余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:鯖ジャム

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本日は月村手毬さんのお誕生日です! おめでとうございます!
月村手毬チャンネルを見ましたか? まだ見ていない方の家には包丁を持った美鈴ぬいを順次派遣いたしますので急いで視聴してくださいね。


第15話 噂をすればなんとやら

「では第五回終活会議を開催いたします。よろしくお願いします」

「ん、よろしく」

 

 おれがパチパチと手を叩くと、賀陽さんはちょっと面倒くさそうな顔をしつつも二、三度手を叩いてくれた。すごい、開催の音頭で賀陽さんとの親密度の上昇を感じる。

 

 まぁ終活会議という名前のインパクトも薄れてだいぶマンネリ化してきた気もするが、要はただのミーティングなので深く考えたら負けだ。

 

 さておき、本日の議題である。

 

「賀陽さん、『初』不参加の申請ですが、本日回答がありました」

「そう。どうだったの?」

「見事に却下されました。理由を要約すると、引退するとか知らんし実技試験の代わりなんだから参加しなさい、という感じですね」

「ふーん。それで? もう一回くらい申請してみるのかしら」

「いえ、もうバックレます。SNSを更新してしまいましょう」

 

 賀陽さんのスカウトは許可、引退ライブの予定を公表したことも黙認、しかしそれをプロデュースの方針としては認めない――初星学園としては、そういう線引きであるらしい。

 

「まぁ、単純に判断をしている人が違うだけな気もしますがね。別に正式な手続きを踏むことにこだわる必要はないので、思い切ってやっちまいましょう」

「はい、もう投稿したわ」

「あっちょっ、さすがに早い……」

 

 賀陽さんがスマホを弄っていると思ったら、『初』不参加を表明するポストを投稿した画面を見せつけてきた。

 会議が終わった後でよかったのに……まぁ内容は事前に確認済みだから投稿自体に問題はないけども。

 

 おれがため息をつく様を見て賀陽さんは悪戯が成功してご満悦の子どものようにニヤニヤと笑っているが、これで何が起こるかちゃんとわかっているのだろうか。

 

「……それ、下手したら月村さんが突撃してきてもおかしくないですよ?」

「でしょうね。でも、そろそろ顔くらい合わせてやってもいいかなと思ったのよ。どうせ私が『初』に出るだろうって期待してたでしょうし、梯子を外されて泣きべそかいてる面を拝んでやろっかなって」

「えぇ……」

 

 どういう性癖だ……。

 

「ま、面倒になったらあなたに押し付けるのは変わらないから、よろしくね」

「さすがによろしくされたくないんですが……」

 

 なんというか、それってこの前のとは訳が違うじゃん……と、おれがげんなりしているのも、賀陽さんを喜ばせるだけな気がする。無敵か。

 

「……まぁともかく、月村さんのことを気にしなくていいのなら、あと考えるべきは十王社長のことですね。その投稿で、おれたちがどれほど本気なのかを示してしまいました。喧嘩を売ったとさえ言ってもいいかもしれません」

 

 なんかずっと言っているような気もするが、本当にいよいよ直接会う時が近づいているのだ。おれの頭がそのことでいっぱいなのも仕方がないだろう。

 

「ああ……実は先日星南さんに同席してもらえないかとついお願いしてしまったのですが、それもはたしてどうなのか。星南さんはもちろんおれたちの味方なのですが、娘さんが同席していることがプラスに働くのかどうか……」

「……あなた、そんなにナーバスになることあるのね。というか、そもそも私はどうなの? 十王社長と話をするとして、同席することになるのかしら」

「向こうの出方次第ではありますね。おれは、できれば賀陽さんのことは隠しておきたいと思っているのですが……」

「……私だって、助けになれると思うけど?」

「ええ、お気持ちはありがたいです。ただ、矛先は基本おれに向くでしょうが、それでも何を言われるかわかりませんから、賀陽さんには余計なリスクを背負わせたくないんです……わかってください、担当アイドルを守りたいプロデューサー心ってやつです」

「……自分の話を自分がいないところでされている方が、気になるんだけどね」

 

 うん、まぁそれもそうだろうが……。

 

「いえ、なんやかんや言いましたけど、結局十王社長がどういうふうにコンタクトを取ってくるか次第です。事前にアポを取ってくるなら調整できますが、万が一今のこの場に現れたりしたらそんな余地は」

「――失礼するよ」

「ぎゃああああああああ出たああああああああ!!!」

 

 ご本人登場!!! なんでいきなり現れるんですか十王社長!!!!!?????

