ジョジョの奇妙な冒険part10 CLOCK WORK VALUE 作:アマのしゃちほこ
第8話『危険で楽しい世界その②』
「哀れで、お馬鹿な新人さん」
その言葉が終わるより先に――
ジョシュアは踏み込んでいた。
「ゴラァァァァッ!!!」
拳。
一直線。
ドゴォッ!!
顔面を殴った――
はずだった。
「……は?」
感触が違う。
鈍い金属音。
目の前。
そこにいたはずの男は、
“自転車”になっていた。
ジョシュアが目を見開く。
「どこ行きやがった!?」
周囲を見る。
ネオン。
車道。
人混み。
その奥。
裏路地へ入っていく、
あの男らしき人影が見えた。
「ッ!!」
ジョシュアはそちらへ走ろうとする。
その瞬間。
ドンッ!!
背中に衝撃。
「がっ!?」
前につんのめる。
振り返る。
すると――
さっき自転車だった場所。
そこに男が立っていた。
濃紺のスーツ。
感情の無い顔。
「お前!!」
「今あっち行ったんじゃ――!!」
男は静かに言う。
「見たものだけが真実とは限らない」
「それが世界なんですよね」
ジョシュアの眉が吊り上がる。
「何言ってやがる!!」
男は淡々と続けた。
「まあ」
「私はもうここにいないってことは」
「内緒なんですよね」
「なにぃ!?」
ジョシュアが踏み込む。
だが。
もうそこには、
“自転車”しかない。
「……ッ!」
ジョシュアの背筋に寒気が走る。
直感。
ここにいるのはまずい。
ジョシュアは大通りを走り出した。
ネオンを横切る。
人を避ける。
曲がり角を曲がる。
そして。
「……は?」
目の前。
さっきまで走っていた大通り。
しかも。
自分は、
“逆方向”へ進んでいた。
「ええぇぇぇ!!!???」
「何が起こったァ!?」
ジョシュアは混乱しながら別方向へ走る。
路地へ曲がる。
走る。
走る。
だが。
「またかよォ!!?」
気づけば、
元の道を走っていた。
ジョシュアの額に汗が浮く。
「チッ……!」
もう一度方向を変えようとする。
その瞬間。
ドゴッ!!
「ぐあっ!?」
何かにぶつかった。
空気。
いや。
“空気という名の壁”。
ジョシュアが手を触れる。
そこには、
確かな感触があった。
「……分かった」
息を荒げながら、
ジョシュアが呟く。
「ここ……大通りなんかじゃねえ」
周囲を見る。
ネオン。
車道。
街灯。
全部、偽物。
「俺はもう……裏路地に入ってたんだ!!」
その瞬間。
後ろから拍手。
パチ、パチ、パチ……
「おや」
男の声。
「これはバレてしまったということですよね」
ジョシュアが振り返る。
ダリオ・フィン。
ビルの壁にもたれながら、
静かにこちらを見ている。
「しかし」
「すでにあなたは追い詰められている」
「そういうことなんですよね」
ジョシュアは周囲を見る。
いつの間にか。
大通りは消えていた。
狭い裏路地。
汚れた壁。
ゴミ袋。
配管。
空気の壁だったものは、
ただのビルの外壁へ戻っている。
「チクショウ……!」
ジョシュアが歯を食いしばる。
「これ以上騙されてたまるか!!」
拳を握る。
背後に、
『ドント・ストップ』が現れる。
「一直線なら絶対当たるんだぜェ!!」
その時。
「ジョシュア!!」
声。
前方の通路から、
カイが足を引きずり走ってくる。
肩にはまだ血が滲んでいる。
「ジョシュア!!」
「お前の前にあの男はいない!!」
「後ろを見ろ!!」
ジョシュアの目が見開かれる。
振り向く。
だが。
誰もいない。
「……ッ!?」
しかし。
ジョシュアは止まらなかった。
「信じるぜ!!」
『ドント・ストップ』発動。
一直線のタックル。
虚空へ突っ込む。
その瞬間。
ドゴォッ!!
