余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:はつぼし たろう

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リー清のSTEP4にはリー清のオタクたちを塵一つ残さず滅ぼそうという気概を感じましたね。それでいてPドルも欠かさないたいへん素晴らしいものでございましたです。

※投稿予約の時間ちょいミスってました


第16話 三度目の正直と三分の一の順当な卒倒

 今日の賀陽さんのボーカルレッスンは、元々トレーナーさんに付いてもらう予定だった。

 

 が、『初』の中間試験(中間というが、最初の試験である。ややこしい)が近づいてきているため、試験に挑む子たちを優先とのことで、急遽自主レッスンに変更となってしまった。

 

 以前であれば十王社長の嫌がらせ的な可能性がよぎっただろうが、おれの中であの人への好感度はうなぎ登りに上がってストップ高を叩き出してしまったので、むしろ疑うような奴がいたらこの命を賭してでも十王社長への嫌疑を払拭するために動く所存である。

 

「……はぁ。『初』に参加する生徒が優先なのは、理屈ではわかるけど……これ、あの人からの嫌がらせとかじゃないわよね?」

「賀陽さん、なんてことを言うんですか! あの十王社長に限ってそんなことをするわけないじゃないですか!」

「何がどうなったらそこまでのシンパになるのよ……あなた、勢い余って私のこと裏切るんじゃないでしょうね?」

「いや、さすがに冗談です。ただ、そういう安直な嫌がらせをしてくることはまずないですよ。あの方にとっても、賀陽さんが熱心にレッスンをしていることは好都合なはずですから」

「……まぁ、あなたの言うことは信じるけれど。どうせ、あのあと何を話してくれたかは教えてくれないんだし」

 

 うむ、そうしていただけると助かる。

 せっかくご配慮いただいたのだ、申し訳ないが賀陽さんにもおいそれとは話せない。というか半分くらい星南さん絡みの話題だったしな。思い出すとちょっと胃が痛くなる。

 

 ともあれ、おれの中で十王社長についての解像度が上がったのは何より幸いで、賀陽さんに「安心して何も気にせずレッスンをしてくれ」と今まで以上に自信を持って言えるようになった今日この頃。

 

 そんなおれの自信が伝わった、あるいはそもそも『初』への不参加を決めたこともあって、賀陽さんはさらに伸び伸びとレッスンができている。

 

「――ふぅ、ねぇプロデューサー、今のどうだった?」

「素晴らしかったです。ブリッジ、ラスサビ前のCメロとか、ちょっと鳥肌がすごかったですねぇ」

「ええ、ええ、あそこがいいのよね……うん、私も、我ながら良い感じに歌えたと思うわ」

 

 ふふん、と満足げな賀陽さん。

 最近、クールというかニヒルなキャラ作りが若干剥がれて素の部分が見え隠れするくらいには、めちゃくちゃレッスンを楽しんでいる。

 

 本当に、器用なんだか不器用なんだか。

 

「……さて、良いところですが一旦休憩にしましょう賀陽さん。もう結構連続で歌っていますよ」

「……そうね、そうするわ」

 

 と、賀陽さんはちょっぴり不服そうながらも従ってくれる。歌のレッスンは熱中しがちなので、こうしておれが休憩を促すのはいつものことだ。

 

 部屋の中にある丸椅子にそれぞれ座る。

 おれが提出用レポートのためのメモを整理していると、賀陽さんが寄ってきて覗き込んでくるが、特に何かを言うわけでもない。やりづらいけども、割と毎度のことなので慣れてきた。

 

 ……そんな静かな時間を過ごしていたところに、予定外の来客があった。

 

「おや、学Pさん」

「申し訳ありません、レッスン中でしたよね」

「いえ、休憩していたところではあるので」

 

 現れたのは学Pさん。

 久しぶり……では実は全然ないのだが、こうして放課後にわざわざ訪ねてくるのは最初の挨拶以来かもしれない。

 

「……っと、姫崎さんと、篠澤さんもご一緒ですか」

「こんにちは、プロデューサーさん」

「お邪魔します」

 

 学Pさんの後に続いて、彼女の担当である姫崎さんと篠澤さんの二人が部屋に入ってくる……月村さんは、どうやらいないらしい。

 

「賀陽さん、学Pさんとは……」

「あなたのいないところで、一度挨拶させてもらったわね」

「はい、偶然廊下ですれ違った際に、ですね。月村さんのプロデュースをさせていただいている旨をお伝えいたしました」

「そうですか。ええと、姫崎さんと篠澤さんは、初めてですかね。というか、篠澤さんとはおれもまともに挨拶できていないような……」

「うん、二回会ってるはずなのに、ね」

 

