ってる」
沈黙。
風が止まる。
「……教えろよ」
低い声。
カイは指を一本、立てる。
「いいだろう」
そして――
「ただし条件がある」
その指を前へ向ける。
ジョシュアの視線が動く。
鉄屑の山の向こう。
ボロボロの小屋。
壁は崩れかけ、屋根は傾き、今にも潰れそうな建物。
「……小屋がどうした」
カイは言う。
「ここから、あそこまで」
「能力を使って行け」
ジョシュアは鼻で笑う。
「そんぐらい、やってやるよ」
カイの顔が一瞬、不機嫌になる。
「話を聞け」
空気がピリッと張る。
「能力を使っていいのは“一回”だけだ」
「一回のみ」
「一回だけ」
「一回しか使うな」
一歩、近づく。
「その一回で辿り着けなかったら――」
「最初からやり直しだ」
沈黙。
ジョシュアは、小屋を見る。
遠い。
足場は不安定。
真っ直ぐには行けない。
ゴクリ。
喉が鳴る。
「……小屋まで、だったよな」
カイは頷く。
ジョシュアは笑う。
「いいぜ」
「やってやる」
ジョシュアは一歩、踏み出す。
体を前に倒す。
走る。
ザリッ!!
足が地面を蹴る。
加速。
「おおっ……!」
スピードが乗る。
だが――
止まらない。
「……っ!?」
さらに加速する。
地面が流れる。
視界がぶれる。
「チョッ、止まれ……!」
止まらない。
「止まれ止まれ止まれ――!!」
小屋が迫る。
「ちょおおおッッッとおおーーッ! ド、ド、ド、ドーントストーープ!!!」
ドゴォォォン!!!
木材が砕ける。
壁が吹き飛ぶ。
屋根が歪む。
小屋に――“人型の穴”が空く。
砂埃が舞う。
静寂。
ジョシュアの姿は――見えない。
#■to be continue
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