今朝、何人かの新入生が登校中に『バスジャックに巻き込まれた』との連絡が学校に届いた。
幸い死傷者は出なかったものの、職員室は朝から大騒ぎ。よりにもよって、入学式の日に面倒ごとが増えるなんてね。
教師にとって新学期は繁忙期――なんて生ぬるい言い方、笑えるわ。地獄よ、地獄。
ただでさえブラックだって言われる仕事なのに、普通の学校と毛色が違うここじゃなおさら。
新学期が始まれば、今度は学生の相手をしなくちゃいけない。毎日毎日、生意気な学生に舐められるし給料だってあまり期待できない。
馬鹿みたいに多い業務量で、最近はまともに眠れていない。お肌にも悪いし、目の下のクマは厚塗りのファンデでごまかすしかない。
教師という職業には、つくづく吐き気がする。
本来やるつもりじゃなかっただけに、そう強く思う。
「はぁ……」
誰もいない職員室で、ひとりため息をついた。
今はちょうど入学式の最中。他の教師はみんな体育館に出払っている。蛍光灯の唸りと、コピー用紙のインクの匂いだけが残った部屋。
「堅苦しくてつまんない話を聞かなくてよくなったのには、この子たちに感謝しなきゃね」
独りごちて、端末のモニターに目を戻す。学校支給の管理画面――〈新入生一覧〉〈年間スケジュール〉〈特記事項〉などなど。
その中から〈新入生一覧〉を選択し、ずらっと並んだ名簿から目的の名前を拾い上げた。
「工藤新一くんと、毛利蘭さんね……」
試しに『毛利蘭』をクリックしてみれば、顔写真に加えて、中学時代の成績や内申点、所属していた部活、家族構成、といった個人情報がずらっと表示される。
昨夜に大急ぎで自身が受け持つ生徒くらいはざっと目を通したけど、顔と名前を一致させたくらいなのよね。
毛利蘭。
勉強は平均以上で、小さい頃から空手を習っていたらしく運動も得意。優等生ではあるも、さして珍しい生徒ではない。
流し読みしつつ、一度『家族構成』の項目で目が留まる。
「父親は私立探偵で、母親は弁護士か」
うちの学校はいろんな生徒が入学してくる。
言葉通り、本当に様々な。親が私立探偵というのはちょっと珍しいけど、弁護士はそれほどでもない。
今回の探偵めいた言動はこの子の親の影響かな? なんて考えつつ、次は『工藤新一』をクリックしてみた。
「頭脳運動ともに抜群でサッカー部ではエースを務めていた、と。お手本みたいな優等生ね。えーっと父親が……工藤優作!?」
小説を好まない私でも知っている。
書店の平台に積まれていた『
私立探偵のご息女と、推理小説家のご子息。
二人は幼馴染で、今朝の騒動を収めたのもこの二人。
親の偉大さを子供に投影するのは好ましくない。
それでも、期待せずにはいられないのもまた事実だ。
柄にもなく、胸がざわつくのを自覚した。
「まさか今年こそ……?」
そこまで口にしたところで、ガララと扉を開く音が聞こえてくる。慌てて〈新入生一覧〉のタブを閉じて姿勢を整えた。
「すみません、遅れました!」
「ご苦労さま。ごめんね~? 本当は校門まで迎えに行きたかったけど忙しくて。迷ったでしょ?」
「いえ! 全然迷って……ません!」
隣に立つ少年をジト目で見ながら答えたこの子が毛利さんね。
毛利さんの視線をものともせず、物色するように職員室を見渡す少年が工藤くん。
ジト目の理由は気になるけど、入学式が終わるまでの間にとっとと本題を済まさないといけないわ。
「本当は今の時間、入学式に出席してもらってるけど、二人にはこの学校について説明しちゃうね。他の皆には入学式前に聞いてもらってる内容なの」
私が説明を始めてやっと、工藤くんが目を向けてくる。整った顔立ちをしてるなぁ。手を出しちゃいたいけど、クビにはなりたくない。
「君たちはBクラスで、担任はこの私、
「毛利蘭です、お願いします!」
「工藤新一です」
律儀に頭まで下げてくれる毛利さん。本当に良い子だわ。工藤くんも会話をする意思はあるみたいだし、今年のクラスに問題児はいないみたいで一安心ね。
