ジョジョの奇妙な冒険part10 CLOCK WORK VALUE 作:アマのしゃちほこ
白い建物。
周囲のネオンとは異質な、無機質すぎる白。
汚れ一つない壁面が、夜の街の光を鈍く反射している。
その入口へ向かって、カイ・ツキシマは歩いていた。
ジョシュア・ジョバーナも後ろをついていく。
建物を見上げながら、ジョシュアは顔をしかめた。
「……なんでここだけこんな白いんだよ」
カイは振り返らない。
「上層の奴らは白が好きなんだよ」
「へぇ……」
ジョシュアは適当に返す。
その時。
ウィィン……
白い自動ドアが開いた。
中も、白だった。
床。
壁。
天井。
全部が白。
光すら白く感じる。
あまりにも無機質で、病院より冷たい。
その空間の中央にだけ、“黒”があった。
黒いロボット。
人型。
細長いシルエット。
顔には何もない。
まるで、白い世界に置かれた影みたいだった。
カイが顎で示す。
「あそこが受付だ」
「受付は個別に行われる」
そのまま黒いロボットへ歩いていく。
ジョシュアは少し眉をひそめる。
「個別って……他の部屋は無いぞ」
カイがロボットの前に立った。
その瞬間。
ブツッ……
「……は?」
カイの姿が消えた。
跡形もなく。
ジョシュアの目が見開かれる。
「おい!!?」
周囲を見る。
どこにもいない。
白い空間。
黒いロボット。
それだけ。
「……マジかよ」
少し引き気味になりながら、ジョシュアはロボットへ近づいた。
「……えっと」
「受付なんだよな……?」
その瞬間。
視界が切り替わる。
「――ッ!?」
気づけば。
別の場所に立っていた。
だが、雰囲気は同じ。
白い壁。
白い床。
白い空間。
そして目の前には、黒い“人型”が立っている。
今度は、より人間に近かった。
そのロボットが口を開く。
「大会の受付ですか?」
声。
もはや、少しだけ機械音が混じった、人間の声だった。
ジョシュアは若干引きながら答える。
「……は、はい」
黒いロボットは淡々と続ける。
「お名前は何ですか?」
「ジョシュアだ」
「フルネームでお答えください」
ジョシュアは顔をしかめる。
「……ジョシュア・ジョバーナだよ」
「年齢はいくつですか?」
「……たぶん17だ」
「スタンド能力の名前と能力をお答えください」
ジョシュアが止まる。
「……それも教えなくちゃダメなのか?」
沈黙。
黒いロボットは動かない。
「…………」
「…………分かったよ」
ジョシュアは頭を掻く。
「能力の名前は『ドント・ストップ』」
「能力は――」
少し考える。
「一度始めたことが終わらなくなるスタンドだ」
ロボットは数秒沈黙した。
そして。
「最後に、この薬を服用してください」
小さな白いカプセルが差し出される。
ジョシュアは眉をひそめる。
「……薬?」
「はぁ……?」
怪しみながらも、ジョシュアはカプセルを受け取る。
少し迷う。
だが。
「……まあ、いいか」
口に放り込んだ。
水も無いのに、するりと喉を通る。
ロボットが頭を下げた。
「お疲れ様でした」
「それでは――」
「バリューク・ロックをお楽しみ下さい」
ジョシュアは顔をしかめる。
「おい、ちょっと待て」
「この薬なんなんだよ!!」
その瞬間。
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視界が切り替わる。
「――ッ!?」
何かがおかしい。ジョシュアは最初の場所でもない。あの黒い人間ロボットの場所でもない。自分の体さえも認識できない真っ暗な空間にいた。
「なにが起こった…?なにも…見えないぞ…」
ジョシュアの胸のうちポケットから光が漏れる。
それは紛れもない、あの黒い矢であった。黒い矢からまっすぐと光が走る。
光がその場で止まるとそこにはボロボロな姿のロボットがあった。
ロボットはこちらの矢に反応したのか録音テープを流すように音が出る。
『理由、辿リ着クコト、道筋、遠イ記憶、古代ノ記録、終ワリナキ時代、流レル時間。壊レナイ決意、意思ヲ持ッ者、黒き槍、影、烈火ノゴトク、永遠ノ燃焼。』
「は…?なに言ってんだ…よ…?」
