余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:鯖ジャム

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第24話 今って親愛度いくつでしたっけ?

「――では、終活会議を始めたいと思います。賀陽さん、よろしくお願いします」

「ん、よろしく……なんか久々に聞いた気がするわね、終活会議」

「おれもそんな気がします。第何回でしたっけ」

「知らないわよ」

 

 割と不定期だし、いつからか数も数えなくなってたな……。

 

「……それに、()()()じゃない子が加わっちゃったし、ねぇ?」

「ま、まぁまぁ、今日のところは二人だけですから……」

 

 咲季さんとの個別ミーティングは、先日既におこなった。

 基本方針は固めつつ、夏のHIFに照準を合わせるのは時期尚早ということで、何かちょうどいいオーディション、大会などがあれば……というような話をした程度。

 詳しくは追々、というのが現状の着地点であった。

 

 ともかく、今日は賀陽さんの番。

 毎度恒例の活動拠点での開催で、ホワイトボードの前に立つおれ、パイプ椅子に座って腕と足を組んだ賀陽さんという構図である。

 

「さて。まずは、定期公演『初』もひと段落というところで、賀陽さんについての現状を確認しましょうか」

「『初』、私たちに関係なくない?」

「仕方がないでしょう、それ以外に区切りらしい区切りがないんですから」

 

 まぁ確かに、その後十王社長からのコンタクトも特になく、月村さんからもただ見ていてと宣言されただけで、当初想定していたよりも放っておいてもらってるなぁ、というのが正直な感想だ。

 

 賀陽さんの試験はどうにかしてくれと十王社長に丸投げしていた件だって、結局は一年三組の特待生ゆえに実質免除のような形で落ち着くという、これまた張り合いのない軟着陸を見せたくらいである。

 

「……まぁ、いいけど。それで?」

 

 と、しかし賀陽さんがとりあえず飲み込んでくれたので、おれはひとつ頷いてから続ける。

 

「賀陽さんは今日まで、引退ライブのためのレッスンを続けてきましたね」

「ええ、おかげさまで、快適に」

「ここまでの成果、ご自身としてはいかがですか? 以前のように、おれと答え合わせをしてみましょう」

「そうねぇ……ま、100点を取り戻して以降は、ほとんど遊んでいたようなものだし? ()()()()2()0()0()()()()、かしら」

「……ははっ、()()()()()()、ですか」

 

 思わず失笑してしまう。

 

 100点。

 それは、中等部の頃の賀陽さんが持っていた実力を最大とした時の値だ。

 

 つまり彼女は、中等部の頃の倍の実力をつけている、と臆面もなく言ってみせたわけだ。

 

 ……それが決して過大評価でないところが、まったく恐ろしい。

 

「どう捉えるかはともかく、点数そのものは妥当なところですね。ちなみにおれは、230点としていましたが」

「100点以上はおまけみたいなものだからどうでもいいでしょ。どうせ全力を披露するつもりもないんだから」

「まぁそれはそうです。このまま行けば、本当に夏のH.I.Fで優勝争いができてしまうほどですから……と、順番は前後してしまいますが、流れで聞かせてください。あなたの最期の舞台を夏のH.I.Fで、というおれの提案に対するご意見は、変わりありませんか?」

 

 あれから、賀陽さんの中でいろいろと考えに変化があったのは間違いないはず。

 であれば、あの時は断固拒否されたH.I.F出場というおれの案にも、一考の余地が生まれたのではないか……なんて思ったり。

 

 賀陽さんは、ふと斜め上に視線をやってしばらく黙り込んだ後、おれの顔を見て言った。

 

「うん、やっぱりなしね。……前に言ったことも本心だけれど、私にとって、〝一番星〟(プリマステラ)の称号は手を伸ばすことさえしたくないものなの。まさか、私がアイドルを引退しようとしている理由をあなたがわかっていないはずもないでしょうし、説明は不要よね?」

「……ええ、もちろん。そこは、あなたの引退をプロデュースする上で踏み込む必要はない部分だと考えていますから」

「ふぅん、冷たいプロデューサーだこと。担当アイドルの内心には興味がないみたいね」

「えぇ……」

 

