TCGで全てが決まる世界に転生した物語   作:国家公務員K

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第三話

我が国において神札遊戯とは、経済・政治と並び、社会の根幹を支える文化である。

 

その歴史は古い。

 

縄文時代以前より存在が確認されており、神楽や演武と同じく、八百万の神々へ奉納される祭祀の一種として発展してきた。

 

現代では娯楽競技として親しまれているが、その本質は今なお変わらない。

 

人と神を繋ぐ儀式。

 

それこそが神札遊戯である。

 

 

当然ながら、光があれば影も生まれる。

 

闇遊戯。

此方の歴史も相当長く、平安時代頃から存在が確認されている。

当時の呪術的思想と結び付き、悪霊や怪奇との非常に高度で難解な契約を用いる事で、本来ならば有り得ない事象ですら引き起こす。

人間のエゴと正義の暴走、そして、限りの無い慾望のままに堕ちてしまった者たち。

 

元寇の際における神風の存在。

第二次世界大戦の奇跡的勝利。

高度経済成長期における石油危機の回避。

バブル景気の延命。

 

歴史上の大規模災害や国家的危機の裏側には、しばしば闇遊戯の存在が確認されている。

 

一見、都合良く見える闇遊戯であるが、その代償は大きい。

その上、どのような形で現れるかも分からない。

 

 

故に存在する。

公安闇遊戯対策課。

宮内庁書陵部。

神札遊戯連合会。

そして、国家安全保障局。

 

 

神札に選ばれし者達は、単なる競技者ではない。

国家の武力。

企業の抑止力。

宗教の象徴。

 

社会を支える超常戦力である。

 

 

───そして今。

 

中学校の校舎裏で発生した異常事態もまた、その一つだった。

 

 

 

「──執行開始」

 

 

牧間が告げたその瞬間。

影と牧間、双方の足元へ巨大な光輪が展開される。

 

校舎のアスファルトを覆うように刻まれた幾何学模様。

幾重にも重なる神代文字。

その中心から青白い光が立ち昇る。

 

 

末子は思わず息を呑んだ。

 

テレビでは何度も観た光景。

されど、実物を見るのは初めてだった。

 

 

 

───神札遊戯。

 

 

 

それぞれの神々との契約により半透明の盤面が浮かび上がる。

 

通常であれば20で固定されるライフ。

 

各ターン毎に自動的に1ずつ増えるコスト。

 

役目を果たした神札の行く先である墓地。

 

そして、己の魂たるデッキが設置されるデッキゾーン。

 

最後に、今後の選択肢である手札。

全てが自動的に展開されていく。

 

 

 

周囲の闇遊戯対策課職員達は即座に後退。

と同時に、周囲に対して退避を促す。

 

勿論、誰一人として盤面へ近付こうとしない。それは当然の事だろう。

 

なにせ、神域。

対象である遊戯者達以外が踏み込めば双方の加護に焼かれる。

 

 

『面白い』

 

 

影が嗤う。

 

 

『牧間修司』

 

 

黒い手形が蠢く。

 

 

『貴様を喰えば、どれほどの力になるだろうな』

 

 

牧間は欠伸を噛み殺した。

 

 

「怪異はどいつもこいつも……その台詞はもう聞き飽きた」

 

 

牧間は懐から神札を抜く。

慣れた手付きだ。

無造作でいて一切の隙が無い。

 

末子は初めて理解した。

この男の化け物地味た存在感を。

名前や肩書きでは表し切れていない。

 

末子はようやく気が付いた。

先程までボヤけて見えていた男のオーラは、巨大過ぎて輪郭が映らなかったのだ、と。

 

 

牧間が初手を確認する。

視線が一瞬だけ鋭くなった。

 

 

「……悪くない」

 

 

対する影は狂ったように笑う。

 

 

『殺してやる』

『殺して喰って』

『全て奪う』

 

 

そして、両者が同時に最初の一枚へ指を伸ばした。

 

 

 

『「ラウンド1」』

 

影の、そして、牧間の声が同時に響く。双方のコストに1の数字が光る。

神々より先行に選ばれたのは影の方であった。

 

影はコストを消費し、手札からユニットを召喚する。

 

『影なる手』

攻撃力、体力共に1。

特殊能力は一切無い。

 

そのまま牧間のライフを1削ってターンエンドだ。

 

