浜本大学付属高等学校。
その高校には芸術・文化コースが存在し、そこに募集定員を大幅に超える生徒募集が送られてくる。
しかし、その学校で才能無しと判断されたものは敷地内にある豪華な特別寮、普通な一般寮から遠く離れた場所にあるさよなら寮へと移される。
これはそのさよなら寮に移された少年の物語。

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さよなら寮

「第25回文学小説大賞一次選考落選、第20回ファンタベル大賞一次選考落選……ただのスランプだと思っていたのだがどうやらこれが君の実力らしいね。増野君」

そう言いながら校長先生は選考の結果書類を机の上に放り投げた。

「中学生の時に送った作品が芥川賞選考会にて大賞候補に選ばれたことで君はこの文化芸術コースへ推薦で入学してきた……そうですね?」

「え、ええ。まあ」

 

浜本大学付属高等学校。この学校は偏差値も全国でトップクラスというわけでもなくかといって何かの部活動で全国のてっぺんを取り続けているというわけでもない。でも、この高校は毎年、定員枠を100倍を上回るほどの募集人数が来る。

 その理由としてはこの学校が文化・芸術に秀でている者を集め、将来の巨匠なり名監督なりを生み出すために設立された文化・芸術コースがあるため。一応、普通科もあることはあるもののそちらは毎年、定員割れを起こすくらいに応募人数が少ない。

 

「中学生での大賞候補は最年少の記録でした。その当時、大賞作品よりも大賞候補作品が脚光を浴びるという状況に陥ってしまうほどの反響ぶりでしたが今では見る影もありませんね」

 

 うぅ。校長の仰る通りだ。文学作品というお堅い作品を止めてライトノベルに挑戦しだした辺りからどの省でも一次選考で落ちるようになってしまったし、もう一度文学作品に戻ってもからっきしの結果。

 今じゃあの人は今って感じだからな。

 

「あ、あのそれで俺を呼び出したのって」

「ふぅ……分かっているでしょ。これです」

 

そう言い、校長は胸ポケットから折りたたまれた一枚の用紙を机の上に置いた。

その用紙を見た瞬間に描かれている内容が分かった気がしたけどとりあえず振り払ってドキドキしながら紙を手に取り、ゆっくりと開けて書かれている内容を見た。

 

「…………」

「君には特別寮から2ランク降格のさよなら寮に入寮してもらいます」

「……い、一般寮への降格の間違いなんじゃ」

「いいえ。さよなら寮への降格です」

 

 この学校には文化・芸術コース在籍の生徒は基本的に入寮しなければならない。その寮にはランクが存在し、一番上がさっき言っていた特別寮、次に一般寮、そして最後はさよなら寮。一番上は最前線で活躍しているような実績を出している連中が所属する寮、一般寮はなんとか大賞とかの賞に応募すれば確実に一次選考は突破し、大賞候補にまで残る実力がある連中や何らかの活動をすれば少しは話題になる奴らが所属する寮……そして最後のさよなら寮は言葉の通り、学園が活躍の兆しなしと判断した生徒たちが集められる別名・退学前の理想郷。

 

「そ、それだけは勘弁を!」

俺は大声で叫びながら土下座をするが校長は言葉一つ発さない。

「お願いします! 俺、約束したんです! 活躍するからって! 後一回! 後一回だけ大目に見てください! 実はまだ選考に応募している作品があってそれが明日に発表なんです!」

「残念ながらこれは先週付で決定した物です。今更変更はありません。さっさと荷物をまとめて新たな寮に引っ越しなさい。私はこれから職員会議があるんでね」

「お、お願いします校長先生! 後一回だけ! 今回のは自信があるんです!」

「いい加減にしなさい。前回もそう言って一次選考落ちでしたね。正直に言いましょう」

 そう言い、校長は俺と目線を合わせるためにしゃがみこんで俺の両目を見てきた。

「君は"才能無し”と判断されたんです。この学園に才能無しは必要ありません。では」

 そう言って校長は部屋から出て行った。

 後に残された俺は悲しいやらなんやらの感情が入り乱れになってよく分からない状態になり、大粒の涙が両目からポロポロとこぼれてきた。

 終わった……完璧に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数時間後、なんとか立ち上がって寮へと戻ろうとするが俺の荷物が寮の入り口に無造作に置かれており、服などには誰かが踏んだ跡まで見えた。

 ……こうなるわけないって思ってたのにっ!