 いや、気遣いのつもりだったのにそんな言い草……と、おれが控えめに抗議の視線を送ると、賀陽さんは「冗談よ」と言っていかにも意地の悪い顔で笑った。

 

「……まぁとにかく、そういうことでしたら、引き続き保留としましょう」

「ちょっと、まだ諦めないわけ?」

「はい。あなたの事情を汲んだ上で、こんな提案をしているわけですから」

「……よくわからないわね」

「構いません。何にせよ、賀陽さんの意思が変わらないのであれば流れるだけです。勝手にエントリーなんてしませんので安心してください」

「わざわざ言われると逆に不安なんだけど……まぁいいわ、そこは信用する」

 

 賀陽さんは若干釈然としていなさそうな表情だが、おれも彼女の言葉の方を真として受け止める。

 実際のところ、本当にそんなことは考えてないしな。

 

 ……さて。

 

 先ほども「順番は前後するが」と言ったわけだが、賀陽さんの今後については、時系列的にはそれよりも先に考えるべきことがある。

 

「これも再確認になりますが、引退ライブの前の肩慣らしをいつ、どこで、どうやるか。もうそろそろ具体的な話をしていきたいところです。まず、学園内での公開程度に留めるか、それとも外部の大会等に参加するかというところですが……後者については、直近で開催される目ぼしい大会、オーディション等をピックアップしてきました」

 

 と、おれは賀陽さんに資料を手渡す。

 

「そちらも参考にしつつ、大まかにで構いませんので、どんな場を設けたいかを考えておいてください。おれはおれで、いくつかパターンを考えておきますので」

「ん、わかった。……これ、仮に大会とかに出る場合、花海咲季さんと被ることもあるのかしら?」

「そうですね、咲季さん用も兼ねて調べたので。ですが、特に気にする必要はありませんよ。こちらで上手く調整しますし、約束通り基本的には賀陽さんのことを優先しますから」

 

 まぁ、なんとでもなるだろうし、なんとでもするつもりだ……が?

 

「…………」

「……賀陽さん? どうされました?」

 

 なぜか、賀陽さんが手元の資料でなく、おれの顔を見つめていた。

 首をかしげて尋ねてみても無言のままなので、不思議に思いつつもおれは話を進める。

 

「ええと……現状と今後については、以上ですが……何かご質問は?」

「……質問はないわね」

「そ、そうですか。じゃあ、次の議題に移っても?」

「どうぞ」

「あっはい。では、今日までのレッスンについて、トレーナーさんから報告をいただいてますので、その確認を――」

 

 ――と、なんだか急激にやりづらさが増しながらも、レッスンの振り返りと、今後はもう少し具体的にライブを意識した内容に切り替えていこうというような話をしていく。

 

 そうして直近のスケジュールの確認もして、終活会議はつつがなく進行していった……たぶん。一応。

 

「……うん、はい。今日用意してきた議題は、こんなところですかね。賀陽さんの方からは、何かありますか?」

 

 と、おれが持ってきた議題を消化したあとは毎度聞くが、多少の質問をされることはあれど、賀陽さんから議題を持ちかけられた試しはなかった。

 

 が、しかし。

 

「あるわ」

「はい」

 

 この即答である。

 ……なんとなく、そんな気はしていた。

 

「あの……お聞かせください」

 

 おれは、嫌な予感をビシバシ感じつつも、観念して尋ねる。

 

 賀陽さんが、ズバリ言った。

 

「なんで未だに私のことは名字で呼ぶわけ?」

「……はい?」

 

 はい?