「それじゃあ、まずはこの資料に目を通してもらおうかな。内容は入学前に案内したものと同じだけど一応ね」
この学校『高度育成高等学校』には、いわゆる普通の高等学校とは異なる特殊な部分が存在する。
1.寮での学校生活の義務付け
2.在学中は特例を除き外部との連絡の一切を禁止
3.許可なく学校の敷地内からの外出を禁止
たとえ肉親であったとしても、学校側の許可なく連絡を取ることは許されない。背後に国が絡んでいるからだったり、運営方式的にも、情報漏洩とかには厳しいのよね。
ただしその反面、生徒たちが苦労しないよう数多くの施設も存在する。カラオケやシアタールーム、カフェ、ブティックなど、小さな街が形成されているとも言えるわね。大都会のど真ん中にして、その広大な敷地は60万平米を超えている。
そしてもう1つ、これが今後重要になってくるのよね。
「最後にSシステムの説明をするね」
そう言って、引き出しから2枚の学生証を取り出す。それぞれ、毛利さん用と工藤くん用だ。
「今から渡すこの学生証カードを使えば、敷地内にあるすべての施設を利用できたり、売店などで商品が購入できるよ。クレジットカードみたいに思ってくれていいかな? ただ、使うたびにポイントを消費していくから使いすぎには注意してね? 学校内においてこのポイントで買えないものはなくて、学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だよ」
資料から顔を上げた工藤くんと、一度だけ視線がぶつかる。質問が来るかと思ったが、口は閉じたまま。最後まで説明を聞いてからにするのかな?
「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用可能だよ。使い方はシンプルだから迷うことはないと思う。それからポイントは毎月1日に自動で振り込まれるよ。あなたたち含め、他のみんなにも平等に10万ポイントが既に支給されているの。ちなみに、1ポイントにつき1円の価値があるけど使い過ぎには注意ね?」
「10万ポイントも頂けるんですか⁉︎」
両手に持つ学生証を振るわせ、口をぱくぱくさせる毛利さんの様子に私は目尻を綻ばせた。
この子達の家庭がどれだけ裕福で、どれだけ甘やかされてきたかはこの反応を見ればおおよそ分かるのよね。リアクションの薄い工藤くんは甘やかされた側かな?
なんにせよ、10万という金額は高校生にしてはかなり大きいことに変わりはない。
「驚くことじゃないよ。この学校は実力で生徒を測ってる。入学を果たした時点で、あなたたちにはそれだけの価値があるって学校が判断したってこと。気にせずどんどん使っちゃって! あと、このポイントは卒業後に学校側が全て回収することになってるから、ポイントを現金化することはできないよ。卒業間近に沢山持っていても得はないから、その時は誰かにあげちゃっても問題ないよ〜。ポイントを譲渡することは可能だからね。あ、でも無理矢理カツアゲとかはしちゃ駄目だめだよ? 学校はいじめ問題にだけは結構敏感だから」
これで説明は終わり。
毎年繰り返し伝えられる常套句みたいなもの。
この説明を聞いた生徒の反応は大きく2つ。
毛利さんみたいに、急な大金に驚き懐疑的になる生徒。そして反対に裏の意味なんて考えず、湯水のように遊び呆ける生徒。
別に後者が悪いとかの話じゃない。私だって急にぽんと10万円貰えれば嬉しいし、きっと上機嫌で買い物や遊びに出掛けると思う。というか実際そうだった気がするし。
そしてそのどちらでもない生徒。
もっと正確に言えば、高額である意味を懐疑的になったその延長。
実際に行動に起こす生徒だ。
「これで説明は終わり。何か質問ある?」
「気になることは3つです」
ほら来た。
少し姿勢を整え、事前に知らされている『答えていい範囲』を思い返した。教師側に用意されているマニュアルだ。公平性を期して、生徒たちに答えちゃいけない内容が往々にしてあるのよね。
