余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます 作:鯖ジャム
難産だった、ね。
N.I.Aの開催が正式に告知されたのは、黒井理事長がおれたちの前に現れたその翌日のことだった。
早い……のではなく、スカウトの方が遅かったというべきだろう。
もしも移籍することになっていたら、いったいどんな過密スケジュールで動くことになっていたんだか。
ともあれ、この発表は多くの人にとっても電撃的であり、初星学園内において、あるいは各種SNS上においてもN.I.A開催の話題で持ちきりとなっていた。
そして、その日の放課後。
「――プロデューサー! わたしが次に挑む目標、決めたわ!」
「あ、はい。お疲れ様です咲季さん……もしかして、N.I.Aですか?」
「そうよ! よくわかってるじゃない!」
先に参戦表明をしたのは、活動拠点に駆け込んできた咲季さんの方だった。
……いや、単にまだ燐羽さんが来ていないだけではあるのだが。
「むしろ、おれの方から提案しようかと思っていたんですがね」
「あら、以心伝心ね!」
「以前のミーティングで出した結論から考えれば、自然と思い浮かぶでしょう」
「もう! つれないわね! そこは心が通じ合ったってことでいいじゃない! ……その資料ってN.I.Aのかしら?」
「ええ、はい。過去の情報をちょっと集めていまして」
咲季さんは頬を膨らませながら、椅子に座っているおれの隣に近寄り、手元を覗き込んでくる。
仰る通り、昨日、調べておくと燐羽さんに約束していた過去開催のN.I.Aの資料だが……告知と同時に今回のレギュレーションについても公開されたので、ぶっちゃけほとんど無駄になってしまった。
「随分と仕事が早いじゃない? お昼に告知されたばかりなのに」
「実は昨日、一足先に今回のN.I.A開催を知りましてね。それで午前中から調べていたんです」
「そうだったの……もしかして、燐羽も参加するのかしら?」
「その意向は強い……と、思います。彼女ももうすぐ来るでしょうから、咲季さんのことも含めて今日、話をしましょう」
「ん、わかったわ」
……ふむ、咲季さんの方からN.I.Aに参加したいと言ってくれたのは、ちょうどいいな。
この後の話、スムーズに行くといいが。
☆ ☆ ☆
「――はい、では終活会議シーズン2第1回を始めたいと思います。拍手~」
「シーズン2、第1回って語呂悪いわね。というかシーズン2って何?」
「そもそも終活会議ってネーミングがちょっと悪趣味じゃないかしら。あなたが言うと本当に笑えないわ」
初っ端から非難がすげぇや。
しばらくして燐羽さんも活動拠点にやって来たので、三人でのミーティングを始めることにした。
燐羽さん、咲季さんに並んで椅子に座ってもらい、おれがホワイトボードの前に立つ形だ。
「……シーズン2というのは、これから新しいイベントに挑むぞって感じでちょうどいいかなと……終活会議のネーミングが悪趣味なのは、まぁ、はい……」
「落ち込んじゃった」
「普通に反省した方がいいと思うわ」
「……えー、ではミーティング始めます」
「しかも諦めちゃった」
「いいんじゃない? 早く本題に入りましょう!」
……うん、まぁ……ひとまずスムーズに行きそう、かな。
いつも燐羽さんには適当に流されていた部分を咲季さんからバッサリと切られてしまい、自分でも思ったより凹んでしまった。なんか、上手いこと言っていたつもりだったのが実はスベっていたと気づかされたみたいな……。
……とにかく、さっさと本題に入ろうというのはごもっとも。
おれは咳ばらいをして、気を取り直す。
「さて。今日は、初めてお二人を同時にお呼びしたわけですが」
「……そのまま完全に別々で活動していくのかと思っていたわ」
と、燐羽さんは仏頂面で呟いたので、おれは「それも、選択肢のひとつではありました」と認める。
「しかし逆に、二人のプロデュースを上手く絡めることができないか、とも考えていました……そこでちょうどN.I.A開催を知り、正式な告知もあった。お二人の意思次第ですが、おれの考えを聞いていただきたいなと。よろしいですか?」
燐羽さんと咲季さんが、お互いをチラリと見た後、頷いた。
「ではまず初めに、諸々の前提を共有していきましょう。咲季さんは、ついさっき明言していただきましたが、次の目標としてN.I.Aに参加したいとのことですね」
「ええ、そうよ!」
