おじさん(真) in 牢屋敷 作:ちょっと待って!
皆さんも思いっきり二次創作書いてください。
栄養にします。
此処は牢屋敷。
数多くの悲劇が生まれ、それが容認され続けた末、今はぎこちないながらも多くの少女たちの穏やかな時間が過ぎる場所。
其処へ──
「──あれ?何か、音が聞こえない?」
「わぁ!本当ですね!多分ヘリの音ですね、お迎えが来たんでしょうか?」
「あなた、話を聞いてなかったんですの?先にヒロさんが帰るって話で、しかもそれも少し先の話だって言ってましたのに…」
「あれ?そうでしたっけ」
「そうでしたっけ?じゃねーですわ!あなたホンットに人の話聞きませんのね」
「あ、あはは…」
(…そっか、ヒロちゃん。先に帰っちゃうんだ…)
隔意はなくなった、はずだ。
お互いに誤解も解けて以前の関係に戻ることは容易くなったはずではあるのだが。
しかし、ヒロはこちらのことを避けていた。
以前のような嫌悪感などではなく、おそらく誤解し続け冷たく接し続けた罪悪感から。
(このままじゃダメ…だよね)
それでも、一歩踏み出せない。
きっと踏み出さなければいけないのは、こっち。
しかし生来の引っ込み思案気質が、その一歩を縛っている。
「…」
後ろでシェリーとハンナの漫才のような掛け合いを背後に、少し落ち込んでいた。
「…うーん」
「…どうしたんですの、急に悩んだりなんかして。らしくねーですわ」
「ええ!ひどくないですか!」
「日頃の行いってやつですわ」
けれどすこし憂鬱な気分になった今では、その騒がしさがありがたかった。
「エマさんエマさん!」
「あ…ど、どうしたの?シェリーちゃん」
「音が止んだので多分着地したと思うんですよ!見に行ってみませんか」
「確かに音は聞こえなくなってますわね…」
「うん…それじゃあ見に行こうか」
ボクたちは屋敷の外、おそらくヘリが着地したであろう花畑の方へと向かっていった。
~~~
「──えぇ、はい。ありがとうございます。はい、それでは」
運転手が業務的な挨拶を終え、ヘリは去っていく。
残ったのは、いくらかの物資と人当たりのよさそうな──悪く言えばどこか気の抜けた──男性だけだった。
男性はこちらを見つけると、声をかけてくる。
「初めまして、君たちはこの屋敷に閉じ込められていた子たち、だよね?」
「あ、は、はい。そうです」
「“いた”じゃなくて“いる”ですけどねー!」
「現在進行形ですわね」
すると男はどこか驚いたかのように目を開き、少しして優しい顔になる。
「てっきり、精神的に余裕がないんじゃないかと思って不安だったけど…元気があるようで良かった」
「慣れただけですわ。出られるのなら、今すぐにでもこんなところ出たいくらいで…」
「えー、私結構ここ気に入ってるんですけどねー」
「イカれてやがりますわこの女…」
「ふふ」
ふと、この人は誰なんだろう。という疑問が頭をよぎる。
ここに閉じ込めた人たちのうちの一人、というにはどこか違和感があるものの、それぐらいしか思いつかない。
「──あなたたち、ここで何をしているの?」
「あ、ナノカちゃん」
先ほどのヘリの音につられたのか、最近は姉に付きっ切りだったナノカも確かめに来ていたようだ。
ナノカがちらと男を見やる。そして、少し固まった。
目をつむり、何やら記憶を探っているようだった。
また少しして、目をゆっくりと開く。
「あなたは……いえ、なんでもないわ。それより、なにかやることがあるんじゃない?中に案内してはどう?」
「あぁ…そうだね。できれば、でいいんだけど人を集めてもらえておけると助かるな。少し説明したいこともあって」
「なら、私が集めておくわ。桜羽エマ、あなたたちは案内をお願い」
そう言い残してナノカは去っていく。
しかし、エマはどこか違和感を感じずにはいられなかった。
もはや言いがかりにも等しいかもしれないのだが…。
(ナノカちゃんが信用してる…?)
