余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます 作:鯖ジャム
なんか適当に書いてたら結局5000文字近く行っちゃうんですけど!
まぁ本編で挟むほどでもない、でも書いておきたいエピソードって感じなのでざっと読んでもらえればと思います。
毎週水曜日は!!!
チャイムが鳴った。
講義が終わって、昼休みだ。
机の上に広げていた紙のレジュメやノートPCをいそいそと片付けていたら、視界の端に人の影が。
顔を上げてみると、黒髪ポニテで眼鏡をかけた、スーツ姿の小柄な女性がいた。
「学Pさん」
「お疲れ様です、先輩殿。今日は水曜日ですよ!」
むふー、と謎に得意げな学Pさん。
水曜日が何だという話だが、なんてことはない、毎週水曜日に彼女と一緒に昼食を取っているというだけ……学Pさんは、毎度それをやけに楽しみにしているのである。
「さぁ、さぁ、さぁ参りましょう! 時間は有限ですよ先輩殿! へい! へい!」
「あぁはいはい、わかりましたって……」
手拍子と共にサイドステップで急かしてくる、というか煽ってくる学Pさんに苦笑しつつ、おれは荷物を持って席を立った。
☆ ☆ ☆
到着したのは生徒指導室。
扉をノックすると中から返事があって、おれと学Pさんは遠慮なく入室する。
「失礼します。こんにちは、あさり先生」
「お邪魔いたします」
「お疲れ様です、お二人とも」
中にいたのは、あさり先生だ。
水曜日の昼食会は、いつも先生も加えた三人で集まっているのである。
こんな謎の会が開かれるようになったのは、平たく言えばおれと学Pさんに友だちがいないからであり、あさり先生がそれを大いに心配しているからであった。
……いや、そうは言っても仕方がなくて、プロデューサー科の学生というのはおれたちからしてみれば大抵が年上なのだ。
頑張って交流をしたところでかわいい後輩ポジションが関の山……そしておれは、今日までその地位すら築くことができずにおり、とっくの昔に、というか最初から諦めている。
中学、高校と一応部活動はやっていて、先輩後輩といった関係の経験は一通りしてきた上で、おれはどうも後輩としてかわいがられる能力が低いことを十分に思い知っていたのだ。
で、学Pさんも今のところ、見事におれと同じ轍を踏んでいる。
これまでの割と破天荒な言動……まさしくさっき講義室でハイテンションにサイドステップかましていたような姿ばかりをおれは目の当たりにしてきているが、どうも彼女はこれでいて人見知りをするタイプらしい。
ビジネスライクに振舞うのはまったく問題なく、なんならかなり上手くやれるのだが、そこから一歩踏み込んだくらいの加減というのがどうもよくわからないらしく、一足飛びにあの様子のおかしなテンションでのコミュニケーションになってしまうのだとか……妙に自己分析力が高いんだよな。こんなところでプロデューサー科現役合格者の片鱗を見せなくていいんだが。
ともあれ、そんなおれたち二人だが、じゃあ現状を気にしているかというとそうでもない。
……しかし、それが逆にあさり先生の心配を加速させているようで、先生はせめておれたち二人の仲だけでも深めようとしてくれている――それがこの昼食会の始まりなのであった。
「――あさり先生、先輩殿、ご覧ください。こちらが本日のお姉ちゃん弁当でございます」
「わぁ! すごい! ゼニガタアザラシのアザッシーさんのキャラ弁じゃないですか!」
「めちゃくちゃ凝ってる……姫崎さん、どんどん上手になってますね」
「ふふん、そうでしょう、そうでしょう! 莉波さんのお姉ちゃん力がとどまるところを知りませんね……!」
そして、昼食会自体が割と恒例になってきた今、まずは学Pさんが持ってくる姫崎さんの手作り弁当のお披露目もルーティーンになっている。
ちなみにこれも学Pさんによる姫崎さんのお姉ちゃん力強化の一環らしい。
学Pさんの担当アイドルである月村さん、篠澤さんの分も作っているそうだが、さすがに毎度姫崎さんに作ってもらっているわけではなく、学Pさんが全員分作る日の方が多いみたいだ。