「ひとつは、ポイントに関してです。毎月1日に振り込まれるとのことでしたが、それは今後も一律10万ポイントという認識で間違いありませんか?」
これはよくある質問ね。
全体の生徒数から年間に使われる金額を算出すれば、容易に気付くことができる違和感。
「間違いないよ。ただ、いじめなどの問題行為の事実を学校側が認識すればポイントの没収もありえるわ。問題の程度によっては最悪、没収じゃ済まされないかも」
「停学……あるいは退学ですね」
「そうだね。でも安心して! 学生として当たり前のことをしていれば、基本的にはそんなことにならないから!」
生徒に答えていい範囲のギリギリ。
ほかの教師は『答えない』選択を取るかもしれないけど、別に嘘は付いていない。ほか生徒との公平性も守られてる。いじめ問題を抑止する教師として当然の発言だから、このくらい問題ないでしょ。
「ふたつめは、先ほど説明された『この学校は実力で生徒を測る』の言葉の真意です」
「真意って、そのままの意味じゃないの? 授業の態度やテストの結果で生徒の実力を見るんじゃ?」
毛利さんが慌てて割って入る。
一度工藤くんが私に視線で許可を求めてきたので、話を続けるよう頷きで返した。
「入試を受けた時に思わなかったか? 思ったより難しくない、ってよ」
「言われてみれば確かにそうだけど……。それが何か関係あるの?」
「この学校は、優秀な人材教育を目的として日本政府が作った学校のはずだ。『希望する進学・就職先にほぼ100%応える』なんていうキャッチフレーズ付きでな」
「うーん、たしかに思ってたよりは難しくなかったけど、それでも普通に難しかったわよ? 特に数学とか……」
「それはオメーが苦手なだけじゃねぇか……」
生徒の多くが『高度育成高等学校。進学率・就職率ともに脅威の約100%!!』なんていうキャッチフレーズに惹かれて入学してきたはず。日本政府が立ち上げた学校だけに、詐欺だなんて疑わずにね。
だからこそ、入試は厳しいモノのはず。
そう考えても仕方ない。
にもかかわらず、拍子抜けする難易度だった。
たしかに、入試の問題は難関校と比べたらそれほどでもない。私も目を通したからよく覚えてる。
それでも、難しくも簡単でもない、違和感を覚えない程度の難易度だったはずよ。
二人の入試の順位を思い出してみる。
主席は一之瀬さんで……ふたりともかなりの高順位よね? 工藤くんなんて一桁だった気がする。
朝のホームルームでの帆波ちゃんに、入試への違和感を抱いていた様子はなかった。Sシステムの本来の意味には気づいているっぽかったけど、それだけ。
入試では手を抜いていた?
それとも……。
「年間120人いる生徒ひとりひとりの希望を確実に叶えるっつったって、言葉は悪いが『そこそこの生徒』が無条件で大企業に入社できるとはとても思えねぇんだ。いくら政府からの圧力があったとしても、企業や大学からは反感を買うだろうぜ。だから、どこかでふるいにかける必要がある」
「それが入試ってこと?」
「ああ、入学前の説明だけを聞けば、入学さえ出来たらあとは出世確定のレールが敷かれたようなもんだからな」
「その入試があまり難しい内容じゃなかった……学力だけで生徒を選んでいないってこと? それとも教育にすごい自信があるんじゃ?」
「学力以外なら、面接試験……もしくは中学の時の成績や内申点くらいか? 入試段階じゃ選別項目なんて限られてる。わざわざ学力を除外するなんてことはないと思うぜ。もしくは学校固有の基準があるかだが……なんにせよ、教育に自信があるってことになるわけだ。だが、そうなるとさっきの発言がひっかかるんだ」
「それが『この学校は実力で生徒を測る』ってこと?」
「教育によほどの自信があって、120人の生徒全員を優秀な人材に育成させるなら『実力で生徒を測る』って言葉は使わないはずだ。『生徒の実力を伸ばす』だったり『生徒の実力を育てる』だったりな。唯一実力を測っている入試があの様子だったことを考えるに、これからの学校生活で『実力を測られる』って考えるのが自然だ」