動機も何もまだ聞いていない……と言っても予想はできているのだが、とにかく咲季さんは改めてはっきりと意思表示をしてくれた。
「燐羽さんも、昨日のやり取りからN.I.A参加に前向きかとは思います……が」
「N.I.Aのレギュレーションならざっと見たけど、今までと特に変わってなさそうだったわね」
「ご自分で調べていただいてましたか。おっしゃる通りで、基本的に変更はありません。つまりは、
「……そうね。N.I.Aには参加する。それは既定路線で構わないわ」
そして、燐羽さんもまた心変わりはないようだった。
「奇しくも、などと言うのはあまりにわざとらしいですが、燐羽さんも咲季さんも、N.I.Aに、同じ大会に出場したい、と。そしてそれは、それぞれの事情を鑑みるに最適な選択だと思います」
と、さらにここで一応前提の前提、N.I.Aという大会の概要をおさらいする。
N.I.A――〝Next Idol Audition〟という名称の通り、これは次に来るアイドルを発掘するための大規模な〝オーディション〟だ。
大まかには予選期間、本戦期間のような二つの期間に分けて考えることができて、予選期間には足切りのあるオーディションが一次、二次と二回あり、それを勝ち抜くことで本戦、トーナメント形式のような最終オーディションに挑むことができる。
オーディション自体は、ついこの前の『初』における試験のように、その場でのパフォーマンスを審査される形式だ。
例年、アイドルに関係する様々な道のプロフェッショナルたち――コンポーザーや振付師、音大の教授、芸能プロダクションの関係者等々が審査員として招聘されており、アイドルとして総合的な能力が試されることになる。
そして、参加アイドルたちは予選の一次、二次オーディションにおいて、共通のオーディションに挑むわけではない。
ここで重要になってくるのが、〝ファンの存在〟だ。
「――大会期間中、参加アイドルたちはファンからの投票によってポイントを獲得し、ランク付けされます。これがいわゆる〝N.I.Aランキング〟。この順位によって一次、二次それぞれで参加可能なオーディションが変わってくるんです」
「ランキング上位者ほどハイレベルなオーディションに参加できて、より多くのファンから注目されやすくなり、ランキングが上がる……そうしてランキングを上げれば次も大きなオーディションに参加できて……ってわけよね」
「そうです。さらに、本戦は公開オーディションで、予選に引き続きプロの審査員による評価もされますが、現地や配信を見ているファンによるその場での投票が直接勝敗に影響します。下剋上も往々にしてありますが、基本的にはそれまでに獲得していたファンの数がかなり物を言う……とにもかくにもN.I.Aは〝ファンの存在〟が非常に重要な大会であり――それがそのまま、お二人が参加するのに最適である理由になっている、というわけですね」
そして、と、おれは付け加える。
「お二人の今大会における目的、目標は、競合しない……はずです」
「はず、って何よ」
「いや、話の流れ的に確認が後回しになってしまって……よろしければ、まずは燐羽さんから、今一度N.I.Aに参加する上での目標を聞かせてもらえますか」
おれがそう言うと、燐羽さんはチラリと咲季さんの方を見て小さくため息をつき、それから口を開いた。
「……引退ライブに向けた調整のため。それと、私のファンを
「はい、ありがとうございます」
「言わせるなら先に相談しておきなさいよ」
「燐羽さんが先に来てくれれば一言言っておこうかと思ったのですが、まぁどうせ大会を進んでいく中で全員にバレることですから」
「……チッ」
あっ舌打ち。久々にグレてる燐羽さんを見た。
まぁ確かにもう少し配慮してもよかったかもしれないけども、このくらいのことで躓いていたら
あと、だからいいだろう、なんて言うつもりはないが、おそらく咲季さんは概ね推測できているだろうとも思っていて……実際、さして驚いた様子のない彼女を見るに、おれの予想は外れていないようだった。
咲季さんは、しっかり燐羽さんの方に顔を向けて、切り込んだ。
「燐羽は、ぜんぶファンのため、なのよね」
「……そうよ。プロデューサーに聞いた?」
「いいえ、ただの推測。中等部の最後の方にはほとんど活動休止していたっていうあなたが、どうして高等部に進学したのか。引退ライブを少し先、夏にまで引き延ばす理由は何なのか……いろいろ考えた時に、ファンのためだっていうのが一番しっくり来たわ。そこに、