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

「――どっ、どどっ、どどどどうぞ、インスタントですが……」

「お気遣い感謝する」

 

 慌てて淹れたコーヒーのカップをカタカタ揺らしながら、十王社長の前にお出しする。

 視界の端で賀陽さんが呆れた顔をしているが、こんないきなり登場されたら手ぇくらい震えますでしょうよ。動揺がすごい。作戦? 効いてますよめちゃくちゃ。

 

「……押しかけておいてすまないが、早速本題に移らせてもらっていいかな。忙しい身でね」

「あっはい」

 

 おれはすぐに座った。

 賀陽さんの隣、十王社長と真正面から向かい合う形で。

 

「と、その前に、一応君とは初対面だな、プロデューサーくん。自己紹介くらいはしておこう。私は100(じゅうおう)プロダクション代表取締役、十王龍正(りゅうせい)だ」

「ご丁寧に、どうも。もちろん存じ上げております……」

「ああ。君には、一時期娘が世話になっていたとも聞いている」

「あ、はい、こちらこそ星南さんにはお世話になりまして」

 

 ……まぁ、そこは、そうだろうなと思っていたが。

 

「……それがまさか、このような状況で顔を合わせることになるとは……いや、これ以上はよそう。――さて、承知のこととは思うが、今日ここに赴いたのはそちらの賀陽燐羽くんの件だ」

「……はい。もちろん、わかっています」

 

 お待ちしておりました、とでも言って格好つけられればよかったのだが、既に醜態を晒しすぎていて無理。あとで賀陽さんに弄り倒されそう……いや、それこそもう手遅れか。

 

 ……とかなんとか考えているおれにそのまま話をするのかと思いきや、十王社長は賀陽さんにふと顔を向けた。

 

「賀陽くん、まずは君に確認しておこう。先月、君がプロデューサーのスカウトを受けた後と、SNSに引退表明の投稿をした後、二度電話をしたが……出なかったのは、わざとかな」

「か、賀陽さん……?」

「さぁ、どうだったかしら。記憶にないわね」

 

 おれ、全然聞いてないんですけど……? と賀陽さんを見るが、彼女は完全にすっとぼけていた。

 

 十王社長はやれやれと首を横に振る。

 

「君には、いろいろと便宜を図ったつもりだったが」

「何、裏切られたとでも言いたいわけ? ずいぶんと女々しいのね。そもそも、あなたがどうしてもって言うから高等部に進学をしてあげただけなのに」

「君に考え直す時間を与えるためだと言ったはずだ」

「それはあなたの都合でしょう? 約束したのは進学のことだけ、それ以外は知ったこっちゃないわ」

「ふむ……それにしても、性急すぎるとは思わないのかな。夏まで、たったの数カ月など」

「思わないわね。彼が立ててくれたプランに納得したからスカウトを受けたの。それで……ついさっき、SNSに投稿したけれど」

「君のアカウントの投稿には通知が来るようにしている。既に確認済みだ」

「あら、フォローありがと。だったら、それが私たちの意思表示よ」

 

 ……賀陽さんは、一切怯むことなく十王社長とやり取りしていた。

 なんならちょっと煽っているし、本来ならおれの言うべきことまで堂々と……さすがにおれも、いつまでもうろたえている場合ではない。

 

 気を引き締めて、おれは口を開く。

 

「担当アイドルに先に言われてしまって情けない限りですが、その通りです。十王社長のご意向は存じておりますが、自分はそれを賀陽さん自身の意思に優先されるべきものだとは思いません」