「ごっ……!?」
空間が歪む。
そこに、
ダリオがいた。
「いたァ!!」
ダリオの身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられ、
そのまま地面を滑る。
だが。
ダリオは立ち上がった。
口元から血を流しながら。
「ゴホッ……」
「攻撃が強いですよね……」
ネクタイを直す。
「そろそろ私も」
「本気を出すべきですよね」
その瞬間。
姿が消えた。
ジョシュアに緊張が走る。
静寂。
風の音。
カイが低く言う。
「ジョシュア」
「入口は塞いだ」
「もうあの男はここから出られない」
一瞬置いて。
「そして多分……」
「お前の能力は割れてる」
ジョシュアは口角を上げる。
「いいや」
構える。
「もう問題ねえ」
「好都合だ!!」
狭い路地。
一直線。
ジョシュアは再びタックルを始める。
その瞬間。
スッ……
ダリオが、
ジョシュアの後ろへ現れる。
その手には――
チェンソー。
ギュルルルルルルルルッ!!!
鼓膜を裂く金属の駆動音。
ジョシュアの背後、
完全な死角から、
ダリオ・フィンが狂気に歪んだ笑みを浮かべて躍り出た。
その両手には、
激しく回転する巨大なチェンソーが握られている。
「終わりですよね。所詮、一直線にしか走れない単細胞――」
「掛かったなァ、変態野郎!!!」
――ガリィッ!
突進していたはずのジョシュアのブーツが、
アスファルトを削って強引に反転した。
慣性を無視した異様な方向転換。
いや、違う。
最初から「慣性」など発生していなかった。
「……なっ、回頭した!?
あり得ない、お前のスタンドは一度走り出したら止まらないはず――」
「俺はまだ、スタンド(能力)を『使ってねえ』っんだよォー!!」
ジョシュアは、
ただの「生身のダッシュ」で路地を走っていたのだ。
能力を使っていなければ、
止まるのも振り向くのも自由自在。
ダリオは勝手に、
ジョシュアが最初から『ドント・ストップ』で暴走していると思い込んでいた。
ゼロ距離。
完全に裏をかかれ、
チェンソーを振り上げた姿勢のまま硬直するダリオの胸元へ。
「そッッッッそんなッッッ!そんなことぉあり得ないですよねェェェェ!!」
ジョシュアは凶悪な笑みを向けた。
「今から使うんだよォッ!
『ドント・ストップ』!!
――前進開始ィィッ!!!」
ズドォォォォンッ!!!
至近距離で炸裂した超A級の質量。
チェンソーの幻術が霧のように霧散し、
ただのナイフがダリオの手から弾け飛ぶ。
ジョシュアは、
宙に打ち上げられたダリオの身体を逃がさない。
「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラァァァァッ!!!」
狭い裏路地に、
肉体を破壊する打撃音が高速の連打となって反響する。
止まらない。
一度始まった拳の暴風は、
文字通り『終わらない』。
「これがッ!
下層のドブネズミのッ!
挨拶代わりだぁぁぁッ!!」
ドゴォッ!!!
最後の一撃。
文字通りの「砲弾」と化したストレートがダリオの顔面を捉え、
その身体を路地の奥の段ボール山へと叩き込んだ。
静寂。
意識はある。
だが、
動けない。
ダリオは血を吐きながら言った。
「まさか……」
「こんな初心者にやられるなんて……」
「あり得ないですよね……」
薄く笑う。
「いい機会です……」
「教えてあげましょう……」
ジョシュアが睨む。
「何をだよ」
ダリオが言う。
「あなたが飲んだあの薬……」
「実は、居場所を発信し続ける物なんですよね……」
ジョシュアの顔が曇る。
「……何が言いてえ」
ダリオが笑う。
「つまり……」
「ここから先」
「あなたに休まる暇はない……」
「ってこと……ですよ……ね……」
ガクッ。
戦闘不能。
リタイア。
静寂。
カイが近づいてくる。
ダリオを見下ろしながら、
静かに言った。
「一度負けたら、チャンスはもうない」
「俺たちも負け――」
その時。
ジョシュアが遮る。
「腹減った」
カイが止まる。
ジョシュアは普通に言った。
「飯とか食おうぜ!」
沈黙。
カイは少しだけ目を閉じる。
「……そうだな」
夜風が、
中層のネオンを揺らしていた。
■to be continue
ダリオ・フィン
スタンド名『アンダー・カバーズ』
パワー E
スピード E
射程距離 B
持続力 A
精密動作性 A
成長性 C
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