余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます 作:はつぼし たろう
でかぐるみかわいすぎます。鷲掴みするのにちょうどいいです。
陳謝。
陳謝である。
「――せ、先輩? 話があるって、何かと思ったら……急にどうしたの……?」
「星南さん……大変申し訳ございませんでした」
「いやだから何!? 何の謝罪なの!?」
活動拠点に赴いてもらった星南さんを相手に、おれは深々と腰を折って謝罪した。
本来ならこちらから出向くのが筋であるが、確実に二人きりになれる場所となるとここしかなく、星南さんの方にご足労いただく形になってしまった。それも含めての最敬礼である。
「実は、先日秦谷さんとお話をする機会がございまして……何か、変わった様子はありませんでしたか?」
「美鈴と? そうね、今日は真面目にレッスンを受けてくれたけれど……」
「ああ、なんてことだ……秦谷さんが真面目に……」
「あの、先輩? 美鈴だって、ちゃんとレッスンに来ることはあるのよ……?」
そうなの? いやそうか。うん、ちょっと間違えた。
「失礼、それは関係ないかもしれませんが……会話の流れで、彼女におれの余命のことを話してしまったんです」
「! なるほど、そういうことね……」
と、星南さんはそれだけでほとんど察してくれたようだった。
「一応聞くけれど、その場では大丈夫だったの?」
「はい、最初は大きく動揺させてしまいましたが、ひとまず気持ちの整理をしたいと……一旦、飲み込んではいただいたのですが」
「後になって思い悩んでいないか、先輩は心配してくれたのね」
「『初』の試験の真っ最中に、余計な真似をして本当に申し訳ない。本人にはもちろん、
「……わかりました、担当プロデューサーとして、あなたの謝罪は受け取ります。今のところ異変は感じていないけれど、注意して見ておくようにするわ」
星南さんは胸に手を当てて、真剣に、真摯にそう答えてくれた。
……なんて思ったのも束の間、彼女はすぐに「ふふっ」と少女のようなあどけない笑みを零す。
「担当プロデューサーとして、ですって。なんだか、先輩にプロデューサーとして認めてもらったみたいで嬉しいわ」
「星南さん……おれは、本気で秦谷さんを心配してるんですよ? あなたの担当アイドルを」
「もちろんわかっているわよ。でも、先輩がまったく不用意に話をしたとは思えないし、本当に深刻な状況ならもっと早く伝えてくれたでしょう? 様子見をするくらいには、先輩も大丈夫だと考えているのではなくて?」
「……まぁ、そう言われると、そうではあるのですが……」
「美鈴は、そう簡単に弱みを見せない子だから、心配は心配だけれどね。私とあなたで注意深く見ていれば、きっと大丈夫よ」
うむ……なんというか、日を置いて深刻に考えすぎるようになっていたのは、おれの方だったかもしれない。
いや、花海さんのときもそうだったが、その場の流れで話すと後悔ばかりしているな。
唯一悪くなかったのは賀陽さんのスカウトのときで、あれは入念に準備をしていたから……準備が足りなかったと言えば、星南さんたちに話をしたときもそうだ。あの時のことを思い返すと、本当に……。
「……はぁ……なんかおれって、本当に……アドリブに弱いな……」
「せ、先輩? 大丈夫?」
だいじょばない……おれの自己肯定感が基準値を大きく下回っている……。
おれはすっかり意気消沈してしまい、フラフラ歩いていって部屋の隅っこにあるソファへどっかりと腰を下ろした。
星南さんが一瞬慌てて駆け寄ってくるが、メンタル的なアレなのでご心配なくと断ると「もう、驚かせないで頂戴」と少し怒った風に言って、それからおれの隣に座ったのだった。
「別に、先輩がアドリブに弱いなんてことはないと思うわよ? 熟慮したときにもっと良い話し方、やり方が思いついてしまうから、相対的にそう感じるというだけで」
「そうですかねぇ……」
「そうよ、自信を持って頂戴。私のお手本なのだから」
「……そう言えば星南さん、また藤田さんに現金を渡そうとしたと聞きましたが、それもおれを手本にした結果ですか?」
「ちょっ、なんで先輩がそのことを知っているの!?」
「雨夜さんから聞いたんですよ。藤田さんが経済的に困っているから、と」
おれがジトリと半目で見つめると、星南さんは手をわたわたさせて言い訳を始める。
「だ、だって! 一旦、すぐにでもお金があった方がいいじゃない! 別にプロデュース契約の奨学金のことを知らなかったわけじゃないし、あくまで一時的に、無利子で貸そうとしただけなの! 私、ことねのためならなんだってしてあげたいのよ!」
「あのですね、ちょっと本当に、藤田さんに関することになった時だけ現代日本の常識を全部忘れるのをなんとかしましょう……個人的なお金の貸し借りが全て悪とは言いませんが、学生同士で、しかも束でまとめるような金額をいきなり渡そうとするのはダメでしょう」