 おれの呟きにこてんと首をかしげた篠澤さん、それを見た姫崎さんがちょっと苦笑する。

 

「あはは……えーっと、じゃあ、賀陽さん、いいですか? 私、姫崎莉波って言います。生徒会所属の三年生で、手毬ちゃんと同じようにこの人にプロデュースをしてもらってます。よろしくね」

「ええ、よろしく。賀陽燐羽よ」

 

 とりあえず姫崎さんが賀陽さん相手に自己紹介をして、賀陽さんも簡潔に応じる……まぁ、さっき二人きりだった時に比べるとツンツンした雰囲気になっているが、別に失礼というほどではない、か? いや、ちょっとぶっきらぼうすぎるような気はする。

 

「私の番。篠澤広、です。一年二組で、美鈴と同じクラス。燐羽のことは美鈴からちょっとだけ聞いてる、よ。よろしく」

「……そ。ま、よろしく」

 

 篠澤さんの挨拶にも、ちょっと思うところのありそうな返事。これは、秦谷さんのことがあるからだろう。

 

 それから篠澤さんはおれの方にも目を向ける。

 

「あと、燐羽のプロデューサー。一応、改めてよろしく、ね」

「ええ、よろしくお願いします」

「あなたは命の恩人。咲季と一緒に私を助けてくれた……ありがとう」

「最初に会った時の件ですね。お気になさらず、偶然通りかかっただけですから。あれからいかがですか?」

「なんと、レッスン後に保健室に運び込まれるのが三回に一回まで激減」

「激減……」

 

 えっと、レッスン完遂できずに毎度倒れてたんだっけ? そこからマイナス六割というと、まぁ確かに激減か。

 ……たぶんレッスン後というわけでもないだろうに、ただ立っているだけで少しフラフラしている体幹のなさを見るに、三分の一で卒倒しているのは順当だ。

 

 いのちだいじに、しかしたくさん頑張ってほしい。

 フフン、なんて薄い胸を張ってドヤ顔してないで、な。

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

「……さて、ところで学Pさんのご用件は? 賀陽さんへの挨拶だけ、ということはないかと思いますが」

 

 篠澤さんとの挨拶もそこそこに、学Pさんへ話を振る。

 

 わざわざレッスン中のおれたちを探してまで訪ねてきたということは、それなりに重要な話があるのだろうと思った。

 自主レッスンなので中断するのは構わないのだが、とりあえず本題は片付けるのが吉だろう。

 

 学Pさんは「おっと、これは失敬」なんて言いながらメガネをクイッと上げる。

 

「せっかくなので賀陽さんにご挨拶を、というのはありましたが……本題は、まず一つ、ご報告いたしたいことがございまして――此度の定期公演『初』、姫崎さん、篠澤さん、そして月村さんの三人全員挑戦することと相成りました」

「おお、それはすごい」

 

 学Pさんは、まだ一年生なのだ。

 入学してからやっと一ヶ月で、しかも他の多くのプロデューサー科生徒と違ってプロデュース業務の経験もない。

 そんな彼女が、いきなり三人のアイドルをプロデュースし、順当に『初』へ挑戦させようとしているのだから、その気概だけでもすごいと評して間違いないだろう。

 

「元々予定はしておりました。三年生の姫崎さん、それに月村さんは積み重ねてきた基礎がありますから、あとはわたくしのプロデュースが滞りなく進んでいけば、()()()()()()十分に間に合う算段でした……が、問題は篠澤さんでして」

「いぇい、問題」

 

 と、ダブルピースする問題さん。なぜ笑顔なのか。

 

「完全にアイドル未経験、しかもようやくレッスン三回に一回倒れるだけで済むようになった、という状態では中間試験をパスできるかどうかまで持っていくのがやっと。今回の『初』は見送るつもりでした……が、本来よりも一週間ほど後ろ倒しになりましたので、このおかげで最終試験の突破の可能性が見えました」

「可能性が見えた、って……」

 

 一週間を、()()()とは言わない。男子三日会わざればなんとやらで、よしんば女の子でアイドルであっても、だ。

 特に、何事も初心者であればこそ最初の成長というのは目に見えやすく、実際に伸びるものだとも思う。

 

 とは言え、レッスン完遂率六割六分六厘で、最終試験まで突破する可能性がどれほど生まれたというのか。

 

 学Pさんのメガネが、キラリと光った……ような気がした。

 

 

 

「なんと――2%です!」

 

