余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:はつぼし たろう

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第12話 プロデューサーの本懐は

 数日後、五月一日の朝。

 あさり先生がこっそり教えてくれた定期公演『初』に関する大胆な変更について、学園の方から正式な告知がなされた。

 

 おれにとっての第一報はあさり先生からのメッセージで、その後すぐに初星学園の生徒用ポータルサイトを確認したところ同じ内容が重要連絡として掲載されていた。

 これだけ急でなおかつ重大な告知となると、高等部アイドル科のHRやプロデューサー科の各講義の前なんかにも口頭で周知されることになるのだろう。

 

 で、肝心要の具体的な変更点はというと、ある程度はおれの予想通りになった。

 

 まず、プロデューサー科との担当契約を結んでいる高等部アイドル科生徒に限って、今月から行われる定期公演『初』のオーディション試験に原則参加すること。

 そして、これを従来の共通実技試験の代わりとすること……ここまでは、まぁいいだろう。やはり急遽全員参加というのはあまりにも厳しいし、ただの捨て案でしかなかったのだと思われる。

 それに、あくまで原則であってやむを得ない事情がある場合は不参加も認められるようだし、その場合でも実技試験0点扱いなんてことはなく、別途試験を受けることができるようだ。

 

 で、次の点からもう早速意表を突かれたのだが、この『初』への参加についてはプロデューサー科の学生の評定にも反映されるということが明記されていた。

 ただし、これまた急な変更であることを考慮し、オーディション試験の予定日から遡って一ヶ月以内にプロデュース契約を結んでいる場合は次回からのみという特例措置が敷かれるとも。

 ……元々担当アイドルを持って実績を上げることはプロデューサーの成績にかかわってくることであり、定期公演『初』での結果も当然そこに含まれている……つまりここでわざわざ言われているのは、参加不参加の判断そのものを評価するぞ、ということだ。不参加理由が妥当であると判断された場合を除く、なんて但し書きもあるし。

 

「……いや、露骨すぎる……」

 

 これ完全におれを狙い撃ちしにきてますやん。

 

 特に、試験の日から遡って一ヶ月以内……というところ。

 

 今回の急な変更に配慮して、なんてもっともらしい言い訳とともに、例年と比べて一週間ほど後ろ倒しになっている試験日が併せて告知されているのだが、それがぴったりおれと賀陽さんがプロデュース契約をした日を含まない日取りになっているのだ。

 

 いや本当に、特別な意図がなければ今年度に契約を結んでいたプロデューサー全員が対象でもいいだろうに、わざわざそんな指定をしているんだから間違いない。

 

 おれたちの契約は年度内で言えばほぼ最速のタイミングだっただろうから、その指定で対象として増えるのはおれだけでもおかしくないくらいだ。

 

 むしろ、おれ以外の人がいたら本当に申し訳ない……学Pさんとか大丈夫、だよな?

 

 しかも何が一番悪いって、おれ自身が評定なんてどうでもいい点である。

 

 二分の一以上の確率で今年度の成績を拝む前に墓前で拝まれる側になるわけで、実質的に迷惑がかかるのはおれ以外の全プロデューサーと言っても過言ではない。

 

 十王社長、もうちょっと上手いやり方なかったんですかねぇ……。

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

 ……なんて、思っていたのだが。

 

「――賀陽さん? 何かありましたか?」

 

 ついに十王社長に動きがあったということで、一応開催することにした第四回終活会議。

 

 そんなに話すこともないけどな、などと考えていたおれとは裏腹に、放課後になって活動拠点にやってきた賀陽さんはあきらかに浮かない顔をしていた。

 

 おれが挨拶さえ忘れて開口一番に尋ねたのに対しても返事をせず、おれの顔を一瞥した後、わずかに視線を落としながら歩み寄ってくる。

 

「……『初』の改定内容、目を通したわ」

「え? あぁはい」

 

 なら、ますます話は早い……が、いまいち質問の答えにはなっていない気がした。

 疑問に思いつつ、賀陽さんが近寄ってきたまま座ろうとしないので、おれもなんとなく立ち上がって彼女と相対する。

 