「それだと矛盾しない? だって生徒全員の進路が担保されているんだから、わざわざ実力を測る必要ないじゃない。そんな優劣をつけるようなことって……」
「進路を担保されているのが、生徒全員じゃないんだとしたら?」
うそ、と思わず口から出そうになった言葉を慌てて引っ込めた。態度に出しちゃダメだと自分に言い聞かせる。
「ちょっと考えたら分かると思うぜ? 生徒全員の進路を叶えるってのは現実的に厳しいんだよ。軍隊みたいな厳しい教育をさせるにせよ、10万ポイントなんて大金配らないし、ご丁寧に娯楽施設も用意しない。飴と鞭を上手く使い分けるにしても、学校側の説明じゃ『毎月10万円貰える』って勘違いする生徒が大半なはずさ。遊び呆けるだろうぜ。最低限の生活さえ守ってりゃ、自分の好きな大学でも企業でも行けるんだからな」
「ちょっと待って、毎月10万ポイント貰えるわけじゃないの!? さっき新一が聞いて、星之宮先生も間違ってないって……」
「学生として当たり前のことをしてればな」
「それっていじめ問題とかでしょ? いくら希望する進路に進めるからって、最低限のラインはみんなあると思うけど……」
「いじめ=学生って連想されがちだが、別に学生だけに限った話じゃないんだ。社会に出てもいじめ問題は存在するし、『いじめ』なんて括っちゃいるが要は暴行罪、脅迫罪、強要罪といった立派な犯罪行為さ。『学生として』って表現は的確とは言えない」
「じゃ、じゃあ何が学生として当たり前の行為なの?」
「簡単だよ。遅刻や欠席、授業態度といったところか? ガキの頃から当たり前に躾られてることさ。その証拠に、至る所に設置されてる監視カメラ。さすがにトイレといったプライベートルームには無かったが、あれで見られてるって考えていいだろうぜ」
職員室にも設置されている監視カメラを指差しながら、自身の見解を述べていく工藤くん。
「監視カメラって、普通に安全面を考慮してるんじゃないの? 別にそこまで違和感を覚えるほどじゃ……」
「にしては設置されている数が多すぎる。それに、監視カメラってのは『存在をアピールする』だけで防犯効果があるんだよ。防犯グッズのダミーカメラはその効果を利用した奴だな。だが、教室に設置されたカメラはあえて気付かれにくいようにされていた。小型かつ、風景に溶け込むようにな」
なんだか、黙って聞いているだけなのに彼の推理によって丸裸にされていく感覚に襲われる。
「職員室に来る前に学校探検しようって言い出したのはその為だったのね……」
「連れまわしたのは悪かったって。でもおかげで、いろいろ気づくことができただろ? 自販機に0ポイントの飲み物が用意されてたし、コンビニには生活必需品のいくつかが無料になってた。毎月10万ポイント貰えんのに、ここまでする必要あるか?」
「ポイントが無くなった人用にってことだよね……」
「といっても、無料商品を用意するほどの事なのかが疑問なんだ。いじめ問題は例外としても、遅刻や欠席、授業態度が悪いからってポイントがゼロになるってことなんて考えられるか? 厳しめの採点を設けてるか、また別の……ポイントが増減する試験みたいなんが用意されてるとか。俺としては後者の可能性が高いと思ってるけどな」
「ポイントが増減する試験?」
「いくら生徒の授業態度が良くなったところで、それだけじゃ効果は薄い。さっき星之宮先生は、ポイントの減少には触れても、増加については触れてなかった。減るだけ減って増える事は無いなんて、生徒のやる気が削がれるだけ。何かほかに……生徒のやる気を促す何かが用意されてるはずさ。ポイントの増減なんかもそのひとつで――進路優遇のポストを賭けた試験がな」
ごくり、と私は唾を飲み込んだ。
学校が創立されて数十年。はたして、入学初日に『特別試験』の存在にまで勘づいた生徒はいただろうか。