「君の考えは承知しているとも、プロデューサー。学園に提出しているレポートはすべて目を通させてもらっている。つくづく……惜しいと思っているよ」

 

 十王社長の視線は鋭かったが、そこにはいくらかの憐憫も混じっていた。

 

「プロデューサー、君の事情も知っている。同情もしよう。だが、だからと言っても賀陽くんを道連れに、心中をしようというのはいただけないな。彼女にはトップアイドルの素質がある。こんなところで終わらせてしまうなど、おいそれとは看過できない」

「……だから、本人の意思を蔑ろにしてでも、初星学園に閉じ込めておくべきだと?」

「そうではない。先にも言ったが、考え直すための時間を十分に与えるべきだったということだよ」

「十分な時間とは? 自分には、賀陽さんが意見を翻すまで、と仰っているように聞こえますが」

「賀陽くんの翻意を期待しているのだから、可能な限り引き延ばすのは当然だろう。もっとも、時間は有限だ。せいぜい高等部を卒業するまでの三年間が限度だと考えているがね」

 

 十王社長は悪びれもせずに答える。

 

 だったらやはり、おれは彼の意向に沿うことはできない。

 

「……十王社長、大人の尺度で語らないでくださいよ。若者にとっての三年は長いんです」

 

 おれからすれば、喉から手が出るほど欲しいような、長い長い時間だ。

 十王社長は、それを全く軽んじていると言わざるを得ない。

 

「アイドルは尊い存在です。でも、アイドルだけが人生じゃない。どれほど才能があったとしても、それを使うかどうかはその人の自由です。何人たりとも侵すべきではない自由だ……違いますか?」

「……なるほど、道理だな。しかし、アイドルだけが人生でないというのなら、正式に受理されていないにもかかわらず『初』に参加しないという判断はどうなのかな。賀陽くんの成績にかかわることだ」

「そんなの考慮のうちです――そちらでなんとかしてくださいよ。どうせあなたが主導したことでしょうし、賀陽さんがアイドルとしての評判を落として困るのは他でもないあなたなんですから」

 

 『初』はアイドルとしての実技試験。それが不振だったとて、影響がゼロではないだろうが、アイドル以外の道に進むなら大きな問題にはならない……はず。

 

 まぁ、本当は万が一でも賀陽さんの不利益になるような可能性は潰したいから、ぶっちゃけこれはブラフだ。

 おれが先々まで責任をとれるなら、内心まで強気でいられるのだが。

 

 十王社長がどこまで見抜くか、見抜いたとしてどう答えるか――彼は顎に手を添えて、小さく笑った。

 

「……フッ、面白い。迂遠なやり方で君たちの覚悟を図ったが、早く会っておけば済む話だったな」

「お忙しかったのでしょう。娘さんが、家にも滅多に帰らないと仰っていましたよ」

「それを差し置いても、ということさ」

 

 ……家庭は大切にした方がいいと思うけども、そういう話じゃないか。

 

 十王社長は、ちらりと腕時計を確認する。

 

「ふむ、悪いが時間だ。次の予定があってね。今日のところはこの辺りで失礼させてもらうとするよ」

「はい。わざわざご足労いただいて、ありがとうございました」

「こちらこそ、急に訪ねて申し訳なかった……もののついでに、プロデューサー、校門まで見送りをお願いしてもいいかな?」

 

 え、校門まで? ……と、一瞬思ったが、それはつまり。

 

「……承知しました。ご一緒します。賀陽さん、すいませんが少し待っていてください」

「え? 行くの……って、あぁ、そういう……いいわ、待っていてあげる」

「助かります」

 

 賀陽さんは、本当に察しがよくて助かる。

 

 要するに十王社長は、おれと一対一で話がしたいということだろう。

 

 第二ラウンド開始、ってわけだ。

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

「――君の口から是非聞いておきたいのだが、結局のところ、君は星南とどういう関係なのかな?」

「は」

 

 あっちょっと待ってそういう話? そういう話ですか? すいませんそれはあまりにも想定外なんですけど? 第二ラウンドじゃなくて別の試合が始まるのは聞いていないんですけど?