 

 

 うん、気のせいだった。そんなドヤ顔でのたまうような数字じゃねぇや。某アイドル育成シミュレーションソシャゲのガシャにおける育成SSRキャラ排出率と同等だぞ。

 

 ドヤ顔で胸を張るちんちくりんプロデューサーとうすほそアイドルの両名に、おれと賀陽さんは思わず顔を見合わせて、大変失礼ながらも呆れた気持ちでいっぱいの心を通じ合わせた。

 

 ……しかし学Pさんは、そんなおれたちを気にした様子もなくさらに続ける。

 

「そしてそれが誰のおかげか――一つが、先輩殿と賀陽さんのおかげである、という話なのです」

「……ほう、というと?」

「『初』の改訂の一件、賀陽さんの引退にかかわる学園側とのいざこざの一端……ではありませんか?」

 

 ……まぁ、わかるか。わかるよな。

 

「……そうですね、否定はしません」

「ええ、ええ、十分です。肯定するのは憚られましょう。しかし、話の流れでお分かりいただけていることでしょうが、お二人には感謝しているのです。いえ、もちろん先輩殿にも賀陽さんにも災難だったことでしょうけれども、ね」

 

 ニヤリと笑う学Pさん。

 賀陽さんは隣でぼそりと「いい性格してるわね」なんて呟いているが、おれは素直に意外な気持ちが勝っていた。今回の件で誰かから恨まれこそすれ、まさか感謝されるとは思わなんだ。

 

「わたくしの調べによれば、今回の『初』、従来よりもオーディション試験の審査基準が緩くなるものと思われます。誰も明言はしていませんが、先生方の語り口がそうと言っているようなものなのです。理由はもちろん、公演の舞台に立てる人数を増やすため。いかにも合理的だとは思いませんか?」

「……なるほど」

 

 改訂の建前……もとい、真意の一つと言っても差し支えない〝定期公演『初』の活性化〟という目的を考えれば、確かにあり得る。

 

 元々最終試験の合格者は明確な定員数が示されていないが、毎回平均して各学年から五人前後ずつ選出され、十五人ほどの出演者がいるのが定期公演『初』だ。

 

 公演を成立させなければいけないことを考えれば、合格基準は絶対的なものではなく、合格者の人数ありきで都度決められるもの……これは、公言されているわけではないが、そういうものだと当然に認識されている。

 

 無論ライブのクオリティを著しく下げることをよしとするはずはないが、実技試験の代替として参加者を広く募るのだから、競争の激化は狙いつつも、最終的な合格者の数を増やして公演の規模自体を大きくしようというのがひとまずは無難であるだろう。

 

「もっとも、一年生で原則参加の対象となるのは、私の調べによれば先輩殿たちだけです。実質的に枠が増えるのは二年生と三年生が主……というのが当初の見立てだったのですが、どうやら一年生でもアイドル側が、あるいはプロデューサー側も積極的に参加したいという動きになっているようです」

「へぇ……それは、学Pさんと同じような発想で、ですかね」

「ええ、おそらくは。なので、急なことではありつつも、学園全体としてメリットの方が大きい変更だったように思います。先輩殿も賀陽さんも、自分たちのおかげだぞ、という顔をしてもよろしいかと」

 

 いや、それはさすがに面の皮が厚すぎるだろ……とは思うが、そう言ってもらえると少しは救われる。

 おれが針の筵に座らされるのは一向に構わないけれど、賀陽さんにはできる限り平穏無事に過ごしてもらいたいからだ。

 

「……ともあれ、今の状況は追い風であることは間違いありません。そよ風ですが」

「風、確実に吹いている、よ。そよ風だけど」

 

 うん、風向きは良いかもしれないけどそよ風だな……だってそれで2%だよな?

 しかしそよ風でも倒れそうな篠澤さんだから、その2%も決してバカにはできない……かもしれない。

 

「あ、あはは……えっと、プロデューサーさん? 園花ちゃんも広ちゃんもこう言ってますけど、すごく成長してますから。二人とも、低く見積もりすぎっていうか……広ちゃん、特に歌に力を入れていて、どんどん上手になっているんですよ。ね?」

 

 と、姫崎さんが苦笑しながらフォローを挟み、篠澤さんに話を振った。

 

「うん、莉波と手毬にいろいろと教えてもらってる」

「私も手毬ちゃんにはほとんど教わる側だなぁ……本当に上手なんだよね」

「……ハッ、あの手毬が? 人に教えられるようなタイプじゃないと思うけれど」

 