「試験日から一ヶ月以内に契約を結んだアイドルとプロデューサーは原則参加……私たちは、ちょうど当てはまるわね」

「ええ、そうですね」

「十王社長の策略でしょ。私を、表舞台に引きずり出すための」

 

 ふむ、よくおわかりで。賀陽さんは賢い。

 

「実を言うと、何日か前に情報をリークしてもらっていまして。かなり急に決まったそうですから、十王社長も結構本気かもしれません」

 

 そう、どうにも自分への狙い撃ちにばかり気が行ってしまっていたが、今回の変更の表向きの理由として挙げられているのは〝定期公演『初』の活性化〟である。

 

 『初』は、オーディション試験の部分は学外には非公開だが、最終試験合格者たちが行なうライブは外部からの観客も動員されるイベントでもある。

 初星学園が国内有数のアイドル養成校であり、その注目株が立つステージということで世間的にも元々一定の注目度はある興行だ。特に、生粋のアイドルオタクや芸能関係者にとっては、次に来るアイドルを早期発掘するための場であったりもする。

 

 そんな『初』の収益、宣伝効果を考えれば、それをさらに盛り上げようというのはもっともらしい理由だ。学園長を納得させる決定打になったのもこれだろう。

 

 ……と、おれがそのような考察を披露すると、賀陽さんは小さなため息を漏らした。

 

「……えぇ、だから仕方がない。そういうことよね」

「……うん?」

 

 何がだ?

 

「……何をとぼけているの? だから、参加するんでしょう、『初』」

「え、賀陽さん参加したいんですか?」

「はい?」

「え?」

 

 お互いに、「この人何言ってんだ?」という顔で首を傾げ合う。

 

「……えーっと、賀陽さんには……ライブの感覚を取り戻すための舞台、それを『初』にするかどうかを考えておいてください、とは言いましたが……その結論というわけではなさそうですね?」

「別にそういうことでもいいけど、そうじゃなくって……私には、『初』の参加を拒否する真っ当な理由がないでしょ」

「はぁ、まぁ、別に真っ当な理由なんていらないと思いますが……」

「……真っ当な理由なく、どうするつもりなわけ?」

「プロデュースの方針上露出を避けるため、と正直に伝えますよ。それが認められなかったら、引退発表みたいにSNSで一方的に不参加表明してバックレましょう」

 

 ……賀陽さん、口開いてますよ。かわいいですね。……じゃなくて。

 

 いやだって、向こうが割とめちゃくちゃやって来てるのだから、こっちばっかり品行方正にしていたってやり込められておしまいだ。まぁ、今回の件に関しては相手がちゃんと建前を用意しているので少々バツが悪いけども。

 

 ただ、万が一バックレることになったとして、唯一心配なのは賀陽さんの成績のことだ。

 

 不参加が正式に認められていないから、共通の実技試験は受けられない……そんなことになってしまったら彼女の今後の進路に不利益が生じる。

 ……まぁそもそもアイドルを引退した後は普通科に行くのか、転校するのかといった前提にもよるのだが、とにかくおれにとっての心配事はその一点だけだ。

 

 もっとも、これはおそらく杞憂になると思われる。

 なぜなら、十王社長の目的を考えれば、賀陽さんの不利益になるようなことをするのは本末転倒もいいところだからだ。彼女がシンプルに成績を落として落第したら、アイドルを辞める口実を与えるだけになる。

 となれば、多少強引な真似をしても、逆に十王社長の方が穏便に済ませてくれる公算は高い。無論、慎重にやるつもりだが。

 

「――と、いう感じです。ご理解いただけましたか?」

「……それ、あなたはどうなのよ」

「ん? おれ、ですか?」

「あなたにだって、不利益があるじゃない。十王社長と敵対するにしても、一応、向こうは初星学園自体の制度に則っているわけで……学園そのものにまで反抗して、あなたの立場がどうなるかわからない。それを、私が『初』に出るだけで済むなら……」