しかし、毎週水曜日は姫崎さんのお姉さん力をおれとあさり先生に誇示するべく、学Pさんは基本的には姫崎さんのお手製弁当を持参しているのだった。
「あさり先生も、今日も手作りでしょうか?」
「はい、もちろんです……ほら、プロデューサーくん? 手作りですよ、手作り」
「せ、先生……わかりましたって……」
学Pさんが尋ねると、あさり先生がお弁当の包みを出し……そのまま凄みのある笑顔で、おれに手作り弁当を見せつけてくる。
以前、何回か連続であさり先生のお昼がコンビニ弁当だったのを深く考えずに指摘したばっかりに、先生の矜持に何やら傷をつけてしまったようで……学Pさんも悪い人だから、毎回わざわざあさり先生に手作り弁当かどうかを聞いて、おれが圧をかけられているのである。
……さて。
女性陣が手作り弁当を持参する中、おれはいったいどうしているかというと、この日だけはちゃんと自分で弁当を作ってきている……
「…………」
さらっと、何食わぬ顔で弁当箱を出す。
いつも通りですよ、何も変わったことはありませんよ、という雰囲気を全身から発しながら。
「……んん? 先輩殿、そちらのお弁当箱、見たことありませんね。小さい重箱のような……」
「新調した……割には、なんというか、プロデューサーくんが選ばなさそうなデザインですね……?」
即バレである。
……まぁ、そりゃそうだ。
実際、おれのじゃないんだから。
「……えーっと、まぁ、これはですね……」
「……おおっ、すごい! 焼き魚に、煮物……物凄く手間がかかっていそうではありませんか!」
「……プロデューサーくん、これって……?」
「……作ってもらいました」
「どなたにです? 賀陽さんですか?」
「いえ……秦谷さん、です」
「はい? 秦谷さん? ……秦谷美鈴さん、ですか?」
「何故……?」
わかんない……いやわかんないことはないんだが、あんまり迂闊に説明もできないというか。
「まぁ簡単に言うと、今後おれの健康は秦谷さんの管理下に置かれることになったって感じでして」
「先輩殿、全然理解できません」
「プロデューサーくん、何がどうなったらそうなるんですか……?」
「話すと長くなるので、とりあえず食べませんか? 時間が空いたらこの後……もしくはまた後日、ちゃんと説明しますから」
いやいやいや、と食い下がられそうになるが、おれが腕時計を見せながら指でトントンと時間を示すと二人は口を噤む。
多少ゆっくり食べるなら、喋ってばかりはいられませんよ……と、おれはうまく逃げおおせたのであった。
「……あっ煮物うまっ」
「…………」
「…………」
……なんですか? あげませんよ?
☆ ☆ ☆
「……そう言えば、ずっと聞くタイミングを逃していましたが、『初』で姫崎さんと月村さんのオリジナル曲を用意したの、いったいどうやったんですか?」
「気合いです」
「気合いかぁ……」
雑談もそこそこにお弁当を食べ終えたところで、ふとおれが学Pさんに尋ねると、そんな返事が返ってきた。あまりにも身も蓋もない……。
「……もう少し真面目にお答えしますと、事前にいろいろと準備をしていた上で、楽曲作成に携わった方、振付師、トレーナーの皆さんに恨まれそうなレベルの無茶振りをしまして、月村さんと姫崎さんにもめちゃくちゃ頑張っていただいた結果、ですね」
「園歌さん、それを気合いの一言で片付けようとしないでくださいねー?」
うん、あさり先生の言うとおり……それだけの無茶を通したのは、もちろん学Pさんの気合い以外にないとは思うが。
「というか、そんなことをお尋ねになるあたり先輩殿もアレですか、花海咲季さんのプロデュースをするにあたって何か考えてらっしゃいますか」
「ん? んー……まぁ、そうですね。いろいろと参考にしたいな、とは思っていますよ。定期公演『初』、一人勝ちとは言わないまでも、学Pさんの担当アイドルたちほどインパクトを残した生徒はいませんから」