 

「……勘違いをするな。私が聞きたいのはアイドルとプロデューサーとしての関係についてだ……が、あるのか? もっと個人的な関係が……」

「い、いえいえそんなまさか! アイドルとプロデューサー、その関係を逸脱したことなど決して……それで今は、プロデューサーとしての先輩後輩、という感じですが……」

 

 やましいことはない。本当にない……ないのだが、なんだかまるで言い訳をしているみたいな気分になってくる……。

 

「昨年夏の『H.I.F』、星南が一番星に輝いたのは君のおかげだったと」

「……いえ、あれはまだ、星南さんと出会って間もない頃でした。彼女は既に十分な実力を付けていましたから、おれがいなくても結果は変わらなかったでしょう」

「その謙遜を否定はするまいが、彼女がそう感じていることには変わりない。君が私のところに挨拶に来るのもそう遠くないだろうと思っていたよ」

「え、十王社長に、ご挨拶を……?」

「正式なプロデュース契約を結ぶ、その一歩手前だったのだろう」

 

 あ、そういうね。いやそれしかないですよね。いや親御さんへの挨拶は大切ですよね大事な娘さんをお預かりするんですからね。

 

 ……そういうことを考えたタイミングも、まぁ、思い返せば確かにあった。

 

「本当に、残念に思っているよ。星南が殻を破るためには君の力が必要だった……少なくとも、彼女自身がそう確信してしまったから、今の状況がある」

「……それは」

「……いや、すまない。君にこんなことを言うべきではなかった。君のことも、星南のことも責めるつもりは毛頭ない。ただ、100プロの社長として……彼女の父親として、あまりにも惜しい、と。彼女のことだけでなく、ゆくゆくは大きな力になってもらえただろう」

 

 ……いったいどこが、冷血漢なんだか。

 この人は、おれを泣かせようとでもしているのか。

 

 声が詰まりそうになるのを必死にこらえて、おれは答える。

 

「……そこまで評価していただけていたなんて、本当に光栄です。100プロのプロデューサーになるのは、夢の一つでしたから」

「難しいのか、どうしても」

「……わかりません。ただ、治療に専念するというのは、おれにとって分の悪い賭けでした。何も成し遂げられないまま死ぬのは、どうしても嫌だった」

「……そうか。それで成し遂げようというのが賀陽くんを引退させることなのは、承服しがたいところだが」

「申し訳ないですが、それは譲れません」

 

 おれが肩をすくめてみせると、十王社長はまた小さく笑った。

 

 そんな話をしながら歩いていると、あっという間に校門にたどり着いてしまう。

 おれと二人きりで話したいことはこれでよかったのだろうか、などと思っていると、彼は「最後に一つだけ聞かせてくれ」と言って、おれの前に立った。

 

「もしも賀陽くんが、賀陽くん自身の意思で、アイドルを続けることを望んだとしたら――君は、どうするつもりだ?」

 

 ――なるほど、と思った。

 

 十王社長はこれを問うために、二人きりになることを望んだのだ。

 

 おれの、正直な答えを聞きたかったから……賀陽さんの前でおれが嘘を吐くのを嫌ったというより、おれのためにそうしてくれたのかもしれない、と思うのは、さすがに絆されすぎだろうか。

 

 ただ、どうであれ、おれは誠意をもって答えた。

 

「……おれは、賀陽さんと約束をしました。彼女の邪魔は決してしない、と」

 

 おれの、彼女を必ず葬るという誓いの方は、まぁおれが勝手に誓っただけなので破ったっていい。

 

 初志貫徹は格好いいが、優先するべきことを見誤るつもりはない。

 おれは、死ぬまでプロデューサーでいるつもりだ。

 

「……よくわかった。ならば君は、君のしたいようにするといい。私も、私がするべきと考えることをするまでだ」

「ええ、構いませんとも。ただし、賀陽さんの意思を蔑ろにするような真似には、全力で反抗させていただきますので」

 

 そうして彼は、目の前の車道に停まっていた社用車と思しき黒い車に乗り込むと、その場を去っていったのだった。

 





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