 そこから月村さんの名前が挙がったことで、賀陽さんが反応を示した。鼻で笑って、いかにも小馬鹿にしたような発言だ。

 

 今の月村さんと共にレッスンに励む二人、ともすれば反感を買うところだが……。

 

「うん、手毬は教えるのが下手」

 

 と、篠澤さんがバッサリ。事なきを得たが、月村さんには少々同情してしまった。

 しかし、篠澤さんも「でも」と続ける。

 

「手毬はいっぱいお手本を見せてくれる。それだけでもとてもありがたい」

「その通り。月村さんは、困った弱点もありますが、歌の基礎はしっかりと固まっています。そういった部分を抽出すれば、誰にとっても良い手本です……きっと、彼女に歌を教えた先生が優秀だったのだと思っています」

 

 学Pさんが、あからさまに賀陽さんを見つめる。

 それに対して賀陽さんは素知らぬ顔をする……が、視線だけはわずかに逸らしていた。うちのアイドルは照れ隠しが下手だ。

 

「莉波さんの言う通り、勝率を低く見積もってはいますが、それは不確定要素を省いているからです。その理由がまさに、アイドルが共に高めあうことの相乗効果……これは、単純な掛け算にはなり得ませんから、数値化するのはナンセンスでしょう」

「ええ、間違いありません」

 

 複数アイドルを担当することのメリットの一つである。

 マネジメントの苦労は概ね足し算であるが、上手くいけばその成果は何倍にもなり得る……プロデューサー科の講義でも教わるような話だが、まだ一年生の学Pさんはおそらく自分でたどり着いたのだろう。さすがとしか言いようがない。

 

 学Pさんは、「ですから、もう一つ感謝を」と前置きして、賀陽さんの方を見た。

 

「賀陽さん、あなたの存在が、月村さんの大きなモチベーションになっております。ムラっけのある月村さんが一つの目的地に向けてひた走ることができていて、それはきっと、あなたのことがなければあり得ないことでした。そしてそれが、莉波さんと篠澤さんにとっても非常に良い刺激となっているのです」

「…………」

「月村さんから、賀陽さん宛に伝言を預かっております――必ず私を見ていて、と。『初』のステージに立った時の彼女は、ややもするとわたくしの想像さえ簡単に超えてしまっているかもしれません」

 

 賀陽さんは、学Pさんの言葉を聞いて、微かに眉間にしわを寄せていた。

 

 彼女の胸中を推し量るのは難しい。

 しかし、表情が険しいとしても、それは必ずしもネガティブな感情だけによるものではないように思えた。

 

「……さて、用件は以上です。感謝と、伝言をお伝えしたかった。レッスン中に長居をしてしまって、申し訳ありませんでした」

「いえ、嬉しい話もありましたし、構いませんよ。こちらこそありがとうございました」

 

 学Pさんが恐縮するのを制して、おれは礼を言う。

 

 篠澤さんとようやくちゃんと挨拶ができたし、『初』の件での喉に引っかかっていた小骨を取ってもらったようなもの。それに、月村さんと姫崎さんの現状も気になっていたから、プロデュースが順調だと知れたのは何よりだった。

 

 賀陽さんにとっても、今は複雑な気持ちかもしれないが、決してマイナスではないはずだ。

 

「それでは、今日はこれにて。機会がありましたら、是非賀陽さんと一緒にレッスンをさせていただきたいですね」

「ですって、賀陽さん」

「……お断りよ」

 

 ぷいっと顔を背ける賀陽さんに、おれと学Pさん、姫崎さんとで苦笑して、篠澤さんだけは何故か真顔だった。

 

 ……そして三人の去り際、おれはふと思い出して姫崎さんに声をかける。

 

「姫崎さん、今度生徒会室に顔を出します。久々に雨夜さんともお会いしたいので」

「え、本当ですか! 燕ちゃん、喜ぶと思います! ……あ、えっと、最初はちょっとお小言があるかもしれませんけど……」

「それは、甘んじて受け入れるつもりです。よろしくお願いします」

「はい、美味しいお茶受けを用意して、待っていますね!」

 

 と、姫崎さんは微笑みながらそう言ってくれたのだった。

 

 ……このやり取りのせいで、最後に学Pさんにちょっと睨まれてしまったが。

 

「……担当アイドルを差し置いて、逢瀬の約束なんて良い度胸ね?」

「いや、もちろん賀陽さんのレッスンには支障のないようにしますよ?」

「そういう話じゃないわよ……おばか」

 

 あと、賀陽さんにおばかと言われてしまった。

 

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