「『ラウンド2』」

 

牧間の手番が回ってくる。

 

「ドロー」

 

 

牧間は引き抜いた神札を見もせず手札へ加える。

そして、

 

 

「魔法詠唱、『査察』」

 

 

影が顔を顰めた。

 

 

『なに?』

 

「通るな?」

 

『……』

 

 

返答が無い。

しかし、遅延は行われない。

神札遊戯において、神々への奉納に無作法な概念は自動的に排除される。

それが仮に闇遊戯であっても、だ。

 

牧間の神札が輝く。

効果が発動されたのだ。

 

 

「手札公開」

 

『なっ』

 

 

影の黒い神札群が空中へ晒された。

 

末子は意味が分からない。

だが、周囲の職員達は息を呑んでいた。

 

 

「おいおい」

「流石、牧間さん」

「嗚呼、一発で抜いたぞ」

 

 

牧間は黙って手札を眺める。

数秒後、一枚を指差した。

 

 

「『喰らう右手』を捨てろ」

 

『──ッ!?』

 

 

影が初めて狼狽する。

やはり、末子には分からない。

だが、分かる者には分かっていた。

 

それは、このデッキの核。

切り札では無い。

しかし、コンボを回す為に必要不可欠な潤滑剤だった。

 

 

『貴様ァ!!』

「うるせぇな」

 

 

牧間は面倒臭そうに頬杖をつく。

 

 

「そんな露骨な構成で来る方が悪い」

 

 

捨て札となった神札が墓地へ沈む。

光景を眺めながら、末子の隣に居た対策課の職員が小さく呟いた。

 

 

「終わったな」

 

 

その言葉に疑問を感じた末子は振り返る。

 

 

「え?」

「いや」

 

 

職員は苦笑した。

 

 

「まだ始まったばっかなんだけどね」

 

 

職員の視線の先。

盤面を見つめる牧間の目は、既に数ターン先を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

影のライフが残り10になった際、

影の手札から一枚神札が飛び出してきた。コストを支払うこと無く、牧間の手番の最中であった。

 

黒い神札が盤面中央へ突き刺さる。

その瞬間、空気が変わった。

 

否。

 

遊戯者を包み込む結界そのものが変化した。

黄金色に光り輝いていた球体がドス黒く染まりゆく。

 

その光景に末子の背筋を冷たい何かが這い上がる。

 

周囲の様子も変化していく。

校庭だった場所が黒く染まる。

足元の神代文字が腐敗する。

公安が打ち込んだ釘、それで張られていた封鎖結界すらも軋み始めた。

 

 

「ッ!?」

 

 

公安の職員の一人が顔色を変える。

右手で抱える装置を見ながら叫んだ。

 

 

「結界出力低下!」

「またこの手合いか!」

「術式が侵食されている!」

 

 

少し慌てる様子を見せたが、即座に対応策を打とうとする職員達。

勤勉且つ場馴れしたその様子に影の笑い声も尻すぼみになっていった。

 

 

『ヒヒッ……チッ』

『これが闇遊戯だ。なんて説明は不要そうだな』

 

 

 

闇遊戯。

本来の神札遊戯と異なる点がただ1つ。

神に規則と裁定を委ね、奉納する遊戯ではなく、

勝者が勝者の為に神の力を悪用べく媒介する儀式。

 

黒い霧が盤面を覆う。

刹那、影の墓地に変化が起きる。

 

そこへ送られていた影なる手。

喰らう左手。

駆ける影。

 

その他、全ての神札が一斉に震え始めた。

 

 

「わっ!」

 

 

末子が目を見開き驚く。

闇遊戯を始めて観るのであるから当然の反応であろう。

余りにも歪な動き。

操り人形の如く、墓地から神札がゆっくりと立ち上がりはじめたのだ。

 

 

 

『死者は死者のままである』

『そんなルール』

『誰が決めた?』

 

 

影が高笑いしながら、問う。

 

「その辺の管轄は宮内庁だ。あっちに聞け」

 

 

公安の職員達が様々な指示を出しつつ、即座に対応している最中、

牧間は面倒臭そうに吐き捨てた。

 

 