 悔し涙を流しながらも服をカバンに押し込み、そそくさと特別寮の玄関前から離れようと寮に背を向けた瞬間、頭に何かがぶつかり、地面に落ちたので下を向いてみると一枚の紙クズが落ちており、それを拾って中身を見てみるとお疲れ、才能無しと大きく赤のマジックペンで書かれていた。

 

「……くそっ!」

 グシャッ! と握りつぶし、後ろを向かずに特別寮から離れて学校の敷地の外へ出て渡された紙に書かれている地図を見ながらそのさよなら寮へと向かうとどんどん学校から離れていく。

 ……ハァ。俺も才能無しの烙印押されたか……何回かそんな奴見てきたけどどいつも絶望しきった顔して泣いてたな……今、俺がそんな状況か。さよなら寮に行った奴らは例外なく1カ月もすれば学校で見なくなり、2カ月もすればクラス名簿からそいつの名前がなくなってたな。

「ていうか遠すぎるだろ!」

 

 まだつかないのかと思い、時計を見てみると既に歩き始めて15分が経過していた。

 にも拘らず寮らしき建物が見つからないと言う事は相当、才能無しの連中を隔絶したいのか学校から遠い場所に置かれていると言う事になる。

「……もうこのまま実家に帰ろうかな」

「退いてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 そう呟いた時、そんな叫び声が聞こえてきて後ろを振り返った瞬間! 涙目で茶色の髪を風で羽ばたかせながら自転車のハンドルを掴んでいる少女の乗っている自転車が下り坂を凄まじい速度で走りながら俺に向かってきた!

 な、なんだあれ!? い、いやあれ避けねえと俺が死ぬ!

 

「うぉっと!」

「とぅぅ!」

 俺が避けるとそのまま自転車は止まることなく猛スピードで通り過ぎていくが少女は荷物を手に持ち、サドルから空中へとダイブし、自転車から脱出した。

「ちょ、ちょっと退いてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ごぶぁぁ!」

 少女の叫びがやけにスローの様に遅く聞こえたかと思えば突然俺の眉間辺りに衝撃が走るとともに視界の半分が何かで覆い隠され、さらにそのまま後ろへと体がもっていかれ、体がふわっと浮かび上がって俺の手から荷物たちが離れていくのを見ながら吹き飛んでいき、バシャン! と近くの小さな池に落ちた。

 小さな池だったので深さもそれほどなく、普通に立ち上がれたが周りの好奇な視線が痛く刺さる。

 ……俺、マジで今日死ぬんじゃねえの。

 

「す、すまない! 大丈夫か!?」

茶髪の少女が慌てて駆け寄ってくるが一瞬、驚いた表情を浮かべるとそのまま後ろへとダッシュで下がった。

「貴方も早く来て!」

「は? 何をいっだぁ!」

 突然、後頭部の辺りから痛みが走り、池に何かが落ちたので後頭部を抑えながら振り返るとそこにはさっきまで少女が乗っていた自転車があった。

 そして前方をよく見てみると何故かうまい具合にトラックにスケボーなどで使われているような壁が乗せられており、荷台からスロープが降りていた。

 ……まさかあのスロープを自転車があの速度のまま進んでクルンと一回転して俺に向かってきたってのか……マジでこのままいったら俺に小隕石でも衝突して死ぬんじゃねえの。

「だ、大丈夫か? 色々と」

「……精神的にも肉体的にも色々とヤバいです」

「そうか。まあ、大丈夫そうで良かった」

「いや、大丈夫じゃって話聞けよ!」

「んじゃ! 私急いでるのでな!」

「お、おい! ちょっと待てよ!」

 