「ええ、常識ではね。でも、ことねは常識を超越した存在なのよ!」
「いや、この話で常識を超越してるのは星南さんの言動なんですよ」
はぁ……と、おれは深いため息をつかざるを得なかった。
本当に、星南さんの先行きが心配で仕方ない。
「星南さん……真剣に聞いてください。あなたが本気で藤田さんに惚れ込んでいるのはわかります。その熱はプロデュースの原動力として大事なものですが、だからこそ、もっと強い自制心を持たなければいけません。わかりますか?」
「……はい」
おれが真面目なお説教モードに入ったのがわかったのか、膝の上にちょこんと両手を置いてしょんぼりとする星南さん。
「……たとえば、星南さんがそうして小さくなっているのを見て、おれはたまらなくかわいらしいなと思うわけですが」
「……え、えっ!?」
「思ったことを実際に言葉にするかどうかは、理性でコントロールする必要があります」
「言った! 今! 平然と言ったじゃない!」
「はい、動揺したでしょう? おれは、星南さんがそういう反応をするだろうとわかっていて口に出しました。要は、相手がどう思うか、どう感じるかを考えて物を言いましょうというだけの、小学生が言われるような話です。プロデューサーの技能として考えれば、求められるのはもっと高度なレベルですがね」
それこそ藤田さんは、自己評価も低ければ自己肯定感も低いから、彼女の一挙手一投足まで褒めちぎるのはプロデュースの方針として有効だろう。
とは言え、自己肯定感の低さを考慮すれば褒め言葉の全部を素直に受け取れるわけでないことまで想定すべきで、段階を踏むだとかタイミングを見極めるだとか、やはり打算的にやらなければ却って信用を失いかねない。星南さんのように。
「まぁ、現ナマ手渡しはさらに手前というか全然別の問題な気もしますが、とにかく……星南さん? どうしました?」
星南さんが、真っ赤な顔でおれを睨んでいた。
「……私がどう思うか、わかって言ったんでしょう? だったら、自分で考えなさい!」
ふんっ! と拗ねたように顔を背ける星南さん。
……かわいいと言われたのが、そんなに嬉しかったの?
まさしくそういうところなんだけども……。
☆ ☆ ☆
「ところで星南さん、担当アイドル全員の中間試験合格、おめでとうございます」
「……それで機嫌を取ろうっていうつもりかしら?」
「いや、そういうわけでは」
……まぁ、ないこともないのだが、謝罪は良いとしてお説教よりは先に言うべきことだったなと思ったので、取って付けたようではあるもののおれは星南さんにお祝いの言葉を送ったのだった。
彼女もさほど他意は感じなかったのか、ちらりとおれの顔を見た後、ふっと表情を緩める。
「冗談よ。ありがとう……あの子たちの努力の賜物ね」
「プロデューサーとしては模範的なコメントですが、星南さん、ここでは誇ってくださいよ。秦谷さんはともかくとして、藤田さんに佑芽さん、それに倉本さんまでをもあれほど鍛え上げたのは、あなたに他ならないのですから……よく頑張りましたね」
「……もう、本当にずるい言い方をするわね、あなたは」
星南さんはそう言ってはにかむが、こほんと咳払いをして真面目な顔を取り繕う。
「嬉しいけれど、私は、四人とも最終試験に合格させることを目指しているわ。だから、私を褒めるならそれをきちんと達成した後にして頂戴」
「……うん、まぁ志が高いのはいいことです。先の発言をわざわざ撤回はしませんがね」
かわいらしくて抜けたところもあるが、世間でのイメージ通り気高いところだって当然星南さんの本質の一つだ。
その辺をもう少し藤田さんのプロデュースに発揮してくれれば……なんて考え始めるとまたお説教に戻ってしまいそうなので、今日のところはやめておこう。
「そう言えば、今更な気もしますが星南さんは結局参加していないんですね、今回の『初』。何か、仕事の都合でしょうか?」
「ええと、まぁ、そうね……」
雨夜さんと同じような状況だろうか、と尋ねてみれば、星南さんは曖昧な返事をする。
そうして少しの間を置いた後、彼女は「……いえ、実は」と切り出す。
「本当は秘密なのだけれど、『初』のライブには出演することになっているわ。サプライズゲストとして、ね」
「ほう、それは……おれに言って大丈夫だったんですか?」
「信用しているのよ。それに、準備の関係で学園の関係者には当然知らされているし……本当は、一年生のプロデュースに集中するつもりだったのだけれどね。
「なるほど、そういう……」
「試験も受けずにというのは不公平だし、気が進まなかったのだけれど」
「いや、一番星で、あの十王星南なのですから。文句を言う人間はいないでしょう」
むしろ、試験があろうがなかろうが、せっかく規模を大きくした『初』に学園の代表たる一番星が出演しない方がもったいない。
新人発掘の場という色が濃いとは言え、初星学園が外部に向けて開催する主要なイベントの一つなのだから。
……ん? あれ?