 

 おれは、そう言って俯く賀陽さんを見て――大きな、大きなため息を吐いた。

 

「……あなたって人は、本当に義理堅いというか、お人好しというか……」

「そんなんじゃ」

「なくないでしょう」

 

 キッパリとおれが否定すると、賀陽さんはぐぬぬと歯噛みをする。

 

 ここに来て、まさかおれの立場の心配なんて。

 最初、都合のいい男になれとかなんとか言ってた人とは思えない……と言ってしまいたいところだが、彼女がどうしてこんなことを言い出したのかはわかる。

 

 賀陽さんは結局、『SyngUp!』解散に際して月村さんを庇った件やファンとの別れにこだわっていることからわかる通り、とことん身内への情が深いのだ。それはもう、今のニヒルなキャラ作りを完璧に貫通してしまうくらいに。

 

 そして……おれも、ついに賀陽さんにとっての身内にカウントされてしまったということだろう。

 

 ……いや、()()()()()()()、なんて言い方をするものではない……彼女からそれだけの信頼を得られたという事実が嬉しくないはずがなかった。

 

 だが、何よりその信頼が賀陽さんの判断を鈍らせているのだから、プロデューサーとしては頭が痛い。

 

「賀陽さん……お気持ちはとても嬉しいです。それに、『初』に参加するという選択自体が間違っているわけでもない。そうでなければ、賀陽さんだけに判断を委ねたりもしていません」

 

 おれにだって意見はある。

 引退ライブまでを見据えて、こうするのがベストだ、という考えが。

 

 ……それで言うと、賀陽さんのこれまでの様子を含めてではあるが、『初』不参加の方に思考が偏ってしまっていたきらいはある。

 

 しかし、彼女が「出たい」と心から言い出したのであれば、その方向で動くことに一切の否やはない。

 

「賀陽さん、今一度問います。あなたの目的はなんですか」

「……アイドル賀陽燐羽の、幕を引くこと」

「ええ。おれはその邪魔をしないと、あなたと()()しました。おれに約束を破らせるつもりですか? まぁ、おれのことを早めに始末したくなったのだとしたら仕方ないですが……」

「プロデューサー」

「……すいません、つまらない冗談でした。でも、だからもう一度、自分の胸に手を当てて考えてみてください。本当に『初』に参加するべきだと思うのか。参加したいと思うのか」

 

 言うと、賀陽さんは顔を俯けた。

 そこにおれは、さらに一言付け加える。

 

「おれは、たとえ初星学園を追放されたとしても、賀陽さんのプロデュースをやり遂げるつもりでいますからね」

 

 顔を上げた賀陽さんが、おれの目を見る。

 視線を逸らさない。本気だからだ。

 

「……わかった。『初』には、出ないわ」

 

 やがて、賀陽さんはそう言った。

 

「夏に引退ライブをするのだから、表舞台に立つにはまだ時期が早すぎる。あの子たち(ファン)に下手な期待をさせないためにも、スタンスは徹底するべき……それに、私自身が今はステージに立ちたいと思わない」

「……それが本心ですね?」

「ええ。今は、まだ……もう少しの間だけでいいから、余計なことを考えたくない」

「わかりました。余計なことは是非、全部おれに押し付けてください。あなたが考えるべきは、ファンのことと、あなた自身の気持ちだけ。それで構いませんから」

 

 おれが笑いかけると、賀陽さんもようやく破顔する。

 

「……ねぇプロデューサー」

「はい、なんでしょう」

「……ありがとう」

「礼には及びません。お互い、都合良くやっているだけなんですから」

「それでもよ」

 

 ……なら、おれはその感謝と信頼に、全力で応えなければいけないな。

 それこそが、プロデューサーとしての真の本懐だ。

 





月末月初忙しくなるので、毎日更新は一旦おしまいです。
次回以降は学マ水曜日と学マSundayに更新予定です。不測の事態がなければ……。

今後とも拙作にお付き合いいただけると幸いでございます。

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