 少女は大急ぎで自転車を池からとって地面に置くとそれに跨り、俺の静止も聞かずにそのまま猛スピードで駆け抜けていき、すぐに見えなくなってしまった。

 …………あれ、初めに飛び降りるんじゃなくてブレーキかけたらよかったんじゃねえの? てか普通の人はブレーキをかけると思うんだけど。

「とんだ最悪な日だ」

 飛んでいった荷物を回収し、再び地図に書かれている寮の場所へと歩き始めた。

「目は痛いし、後頭部は自転車にぶつけられるし…………あ、ここ……なのか」

 

 そんなことを呟いているとさよなら寮と書かれた建物が見えたがそのあまりの姿に俺は開いた口がふさがらなくなるとともに持っていた紙を落としてしまった。

俺の目の間に建っている建物は木造の家で寮名が書かれている看板も思いっきり傾いている。

「とりあえず……入るしかないよな。一応、高校生だし住む場所もいるし……ん? ん! 開かない」

 意を決し、扉を開けるが途中まで開いたところで何かに突っかかっているかのように動かなくなり、何度も強く動かしてみるがまったく動かない。

「こういう場合は蹴ればいいんだ。よし……くそがぁぁぁ!」

 さっきまでの不幸を叫びにして全力で扉を蹴り飛ばすしてからもう一度扉を動かしてみるとさっきの蹴りが効いたのか止まることなく扉が開いた。

 

「ばーん!」

「っ!」

 

 突然、視界が真っ暗になると同時に柔らかく、若干ベタベタしているものが顔いっぱいに付着した。

 ……これ、パイだよな。

そう思いながら舌でちょっと舐めてみるとほんのりと甘いクリームの味がし、舌で少し押したときにベロッと顔から何かがはがれて地面にべチャッと落ちた。

 

「にゃははははははははは! これぞ根古屋梓秘伝の術! いつもは避けられていたがタイミングをずらし、さらには貴様の日常の行動パターンを研究・分析して……誰、君」

「……ふん!」

「にゃっ!」

 

 憎しみをふんだんに込めながら床に落ちたパイが乗った紙皿を取り、思いっきり投げつけてやると奴の顔面にパイが若干残っている紙皿が付着した。

 

「き、汚! こんなもの投げないでよ!」

「俺が言いたいわ! 初対面の相手にパイ投げやがって……今日からここに住む増野忠弘です。よろしくお願い」

「隙ありセカンドボム!」

「効かぬわ!」

 

 奴が投げてきたと同時に瞬時に屈み、二弾めのパイボムを回避するが何故か後ろから壁に当たった音とは違う音が聞こえるとともに背後からすさまじい圧力を感じた。

 ……な、なんだこのクマに睨まれた時に動けなくなるような感覚はっ! ま、会ったことねえけど。

「し、知~らない!」

 そのままパイボム少女はダッシュで逃げて行った。

「いったい何がいるってんだ………………ふぅ。俺の部屋は」

 

 背後の光景を見てから回れ右をしてダッシュでこの場から消え去ろうとするがガシッと肩を掴まれた。

「今後ろ向いて前向いたね?」

「は、はぁ? しょ、初対面の奴が顔面にパイ被ってたらそりゃ誰でも」

「滅殺!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からさよなら寮に住むことになった増野忠弘君だ。仲良くしてくれ」

 と、この寮の長である俺の眉間のあたりに着地した少女---二宮怜奈が同居人に俺を紹介するが顔に氷を包帯で止めている俺を見て全員変な空気になりながら晩飯を食っていた。

 俺にパイをぶつけてきた副寮長である根古屋梓、何故か食事中にもかかわらず、水泳で使うゴーグルをつけて黙々と晩飯を食っている資金管理役の長浜栄太。そして俺の4人が今現在、さよなら寮に住んでいる住人らしい。