ナノカは以前、多くの少女たちを信じられていなかった。
多くの場合一人で行動し、疑いを向けられたことも一度や二度でもない。
それでも一人で行動していたナノカが、だ。
状況故仕方がない部分もあるし、今はそうではないと思っているが。
とにもかくにも、ある意味では心配性のナノカが特に疑いも向けず目を離すなど考えられないことである。
自分が監視をする、くらいは言いそうなものであるが…屋敷の生活の中で考えが変わったのだろうか。
とはいえ、かなり無理筋でもはや推理とも何とも言えないお粗末さではあるものの、エマの直感はそれが合っているとも感じていた。
「ごめん…この物資を運ぶのを手伝ってくれない?一人ではどうにも…」
「いいですよ!よいしょー!」
「あ、あまり無理はしないようにね!?」
「シェリーさん!あなたもう魔法とかないんですから加減しなさい!」
「えぇー!これくらいなら余裕ですよー!ほら!」
シェリーは余裕さを表そうとかなり多くの物資を片手で持ち、上げ下げする。
どうやら、ほんとうに無理はしていなさそうである。
「魔法ナシでそれとかあなた結局馬鹿力じゃねーですの!ゴリラですわゴリラ!」
「むっ、こんなにかわいい美少女を捕まえておいてゴリラとは何ですかー!」
「──シェリーちゃん、だよね?ちょっといいかな」
先ほどまで和気藹々としていた空気が一変する。
男はパフォーマンスを披露していたシェリーの方へと近づいていた。
そして、腕を眺める。さながら医者の検診のようだった。
「……君の魔法は力を強くするものだったんだよね?」
「ええと、はい。力加減がとっても大変でした」
「魔法を使って痛みを感じたことは?」
「ないですね」
「なら、体が痛みを感じないように適応して…?いや、保護をするのもそのうちだった可能性もあるけれど、だとするならこの細さは……?」
「あのー…なにかありました?」
ぼそぼそと小さく独り言を話し始めた男に若干引き気味ながらも、シェリーが尋ねる。
しかしその顔は隠し事がバレた子供のようでもあった。
「──あぁ、すまない。専門外だから話半分に聞いてもらいたいんだけれど…君は、もしかしたら体のリミッターが外れているのかもしれない」
「リミッター、ですか?なんだかカッコいいですねぇ」
茶化すようにシェリーは言う。けれどエマもハンナも、男すらもシェリーがとぼけているのはなんとなくわかっていた。
特に前者二人は、シェリーは予想のつかないことをしでかす奇想天外人間ではあるが勘が悪いわけではないのも知っている。
「痛みはなくてはならない感覚なんだ、邪魔なときはあっても痛みは体の不調や限界を教えてくれるサインだからね」
「…そういえば、前にそんなこと言ってたかも…痛みを感じない、って」
「…より正確に言えば、痛覚はあるんですけどそれを不快とは思わないんですよね」
「うん…それはきっと、シェリーちゃん自身へ大きな負担になっている。実際、腕を見たけれど筋を痛めているようだしね」
「「「…」」」
重い空気が少女たちの間に走る。
やがて、男が口を開く。
「……シェリーちゃんはどう思う?そのことについて」
「不便では、あるかと。けど、私からしてみればこれが普通なんです。だからどうしようも──」
「──その口ぶりは、治せるものなら治したい、ということだね?」
唐突に、シェリーの話を遮る。
今までの男の態度からすれば不自然なほど前のめりだった。
「なら──」
「ちょ、ちょっと待ちやがれですわ!」
トントン拍子で話を進める男に、ハンナが怒ったように話を止める。
「さっきからなんなんですの?!急に話を変えたかと思ったら…なんか、こう……急展開過ぎてついていけませんわ!」
ハンナの言い分も最もである。
あちらもこちらも、あまりに知っていることが少なすぎた。
手探り状態にしては話が進みすぎだ、というのはエマも思っていることだった。