 

「はい? じゃなくて。ぽっと出の女は名前で呼んでるくせに、どうして担当アイドルをよそよそしく名字で呼び続けているのって聞いてるのよ」

「ぽ、ぽっと出……」

 

 咲季さんのこと、だよな? いや、賀陽さん視点では間違っちゃいないんだろうが、表現がアレだし、なんというか、こう……。

 

「えー、っと……あの、咲季さんもですね、最初は名字で呼んでいたんですよ。ただ、呼び方が被るのを避けるために妹の佑芽さんのことを名前で呼んでいたら、それは変だと。自分も名前で呼べと言ってきただけで」

「私にも姉がいるけど?」

「いやそういうシステムではないです」

 

 おれは別に姉妹のいる人なら見境なく名前で呼ぶとかじゃないんですよ。

 というかそれを適用すると賀陽さんは基本名字呼びになるのだが。だって呼び方の被りを気にする必要ないんだもの。

 

 まぁ、とは言え……。

 

「……つ、つまり、賀陽さんのことも、名前で呼べばよろしいと……?」

「は? 何その言い方。というか、そんなこと言ってない。どうして担当アイドルを差し置いて他の女と親しげに……いえ、それを言ったら花海咲季以前に、十王星南との距離感はずっとおかしいから。なんなの? やっぱり付き合ってたわけ?」

「いやいやいや、なんでそこで星南さんのことまで……」

「そう、ほら、十王星南も名前で呼んでたわね。特別だってことじゃない、それって」

「ちょ、ええぇ……?」

 

 なんだなんだ、急にいったいどうしたんだ。

 

 いや、確かに言い方は悪かった。

 いかにも短絡的というか、うわめんどくさはいはいこうすればいいんでしょ、みたいに感じさせてしまったと思う。

 そんなつもりは……まぁまったくないと言ったら嘘になるけども、それにしたって賀陽さんご乱心すぎやしないか?

 

 もちろん、散々賀陽さんのプロデュースに全力を注ぐと言っておきながら、突然咲季さんの手伝いをするなんて言い出したおれにそもそも非があるのは重々承知しているが……。

 

 これが、いつものように拗ねたふりでからかっているだけであれば、困惑しているおれを見てそろそろ満足する頃合いのはず。

 しかし、変わらずむすっとした顔でおれを半目で睨み続けているあたり、割と本気っぽい。こんなことは初めてだ。

 

 プロデューサーたるもの、担当アイドルの不機嫌を受け止めなければいけない。不満は解消しなければいけない。

 つまりそれは、平身低頭で彼女の機嫌を取って、彼女の不満の原因となったおれの態度を改めるということ――。

 

 ――否。

 

 そんな教科書的な対応で、現実のプロデュースができるものか。

 おれは、やられっぱなしでいるような、軟弱なプロデューサーではない。

 

「――嫉妬、ですか」

「……は?」

「嫉妬ですよね。はは、あぁいやはや、常々あなたには可愛らしいところがあると思っていましたが、なかなかどうして……」

「は? ……はぁ? ――はぁ~~~!?」

 

 賀陽さんが勢いよく立ち上がり、大声を出す。

 おれはそれに動じることなく、やれやれと首を横に振った。

 

「嫉妬!? 誰がよ! 誰が!」

「それはもちろん、あなたが。不安に思わせてしまったのは素直に謝ります。申し訳ない。そして、確かに星南さんはおれにとって特別な人ですし、きっかけはともかく名前で呼ぶことに親愛の気持ちを込めているのも間違いありません――が、しかしそれは、おれがあなたに対して抱いている親愛をなんら妨げるものでもないんです」

「なっ、ちょ! なんで一歩近づいてくるの!! というかあなた、よくもそんな恥ずかしいセリフを堂々と……!」

「別に恥ずかしいことはありません。他の誰と比べるわけでもなく、あなたは、おれにとって確かに特別な人なんです。それが伝わっていなかったのは、おれの不徳の致すところ……であれば、きちんと表現しなければ」

 

 おれは、さらに一歩彼女に近寄って、ほとんど見下ろすような恰好になった。

 彼女は赤い顔で歯噛みして、しかし目を逸らそうとはしないので、おれもそれを真正面から受けて立つ。

 

「先の発言は、訂正します。つまり、名前で呼べばいいのか、ではなく――おれに、あなたを名前で呼ばせてほしい。いかがでしょうか?」

 