 

「いや~ごめんね。まさか君が入ってくるとは思わなくて。ま、よろしく頼むにゃ」

「死ね」

「にゃはは~」

 恨みを込めてそう言ってやるが根古屋は笑みを消さずに俺に笑いかけてきた。

「ここでのルールはあまり他の寮と変わらないが暗黙の了解として互いの経歴については聞きださないようにしているんだ。そう言う連中が集まっている寮だからな」

「はいはい。誰のも聞く気ねえよ……」

 ひとまず、さよなら寮からのランクアップは可能なんだ。卒業するまで残り2年と半年。その間に特別寮に戻れるくらいの実績を作ってこんなボロッちい寮から出てってやる。

「もし他に何かわからないことがあれば寮長である私に聞いてくれ。私の部屋は君のちょうど前だ。あ、あと風呂はちゃんと男と女で分かれているからな」

「どうも。ごちそう様でした」

「あ、あと皿は各自で洗ってくれ」

 

 そう言われ、流しに皿を突っ込んで適当に水洗いして目に見えるソースなどを洗い流し、食洗器に皿を突っ込んでから俺の部屋がある2階へと上がり、自分の部屋に入り、ベッドに横になった。

「……絶対にここから抜け出て戻るんだ。俺は活躍しなきゃならないんだ」

決意を再確認し、その日は1日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでだよ」

 翌日の朝、降格の通知を受ける前に送っていた作品の結果が発表されるので専用サイトに向かい、そこで自分の作品の名前を探すが同じ名前はどこにもなかった。

 ……結局、あの通知を受けなくてもどのみちおれは降格処分だったのか。

どのみち変わらないその結果を考えれば考えるほど体から力が抜けてベッドに座り込んだ。

「…………このまま俺ってこの寮に卒業までいなきゃならないのか」

「増野。起きてるか? 朝食が出来たから降りてきてくれ」

「……いらない」

 

 ドア越しから聞こえてくる寮長の言葉にそう返答し、ベッドに横になるがドアの鍵が開いた音がしたかと思えば扉が開かれ、寮長が俺の部屋に勝手に入ってきた。

「なんだ。まだ荷解きもしていないのか」

「勝手に入ってくんなよ」

「………………」

 

 パソコンの画面付きっぱなしだから俺だ何をやってて何でここに送られてきたかばれたかもな……でも、いっそのことばれて笑われた方が良いかもしれない。笑われて悔しさを力にできれば……。

 

「……増野。君の力を借りたい」

「はぁ? いきなり何」

「詳しい話は下でしたい。来てくれないか」

 

 寮長の顔を見ると真剣な表情をしていたので俺もそれを無視することはできず、ベッドから起き上がって下へ向かうと既にほかの住人たちが朝飯を食べていた。

 なんで会計担当の奴はいつも水泳のゴーグルをしてんだ。

 

「あ、おはようにゃ~。ずいぶんと顔が暗いけど大丈夫?」

「さあ……で、話ってなんだよ」

 椅子に座り、朝飯のパンを口へ放り込みながらそう尋ねた。

「あぁ。2人にはもう話したと思うが実はさよなら寮でボランティア活動をしようと思うんだ。そこでまず引き受けたのがこの近くにある幼稚園での紙芝居の読み聞かせをしたいと思うんだ。一応、準備はしてきたんだが1つだけ問題が発生している」

「紙芝居聞かせるだけだから問題らしい問題なんてないだろ」

「あるんだよ……聞かせるのは私たちオリジナルの紙芝居だ」

 

 それを聞いた途端、寮長が言っていた俺の力を借りたいという言葉の真意がわかった。

 小説家になろうとしている俺がオリジナルの紙芝居の脚本をしてくれってことか……。

 

「何作品か書いてみたんだがそれを君に見てもらいたい」

 そう言い、寮長はテーブルの下に置いてあった袋から10枚でクリップで止められた冊子を3冊取り出し、俺に手渡してきた。

 ……まあ、読むだけなら別にいいか。

 そう思い、冊子を受け取って朝飯を食いながら話の内容を読み流していく。

 1冊目は寮長が書いた1人ぼっちの男の子が努力して友達を作っていく話、2つ目は根古屋が書いた1匹の猫と飼い主の話、3冊目は長浜が書いた水泳少年の話。

 …………酷くね? 