「そう言えば、ってこれ二回目ですが……おれ、星南さんに十王社長と直接あった件ってお話ししましたっけ?」
「……えっ!? ぜんっぜん聞いてないのだけれど!? いつ!?」
「えーっと、『初』の不参加が正式に受理されたときだから……あ、賀陽さんのSNSで不参加表明した日でもあるか」
「嘘でしょう!? どうしてそんな、えええっ!? ことねのスカウトのとき……よりはさすがに後だったわよね……でも、あれからだって先輩と何度か会ったじゃない! しかも! 私! あの人とも二回くらいは顔合わせてるのに!!! どうして二人とも何も言わないわけ!?」
「す、すいません……」
「信じられないわ……二人して……私、それなりに気を揉んでいたのに……!」
すごい、星南さんからの非難の視線がすごい……マジで本当に申し訳ないな……。
「なんというか、思っていたよりもかなり穏便に話が済みまして……誤解が解けた、というのも違うのですが、おれからしても十王社長に認めていただけた部分があったりで、光栄の至りと言いますか……」
「……ねぇ……もしかして……穏便に済んだどころか……ちょっと仲良くなってないかしら……?」
「いやいやそんな、仲良くなんて恐れ多いですよ、へへへ……」
「絆されてるじゃないのっ! 先輩、気をしっかり持って! あんな冷血漢に騙されちゃダメよ!」
「冷血漢なんてとんでもないですよ星南さん。確かに彼はビジネスマンとして合理的で冷徹な判断を下せる方でしょうが、そんな彼の中にも情があってですね……」
「だからどうして先輩があの人の肩を持つの!? おかしくない!?」
うん、まぁ実の娘を相手にこんなことを説いているのはおかしいな。おれは何?
星南さんは、肩で息をしながら片手で頭を押さえる。
「はぁ、はぁ……あ、頭が痛くなってきたわ……」
「……ま、まぁとにかく、一応無事に解決しましたから、『初』への出演については難しく考えず、ファンのために……お願いします」
「……ええ、もちろん、それはそうするけれどね……」
ジトーっと物凄く胡乱な目で星南さんに睨まれて、おれは顔を逸らすしかなかった。
が、彼女がわざわざ覗き込んでくるので今度は身体ごとそっぽを向き、しかしさらに回り込んで来ようとするから、おれもほとんど背中を向けて逃げて……。
……と、しばらくそんな攻防を繰り広げていたら段々可笑しくなってきて、どちらからともなく笑い出してしまう。
「まったく、もう……でも、考えてみれば先輩とあの人って相性がよさそうね。似ているとは思わないけれど、あなたも結構理屈っぽいところがあるもの。上手く取り入れそうだし、それでいてあの人に足りない人情を補ってくれそうね」
「取り入る、というと悪しざまに聞こえますが……実際に話してみて、おれもそう思います。話の通じる人だなと。人情だってちゃんとあるんですが……まぁ周りに伝わらないところをフォローしたりとか、そんな具合ですかね」
100プロでの様子はわからないが、とりあえず娘さんとのすれ違いにはフォローを入れて差し上げたいところだ……そのくらいなら、本当に何かできそうだな。余計なお世話かもしれないが。
「……とにかく、賀陽さんのこともあなたのことも、ひとまずは心配いらないのね?」
と、星南さんが気を取り直して聞いてきたので、おれはしかと頷く。
彼女はほっと息を吐き、胸を撫でおろしたようだった。
「なら、よかったわ……先輩、最終試験も見に来るのかしら」
「はい、その予定ですよ。……って、客席にいるの、気がついてたんですね?」
「ええ、目立っていたもの。それに、あの賀陽燐羽と担当プロデューサーが一緒になって現れたって、アイドル科の方ではもっぱらの噂になってるわよ?」
「ああ、そういう……まぁ、一応織り込み済みですが」
今の賀陽さんなら、それで何か困りごとがあるようなら遠慮なく言ってきてくれるだろう。
だから、何も言ってこないのであれば、噂と言っても大したものではないのだと思う。
「星南さん、最終試験に向けて、プロデュース頑張ってください……それと、あなたのライブも、楽しみにしています。一人の、十王星南のファンとして」
「……ええ。ステージに立つ限り、私はファンのために全力を尽くすわ。楽しみにしていて頂戴」
そう言って星南さんが浮かべた微笑は、初星学園の一番星たるアイドルのそれだった。
燐羽の育成ストーリーとか書いてあるのにP星南でイチャつきすぎでは?