 渾身の笑顔で、そう尋ねる。

 すると、彼女はさらに顔を赤くして、ついに目を逸らした。

 

「……くっ……い、いいわよ……好きにしたら……」

「ありがとうございます――燐羽さん」

 

 と、おれは、大切にその名前を呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 ……あー恥ずかし。

 いや恥ずかしいに決まってるだろこんなの。

 

 賀陽さん、もとい燐羽さんが呼び方ひとつでここまで不機嫌とは思っておらず、安易なおべっかや誤魔化しではますます機嫌を損ねるだろうと、かなり強引なことをやってしまった。

 ひとつとして嘘はないが、バカ正直に全部言ったのはほとんどやけくそだ。

 

 まぁしかし、もう少し穏便な形が望ましかったものの、彼女との関係が明白に進展したのはポジティブに捉えたい。

 

 ……それに、こうもわかりやすく嫉妬してくれるなんて可愛らしいというか、愛おしいというか。

 決して恋愛的な意味ではなく、それこそ親愛というか親近感というか、そういう温かい気持ちが湧いてきてつい頬がゆるんでしまう。

 

「……ねぇ、プロデューサー?」

「ん? はい。なんでしょうか燐羽さん」

 

 ……と、おれはすっかりやりきったつもりで余韻に浸っていたのだが、ふと燐羽さんに話しかけられる。

 

 彼女の顔を見るとまだ若干紅潮したままで、引き攣ったような――しかし、何やら挑戦的な笑みを浮かべていた。

 

「ちょっと、私も反省したわ。あなたの言う通りだと思って」

「はぁ、反省? おれの言う通り、とは……」

「つまり、あなたがいつまで経っても私をよそよそしく呼んでいたのは、私の態度も悪かったって……あなたに対する親愛を、私もきちんと表現できていなかった。そういうことよね」

「そう……ですか?」

「そういうことなのよ」

 

 そういうことなのか。

 ……いやぁ?

 

「最初の頃に比べれば燐羽さんの態度はかなり柔らかくなっていますし、ちゃんとその辺りは感じ取っていたつもりですよ?」

「ほら、その程度でしょう? だからまぁ、この機にちゃんと表現しておくわ」

「え? ――うわっ、ちょ!?」

 

 燐羽さんが、突然おれのネクタイを掴んで引っ張った。

 

 いつだかのように思いのほか強い力だった上、完全な不意打ち。

 おれは、思いっきり燐羽さんの眼前にまで引き寄せられてほとんど正面衝突しそうになり、咄嗟にそれを避けようとして顔を逸らそうとした。

 

 それがまるで、燐羽さんに自ら頬を差し出すかのような形になった――なってしまったのだ。

 

 視界の端、彼女の端正な顔が急接近する。

 

 

 

 

 

 

「――ちゅっ♡」

 

 

 

 

 

 

 そして、頬に柔らかい感触。

 

 

 

 ……………………は?

 

 

 

「……………………は?」

 

 理解が追いつかないうちに、とんっ、と燐羽さんに身体を押されて、おれはたたらを踏んで後ずさる。

 

 燐羽さんは、顎を上げて、してやったりと完全に勝ち誇っていた。

 

「じゃ、そういうことだから」

 

 燐羽さんはそれだけ言うと、呆然とするおれの隣を颯爽と通り過ぎ、そのまま部屋から出ていってしまったのだった。

 

 ……去り際、彼女の耳が真っ赤だったのを、はたしてどう思えばいいのか。

 

 しかしともかく、部屋に一人で取り残されたおれは、火照った顔を片手抑えながら独りごちるしかない。

 

「……寿命、縮むっての……」

 

 勘弁してくれ、ただでさえ残り少ないんだから。

 





ということで今回でSTEP1終了!
親愛度10の燐羽様が評価しなかったら殺すからと仰っております。

そして真名解放!
エッキスで進捗報告したりマスマロ募したりです。よろしゃす!

鯖ジャムエッキス
鯖ジャムマスマロ


次回から何回か短めの間話的なのを投稿予定です。
お気に入り、感想、ここすき等もよろしゃす!
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