さすがの洞察力だ、咲季さん。
まぁおれも直接的には言ってないまでもちょこちょこ言及したことはあったと思うし、月村さんがクラスメイトだし、いろいろ情報が耳に入っているというのはあるだろうが。
……そして何より、咲季さん自身にとって、他人事でないからであろう。
「ファンの存在。それは、今のわたしも向き合うべきこと……プロデューサーも、だから最適だって言っているのよね」
「ええ、そうです。そろそろ、答え合わせをしましょうか……咲季さんも、ご自分の口から今回のN.I.Aに参加する目的と目標をお聞かせ願えますか?」
「ええ、もちろん! 目的は、最強無敵のアイドル花海咲季を次の段階に進化させるため! そして目標は優勝に決まっているわ!」
えっへん、と胸を張る咲季さん。
目標の方はわかりやすい。
つまり、とにかく勝つ、だ。
実力を鑑みてミニマムな目標を立てる、ということはあるにしても、そもそも負けることを前提に挑むはずもない。お隣の人のように特殊な事情がなければ。
一方で、目的。
これは、咲季さんの現状と直面している課題、そしてそれを乗り越える方法を二人で話し合った結論から導き出されたものと言える。
「咲季さんは、とにかく早熟。初星学園に入学してほんの数ヶ月ですが、アイドルとして数値化できる能力はほぼ完成していると言って差し支えありません。内部進学組や、新入生組であってもプロデューサーの付いた一年生たちが鎬を削った〝定期公演『初』〟において、独力であれほどの成績、そして公演の舞台でのパフォーマンスを見せたのは、本当に、本当にすごいことです」
「えへへ~♡ それほどでもあるけどぉ~♡」
「…………」
……燐羽さん、なんでおれをそんな目で見るんだい? 咲季さんが喜びすぎなだけでしょうこれは。すっごいくねくねしてる。
「……えーっとですね。まぁ、とにかく出した結果は素晴らしいのですが、それは歌、ダンス、表現力といったわかりやすい能力の伸びしろをほとんど使い果たした末に得たもの。そんな状況なわけです。咲季さんをここからさらに輝かせるためには、そういった基礎能力とは別の部分に目を向ける必要がある」
それはたとえば、あの日の夜に語ったように、花海咲季というアイドルの魅力を最大限に引き出すような楽曲を作ること。
咲季さんとのミーティングは最初から、より応用的な、あるいは発展的なプロデュース方針を固めるためのものだったと言える。
そして。
「つまるところ、そのうちのひとつがファンの存在です。ファンなくしてアイドルは存在し得ない。自己の表現を突き詰めるのとも、同じアイドルと競い合うのとも違う、ファンからの期待を受けることで見える道、応えることによって開ける道が必ずあります」
「……ええ、ええ! そしてそのためには、もっともっとファンを増やさないと。花海咲季を世間に知らしめないと。そのための絶好の機会が、このN.I.A! そういうことよ!」
定期公演『初』、あれが実質的な咲季さんの初舞台。
あそこで彼女を見つけ出した人は少なくないだろうが、それではまだまだ足りない。
ファンの数だけアイドルに寄せる期待があって、それがそのままアイドルにとっての可能性になる。
咲季さんには確かな基盤があり、強い芯があり、その可能性を受け止める準備ができているのだ。
「ふっふっふっ…アーッハッハッハッ! アーッハッハッハッハァ! さぁっすがわたしの見込んだプロデューサー! わたしの考えを完璧に見抜いてみせたわねっ!」
「恐縮です」
「……はぁ……暑苦しいったらないわ……」
盛大な高笑いをしてご満悦の咲季さんだったが、隣の燐羽さんはそれはもう鬱陶しそうというか、心底うんざりしたような顔をしていた。
そんなうんざりんはさんだったが、さらに大きなため息をつきつつ、言葉を続ける。
「で、それで? 私たちが両方N.I.Aに参加すること、各々それが最善で、なおかつお互いがお互いの邪魔にならないことはわかったわ。それであなたは、いったい何を提案したいわけ?」
今までの話は、ただの確認だった。
それがまさしく今日のミーティングの核心であり、
「はい。まぁ単純な話なのですが、N.I.Aの期間中、二人には是非とも合同でレッスンをしていただきたいな、と」
「燐羽と、レッスンを? それは、わたしにとっては願ってもないことだけど……」
「……私には、何のメリットがあるわけ?」