「どうだろうか」

「……寮長が書いた奴は園児向けの紙芝居とは思えないくらいに難しい言い回しだったり言い方がありすぎる。根古屋のは園児でもわかるけど視点が猫だったり、飼い主に変わったりしてるから園児はそれに付いていけない。長浜のは読者おいてけぼりの持論展開しすぎてる」

「うにゃ~。酷評はきついにゃ」

「そうか……増野。どうすればいいだろうか」

 

 そうだな。3人の話を合わせて言い回しをもっと園児向けにすれば十分、読み聞かせで通用……何で俺、こんな真剣に考えてんだ。

 突然、自分とは関係ないお話を考えていることを馬鹿馬鹿しく感じてしまったが途中で投げ出すわけにもいかないのでとりあえず、最後まで考えてみることにした。

 

「3人の話を合わせてみればいい。たとえば……猫しか友達がいないある少年は泳ぎがとても下手くそ。でも今度の水泳のテストで合格しないといけなくなった少年は練習を始めるけど一人ぼっちだから教えてくれる人はいない。そこで飼い主を心配した猫が泳ぎがうまいクラスの子を誘導してその子に会わせた……とか。それをきっかけにその子は友達が増えて無事に水泳のテストにも合格しました……でいいんじゃないのか」

「なるほど……増野。私的にだが一人称を全て猫に統一してその猫が友人のねこに助けを求めるとはどうだ?」

「だったら猫ちゃんの名前もいっぱいだそうよ!」

「猫集会の様子も出したら? 泳ぎがうまい奴はあいつだとか」

 

 1つ意見を言い出せばドンドン頭の中からアイディアが湧き上がってきて3つの話が違和感なく、旨い具合に重なっていき、一つの物語へとなっていく。

「出来た……出来たぞ! よし、急いで絵をかくぞ! 増野も手伝ってくれ!」

「え、ちょ」

 

 有無を言わさずに寮長に手を引っ張られて2階の寮長の部屋に連れて行かれ、部屋の中へ入れられるとその後ろから2人が入ってきて机の上から画用紙を取り出し、床に色鉛筆をばら撒くように置くと各々、シーンに合わせて絵を描いていく。

 ……はぁ。何で俺、こんなことにむきになってやってんだろ。

 

「これなら明日に間に合いそうだな!」

「学校はどうすんだよ」

「もちろん放課後だ。完成させるぞ」

 俺たちは夜になったのに気付くまでひたすら絵を描き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、完成した紙芝居をもって俺たちさよなら寮の住人達は近くの幼稚園に来て、園児たちが大勢集まっている大きなホールに園児たちの前に立っていた。

 ……校門前で根古屋と長浜に担がれたかと思いきや幼稚園まで連れ去られてしまった……俺まで読み手か……俺、喋るよりも文字書く方が好きなんだけどな。

 

「は~い。皆さん静かに」

 幼稚園の先生らしい女性がそう言うと園児たちは一斉に黙った。

「今日はお兄さん、お姉さんたちが紙芝居を作って読みに来てくれました。みんな静かに読んで、終わったらちゃんと大きく拍手するように。じゃ、お願いね」

 