まず思い浮かぶのは現生徒会長――堀北学。
知力や武術に長けているだけでなく、人の本質を見極め評価する力といった、組織を率いるにふさわしい才覚の持ち主。生徒からはもちろん、教師たちからも『歴代の生徒会長の中でも最高』と評されているくらいの傑物。
私はあまり彼を知らない。
資料に目を通せばある程度は把握できるけど、他学年の生徒の内情なんて知る由もない。
それでも、なんとなくだけど、彼でも……歴代最高の生徒会長でも、ここまで確信を付くことなんて不可能なんじゃやないかしら。そう思えてしまう。
「ポストに座れるのが、個人成績の上位複数名なのか、それともクラス単位なのか……。まあ3年間クラス替えが無いことを考えるにクラス単位だろうぜ」
「クラス替えが無いから、クラス単位なの?」
「あ、ああ。他にも理由はあるけど……今はいいだろ、時間もないみたいだしよ!」
はぐらかすように答える工藤くん。さっきまでの勢いはどこへ行ったのかと、訝しむ毛利さん。
たった一つの質問で。
いいえ、彼は普段の何気ない日常に潜む『違和感』を見逃すことなく、ひとつひとつ拾い上げているのよ。
学校のキャッチフレーズと入試の難易度、そして『実力を測る』という言葉から、進学率・就職率100%が生徒全員に適用されないことを当ててみせた。
ひとつめの質問の答えと、敷地内の至る所に設置された監視カメラから、最初の試験内容を言い当てた。
無料商品の存在と、優秀な人材を育成する学校方針から、特別試験の存在にも勘付いた。
言葉は濁していたが、きっと彼なら、2、3年生の『退学者』からクラス分けの真実にも気付いている。
なんなのよ。意味がわからない。
これじゃあまるで、ほかの生徒から1ヶ月分まるまるリードしていることになるじゃない。
いや、彼ならもっと……。
時計を見れば、もうすぐで入学式が終わる。
彼の推理に圧倒されっぱなしで、時間が過ぎるのを一瞬に感じてしまった。
そこでようやく、工藤くんは私へと目を向けた。
「星之宮先生、改めて聞かせてください。『実力で生徒を測っている』……その言葉の真意を」
工藤くんの質問に、私は目を閉じ大きく息を吐いた。
「……すんごい意地悪じゃないかしら? 見事な推理を披露してみせた工藤くんなら、私の立場も事情も察してくれてるわよね?」
笑顔を消し、声の温度を二度下げて、私は告げる。
猫を脱ぎ捨てた私の豹変ぶりに、毛利さんはビクッと肩を震わせた。
なんだか驚きっぱなしで、よそ行きの顔をするのも疲れちゃった。これで式の片付けとか校舎案内もしなきゃだから本当に最悪よ。
そして、相も変わらず表情に変化のない工藤くん。まるでこれが私の素であることを最初から――ってこれは深読みしすぎね。
「ただの確認ですよ。星之宮先生の答えが、肯定でも否定でも、そのどちらでもない『沈黙』を選択されたとしても、それもまた一つの真実ですから」
ホント生意気な生徒。最悪も最悪。
教師なんてやるんじゃなかった。
もっとオシャレで華やかな仕事がしたかった。
それでも。
たった1つの目的を果たす為に、選んだ教職の道。
「随分とすかしたことを言うのね、工藤くんって。そうよ、あなたの想像通り『沈黙』よ。あなたたちには答えられないわ」
私の目的。
それは、サエちゃんの邪魔をするため。
サエちゃんをAクラスに上がることを阻止するためなら私は悪魔にだって魂を売る。
そうやって今までは、ほかの誰かに負けてもいいやと思っていた。自分がAクラスに上がるなんて二の次。
「それで? 3つ目の質問は? もうすぐで入学式が終わっちゃうから早くしてちょうだい」
もしかしたら、なんて思うこともあった。
それでもBクラス止まり。
別に良かった。
過去に囚われたままのサエちゃんが勝手に自滅して、Dクラスに沈んだままだったから。
それでも。
もしかしたら。
「ああ、3つ目の質問は――」
もしかしたら、彼となら。
工藤新一という、名探偵となら――。