咲季さんが目を丸くする一方で燐羽さんは特に驚くでもなく、しかしいかにも面倒くさそうな態度で尋ねてきた。
咲季さんのメリットは言うまでもないだろう。
中等部でNo.1となった燐羽さんと一緒にレッスンをすれば、いくら基礎能力がほぼ完成してしまったとは言え、確実に得るものがある。
では、燐羽さんの方は、どうか。
ズバリ、答えよう。
「ないです」
「……は?」
一生懸命考えたけど、なかった。
なかったのだ。
「少なくとも、燐羽さんに納得してもらえるようなメリットは考えつきませんでした。当たり障りのないことは言えますよ? 現状の燐羽さんと咲季さんではおそらく一方的に燐羽さんが教えるような形になると思いますが、人に教えることで得られるものがあるとか、そういうのですね」
実際、嫌々でも何かしら得るものはあると思うが、それをメリットですよと提示する気にはなれない。
何せ、燐羽さんは別にこれ以上実力を伸ばす必要がないのだ。
何かを得たところで、発揮する気がないだろう。
他に強いて言うなら、気分転換というか、マンネリの解消くらいだろうか。
燐羽さんはレッスンを楽しんでいると言っても、もうずっと一人でやっている。
実力を伸ばす必要性がないことから解決を迫られる課題もなく、最近はさすがにルーチンワークのようになってしまっているきらいがあった。
……と、そんな風にもっともらしいことは言えるのだが、それらはすべて言い訳に過ぎない。
「ちょっとプロデューサー。あなた、わたしよりも燐羽のことを優先するっていう話はどうしたのよ」
「……あなたがそれを言うの?」
「あなたの代わりに言ってあげてるの! あなたのプロデューサーにちょっかいかけた分際でって思うだろうけど、だからこそよ!」
「咲季さん、燐羽さんを優先していることには変わりありませんよ。ぶっちゃけ、あなたにとってメリットは副産物と言えなくもないんです。二人に一緒にレッスンをして貰えば、おれがレッスンを見る時間は減ります。時間を効率的に使えば他の部分でそれだけ燐羽さんのために使える時間は増える。あなたのことは、あくまでついでだ、と言えるわけです」
「そうやってはっきり言われるのもむかつく!」
「「えぇ……」」
咲季さん、燐羽さんの擁護に回るのかと思いきやこれ。
気持ちはわからないでもないけど、おれも燐羽さんもまったく同じ反応しちゃったぞ。
「……いや、確かに屁理屈ではありますがね。それに、もっと正直に言ってしまえば、燐羽さんを優先しているわけでもないと言いますか」
「何それ、どういう意味?」
おれは、苦笑しながら自分自身を指差した。
「おれ自身の体力を持たせるため、体調を維持するため、です。燐羽さんも咲季さんも普通のアイドルに比べてよっぽど手がかかりませんが、それでも本格的に大会参加となればどうしても忙しくなります。道半ばでポックリ逝かないためにも、効率化できるところはしていきたいんです」
「…………」
「…………」
燐羽さんと咲季さんは、揃って神妙な顔で黙り込んでしまった。
うん、そりゃそういう反応になるよな。
「すいませんね、これがズルなのはわかっているんですが」
「……ハァ。もういいわよ。だいたい、私たちの契約が最初っからそれじゃない」
「大変ね燐羽。こんなずるいプロデューサー相手に契約しちゃって」
「あなたも他人事じゃないでしょ。自分で勝手に飛び込んできたとはいえ、こんなのに付き合っていかなくちゃいけないんだから」
「そうね。最初はその
そんなことを言い合う二人は、ほとんど同じようなジト目でおれを見てくる。
……燐羽さんと咲季さんの距離が少し縮まったみたいで、何よりだな!
いったい誰ですの……一瞬週3に更新してみたけど全然続かないしそれどころか週2更新すらおぼつかずSTEP2入る前に準備のための休止期間作ればよかったって後悔しているおばかさんは……
わたくしですわぁ~~~~~~~~~~!
ということでわたくしの心の中の千奈お嬢様が悲痛な叫びを上げてしまいましたので、月末月初忙しいのもあるしとりあえず7月いっぱい投稿ストップします! 花海姉妹STEP4と燕STEP3も急にきてプロットの見直しに迫られる可能性もあるので! すまん!
再来週8/5の学マ水曜日には更新しようと思います。
進捗とか諸々Xでお知らせすると思うので、気になる方は適当に監視しといてください。
→鯖ジャムX
追伸:
邦夫ありがとう。ガラロ咲季さんが無料で来てくれました。