「墓地利用じゃない。平安後期型か?」

「いえ、術式の波長は江戸末期の一例と酷似しております」

「一旦、第二術式に移行。結界の侵食率は?」

「37%……いえ、42%、上昇中。現在56%。結界の維持もそろそろ危ういかと」

「了解」

 

 

影の墓地からランダムな神札がバトルゾーンへと召喚される。

勿論、コストの消費は一切無し。

しかも、アタック状態で、だ。

 

盤面が一気に埋まる。

先程まで押し潰されていた劣勢がたったの一手で消え去った。

 

門外漢である末子ですら理解出来た。

 

今。

 

この瞬間、影が勝っている。

つまり、スネグーラチカの身が本格的に危うくなってきたということ。

 

だが、視線の先に居る男、牧間だけは変わらない。

相変わらず頬杖をついたまま。

よく周りを見れば、公安の職員達も落ち着いている。

誰一人として心配をしていない。

 

 

「なるほど」

 

 

牧間はただ観察を続けていた。

注意深く相手のデッキを見て、予測を立てていた。

 

 

「そういうタイプか」

 

『恐ろしくないのか?』

 

 

影が問い掛ける。

そして、嘲るように言う。

 

 

『貴様の知るルールは死んだぞ』

 

 

対して、牧間は欠伸を噛み殺した。

既に読み切ったのだ。

乱雑に手札を一枚投げながら答えた。

 

 

「別に」

 

 

牧間の神札が輝く。

 

 

「闇遊戯対策課ってのはな」

 

 

一枚。

また一枚。

高コストの神札。

対象を破壊する効果を持つ、それらが同時に展開される。

 

 

「そういう連中を処理するためにある」

 

 

牧間が落ち着いている牧間が受け流した通り、影が盤面を変えたこの神札……否、闇札は、所謂、条件を満たした事により、強制的に割り込んで召喚される特殊なもの。

 

 

『影の契約』

コストは10。

攻撃力は0。

体力は10。

効果としては、自身の体力が開始時の半分になった際、手札からコストを支払わずに召喚しても良い。

その際、この遊戯を闇遊戯と変え、

勝者は敗者に1つ条件を突き付ける事が出来る。

尚、上記の効果が発揮された際、全ての場所にいる自身のユニットは攻撃力を10増加させる。

 

 

ただ、それだけ。

実際に、場に居る影のユニットの攻撃力が跳ね上がった。

 

されど、結局の所、影はデッキは先細っていくだけであった。

 

圧倒的に数が足りない。

 

 

「処刑官アサエモンで攻撃。対応あるか?」

 

 

いかんせん、攻撃に耐えうる体力が足りていない。ドローリソースも枯渇している。

 

攻撃力に偏重した大量召喚型の影のデッキは、牧間のユニット破壊デッキと絶望的までに相性が悪かった。

 

数ターン後、影は普通に、ただ淡々とライフを削りきられて負けていた。

観衆と、そして、牧間の描いた未来設計図、その通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、現代社会における神札遊戯は単なる娯楽の域を遥かに超越した。

 

神札による遊戯は、人類が発見した最も公平かつ再現性の高い意思決定手段として認識されている。

 

 

裁判。

企業買収。

外交交渉。

資源配分。

宗教的対立。

 

 

あらゆる利害関係の最終決着は神札遊戯によって行われる。

国家間の戦争ですら例外ではない。

 

軍事衝突そのものが消滅した訳ではないが、最高権力者同士による神札遊戯で決着を付ける事が最も名誉ある解決方法とされてきた。

 

実際に、近代以降の大規模戦争の多くは神札遊戯による講和交渉によって終結している。

 

 

無論、勝敗は単なる娯楽上の結果ではない。

 

神々は勝者を祝福し、敗者を見放す。

それは宗教的比喩ではなく、観測可能な現象として証明されていた。

 

故に人々は神札を学ぶ。

 

幼児は神札を覚え、

学生は神札を競い、

企業は神札使いを雇用し、

国家は神札使いを保護する。

 

 

この世界において神札遊戯の強さとは、単なる競技能力ではない。

 

 

知性。

精神力。

政治力。

統率力。

人格。

信仰。

そして、生き様。

 

人間という存在そのものの総合評価である。

 

 

 

故に、世界ランキング上位者達はスポーツ選手でも芸能人でもない。

特にソブリン以上の者達は、国家元首に匹敵する影響力を持つ超越者であった。

 

 

 

 




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