 先生が寮長に言うと寮長は首を縦に振って大きなカバンから紙芝居を取り出し、机の上に置いた。

「んん! 猫ちゃんず! 水泳大作戦!」

 寮長が声を張ってそう言うと園児たちから大きな拍手が送られてきた。

 ていうか誰だ、タイトル考えたのは。

「友達がいない少年に飼われている猫がいました。その猫の名前はニンザブロウ」

 せめてタマとかにしろよ。どっかの俳優か。良い具合の埃加減の部屋でいつも猫集会ってか。

「ニンザブロウは言いました。今日、解決したい問題はお友達が1人もいなくて泳ぐことができない少年・新太郎君を泳ぐようにすることだよ」

 寮長がそこまで読むと今度は根古屋にチェンジした。

「ニンザブロウの子分であるマボーロ君は言いました。新太郎君のクラスに泳ぎが上手な子がいるにゃ! その子を新太郎君に合わせればきっと泳ぎ方を教えてくれるはずにゃ! マボーロ君の考えにみんな賛成しました。猫ちゃんず! 作戦開始!」

『かいしー!』

 

 根古屋が腕を上げながらそう叫ぶと園児たちも楽しいのか同じように大きな声を上げながら腕を上げた。

 その様子を見ながら読み手が根古屋から未だに水泳のゴーグルをつけている長浜へと交代した。

「猫ちゃんずは泳ぎが上手な太郎君のゴーグルを口にくわえて走り始めました! それを後ろから太郎君も追いかける! 逃げる逃げる逃げる! 猫ちゃんずは捕まりそうになりながらもパスを繰り返し、太郎君の手から必死に逃げていきます! そしてマボーロ君にゴーグルがパスされるとマボーロ君は猛スピードで走り始めました! 俺の特技は走りなんだにゃ! 人間ごときに捕まる速さじゃないにゃ!」

そこまで読むと長浜が俺の後ろへとまわった。

 ……俺も読むのか。

「……マボーロ君は猛スピードで学校のプールへと駈け出していき、入り口の陰に隠れました。するとマボーロ君を追いかけていた太郎君がプールの中へと入ってきました。そこでは新太郎君が泳ぎの練習をしている最中でした……太郎君は新太郎君の泳ぎ方を見てこう言いました。もっと足を動かさないと。新太郎君は太郎君のアドバイスを聞き、足をもっと動かすとさっきまで少しも泳げなかった太郎君が少し泳げました! その後、新太郎君は太郎君に泳ぎ方を習い、無事に水泳のテストの合格することが出来ました。

やったね! 猫ちゃんずの作戦は大成功だ! 猫ちゃんずはその様子をひっそりと見ながら喜びましたとさ。めでたし、めでたし」

 

 最後の紙をめくり、机に置くとホールは静寂に包まれた。

 ……まあ、正直最後らへんの話の持っていき方はおかしすぎる……流石にこんな終わり方じゃ分からないか。

 と、思った瞬間ホールに拍手の音が大きく響き渡るほどの大きな拍手が園児たちから俺たちに送られてきた。

 

「ありがとうございました! みんなすごかったね! 感想言ってみようか!」

「えっと、猫ちゃんずはとってもかわいかったです!」

 

 先生に言われ、立ち上がった園児がそう言うと俺も俺と次々と園児たちが立っていき、最後まで紙芝居を見た感想を言ってくれた。

その感想を聞いている間、どこか恥ずかしくなってしまい、あまり園児たちを見ることができなかった。

 その後、園児たちからお礼の手紙の詰め合わせを貰い、幼稚園を後にした。

 

「んん~! 不安だったけどなんとかなったにゃ~」

「……疲れた。帰って寝る」

「そうだな。だが、よかっただろ。増野もよくあんな時間で話をまとめ上げてくれた。君が話を考えていなかったら紙芝居は成功していなかっただろう。ありがとう」

「……ん。そりゃ、どうも」

 …………まあ、息抜きにはちょうどいいかもな。でも、俺は必ずさよなら寮を抜け出してまた特別寮に戻ってやる……この寮で卒業なんて絶対に迎えない。

 こうして期間限定のさよなら寮での生活が始まった。


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