ジョシュアは後ろに引いた。
ロボットは次に大きな声で言う。
それは誰かの声に似ていた気がする。
ミ…ツ…ケ………て………』
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元の場所。
白い建物のロビー。
隣には、カイが立っていた。
ジョシュアは周囲を見る。
「……戻った……?」
カイは呆れたように言った。
「……遅いぞ」
ジョシュアは顔をしかめる。
「いや意味分かんねえだろ今の」
カイは返事をしない。
そのまま踵を返し、入口へ向かって歩き出す。
ジョシュアも横をゆく。
自動ドアが開く。
外へ出る。
気づけば、辺りは真っ暗になっていた。
ネオンだけが街を照らしている。
ジョシュアは大きくあくびをした。
「ふぁぁ……」
「もう今日は寝ようぜ」
「ああ、そうだな」
カイが答える。
「もういい時間――」
その瞬間。
「ッッッ!!!」
カイの体が揺れた。
「おい!?」
ジョシュアが横を振り向く。
カイの肩の後ろと、ふくらはぎの位置。
そこに。
ナイフが刺さっていた。
「カイーーーーッッ!!!???」
血が飛ぶ。
カイが膝をつく。
肩から血を出しながら、低く言った。
「まさかお前……」
「誰も飲まないような……あの薬を飲んだのか……?」
ジョシュアは混乱したまま叫ぶ。
「ああそうだよ!!」
「でもそんなことより――!!」
周囲を見る。
誰もいない。
ネオン。
車。
通行人。
なのに。
「……っ!?」
「周りに誰も怪しい奴がいねえ!!?」
カイは肩を押さえる。
血が指の間から流れていた。
「意味が無いかもしれないが……」
「一旦この場を離れるぞ……」
ジョシュアは慌てて肩を貸した。
「お、おい!! しっかりしろ!!」
二人はその場を離れる。
歩きながら、カイが呆れたように言った。
「……本当に、あの薬を飲む奴がいるとはな……」
ジョシュアが怒鳴る。
「だから何なんだよ!!」
「あの薬がなんかヤベーのか!?」
カイが何か言いかける。
「あの薬はなぁ――」
その瞬間。
「ッッッ!!」
カイが顔を上げる。
「前を見ろジョシュア!!」
「は?」
ジョシュアは前を向く。
そして。
固まった。
大通り。
そこを歩いている人間達が――
“トランプ”になっていた。
スペード。
ハート。
クラブ。
ダイヤ。
人々の顔が、カードの模様みたいに歪んでいる。
いや。
人だけじゃない。
街全体。
建物。
標識。
ネオン。
全部が、童話みたいに歪んでいた。
鏡の国。
絵本。
そんな世界。
ジョシュアの顔が引きつる。
「こんなの!!」
「異世界じゃねえかーーーーッ!!!」
その瞬間。
ヒュンッ!!
何かが飛んできた。
ジョシュアは反射的にスタンドを振る。
ガキィン!!
金属音。
「……?」
地面へ落ちたそれをよく見る。
トランプだった。
だが。
「……なんでトランプで金属音が……」
次の瞬間。
トランプの姿が崩れる。
そこにあったのは――
ナイフ。
カイを刺したものと同じ形。
ジョシュアの顔が引きつる。
「あっぶねえな!!」
カイが低く言った。
「……幻覚系のスタンドだ」
「能力者本人を叩け……」
ジョシュアは周囲を見る。
歪んだ街。
トランプ人間。
ネオン。
その中で。
ひとりだけ。
“ハートの女王”のような人影が立っていた。
ジョシュアはそいつへ近づく。
すると。
そのハートの女王が口を開いた。
「アリスって面白いですよね」
静かな男の声。
その女王は、すでにかしこまった服を着た男に見えていた。
「でも、敵のあなたにアリスを見せたら、私はハートの女王に見えましたよね」
ゆっくりと笑う。
「私としたことが……って感じですよね。これでは幻術の意味が無いですよね」
ジョシュアの目が細くなる。
男は続ける。
「そしてあなたは――」
「私に目を付けられた」
「哀れで、お馬鹿な新人さん……っていうことですよね」
#■to be continue
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