「…それもそうか。ごめんね、急に。この話は皆を集めて説明してからにしよう。それで大丈夫かい?」
「…私は大丈夫ですかね。お二人はどうです?」
「ボクも大丈夫だよ」
「わたくしも構いませんけれど…さ、先延ばしにする意味はあるんですの…?」
「二度手間になってしまうし…それにこの年の男の自分語りとか何度もしたくないかな。あ、こっち側は持っていくからそっち側を頼めるかい?」
「よーし!何はともあれ、名探偵シェリーちゃんの本領発揮です!」
「さっきの話聞いてませんでしたのあなた?!この軽いのにしときなさい!こっちはわたくしとエマさんで運びますから!!」
「うん、あんまり無理しないでね。シェリーちゃん」
「えぇ…はーい」
シェリーは不貞腐れたかのように唇を尖らせながら軽いものを運び去ると、男から二人に声がかけられる。
「すまないね…エマちゃんと…」
「遠野ハンナ、ですわ」
「ハンナちゃん、助かったよ。仕事のチャンスだと思ってつい気が逸ってしまってね」
「仕事…お医者さんか何かですの?」
「いや、さっきも言ったけれどそちらは専門外なんだ。まぁそれも後でね」
そういうと、男はさっさと逃げるように荷物を運んでいく。
「…あの人、道知ってますの?」
「あっ、ボクら道案内しなきゃいけないんだった!」
「あっち湖じゃねーですの!言わんこっちゃねーですわ!エマさん、追いかけますわよ!」
「う、うん!」
そうして、どうにか追いついたボクたちは屋敷へと案内した。
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屋敷へ着くと、シェリーが待っていた。
「皆さん遅かったですね?なにかありました?」
「この人が迷ったんですわ、シェリーさんが行った方向とは全く違ったでしょうに…」
「うぐ…申し訳ない…」
「あ、あはは…」
ふと屋敷の中に耳を傾けると、ラウンジの方からざわざわと声がした。
きっとナノカが集めた少女たちだろう。
そしてちょうどよくナノカと鉢合わせる。
「物資運びは終わったかしら」
「ええ、まぁ色々ありましたけれど」
「すいません…」
「…何があったかは聞かないでおくわ。それより、集められる子は全員集めておいたわ」
「ありがとう、ナノカちゃん、だったかな」
「ええ、そうよ。私は『先生』とでも呼ぶべきかしら」
『先生』という言葉を聞いた途端、男が固まる。
知っていたのか、とでも言いたげな顔で。
「…聞いたのかな?それとも、そういう魔法だった?」
「後者よ。ほかの誰かが聞いていたとしても、おそらく気づくのは私だけでしょうね」
「うーん…まぁやることは変わらないし、いっか」
「初対面かと思われた二人には実は隠された関係が…ワクワクしますね!」
「それがより当てはまるのは私じゃなくてもっと他にいるでしょうね。そっちにワクワクしたほうが良いと思うわ」
「できればそっちもやめてほしいかな!?…じゃあ、まぁ行こうか」
意味深げな会話もシェリーの前ではなすすべなくコントの一幕に変わってしまい、どこか締まらない空気のまま皆の待つラウンジへと向かう。
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ラウンジの中には、一部いなかったものの、ほぼ全員が集まっていた。
「何人かは体調的に医務室から離れられなくて来れていないわ。全員で押しかけるのも申し訳ないし」
「十分だよ、あとで個別に説明すればいいしね。わざわざありがとう」
「どういたしまして…それよりも、あっちに目を向けた方がいいと思うわ」
ナノカが指をさした方向には何人かの少女がいたが、その中でひどく動揺しているものがいることから、指をさしたのが誰かという特定は非常に容易であった。
「────せん、せい?」
「やぁ、久しぶりだね。元気してたかな、ミリアちゃん」