オリジナル曲を用意してきた月村さん、姫崎さんは言うに及ばず……惜しくも最終試験合格とはならなかったものの、篠澤さんもレッスンで倒れてしまうような体たらくからよくぞと言えるほどには、立派なアイドルとしての姿を見せてくれた。
……と、おれは完全に褒めたつもりだったのだが、篠澤さんの名前を出した途端に学Pさんが小さい拳を握りしめて「ぐぎ……ぐぎぎぎ……!」と唸り始める。
「し、篠澤さんにも……チャンスはあったのです……! 基礎的な能力も最低限の水準に持っていきましたし、あとは彼女の魅力を100%、120%引き出す楽曲さえ用意できれば……できればぁ……!」
「いやぁ、うーん……さすがにそれは、現実的な話ではないでしょう? たらればで語りだしたらキリがありませんよ」
「では! 篠澤さんはノーチャンスだったと!?」
「そうは言っていません。……まぁ、おれだったらそもそも今回の『初』はスルーさせると思いますが」
「篠澤さんが絶対に出たい、と言ってもですか?」
「そこは、篠澤さんのパーソナリティをよく知らないので断言はできませんが……我慢させられるなら、させますね。学Pさんの言う通り、篠澤さんは持ち曲があってこそ最大限に魅力を引き出せるアイドルだと思いますから……曲の用意が間に合っても、彼女自身の習得が間に合わなかったでしょう」
しかし、学Pさんと篠澤さんの挑戦が無謀すぎたとまでは言わない。
今年の合格枠の拡大自体はやはり追い風だったのだが、ちょっと一年生で有望株が多すぎた。篠澤さんを含めて、例年なら合格できただろうなというくらいの生徒は多かったと思う。
それに、不合格だったとしても、早いうちから衆人環視のステージを経験できたこともプラスだ。
あくまで、最終試験の合格を現実的に達成可能な目標として据えるなら、という話でしかない。
「……ふふっ」
と、そこで不意に、あさり先生が小さな笑い声を漏らす。
おれと学Pさんが二人でそろって顔を向けると、先生は「すみません、つい」と言う。
「前から思っていましたが、二人は考え方が正反対……ただし、単純に全部が全部反対なのではなくて、
「過程と結果に対する姿勢、ですか」
「はい。プロデューサーくんは、プロデュースの過程においてはアイドルの気持ちやファンの心情といった数値化できない要素を重視しますよね。それでいて結果を求められる段階においては、いつもシビアに確率を見定めようとしています」
「まぁ、そうですね」
「対する園歌さんは、過程ではデータを細かく分析、活用していますが、いざ結果を出そうというときにはどんなに可能性の低い賭けにでも出る……少なくとも、今回の試験ではそういうプロデュースをしてきましたね」
「十分な準備を重ねた末に望む結果を得られる可能性が1%でもあるなら、あとは試行回数を稼げば発生確率は自然と100%になりますので」
……思考回路がギャンブラーすぎる……いやギャンブラーよりもタチが悪いか……?
まぁともあれ、あさり先生の考察にはなるほどと思わされた。
学Pさんと話をしていると、確かに基本的にはデータ重視で理屈が通じるし、言ってみれば星南さんと似たような考え方をしている……が、そこから導き出される判断があまりにも乖離しているので、実際に似ていると思えたのは今の話を聞いてからだ。
おれにしてみれば学Pさんのプロデュースは眩暈がするほど破天荒に映るが、学Pさんに言わせればおれのプロデュースは手堅すぎてもどかしいプロデュースでしかないだろう。
要は、適材適所というか、担当するアイドルとの相性が一番重要だから、どちらが正しいという話ではないと思う。
「……二人を足して二で割ったら、ちょうどいい塩梅になるかもしれませんね!」
「あさり先生? 何言ってるんですか?」
「それは、打ち消しあって何も残らないのでは……」
あさり先生が最後にとんちんかんなことを言っていたのは、ご愛敬である。
前回はたくさんの評価ありがとうございました!
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